クロノスリリィ外伝 『母と3人の娘たち』 【第2章・第2話『涙味のうどん』】
泣きながら食べた人間は強くなる
感謝が加奈子を強くする
玄関の扉を閉めた瞬間、家の中の空気がっと緩んだ。
外で張り詰めていたものが、音もなく肩から落ちる。
リビングを抜けると、洗面所からドライヤーの音が聞こえてきた。
規則的な風の音の向こうで、明日香の気配がする。
「……おかえり」
洗面所とリビングを隔てる壁越しに、明日香の声が届く。
ドライヤーを止めた気配がして、少しだけ間が空いた。
「今日は、一段と疲れてるね。おうどん食べる? 作るよ」
加奈子はバッグを置き、ソファの背に手をついたまま小さく息を吐いた。
「お願い。先に着替えてくる」
洗面所へ向かい、鏡の前に立つ。
照明の下に映った自分の顔は、思っていた以上に疲れ切っていた。
「……ひどい顔」
水を少しだけ手に取って顔を押さえる。
冷たさが、現実だけを静かに引き戻してくる。
部屋着に着替え、しばらく寝室の縁に腰を下ろした。
その間にも、台所からは鍋の湯が静かに沸く音が聞こえてくる。
やがて、加奈子はキッチンへ戻った。
「はい」
明日香が、湯気の立つ器をそっと置く。
「明日香特製スペシャルうどん。玉子入り」
立ちのぼる湯気に、胸の奥がゆるむ。
温度だけで、ここが帰る場所だと分かってしまう。
箸を取る手が、わずかに震えた。
「……おいしい?」
明日香の声に、加奈子はただ頷いた。
顔を上げられないまま、うどんを口に運ぶ。
涙の気配を、湯気に紛らせるように。
明日香はそれ以上、何も言わなかった。
エプロンを外し、廊下へ向かう。
「私は先に寝るね」
その後ろを、サキが小さな足音を立ててついていく。
廊下の奥で、扉が静かに閉まった。
「……明日香、ありがとう。おやすみ」
返事はない。
けれど、それでよかった。
残された静けさの中で、加奈子の目から涙がこぼれ落ちた。
我慢していたものが、ようやく許されたように。
涙の混じったうどんは、それでも温かかった。
胸の奥に、ゆっくりと染みていく。
何でもいいからコメント下さい(笑)




