どれから?
「……ねえ、陽奈くん。ここって、どう考えればいいのかな?」
「……ああ、なるほど。ここはですね、まずは加法定理を使用して――」
「……ふむふむ、なるほど……ていうか、ほんとすごいね陽奈くん。さっきから普通に答えてくれてるけど、二年の範囲だからね? ここ」
「……へっ? あっ、いえそんな……ただ、万が一にも入試に出た時を想定して――」
「いや出ないよ。高校受験で高校の範囲が出たらおかしいでしょ」
それから、数十分後。
お菓子や飲み物が彩る白い円卓にて、隣に並びそんなやり取りを交わす僕ら。……うん、出ないよね。それでも、念には念をと思いまして。それに――
「……それで、陽奈くん。ここからは――」
そう、問題集の中を指差しつつ尋ねる知乃先輩。確かに、受験では役に立たなかったけど……でも、今こうして少しでも先輩のお役に立てているのなら結果オーライというやつで。
「……いやあ、めっちゃ頑張ったよねえ私達。もう頭が回んないよ。これはもう、ゲームで脳を回復させなきゃね」
「……いや、それって回復します? ……ですが、お疲れさまです、知乃先輩」
「ふふっ、陽奈くんもね」
それから、しばらくして。
円卓へと身体を預け、ぐったりとしたご様子でそう口にする知乃先輩。……いや、それって回復します? 余計に疲れそうな気もしますけど。……ですが、お疲れさまです、知乃先輩。
ともあれ、やはり冗談だったのか、実際にゲームを始めるご様子もなくゆったりと寛ぐ僕ら。お互いにお菓子をつまみながら、和やかにお話をするこんな時間が本当に幸せで、大袈裟でなくこのままずっと――
「……さてと」
「……ん?」
すると、お話が一段落した辺りで徐に立ち上がる知乃先輩。そして、徐に歩みを進めクローゼットの前へ。そして、徐に扉を開いて――
「――さて、陽奈くん。どれから着てみたい?」
そう、花のような笑顔で尋ねる可憐な少女。開いたクローゼットの中には、多種多様の可愛い衣装が彩り豊かに並んでいて……うん、どれからに致しましょうか。
「――わぁ、こっちもめっちゃ可愛い! ほんと最高だよ、陽奈くん!」
「……あ、ありがとうございます知乃先輩」
それから、少し経過して。
そう、瞳を輝かせ告げる知乃先輩。何に対してかというと、水色の可愛いワンピースを纏う僕に対してで……うん、喜んでくださっているのなら何よりで。
さて、言わずもがなかもしれないけど……ただ今、敏腕プロデューサー三朝知乃による静河陽奈のファッションショーが行われていまして……うん、どこに需要があるのだろう。
……ところで、それはそうと……うん、めっちゃあるなぁ、衣装。それに、僕なんかが評するのも何様という感じだけど、その一つ一つに鋭いセンスや強いこだわりが感じられて……うん、将来はファッションデザイナーになってたりして。
「それじゃあ陽奈くん、次は――」
――トントン。
「……っ!!」
刹那、呼吸が止まる。……えっと……お家の方、だよね? どうしよう、とりあえずどこかに――
「……へっ?」
隠れようとするも、ふと思考が止まる。……いや、どこに隠れるんだという話ではあるけども、それはともあれ――僕が頭の中で狼狽える一方、溜め息と共に扉の方へと向かっていく知乃先輩。そして――
「……もう、何の用なの? お母さん」
そう、呆れたような口調で告げる。彼女が開いた扉の先には、何とも楽しそうな笑顔を浮かべる可憐な女性の姿が。先ほどの言葉からも、そしてその容姿や雰囲気からも疑いようがなく――まさしく、知乃先輩のお母さまその人でして。




