これからも、貴女の傍で――
「――わぁ、今日もめっちゃ可愛いよ、陽奈くん!」
「……あ、ありがとうございます知乃先輩……」
それから、一ヶ月ほど経て。
いつもの通り、校舎から少し離れた住宅街にて花のような笑顔で褒めてくださる知乃先輩。何に対してかというと、僕の纏っている白を基調としたフリル付きの可愛い衣装に対してで。……その、いつもありがとうごさいます。そして、是非とも僕もお褒めしたいところなんだけど……でも、流石に違和感あるよね、制服姿を褒めるのって。
「……あっ、これってあれじゃない? ……あっ、でもちょっと違うか。でも、結構似てるよね?」
「……そう、ですね。確かに、似てると言えないこともないですが……ですが、以前の衣装とはこの辺りのフリルの角度が3度ほど――」
「いや細かいよ。それはもう似てるで全く以て差し支えないよね?」
その後、ややあって足を止める。そんな僕らの視線の先には、お洒落な洋服屋さんのショーウィンドウ――正確には、そこに映るフリル付きの可愛い衣装で。……うん、確かに似てる。あの日、ここで食い入るようにじっと見ていたあの衣装と。
『……あの、知乃先輩。本当に、申し訳ありませんでした!』
『……いや、なんで謝るの? 陽奈く……ううん、誰も悪くないのに』
数日前、始業式の日のこと。
帰り道にて、深く謝意を告げる僕。すると、呆れたように微笑み答える知乃先輩。何の謝罪かというと……うん、言うまでもないかな? この少し前の、あの体育館裏での件についてで……うん、本当に申し訳ない。……そして、もう一つお話ししたいことがあって――
『……その、ご存知だったのですね、知乃先輩』
そう、躊躇いつつ口にする。僕が女の子に憧れていたことを、なんと先輩はご存知で……うん、ほんとにびっくりです。いったい、どうして――
『……実はね、以前に見かけたことがあったんだ。陽奈くんのこと』
『……へっ?』
すると、仄かに微笑み告げる知乃先輩。……僕を、見かけた? それは、いったいどこで――
『……去年も、令明に来てたよね? 令明のオープンスクールに』
『……知ってて、くださったのですか?』
『……うん。陽奈くんが、あまりにも真剣に見つめてたから。オープンスクールに来てた子達に披露してた、チアリーディング部を演技を』
『……あ、その……』
『……ふふっ、別に恥ずかしがらなくていいじゃん。みんな可愛いし、ドキドキしちゃうよね。まあ、隣にいた可愛い子はちょっと不満そうだったけど』
そんな疑問の最中、可笑しそうに微笑み告げる知乃先輩。……うん、お恥ずかしい。そして、隣にいた可愛い子とは間違いなく海月のことだろう。オープンスクールも一緒に行っていたし、基本的にずっと一緒に行動してたからね。一緒にいなかったのは、どちらかがお手洗いに行っていた時くらいで。そして――その時に、奇跡的に知乃先輩を目にしたわけで。
『……だから、そういう……他の男の子達みたいにドキドキしてるような表情をしてたのなら、別に気にもならなかったと思う。可愛いなぁ、って思ったくらいだったと思う。
……でも、しばらく目を離せなかった。なんか……こう、その時の陽奈くんの表情が、あまりにも切なく見えたから……』
『……っ!!』
『……それから、君のことがずっと頭から離れなくなっちゃって。オープンスクールに来てたくらいだし、もしかしたら令明に入ってくれるかなぁ、なんて期待はしてたけど……うん、なんとびっくり。まさか、新入生代表で挨拶をしてるなんてね』
『……まあ、それは何といいますか……知乃先輩と同じ学校に入りたくて、それはもうものすごく頑張ったといいますか……』
『ふふっ、そうだったんだ。うん、それはすっごく嬉しいな。……それで、それからはいっそう気になっちゃって、校内で見かける度に目で追ってた……というか、意識的に探しちゃってた。まあ、陽奈くんは全く以て気づいてなかっただろうけど』
『…………』
そう、柔らかに微笑み話す知乃先輩。……うん、気づいてなかった。知乃先輩ご自身から言われて、それでもなお俄には信じられないくらいに。
『……それで、ある日の帰り道なんだけど……ふと、目にしたんだ。ショーウィンドウに映る女性用の可愛い衣装を、あまりにも真っ直ぐにじっと見つめている陽奈くんを。自分も着たい、そんな想いが傍から見てる私にもひしひしと伝わってきて……ああ、そっか。あの時の陽奈くんの表情はそういう意味だったんだって。それが分かった時……どうしてか、すっごく愛おしくなっちゃって』
『……そう、だったのですね……』
『……それで、いざ告白! って思ったんだけど……でも、流石になかなか勇気が出なくって。ほら、その時は陽奈くんが私のことを知ってるなんて知らなかったわけじゃない? ……ましてや、私を好きでいてくれた、なんて。
すると、またもやびっくり――なんと、陽奈くんの方から呼び出しを受けちゃうんだもん。それで、状況も状況だしやっぱり期待しちゃうじゃん? 自分で言うのも嫌な感じだけど、こういう状況は何度も経験してきたんだ。……でも、こんなにも緊張したのはあの時が初めてだった。……ううん、こういう状況に限らず、人生でこんなにも緊張したのは初めてだった』
『…………』
続けて、様々に表情を変えお話しなさる知乃先輩。一方、僕は声すらも発せなくて。……いや、だってあまりにも衝撃すぎて。まさか、知乃先輩が僕のことをそんなふうに……だけど、だとすれば――
『……あの、それではあのお話は……』
そう、たどたどしく尋ねてみる。我ながら何とも漠然とした問いだけど、柔らかな微笑で頷く彼女の様子から察してくださったことが伝わって……ふぅ、よかった。
ちなみに、あのお話とは……お付き合いをするにあたり僕が女装をするというあの条件に関し、その理由として説明なさっていた知乃先輩の過去についてのお話のことだけど……だけど、今の彼女のお話を聞くに、もしかすると――
『……うん、ごめんね? お察しの通り、あれはフィクション。どうしたら、陽奈くんが女装をできるようになるか……どうしたら、女装を自分に許してあげられるか――痛いと思われるかもしれないけど、告白する前からずっと考えてたの。それで、ああいう設定にしたの。自分で言うのもなんだけど、私って結構モテるからそれなりに信憑性もあったと思うし』
『……確かに、普通に信じてました。でも、痛いなんて全く以て思いません! ……その、知乃先輩がそこまで考えてくださっていたことが、本当に嬉しくて仕方がなくて……』
『……そっか、それならよかった。でも、ほんと陽奈くんから告白してくれてよかったな。……まあ、どっちにしても褒められたものじゃないけど……でも、自分から告白しておいて付き合うのに条件をつけるって、性格が悪いとか以前に普通に頭おかしいじゃん。まあ、もともと自分が告白するつもりだったし、どんだけ頭おかしくても条件を押し通すつもりだったけどね』
『……ははっ、やっぱり敵わないですね、先輩には』
すると、最後は悪戯っぽく微笑みそう口にする知乃先輩。もちろん、分かってはいたけど……うん、やっぱり敵わないなぁ、この先輩には。……そして、そんな彼女のお陰で、僕は――
「……それにしても、時が経つのは早いですよね。あの幼かった僕も、今や――」
「いやそんなには経ってないからね? まだ明かされてないけど、実は随分と以前に――なんて漫画みたいな展開は流石にないから」
――さて、追憶は終わり再び現在へと。そして、僕のくだらないボケにもすかさずツッコんでくださる知乃先輩。まあ、あのオープンスクールからまだ一年近くだしね。……でも、もう一年近くも……うん、ほんとに時が経つのはあっとい――
「……ねえ、陽奈くん」
「はい、どうし……っ!!」
刹那、呼吸が止まる。と言うのも……卒然、僕の唇をそっと先輩が塞いだから。その後、ややあってゆっくりと柔らかな唇が離れていく。そして――
「……いやぁ、もう付き合ってからわりと経つのに、まだこういうことしてなかったなぁって」
「……あ、あの、その……」
そう、悪戯っぽく……それでいて、少し恥ずかしそうに微笑む知乃先輩。そして、そっと僕の手を取り花のような笑顔で告げる。
「――これからも、とびっきり可愛いままずっと傍にいてもらうから……だから、しかと覚悟しといてね? 陽奈くん」




