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Chronos Lily ― クロノスリリィ 時空との戦い  作者: 猫田笑吉


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クロノスリリィ外伝 『母と3人の娘たち』 【序章・第九節 告げられる数値】

深夜の研究フロアに、静寂だけが支配する。

計測器の低い音、呼吸の震え、そして微かな光――

その全てが、母として、研究者としての葛藤を映す。

一瞬の静けさに、未来への決意が揺れる瞬間を見届けてほしい。

観察フロアには計測器の低い駆動音だけが響き続けていた。

ガラス越しには、アイラに抱かれ呼吸が落ち着き始めた明日香。

その様子を見つめる加奈子の指先は、気づかぬうちに震えていた。


「加奈子さん」

背後から呼ばれ、肩がわずかに跳ねる。振り返ると志水が端末を胸に抱え、言い淀むように立っていた。


「……今、出ました。あなたの数値です」


胸の奥がきゅっと縮む。覚悟はしていたはずなのに、息が止まる。


「聞かせて」

自分の声が思った以上にかすれていた。


志水は端末の画面を開く。言いづらそうに視線を伏せる瞬間、数字の重さを理解する。


「加奈子さん……危険域に入りました」


言葉は穏やかだが、内容は鋭く刺さる。

心臓が早鐘のように跳ね、視界の端がにじむ。


「……そう、ですか」


言葉を絞り出すと、志水はほんの一瞬だけ目を伏せた。

慰めでも同情でもなく、研究員としての敬意がにじむ沈黙。


「隔離措置に入ります。準備が終わり次第、移動を」


わかっていたはずなのに、足が床に根を張ったように動かない。

ガラス越しに視線を向ける。明日香の小さな背中がアイラの胸にすっぽりと収まっていた。


(離れたくない)


その気持ちが胸の奥から込み上げ、呼吸が震える。

渋谷が控えめに近づき、端末を操作しながら告げる。


「明日香ちゃんは大丈夫です。アイラがずっと安定させていますから」


気遣わしげな声。しかし、その優しさが余計につらい。


「……ありがとうございます」


渋谷は小さく頷き、離れていく。

加奈子は手すりを握り、冷たい金属を感じながら意識を現実に戻す。


(母親が、たとえわずかな時間でも側にいられなくなるなんて)


息をゆっくり吸い込み、震えを押さえ込むように肩を落とし、目を閉じる。


「……明日香。大丈夫。少しだけ、待っててね」


志水が静かに頭を下げる。


「準備ができました。案内します」


加奈子は深呼吸をひとつして、ゆっくり歩き出す。

母としての痛みを抱えたまま、ガラス越しの明日香を最後に見て――隔離室へ向かった。





数値が告げる現実。

揺れる心と静かな行動の間で、加奈子は母としての痛みを抱えながら前へ進む。

次回、第十節では、短い間の安堵と新たな時間が待ち受けている。

物語のリズムはまだ止まらない――静かに、確実に動き出す。

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