大切な人
「……その、お待たせしました知乃先輩……その、大変申し訳ありません。本日は、いつも以上に――」
「ふふっ、また謝ってる。気にしなくていいって、いつも言ってるのに」
それから、一時間ほど経て。
校舎から少し離れた住宅街にて、息を切らしつつそう口にする。すると、可笑しそうに微笑み答えてくれる知乃先輩。……うん、ほんと申し訳ないです。
「でも、ほんとにこんな……あっ、責めてるわけじゃないよ? ただ、こんなに遅かったのは初めてだから、なにかあったのかなって」
すると、ほどなくそう問いかける知乃先輩。お言葉の通り責めている様子はなく、どころか心配してくださっているようで……うん、いっそう申し訳ない。そんな彼女に対し、少しの間の後ゆっくりと言葉を口にする。
「……あの、知乃先輩……実は――」
「……そっか、そんなことが……」
道すがら、僕の話を聞き終え呟くようにそう口にする知乃先輩。さて、遅くなった理由だけれど……その、あの後も海月から色々と聞かれてしまって。でも、なんとかごまかせた……よね?
ところで、この件をお伝するかどうかは迷って。優しい知乃先輩ゆえ、この話を聞いたら気を遣ってしまうだろうから。
とは言え、随分と遅れた上で理由を聞かれて答えないのも不義理だと思ったし……それに、きっといずれは話さなくちゃいけないこと――なので、ただ先延ばしをしても却って良くないかなと。
「……別に、急がなくていいよ。そもそもその件がなくても、私のために陽奈くんが急いで帰る必要なんてないんだし。
それと、誘われた時は私に遠慮せずそっちを優先していいからね? あんまり断り続けてたら、その子達の疑いが強くなっちゃうだろうし……それに、陽奈くんに大切な友達をなくしてほしくないし」
「……知乃先輩」
すると、優しく微笑みそう口にする知乃先輩。それは彼女らしい、深い思いやりに溢れたお言葉で。
……うん、それならきっと問題なく疑いも晴れる。そして、きっと今後とも海月達と仲良しでいられる。なので、本当にありがたいご配慮……なの、だけども――
「……ありがとうございます、知乃先輩。ですが、僕は先輩といる時間が何よりも大切なんです。もちろん、海月達との時間も大切ですけど……それでも、知乃先輩よりも優先するということはありません」
「……陽奈くん……うん、ありがと。でも、友達との時間もちゃんと大切にね?」
「……はい、ありがとうございます先輩」
そう、恥ずかしくも瞳を見つめ伝える。すると、少し驚いたような――だけど、ほどなく嬉しそうに微笑んでくれる知乃先輩。……うん、お気遣いは本当にありがたい。それでも……僕にとって、知乃先輩は誰よりも大切な人だから。




