第14話 広がる可愛さ
数日後。
王都の仕立て屋の一室には、数人の令嬢たちが集まっていた。
公爵令嬢ミレーユの声掛けで開かれた、小さな集まり。
目的は――
フェリシアのドレスの試着だった。
部屋の中央には、大きな鏡。
その前の台には、数着のドレスと、いくつかの白い布の層――パニエが並べられている。
令嬢たちは興味深そうにそれを見つめていた。
「これが……例の?」
「スカートを広げるものだとか……」
「本当にそんなに変わるのかしら」
ざわめきの中、フェリシアは一歩前に出る。
「スカートの下に、このパニエを入れます」
そう言って、一人の令嬢へ手渡した。
最初に試すのは、明るい金髪の子爵令嬢。
侍女が手際よく着付けを進める。
パニエを身につけ、その上からドレスを下ろす。
そして――
ふわり。
スカートが、空気を含んだように広がった。
令嬢は鏡を見て、目を見開く。
「えっ……?」
くるり、と回る。
スカートが軽やかに揺れ、丸い形を保ったまま戻る。
「きゃっ……!」
思わず声が漏れる。
「なにこれ……可愛い……!」
周囲が一斉にざわめいた。
「本当に広がってる……!」
「すごい……!」
「お人形みたい……!」
令嬢は何度も回る。
くるり。
ふわり。
そのたびにスカートが花のように開いた。
だが――
一人の令嬢が、ふと首を傾げた。
「このパニエだけ、他のドレスに使ったらどうなるのかしら?」
興味からの一言だった。
すぐに別のドレスが用意される。
従来の、王都で一般的な形のもの。
同じようにパニエを入れ、着せる。
そして鏡の前へ。
――だが。
「……あれ?」
スカートは確かに広がっている。
けれど。
形が整わない。
重さが下に落ち、どこか歪む。
先ほどのような軽やかさも、まとまりもない。
「全然違う……」
「さっきの方がずっと綺麗だったわ」
令嬢たちが戸惑う。
フェリシアは静かに一歩前に出た。
「パニエだけでは、綺麗にはならないんです」
視線が集まる。
フェリシアはスカートの裾をそっと持ち上げた。
「広がる“だけ”ではなくて――形を作る必要があります」
布の重なり。
丈の調整。
重さの分散。
「このドレスは、最初から丸く整うように作っています」
もう一度、最初のドレスを見る。
広がり方が違う。
揺れ方が違う。
そして何より――崩れない。
令嬢たちの表情が変わっていく。
「……なるほど」
「だからあんなに綺麗なのね」
「ただ広がってるんじゃないのね……」
ミレーユが静かに口を開いた。
「土台だけでは足りない、ということね」
視線をドレスへ向ける。
「形を作っているのは、あくまでドレス側」
その一言で、理解が広がる。
令嬢たちはもう一度鏡を見た。
くるり、と回る令嬢。
ふわりと広がるスカート。
その動きすら、美しく整っている。
「次は私が着たいわ!」
「私も!」
「順番ですわ!」
空気が一気に弾けた。
次々と試着が始まる。
くるり。
ふわり。
くるり。
ふわり。
歓声が重なる。
「動いたときが一番可愛い!」
「この形……好き……!」
「欲しいわ……!」
フェリシアは少し離れた場所で、その光景を見ていた。
胸の奥が、静かに温かくなる。
(……伝わってる)
ただの可愛いではない。
形としての完成。
それが、ちゃんと届いている。
ミレーユはその様子を見ながら、ゆっくりと微笑んだ。
「やはり面白いわね」
視線をフェリシアへ向ける。
「これは、流行るわ」
その言葉は、静かだった。
けれど確信に満ちていた。
令嬢たちの声がさらに弾む。
「色違いが欲しい!」
「お茶会に着たい!」
「私も作ります!」
仕立て屋の職人たちは、その様子を少し離れた場所から見ていた。
一人が小さく笑う。
「……こりゃあ」
もう一人が頷く。
「仕事が増えるな」
部屋の中央。
令嬢たちが笑いながら回る。
ふわりと広がるスカート。
重なり合う声。
その光景は、まるで花が咲き続けているようだった。
そして――
この日。
王都に、新しい“形”が広がり始めた。




