クロノスリリィ外伝 前編:「覚醒す!」
アンドロイドとして“存在”になったリリィ。
感情と力加減の練習を終え、ついに明日香との“初めての抱擁”に挑む。
しかし、母性モードは暴走寸前!?
アイラのツッコミ、加奈子博士のほほえみ
シリアス世界観のはずが、なぜか研究室はギャグ空間に。
本編後の温かくて笑えるスピンオフ。
クロノスを好きだった人にこそ読んでほしい、
“再会の後日談”です。
登場人物(前編)
リリィ
金髪のアンドロイド。元は加奈子博士が作った思考体。今回、アンドロイドとして新しい体を手に入れ、初めて世界を“体感”する。努力家で感情が力に直結しやすい。
アイラ
リリィと瓜二つの姿を持つAI。銀髪。加奈子博士の初期化により東北訛りが残る。リリィの特訓を優しくサポートする。
加奈子博士
リリィとアイラを作った科学者。落ち着いた物腰で、適切に指導しつつ、時折ギャグのようにリリィを制御する。
白い光が静かに満ちる研究室。
中央のカプセルの中で、ひとりの少女がゆっくりと瞼を開いた。
「……加奈子博士……?」
ガラス越しに立つ加奈子が、やさしく微笑む。
「おはよう、リリィ。――あなたの新しい体、うまく動くかしら?」
リリィは、ゆっくりと手を握った。
指先が動く。感触がある。息を吸い込むように胸が上下した。
「これが……“感じる”ってことなんですね。わたし……生きてるみたいです」
「ええ、あなたはもう、思考体じゃないわ。正式な“存在”よ。」
リリィは静かに立ち上がり、足元を確かめるように一歩ずつ歩く。
姿勢は慎重で、まるで初めて地面を踏む赤子のようだった。
そのとき、後ろから元気な声が響いた。
「おおっ、リリィ! 起きたんだべか!」
アイラが駆け寄り、リリィを勢いよく抱きしめる。
「わっ!? く、苦しいだす!」
「はっ! ご、ごめんだべ!」
慌てて離れたアイラの手には、ぐにゃりと曲がった鉄製のスパナが握られていた。
加奈子が苦笑しながら手をあげた。
「……まあ、次は力加減の特訓ね」
---
数時間後。
訓練室には、リリィの真剣な声とアイラの「だべ!」が響いていた。
「力を込めずに、でも優しく……って難しいですっ」
「ほれ、落ち着けリリィ。ほら、わだすを抱きしめてみるべさ。全力じゃなくて、こう、ふわっと!」
「ふわっと……こうですか?」
リリィが両腕をそっと回す。
だが――
「ぎゃっ! もうちょい軽くぅぅぅ!」
「ご、ごめんなさい!」
ふたりの周囲に、もはや何体目かわからない“特訓用ダミー”が粉々に転がっていた。
アイラはふらふらしながらも、笑顔で親指を立てた。
「でも、さっきよりだいぶマシだべ。リリィ、感情で力が変わるタイプだべな。」
「……感情、ですか」
リリィは少しだけ目を伏せた。
「じゃあ、次こそ……」
再び抱きしめる――今度は、やさしい。
温度を感じるように、そっと包み込む。
アイラが目をぱちくりさせた。
「……リリィ、それだべさ」
「本当? わたし、できたんですね……!」
リリィの表情がぱっと明るくなり、瞳に光が宿る。
まるで子どもが初めて歩けた瞬間のように、嬉しそうに笑った。
加奈子が満足そうにうなずきながら近づく。
「上出来よ、リリィ。――でも、今日はここまでにしておきましょう。
“おしとやかモード”のままでね。」
リリィは小さく頷き、胸に手を当てた。
「はい、博士。わたし……次は、明日香に会いたいです」
加奈子は、ふっと微笑む。
「その日が来るのを、楽しみにしてるわ。」
研究室の窓から差し込む夕日が、
新しい体を得た少女の髪を金色に照らした。
完結後に書き上げた、リリィ覚醒直後の小さな外伝です。
肩の力を抜いて読んでもらえると嬉しいです。
明日は後編を投稿します!




