表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Chronos Lily ― クロノスリリィ 時空との戦い  作者: 猫田笑吉


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/34

粉化のはじまり

日常が音を立てて崩れていく――

母の姿が消え、町が静まり返る中で、明日香は“喪失”という現実と向き合います。

けれど、その絶望の中で芽吹く“再生”の光。

この章は、彼女が「壊す力」と「取り戻す力」を初めて知る、運命の幕開けです。

朝、明日香は静けさの中で目を覚ました。

差し込む朝日の光はいつも通り淡い温もりを帯びているのに、部屋の空気はどこか重く、息苦しく感じた。布団は整えられ、母・加奈子の気配はどこにもなかった。


「……お母さん?」


声をかけても返事はなく、台所には湯のみと読みかけの資料だけが置かれている。不安が胸の奥にじわじわと広がっていく。


外に出ると、町は異様な静寂に包まれていた。

遠くから聞こえる車の音や子どもたちの声、鳥のさえずりさえ、すべてが消えている。通りのあちこちには白く粉のようなものが積もっていた。


膝をついて近づくと、それはまるで人の形をそのまま写したかのように積もっていた。小さな手足の輪郭、座った姿勢、頭の丸みまで――時が止まったように見える。


「……なに、これ……?」


恐怖に震えながら、明日香は愛猫サキを探した。

怯えた声で鳴くサキを抱き上げた瞬間、身体がふわりと揺れ、砂のように崩れ落ち、粉になった。


「……えっ!?…何…? うそ……いや、やだ……やだぁ!」


頭が真っ白になり、声も出せず、ただ手に感じる微かな熱と力だけが確かに伝わってくる。

――この手から、何かの力が発せられた感覚が、現実を変えたのだ。


しばらく茫然とした後、明日香は泣きながら台所へ向かい、瓶を探してサキの粉を手ですくい移した。

慎重に粉を移すそのとき、テーブルの上に母・加奈子の走り書きのメモが目に入った。


> 「右手は破壊、左手は再生……壊すだけじゃない、取り戻せる力……」




胸の奥に小さな光が灯る。

――左手なら、サキを取り戻せるかもしれない。


「……でも、本当に戻せるのかな……」

短くつぶやき、不安をぎゅっと押し込む。


明日香は左手をかざす。

腕時計のような装置――クロノスリリィが淡く青い光を放ち、粉を包み込む。

光は粒子の一つ一つを優しく包み込み、まるで時間を巻き戻すかのように動く。


だが、サキの姿は完全には戻らなかった。

光が途切れると、そこには不完全な影と、小さな首輪の鈴だけが転がっていた。


「……どうして……」


膝に残った粉を両手で必死に掬い、首輪の鈴が再生を妨げていたのだと悟った。

「サキ……ごめん……やっぱり…」


涙で頬を濡らしながら、**明日香は瓶を抱え、そっと外へ歩き出した。

悲しみに包まれながら、気がつくと町外れの大きな桜の木の前に立っていた。

「私が、サキを拾った場所…」


幹は半分が消え、上部は粉化していた。根元には、人ひとり分の白い粉が静かに積もっている。


胸が張り裂けそうになるその瞬間、左手から温かな輝きが溢れ出す。

光は桜の幹へと染み込み、乾ききった木肌を優しく包み込む。

カサリ、と音が響き、失われた上半分に新しい枝が芽吹き、幹は静かに空へと伸びる。

粉となった部分も形を取り戻し、桜は確かに完全な姿へと蘇った。

淡い蕾が灯り、一斉に花弁が開き、薄桃色の花が風に舞う。

その香りが微かに鼻をくすぐり、春の柔らかな風が頬を撫でた。


「……咲いた…生き返った…」


明日香は涙を拭わず、視界が滲むが、桜から目を逸らせない。

救えなかったサキのことを思い出し、胸がぎゅっと痛む。

でも、この桜は応えてくれた――確かに、生きている。


「壊すだけじゃない……この手は、取り戻せる……」




呟いた声は風に溶け、舞い落ちる花びらと共に空へ昇る。

静寂の町に、満開の桜だけが命の象徴として息づいていた。


やがて明日香は粉となったサキの瓶を抱え、遠くの街を見渡す。

まだ守るべきものが残っている――その決意を胸に、静かに前へ歩み出す。

第三章では、明日香が初めて自分の力を実感し、そして戸惑う場面を描きました。

挿絵として掲載しているのは、「桜と明日香」のシーンです。


粉化した桜の幹が、明日香の手からの光でゆっくりと再生し、満開の花を咲かせる瞬間――

光と命の象徴である桜を前に、彼女が感じた希望や責任の重さを、少しでも伝えられればと思っています。


読者の皆さんには、文字だけではなく挿絵も一緒に楽しんでいただくことで、明日香と桜の“時間の再生”の瞬間をより身近に感じてもらえたら嬉しいです。


次章以降も、物語の節目で挿絵を入れる予定です。

特に第七章では、アイラの登場シーンを光に照らされた姿で描いた挿絵を掲載しますので、お楽しみに。


https://x.com/v9ACdPRbyn6909/status/1986042953866052055?t=igHXH8DQOS5JeoewC8xg5w&s=19


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ