リリィとの出会い
母の声を宿すホログラム――リリィ。
明日香の中に眠る装置が、ついにその真の姿を現す。
けれど再会の瞬間、世界は再び揺らぎ、時空の歪みが迫る。
母の記憶と、仲間の絆。
その狭間で、明日香たちは“生きるための選択”を迫られる。
淡い光の中から、少女の姿が現れた。
「やっと出れたぁ。もう、明日香ったら黄色のボタン何回も光らせてるのに気が付かないんだもん」
その口調は母・加奈子そのものだった。
リリィは明日香の目をまっすぐ見て微笑む。
「明日香、これから私が一緒に行動するわ。覚えておいて。黄色ボタンを押すと私が出てくるわ。」
明日香の胸に、加奈子の面影がじんわり広がった。
「……リリィ、よろしくね」
「ふふっ、初めて会ったわけじゃないけど、こういうのも悪くないね」
少し得意げな声に、明日香も微笑んだ。
リリィは達也に向かって説明する。
「達也、あなたの付けているクロノスエコーは解析や防御のサポートをする装置よ。赤は情報、青は回復、黄はバリアと通話ね。詳しいことは使いながら覚えてちょうだい」
「ちょっと何か扱い違いすぎない?」
達也は不満顔になった。
その瞬間、空気がぐらりと揺れ、背後から瓦礫の崩れる音が響く。
「やばい! 時空の歪みが来た!」
「明日香、逃げるぞ!」
達也が叫ぶと、二人は瓦礫の隙間を縫うように必死で走り出した。
逃げる瞬間、クロノスリリィのホログラムに一瞬ノイズが走り、リリィの声が途切れ途切れに聞こえた。
「に…げ……て……」
そして、リリィの声は完全に途絶えた。
明日香の胸に、冷たい焦りが押し寄せる。
“間に合わない……私が危ない!”
心臓が早鐘を打ち、手のひらにじっとりと汗が滲む。
達也はクロノスエコーのバリアを展開し、明日香を守りながら走る。
二人の目の前には地下鉄の駅の入り口が見え、滑り込むように中へ逃げ込んだ。
ハァ、ハァ、ハァ……
二人はかろうじて命の危機を乗り越え、息を整える。
明日香は足を押さえながら、胸の高鳴りを必死に落ち着けた。
「……ああ、怖かった……でも、達也がいてくれてよかった」
達也は明日香を心配そうに見つめ、声をかける。
「ケガはないか?」
「少し足を痛めたみたい…つっ…」
「よし、じっとしてて」
明日香は小さく頷き、達也の腕の中で震える呼吸を整えた。
外はまだ危険が渦巻いていて、油断はできなかった。
だが今、この瞬間だけは、二人で生き延びた確かな感覚があった。
リリィ――母の意志を継ぐ存在。
そして、明日香の旅を導く新たな光。
けれどその光が示す未来には、まだ知られざる影が潜んでいる。
次章、第七章《記憶の境界》――
明日香の“運命”が、ついに動き出す。




