第20話 フェリシアのひらめき
公爵家の庭。
やわらかな午後の光が、白いテーブルを照らしていた。
その上に広げられているのは――布。
淡いピンク。
やさしいクリーム色。
透けるような薄い水色。
どれも、最近取り寄せたものだった。
「うーん……」
フェリシアは腕を組み、小さく唸る。
隣ではクラリスが、静かに見守っていた。
「悩んでいらっしゃるのですか?」
「はい」
フェリシアは少し照れたように笑う。
「もっと可愛い服、作れないかなって」
テーブルの上には、これまでのドレスのスケッチ。
ふんわり広がるスカート。
胸元のリボン。
控えめなフリル。
今では王都でも見かけるようになった形。
「“フェリシアドレス”……でしたね」
クラリスの言葉に、フェリシアは少しだけ視線を逸らした。
「そんな大げさなものじゃないですよ」
小さく笑う。
「ただ、可愛い服が好きなだけです」
そう言いながらも――
視線は、スケッチの上に留まっていた。
(でも)
ほんの少しだけ、首をかしげる。
(これで、全部かな……?)
満足していないわけではない。
けれど。
どこか、まだ先がある気がする。
フェリシアは一枚の布を手に取った。
淡いピンク。
やわらかく、光を含むような色。
「この色、可愛いですよね」
「ええ、とても」
クラリスが頷く。
「見ているだけで、気持ちが明るくなります」
フェリシアは少し嬉しそうに笑った。
「こういう色、もっと使ってもいいかも」
これまでのドレスは、落ち着いた色が中心だった。
貴族の装いとしての品格。
それを意識していたからだ。
けれど――
(可愛いって、もっと自由でもいいのかも)
フェリシアは鉛筆を取る。
新しい紙の上に、線を引いた。
ふんわりと広がるスカート。
そこまでは同じ。
だが――
胸元に、小さなリボンをもう一つ。
さらに、もう一つ。
「……あ」
思わず、声が漏れる。
「リボン、増やしても可愛いですね」
クラリスがくすりと笑う。
「ええ、とても」
フェリシアは、そのまま手を止めない。
袖に、細かなフリル。
裾にも、やわらかな重なり。
少しずつ。
少しずつ。
“可愛い”を重ねていく。
「フリルも、もう少しあっていいかも」
「リボンも……」
その手は、迷わなかった。
考えているというより――
好きなものを、素直に足している。
やがて。
一枚のスケッチが形になる。
今までよりも、少し甘く。
少し華やかで。
そして――
「……可愛い」
自然と、言葉がこぼれた。
クラリスが優しく微笑む。
「フェリシア様らしい一着ですね」
フェリシアは顔を上げた。
「私、やっぱり……」
少し考えてから、はっきりと言う。
「可愛いを、もっと可愛くしたいです」
その言葉は、まっすぐだった。
控えめに整えるのではなく。
遠慮して抑えるのでもなく。
好きなものを、好きなままに。
(これでいい)
フェリシアは、そう思えた。
風が吹く。
庭の花が、やわらかく揺れる。
テーブルの上には、新しいスケッチ。
重ねられたリボン。
増えたフリル。
明るい色合い。
それは――
これまでよりも一歩進んだ、
新しい“可愛い”の形だった。
「クラリス」
「はい」
「今度、これを作ってみてもいいですか?」
クラリスは、迷わず頷く。
「もちろんです」
「きっと、とても素敵になります」
フェリシアは、嬉しそうに笑った。
まだ名前はない。
けれど――
その発想は確かに、形になり始めている。
やわらかく。
甘く。
そして、より自由に。
王都に広がりつつある“可愛い”は、
ここからさらに一歩、進もうとしていた。




