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私が着られなかったロリータ服を、異世界で広めます。  ―転生令嬢のドレス革命―  作者: 烏斗
第1章:違和感と始まり

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第1話 どうして私は、あの服を着られなかったのだろう


 目を開けた瞬間、最初に感じたのは天井の高さだった。


「……え?」


 視界がやけに遠い。


 身体を起こすと、さらりと長い金髪が肩から滑り落ちた。


 ……長い。重い。


 ゆっくりと両手をかざす。


 白く、細い指先。丁寧に整えられた爪。


 前世の自分の手ではない。


 けれど、子どもの手でもなかった。


 混乱したままベッドを降り、部屋を見回す。


 見慣れない家具。

 豪奢な天蓋付きのベッド。

 厚い絨毯。

 窓から差し込む柔らかな朝日。


(ここ……どこ?)


 不安に押されるように、部屋の隅の姿見へ向かう。


 そして——


 私は息を呑んだ。


 鏡の中にいたのは、


 透き通るような白い肌。

 波打つ金髪。

 深い碧の瞳。


 どう見ても——


 十五歳ほどの、美しい貴族令嬢だった。


「……うそでしょ」


 その瞬間、記憶が流れ込んでくる。


 普通の会社員だった私。

 忙しい日々。

 そして——


 箱にしまったままの、あのワンピース。


 淡いピンクのロリータ服。

 一度も着られなかった、大好きな服。


(……ああ)


 胸の奥が、少しだけ痛んだ。


 けれど、その余韻を断ち切るように、扉がノックされる。


「お嬢様、お目覚めでいらっしゃいますか?」


「はい……」


 返事をすると、静かに扉が開いた。


 入ってきたのは、落ち着いた所作の女性。


「おはようございます。フェリシア様。本日はご学友とのお茶会がございます」


(フェリシア……)


 どうやら、それが今の私の名前らしい。


 彼女——侍女は、丁寧にドレスを差し出した。


「本日のお衣装です」


 淡い水色のドレス。


 思わず見入る。


 滑らかな生地。

 整った縫製。

 控えめなレース。


(……綺麗)


 自然と近づき、そっと触れる。


 質の良さは一目で分かった。


 ——けれど。


(あれ……?)


 胸元の装飾は控えめ。

 スカートの広がりも穏やか。


 上品だ。

 完成度も高い。


 なのに、どこか——


(少し、物足りない)


 ふと、考えてしまう。


 レースを増やしたらどうだろう。

 リボンを重ねたら。

 もっとスカートが広がったら。


 その瞬間、はっとする。


(私、何考えてるの)


 けれど、目は離せなかった。


 胸の奥が、じんわりと熱を帯びていく。


 前世で押し込めていた感情。


 可愛い服が好きだった。

 本当は、着たかった。


(……もし)


 心の中で、言葉が形になる。


(もし、この世界なら)


 誰にも笑われないなら。

 好きなものを好きと言えるなら。


 そのときは——


「フェリシア様?」


「……クラリス」


 自然と名前が出た。


「はい」


 少し驚いた顔の彼女に、私は微笑む。


「このドレス、とても素敵ね」


「ありがとうございます」


「でも——」


 スカートの布を指でつまむ。


「もう少し、可愛くできると思うの」


「……え?」


 クラリスが目を丸くする。


 その反応に、思わず小さく笑った。


 胸の奥で、何かがはっきりと動き出している。


 前世では言えなかった言葉。


 好きなものを、好きだと言えなかった自分。


 ——でも、今は違う。


 私は十五歳。

 侯爵令嬢。


 時間も、立場も、全部ある。


(……なら)


 そっと拳を握る。


(作ればいい)


 レースを重ねる。

 リボンを飾る。

 フリルを増やす。


 もっと可愛く。

 もっと心が躍る服を。


 十五歳の社交界デビュー?


 むしろ好都合だ。


 最初に驚くのは誰だろう。


 王都の令嬢たちか。

 それとも仕立て屋たちか。


 唇の端が、わずかに上がる。


 ——こうして。


 王都を揺るがすことになる“装いの変革”は、


 静かに始まった。

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