第22話 『スウィートロリータ完成』
侯爵家の作業室。
テーブルの上には、布とスケッチが整然と並べられていた。
フェリシアは静かに椅子に座り、紙に向かっている。
昨日描いた案。
そして、その隣に広げた新しい紙。
「クラリス」
「はい」
「少し……形をまとめてみます」
フェリシアは鉛筆を走らせた。
まずは、基本の形。
ふんわりと広がるスカート。
胸元のリボン。
ここまでは、これまでと同じ。
けれど——
「今回は、“可愛さ”を揃えたいんです」
ぽつりと呟く。
クラリスは静かに耳を傾けた。
フェリシアは裾に線を引く。
ひらりとしたフリル。
一段。
さらに、その下にもう一段。
「……増やしすぎると重くなりますね」
手を止めて、少し考える。
そして三段目は控えめに。
「バランスが大事です」
ただ多いだけでは、可愛くならない。
整っていてこそ、可愛い。
クラリスが小さく頷いた。
「確かに……軽やかさは残っていますね」
フェリシアは次に、胸元へ視線を移す。
大きなリボン。
その周囲に、小さなリボンを一つ。
さらにもう一つ——と描きかけて、止まる。
「……つけすぎると、散らかりますね」
小さく笑って、一つだけ残した。
「主役は一つの方がいいです」
クラリスも微笑む。
「とても分かりやすいです」
フェリシアはさらに袖へと視線を移した。
控えめなフリル。
手首に軽い装飾。
「動いたときに、少し揺れるくらいで」
全体を整える。
スカート、胸元、袖。
すべてが同じ方向の“可愛さ”を向いている。
フェリシアは一度、鉛筆を置いた。
そして、布に手を伸ばす。
淡いピンク。
やわらかなクリーム色。
優しいミントグリーン。
「色も、大事です」
今までのドレスより、少し明るい。
けれど派手すぎない。
「柔らかい色の方が、この形には合います」
クラリスが布を見つめる。
「……確かに、全体が優しく見えますね」
フェリシアは最後に、スケッチの上部へ線を描いた。
細い帯。
その上に——大きなリボン。
「頭も、同じ雰囲気にします」
「ボンネットではなく?」
「今回は、もっと軽く」
フェリシアは少し楽しそうに言った。
「動いたときに、揺れる方が可愛いので」
クラリスの目が柔らかくなる。
「とても統一されていますね」
フェリシアはスケッチを少し離して眺めた。
全体の形。
装飾の量。
色のまとまり。
そして——印象。
(……うん)
小さく頷く。
「できました」
クラリスが覗き込む。
「これは……」
自然と、笑みがこぼれた。
「とても可愛らしいです」
フェリシアも嬉しそうに微笑む。
「今までのドレスよりも」
少し考えてから、言った。
「“甘い”感じにしました」
フリルとリボン。
柔らかな色。
統一された装い。
ただ可愛いだけではなく、
一つの方向に整えられた“可愛さ”。
フェリシアはスケッチを大切に持ち上げる。
「これを、形にしてみます」
「妹たちに似合うと思うので」
クラリスは静かに頷いた。
「きっと、とても喜ばれます」
フェリシアはふっと笑う。
庭で遊ぶ妹たちの姿が浮かぶ。
(きっと似合う)
そのドレスは——
軽やかで、柔らかくて、甘い。
リボンとフリルに包まれた、新しい可愛さ。
そして——
頭には、おそろいの大きなリボン。
それはやがて、王都に広がることになる。
新しい“可愛い”の形。
スウィートロリータ。
その輪郭が、今——
はっきりと描かれた。




