刻印
「……その、申し訳ありません知乃先輩」
「ふふっ、だからなんで謝るの? 別に、誰が悪いわけでもないのに」
「……まあ、それはそうかもしれないのですが……」
それから、数十分後。
改めて謝意を伝えると、可笑しそうに微笑みそう口になさる知乃先輩。……まあ、それはそうかもしれないのだけども……でも、そもそもお誘いしたのは僕ですし。
さて、僕らがいるのは神社からそこそこに離れた小さな市民公園。まだあの賑やかな雰囲気に浸っていたい気持ちはあったけど、それでも知り合いに出会してしまう可能性を考慮し安全かと思えるところまで移動してきたわけで。さっきは何とか逃れたけど、もしも海月と鷹斗くんに出会しちゃったら流石に僕だとバレる可能性も否めない。そうなると僕も恥ずかしいけど、何より知乃先輩にご迷惑が――
「…………それにさ」
ふと、小さな声が鼓膜を揺らす。そして――
――パーーン!
「……ここの方が、ゆっくり見られそうだしね」
そう、柔らかな微笑で告げる知乃先輩。そんな彼女が徐に移した視線の先――果てなく広がる夜空には、彩り豊かな花達が眩く輝いていて。
「……綺麗だね、陽奈くん」
「……はい、とっても」
「……でも、陽奈くんの方がもっと綺麗だよ」
「……へっ? あ、いえそんな! その、知乃先輩の方が遥かにお綺麗で――」
「ふふっ、ありがと。……なんか、バカップルみたいで恥ずかしいね、ふふっ」
その後、華やかに光る空の下にてそんなやり取りを交わす僕ら。……うん、確かにちょっと恥ずかしいね。まあ、幸い今ここには僕らしかいないんだけども。
さて、その後も主に今日のことについて和やかに会話を交わす僕ら。ほんとバレなくて良かったね、でも次からはもっと気をつけなきゃね、なんて楽しく笑いあったり……うん、ほんと幸せ。……願わくば、どうか――
「……ねえ、陽奈くん。絶対に、また来ようね。絶対に二人で来年も……それから、その先もずっと……」
「……知乃先輩……はい、是非とも」
すると、ふと温かな微笑でそう口にする知乃先輩。それはまるで、僕の願いに応えてくれたかのようで……はい、是非とも。
その後も、華やかな空を眺めながら他愛もない話に花を咲かせる僕ら。……だけど、ちゃんと見ていたはずの満開の花は、後になるとまるで思い出せなくて。どんな色で、どんな形だったのか――それら全てが、驚くほどにまるで思い出せなくて。だって……この時間この脳裏に刻まれたのは、生涯忘れることのない知乃先輩の笑顔だけだったから。




