好機?
――さて、お話は現在へと戻り――
「それでさ、陽奈くんは最近どんなホラーにハマってるの?」
「……いや、そもそもホラーにハマった記憶がないのですが。どちらかと言えば、生まれてこの方ずっと苦手な方ですし」
「ふふっ、陽奈くんらしいね。じゃあ次の休日はホラー映画観に行こっか」
「話聞いてます!?」
アンティークもののお洒落なテーブルを挟み、ほのぼのとそんなやり取りを交わす知乃先輩と僕。……あれ、話聞いてます? まあ、先輩とならどこにでも行きますけども。
さて、僕らがいるのは路地裏にひっそりと佇む和の雰囲気が心地の好い小さな喫茶店。放課後、一度帰って女装し合流――その後、こうして二人ほのぼのとお茶をしているわけで……うん、恋人っぽいなぁ、こういうの。
……ところで、それはそれとして――
「……あの、知乃先輩。これは、やっぱり……」
「……うん、そうみたいだね陽奈くん」
そう、声を落としつつ口にする。すると、これだけで伝わったようで頷き応える知乃先輩。まあ、僕でも気づくことを知乃先輩が気づかないはずもないしね。……そして、恐らくは――
「――ねえ、よかったら僕らと一緒にどう?」
ほどなく、柔らかな声が届く。視線を向けると、そこには爽やかな笑顔の二人の男性――先ほどから、僕らをチラチラと見ていた男性方で。……うん、そろそろ来るかなと。ともあれ、返事のほどだけれど――
「……お誘いありがとうございます、お兄さん方」
そう言って、徐に腰を上げる知乃先輩。そして、お兄さん方へと会釈し向かいの席へ。そして、僕の隣に腰掛け――
「……ですけど、今デート中なんです、私達。実は二週間くらい前から付き合ってて、それはもうほんとラブラブでして」
「……そ、そっか……うん、邪魔してごめんね」
そう、ニコッと微笑みお二人へ告げる知乃先輩。ご自身の腕を、僕の腕にぎゅっと絡めながら。すると、お言葉の通り申し訳なさそうに軽く手を振り去っていくお兄さん方。……ふぅ、良い人達でよかった。
さて、お付き合いからおよそ二週間――その間、こういった場合は既に何度かあって。もちろん、皆さんが惹かれているのは知乃先輩で僕はオマケだろうけど……ともあれ、何度もあるので断り方も決まっていて。……うん、いつもありがとうございます、知乃先輩。
「――いや〜貴重だよね、こういうの。なにせ、自然に私達の関係を話せる絶好の機会なんだから」
「……そ、そうですね……」
その後、ややあって楽しそうに微笑みそう口にする知乃先輩。……そう、なんと彼女はナンパを自分達の関係を自然に話せる機会と捉えていて。そもそもナンパであるからして、声をかけてくるのは基本的に僕らのことを知らない人――なので、僕らの関係を隠す必要もさしてない。そして、先輩の言ったように相手から誘われている状況であれば、お断りをする際に恋人である僕らの関係を伝えることはごく自然な流れなわけで。まあ、やや複雑な事情ゆえ僕らの関係を話せる状況はあまりないので、ナンパすらも好機と捉えるお気持ちも分からないではないけれど……うん、ほんとすごいね、この先輩
「…………ふぅ」
それから、数時間後。
自室にて、仰向けでほっと息をもらす。……ふぅ、今日もほんと緊張した。……でも、すごく楽しくて……そして、すっごく幸せで。女装が可能な時のみなので、時間こそ限られているものの……あの知乃先輩と毎日のように一緒にいられるなんて、二週間ほど経った今も未だに信じられなくて。正直、いつ愛想を尽かされてしまっても全くおかしくなくて……うん、頑張らなきゃ。……ところで、もちろん不安は他にもあって――
「……可愛い、のかな……?」
鏡の前で、ポツリと呟く。フリル付きの可愛い衣装を纏った、自分自身に対して。……うん、我ながら何とも痛々しいとは思うけど……でも、女装をする身としてはやっぱり気になってしまうわけで。それに、僕が似合ってなかったら一緒にいる知乃先輩にもご迷惑がかかってしまうわけだし。……だけど、
「……可愛いん、だよね……?」
そう、ポツリと口にする。……うん、我ながら痛々しいとは思うけど……でも、知乃先輩がそう言ってくれてるわけだし、僕が否定するのもそれはそれで失礼な気もするし……うん、可愛い……よね?




