クロノスリリィ外伝 『母と3人の娘たち』 【序章・第一節 赤ん坊の記録】
はじめまして、またはいつも読んでくださっている皆さま、ありがとうございます。
本作 『母と3人の娘たち』 は、
長編『クロノスリリィ』本編の裏側で起きていた出来事を描いたスピンオフになります。
“家族”というごく小さな世界の中で揺れる想いや、
ほんの少しの後悔、そして確かな愛情──
そんなものを静かに積み重ねていく物語です。
本編を知らなくても読める内容ですが、
読んだことがある方には「ああ、あの場面の陰でこんなことがあったのか」と
楽しんでいただけるかもしれません。
少しでも、あなたの中に温度が残る物語になれたら嬉しいです。
どうぞ、ゆっくりお楽しみください。
夜明け前の光が、薄い乳白色のカーテン越しに滲んでいた。
部屋にはまだ夜の気配が残り、空気は柔らかく、どこか温度を帯びている。
ベビーベッドの中で、赤ん坊が小さな手を動かした。
ふわりと握られた指は、わずかに震え、空気を掻き分けるようだった。
その動きに、横で控えていたアンドロイドが反応する。
アイラ――まだ声の抑揚に訛りの残る初期モデルAI。
瞳に宿る淡い光が、わずかに揺れた。
赤ん坊の頬がふっと緩む。ミルクを求める小さな気配。
アイラはそっと腕を伸ばし、抱き上げる。
人工の温もりは、わずかに高く、冬の朝の冷たさを忘れさせる。
赤ん坊の小さな背中が、柔らかく沈む。
廊下の向こうで、研究室の扉が開く音。
白衣の袖を乱したまま、加奈子が少し息を弾ませて戻ってくる。
寝不足の影が頬に落ちているけれど、視線は柔らかい。
「泣かせてないかと思ってね」
言葉より先に、手を伸ばして赤ん坊の頭を撫でる。
その仕草に、アイラは小さく首を傾けた。
「ううん、ずっと おりこうさん、でしたよ」
まだ訛りの残る声に、加奈子は目尻を少し緩める。
赤ん坊の薄い髪が揺れる。
呼吸は安定し、眠り直す前の静けさが部屋に戻った。
足音。振り向くと、源次郎が研究資料の束を抱えて立っていた。
少し疲れたように息をつき、ベビーベッドへ視線を落とす。
その瞳には、研究者の鋭さではなく、覚悟の色が宿っていた。
「……頼むぞ、アイラ。
この子と、加奈子と……
家族を……」
アイラは、ゆっくりとまばたきをする。
それが、彼女に許された最大限の返答だった。
「はい。まもります」
短い言葉は頼りないけれど、確かにこの家の温度を受け取っていた。
外では朝が静かに始まりかけている。
薄い光が床を照らし、影が重なり、
家族という言葉のかたちが、まだあいまいなまま部屋を満たしていた。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。
この第一節では、
“家族”という言葉の重さ、
そしてそれを託された者の揺らぎを中心に描きました。
加奈子、アイラ、そして子どもたち。
彼らの小さな世界がどう変わり、どう繋がっていくのか──
今後も静かに追いかけていきます。
続きも準備中です。
よければ、また読みに来てくださいね。
感想や応援も、いつも励みになっています。
本当にありがとう。




