第10話 令嬢たちの質問攻め
ざわめきが、波のように近づいてくる。
気づけば——
フェリシアの周りには、数人の令嬢が集まっていた。
「そのドレス……」
最初に声をかけた栗色の髪の令嬢が、一歩踏み出す。
「どちらの仕立て屋ですの?」
間髪入れず、別の声。
「王都の新しい職人?」
「見たことがない形ですわ」
「そのスカート、どうなっているの?」
「中に何か入っているのかしら?」
一気に来た。
(えっ……)
フェリシアは一瞬だけ言葉を失う。
視線が集中する。
逃げ場はない。
思わずスカートを見下ろした。
丸く広がるシルエット。
空気を含んで、形を保っている。
(そんなに珍しい……?)
自分にとっては見慣れた形でも、この場では違う。
令嬢の一人が、裾へ視線を落とす。
「このフリルの重ね方……綺麗ですわね」
「胸元のリボンも可愛い……」
「全体のまとまりが、とてもいいわ」
言葉が重なっていく。
「まるで——」
少し考えて、彼女は言った。
「お人形みたい」
空気が揃う。
「本当に」
「可愛いわ」
「こんなドレス、初めて見ました」
フェリシアはわずかに頬を染めた。
嬉しい。
けれど——
(どう答える?)
このドレスは、王都の仕立てではない。
自分で考えたものだ。
そのまま言うべきか。
それとも——
一瞬の逡巡。
「えっと……」
視線がさらに集まる。
「秘密の仕立て屋?」
「地方の職人?」
「紹介していただけません?」
押しが強い。
逃げ切るのは難しい。
フェリシアは息を整えた。
そして、口を開く。
「仕立て屋は、屋敷の者です」
完全な嘘ではない。
クラリスたちが形にしたのだから。
「ただ——」
一拍置く。
「デザインは、私が」
空気が変わった。
「ご自身で?」
「まあ……!」
「それは本当ですの?」
驚きが、今度ははっきりと表に出る。
フェリシアは頷いた。
「はい」
それ以上は言わない。
説明は、あえてしない。
その余白が、かえって想像を呼ぶ。
令嬢たちの視線が、もう一度ドレスへ向かう。
「だから、こんな形……」
「今までにないのね」
「すごい……」
評価の質が変わっていく。
ただの可愛いから——作り手への関心へ。
令嬢たちの輪の外側。
そのやり取りを、ヴィオレッタは聞いていた。
視線はフェリシアに向けられている。
ドレスではない。
本人。
質問に対する間。
言葉の選び方。
視線の動き。
すべてを見ていた。
「仕立て屋は、屋敷の者です」
「デザインは、私が」
そのやり取りだけで、十分だった。
「……なるほど」
小さく呟く。
(やはりそう)
あの形は、偶然ではない。
考えて作られている。
そして——
視線がわずかに細くなる。
令嬢の一人が、踏み込む。
「どうして、この形を思いつかれたのですか?」
一瞬。
空気が止まる。
フェリシアはすぐには答えない。
だが——迷ってはいない。
「……好きだったのです」
短い答え。
それ以上は語らない。
だが、曖昧でもない。
ヴィオレッタの目がわずかに細まる。
(逃げていない)
それでいて——
(見せすぎない)
説明しすぎれば、価値は薄れる。
隠しすぎれば、興味は途切れる。
その境界を——理解している。
ヴィオレッタはわずかに笑った。
(なるほど)
ドレスだけではない。
この令嬢自身もまた——
同じ作り方をしている。
見せるところと、隠すところ。
その配分が、正確だ。
「……面白いわね」
今度は、はっきりとした言葉だった。
(これは——流行る)
視線がドレスへ戻る。
(止まらないわね)




