第12話 公爵令嬢は、その価値を見抜く
ざわめきは、まだ消えていなかった。
だがその質は、すでに変わっている。
好奇心ではない。
期待。
フェリシアの周囲に集まる視線は、先ほどよりも熱を帯びていた。
その中心で。
ミレーユは、静かにフェリシアを見ている。
ドレスではない。
本人を。
(……素直ね)
言葉の選び方。
受け答えの間。
無理に飾らない。
それでいて、崩れない。
先ほどのやり取りで、十分に分かっていた。
だから——もう確かめる必要はない。
ミレーユは一歩、距離を詰める。
「フェリシア」
名を呼ぶ。
それだけで、空気が引き締まった。
「はい」
自然と背筋が伸びる。
ミレーユはわずかに微笑んだ。
「少し、時間をいただけるかしら」
静かな言葉。
だが、断るという選択肢は存在しない。
フェリシアは一瞬だけ目を見開き——
すぐに頷いた。
「……はい」
その返答に、ミレーユは満足そうに頷く。
「ありがとう」
周囲の令嬢たちが、小さく息を呑む。
意味を理解している。
これは——ただの会話ではない。
選ばれた、ということだ。
ミレーユは続ける。
「あなたのドレス」
一度だけ、視線を落とす。
「広がるでしょう?」
短い確認。
フェリシアは迷わず答えた。
「はい」
「理由も、説明できる?」
試すような問い。
だが、圧はない。
フェリシアは小さく息を吸う。
「できます」
その答えに、ミレーユの目がわずかに細まる。
「そう」
それだけで十分だった。
ミレーユは軽く頷く。
「なら——後で聞かせて」
命令ではない。
だが、強い。
フェリシアの胸が高鳴る。
(後で……)
それはつまり——
この場ではなく、別の場。
より近い距離。
「……はい」
今度は、はっきりと答えた。
ミレーユは満足そうに微笑む。
そして、踵を返した。
それだけで、場が動く。
令嬢たちの視線が、一斉にフェリシアへ戻る。
先ほどまでとは違う。
好奇心ではない。
評価された者を見る目。
「ミレーユ様に……」
「呼ばれた……?」
「すごい……」
小さな声が広がる。
フェリシアは、その中心に立っていた。
胸の奥が、熱い。
(……本当に?)
まだ実感が追いつかない。
けれど——
何かが変わったことだけは、はっきり分かる。
夜会の一角で。
静かに。
確実に。
流れが、動いた。




