第5話 ふわりの研究
パニエの試作は、その日のうちに始まった。
フェリシアは机の上に布を広げ、じっと見つめる。
(“支える”……)
言葉にすれば簡単だ。
だが、それを形にするとなると話は別だった。
「クラリス、この布を細く切ってくれる?」
「細く……でございますか?」
「ええ。帯のように、長く」
クラリスは少し不思議そうな顔をしながらも、手際よく布を切り分けていく。
細長い布が何本も出来上がる。
フェリシアはそれを手に取り、しばらく考えた。
(骨組み……まではいかなくても)
(形を保てればいい)
まずは腰に一枚、簡単なスカートを作る。
その上に——
帯状の布を、横に縫い付けていく。
一段。
二段。
三段。
段を重ねるように。
「……お嬢様?」
クラリスが恐る恐る声をかける。
「それは……」
「内側の土台よ」
フェリシアは手を止めずに答えた。
「外のスカートを持ち上げるための」
やがて簡易的な形ができあがる。
フェリシアはそれを手に取り、軽く振ってみた。
ふわり、とわずかに広がる。
(悪くない)
「……着てみるわ」
ドレスの下に、その試作品を身につける。
そして——
もう一度、試作ドレスを重ねた。
鏡の前へ。
一歩、下がる。
静かに、視線を上げる。
「……」
スカートは——
わずかに、浮いていた。
先ほどとは違う。
確かに、形が変わっている。
「……上がってる」
フェリシアが小さく呟く。
クラリスも鏡を覗き込む。
「……本当ですね」
ほんの少しだが、裾が広がっている。
だが——
「……まだ足りないわね」
フェリシアはすぐに言った。
丸みが足りない。
広がりも不十分。
“ふわり”には、まだ届かない。
(軽さが足りない?)
(それとも、段の数……?)
フェリシアはすぐに試作をやり直す。
帯を増やす。
間隔を調整する。
布の種類も変えてみる。
何度も。
何度も。
やり直す。
そのたびに——
少しずつ、形が変わっていった。
最初はわずかだった膨らみが、
次第に、目に見えて分かるようになる。
「……お嬢様」
クラリスがぽつりと言う。
「だいぶ……変わってきております」
「ええ」
フェリシアは頷いた。
額にかかる髪を軽く払う。
「あと少し」
鏡の中のスカートは、
ようやく“丸み”を帯び始めていた。
だが——
(まだ、違う)
理想は、もっと軽やかで、
もっと自然で、
もっと——可愛い。
フェリシアは小さく息を吐いた。
けれど、その表情に迷いはない。
(ここまでは来た)
あとは、もう一歩。
「……もう一度、作り直すわ」
そう言った声は、どこか楽しげだった。
試行錯誤そのものが、
すでに喜びに変わっている。
クラリスはその様子を見て、ふっと微笑む。
(本当に……楽しそうですわね)
フェリシアは再び布へと向き直る。
頭の中では、すでに次の形が組み上がっていた。
そして——
この“もう一歩”が、
やがて完璧なシルエットへと繋がることになる。




