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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

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緑高校恋愛相談窓口

作者: さとう

俺の通う高校、緑高校にはいつの頃からか奇妙な話が囁かれるようになっていた。


「なあなあ、神谷正也。知ってるか?『緑高校恋愛相談窓口』の話。」


たこ焼きパンの最後の一口を優雅に頬張る俺に躊躇なく話しかけてくるのは、幼稚園からずっと同じクラスで、今も隣の席の華井翔太だ。苗字も下の名前もどちらも「や」で終わるのが語感がいいとかでいつもフルネームで呼ばれる。


「ああ、もちろん知っているよ。華井翔。」


俺はたこ焼きパンの包装紙を丸めながら答える。

彼の母親は国民的人気を誇るアイドル、華井翔にかなり熱を上げているらしい。これは小学校の頃の自分の名前の由来についての授業で知った話だが、彼の名前には「息子もああいう人になってほしい」という願いが込められているらしい。しかし、そんな親の願いとは裏腹に彼の成績は万年赤点、お世辞にも女子にモテモテとは言い難い。正直、華井翔に近いのはどちらかというと成績は常に上位で、人生で一度だけ告白されたことがある、俺の方だ。だが、それも五十歩百歩。そもそも、華井翔を基準にするのが間違っているのだ。1Lのカップを持ってるやつがいるのに1mLのカップで水をすくうか、それとも1.1mLのカップですくうか競っているようなものだ。

綺羅びやかな名前のおかげか、「華井翔太くんの魅力は何ですか?」と尋ねられても「ギャップ(名前との)」としか答えられないだろう。こんなのが世に出回ったらギャップ燃え不可避だ。まあ、こんな取材じみた応答とは、彼が有名人にならない限り一生無縁だが。


「神出鬼没の黄色いQRコードの付箋、僕の友達が偶然見つけて例のサイトにアクセスしたらしいんだけど、翌日にはURLが変わっていて開けなかったらしいんだ。」


『緑高校恋愛相談窓口』というのは、校舎内に現れる神出鬼没のQRコードが印刷された付箋を見つけ、読み込むと繋がると言われているWebサイトだ。普通に検索しても見つからないらしい。ちなみに、今まで付箋が発見された場所は、家庭科室のミシンケース、屋上の入口、百葉箱、職員室前のポスターの裏、男子トイレの扉のガラリ等だ。今まで発見された場所は被ったことがないらしい。


「それがどうした。俺は今、たこ焼きパンの余韻に浸っているんだ。」


「気にならないのかよ!これまで色んな噂を検証してきたじゃないか!」


俺は好奇心に生きる男。確かにこいつの言う通り、俺は幼稚園の頃からトイレの花子さんから教師同士の恋愛模様にいたるまで、数多くの噂を検証してきた。しかし、今回はネット関係だ。気にならない、と言ったら嘘になるが、生憎ネット関係の技術はからっきしのROM専だ。調べようとして、逆にこっちの素性を暴かれて勝手にデジタルタトゥーを彫られたりしたら、たまったもんじゃない。


「QRコードの付箋を探すまでなら手を貸してもいいぞ。だけど、その後は俺の個人情報が漏れる可能性があるからやるならお前がやれ。」


「まかせろ!神谷正也!」


こいつは素直すぎて時々将来詐欺にあわないか心配になる。

その後も休み時間の度、恋愛相談窓口の噂話を聞かされた。例えば、好きな人と一緒に付箋を見つけると両想いになれる、幸せの黄色い付箋、なんて呼ばれているらしい。これは恐らくただ噂に尾鰭がついただけだろうが、念の為こんなこともあろうかと以前から交流を重ねていた両片思い友達以上恋人未満のA男とB子に検証させるように仕向けよう。


「神谷正也!付箋を探しに行こう!」


これからの計画あれこれを考えていると、気がつけばもう放課後だった。俺たちは同じ場所に置くことはないと仮定した上で捜索を始めた。職員室を除いて校舎の隅々まで調べたつもりだが、付箋は出てこなかった。華井翔太が上靴のまま中庭の花壇を掘り始めたところで、帰宅を促す放送が流れた。


「今日はここまでにしよう。」


「くそー。悔しいな!」


俺たちは探してない場所を考察しながら下駄箱に向かった。ふと、華井翔太のマフラーに目が行く。


「お前、その緑のマフラーまだつけてんのか。かなり目立つぜ。」


「確かに目立つが、これはお前がくれたやつだ。それに、大事な瞬間につけていたマフラーなんだ。」


「そうですかい。」


下らない会話をしながら俺が片手で下駄箱を開けると、中には不可解な幾何学模様が印刷された黄色い付箋が貼られていた。


「神谷正也!それって…!例の付箋じゃないか!」


「ああ。だが何故俺の下駄箱に…?」


「そんなことは今はいいじゃないか!早く読み取ろうぜ!」


華井翔太が慣れた手つきでスマホを開き、付箋のQRコードを読み取る。


「うわー!本当に『緑高校恋愛相談窓口』って書いてある!」


「華井翔、スクショを撮っておけ。」


「おうよ!」


Webサイトの中身は簡単なものだった。上部に『緑高校恋愛相談窓口』とタイトルが掲げられており、その下には『友達や家族には話せない恋のお悩み、そっと教えて。※恋のお悩み以外のご相談も受け付けております。』と書かれている。そして、さらに下には『お名前』『メールアドレス※返信専用です。サイト管理者はこのアドレスを第三者に公開したり、悪用したりしないことを誓います。』『相談内容※決して他言致しません。具体的なほど具体的なアドバイスがもらえるかもしれません…。』

とある。前述の通り、インターネットにはさして詳しくないが、どことなく素人の雰囲気がある。


「恋愛相談、と題したのはただお悩み相談と謳うよりも人が興味を持つと思ったんだろうな。このWebサイトの管理者は、ほぼ毎日学校に来ている人間のはずだ。もちろん、共犯の可能性も大いにあるが。まずは様子見のために、無難な相談内容で送信してみるか。」


「じゃあ、隣の席の子を好きになってしまいましたよく話すし笑ってくれるけど相手は友達としか見ていなさそうですどうしたら両想いになれますか、とかどうだ。」


普段の威勢の良さが瞬時に失われ、虚ろな目でスラスラと棒読みする華井翔太の姿からは哀愁が漂っていた。おそらく体験談なのだろう。


「…ウン、いいと思う。」


友人の悲劇を前に俺はそれしか言えなかった。



翌日、いつも通り遅刻ギリギリに登校すると、華井翔太が駆け寄ってきた。


「返信来たぞ!転送する!」


華井翔太から送られてきた返信は以下だ。


『あなたの素敵な恋、応援します。今度の土曜日、皆既月食があります。緑ヶ丘の縁結びの神社の境内で皆既月食を見よう、と誘ってみてください。夜遅い時間ですし、他の友達も誘いましょう。男友達だけでなく、彼女以外の女友達も誘うのがポイントです。しかし、最初は如何にも2人きりで見ようと誘っているかのように思わせてください。相手がドキッとしたところで他の友達も来ることを伝えましょう。』


ちなみに、相手のメールアドレスはShinen8888@email.com

しねん…?いや、深淵しんえんだろう。管理者は厨二病だったようだ。拍手まで添えてやがる。いや、高笑いかもしれない…。

SHRしょうもないホームルームが終わり、華井翔太が俺の席にやって来た。


「恋愛のことはよくわからないけど、普通の返信っぽいな?」


華井翔太は落胆した表情を見せた。こいつは馬鹿だ。人目のつかない廊下に彼を連れ込む。や、やめろ…俺になにする気だ…とか下品なことを吐かしているが聞かなかったことにする。


「…何を言ってるんだ。日時も場所も指定されているんだぞ?恋が儚く散る様子を見物する気満々じゃないか。」


「何?!とんでもなく性悪じゃないか!」


華井翔太は眼球が落ちてしまいそうなほど目を見開いた。


「俺たちもこいつの落胆する様子を見に行こう!そして、脅して一生俺のパシリだ。」


俺がそう言うと、華井翔太はナイスバディの美女だったらどうするんだ?と聞いてきたが、もちろん無視した。


俺たちの決戦当日、神社の境内は予想以上に人がいた。同じ手口で来ている人がいないかと思ったが、アドバイスを聞かなかったか、それとも他の人にはあの返信を送らなかったのかわからないが、高校生のグループはいなかった。


「カメラと望遠鏡持ったおっさんばっかだな〜」


隣で華井翔太が呟く。確かに周りはそういうおっさんだらけだ。しかし、一人だけ周囲と違う行動をしているやつがいる。性別はわからないが、おっさんたちは空に夢中なのにそいつは周りをキョロキョロ見てカメラも持っていない。


「多分あいつだ…」


「もう見つけたのか…!どこだ?!」


興奮気味の華井翔太を静かにさせ、遠回りして後ろから近づく。


「深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いているのだ。」


我ながらなかなかの厨二病チックな言葉を思いつく。そして、その人は勢いよく振り向いた。その拍子にフードが外れる。…その人はB子だった。


「…B子!?」


華井翔太が驚きの声をあげる。おっさんたちは相変わらず皆既月食に夢中で気づいていないようだった。

B子は顔を真赤にして神社の階段に向かって走り出した。華井翔太が追いかけようとしたが、止めた。どうせまた明日…いや、月曜日になったら学校で会えるのだから。…そのはずだった。


グシャ


鈍い音が境内に響く。


「今の、音って…」


華井翔太は青い顔をしてこっちを見てくる。俺たちの想像通りなら大変な事態になっている。ここは緑ヶ丘。小さいが山だ。この神社は周りより少し標高が高く、階段も長い。


「ギャー!」


想像が確信に変わる。すぐに救急車のサイレンが聞こえてきた。一番階段の近くにいたおっさんたちの証言で事故だと言うことで片付いた。俺たちは階段から離れたところにいたからか、警察には一緒に来たのかどうかだけ聞かれて、詳しく事情を聞かれることもなくすぐに帰宅するように促された。




「非常に悲しいですが…昨夜、佐藤美衣子さとうびいこさんが亡くなりました。」


担任が翌日のSHRでB子、いや、美衣子の死を告げた。クラスは瞬く間に喧騒と嗚咽に包まれた。A男、鈴木永男すずきえいおは呆然としていた。 

俺は授業中もただ呆然としていて何も聞こえなかった。放課後になっても華井翔太と話しもせず、ただただ廊下を歩いた。


(これは俺の責任になるのか…いや、ただ声をかけただけだ…でも、あの時俺が華井翔を止めていなかったら助かっていたかもしれない…俺が殺したのだろうか)


結局、自分は美衣子の死を悲しんでいるのではなく、自分に責任はあるのかどうか、それにしか意識が向いてないことに気づき、思考を止めた。ふと前を向くと目の前に壁紙がベロンと破れてコンクリートの壁が見えている柱があった。


(ギリギリぶつからなくてよかった…。もう帰ろう。)


そう思った瞬間、壁紙の隙間に黄色い何かが見えた。

それを引き抜くと、QRコードの黄色い付箋だった。

俺は迷うことなくスマホで読み取った。『緑高校恋愛相談窓口』ではなく、長文が表示された。


『あなたがこのサイトを見てる頃には、私は死んでるか大怪我してるか、だと思う。』


…待て。どういうことだ。事故じゃなかったのか。


『これは遺書。誰にも言えないこの思いと計画を誰かに言いたかった。私は命を狙われている。毎日怯えながら寝ている。そんなとき神社の看板を見て、どうせ死ぬなら好きな人のためにこの命を使いたいと思った。神社の看板には今の私にとって素敵な物語が書かれていた。戦国時代、とあるお姫様が従者の男に恋をしたらしい。でも、従者は戦いで命を落としてしまった。一生結ばれないことに絶望したお姫様はある小さい山から飛び降りた。それを知った御殿様は戦いを止めてその地は平和になったんだとか。その場所が、緑ヶ丘。私もそこで死んだら宮迫晴子と来世で両想いになれるかな、なんて気持ち悪いことを思ったけど、やっぱり無理だと思う。だって、彼女はきっと…』


やめろ…何故お前が彼女を…?


『死に別れた恋人のことを忘れられないから。』




俺は人生で一度だけ告白されたことがある。その子の名前は、宮迫晴子。幼稚園から中学一年生までずっと同じクラスだった。彼女も俺と同じで苗字も下の名前も「こ」で終わるが、華井翔太にはフルネームで呼ばばれてはいなかった。代わりに俺がそう呼んでいた。名前の通り、彼女といるだけで心が晴れていった。当然、人気者だった。俺は捻くれ者で、華井翔太以外とあまり馴染めなかったが、彼女が俺と周りを繋いでくれた。彼女を好きな人なんて塵の数ほどいたと思う。俺は彼女への気持ちを諦めようと隠していたが、彼女が俺を選んでくれた。


『面白いね。神谷正也くん。』


『神谷正也くん。実は私、君のことが好きなんだ。』


『またあしたね!』


今でもいつまでも耳に残っている彼女の少し弾んでいる優しい声。

あの日は、俺が学校からそのまま歯医者に行かなきゃ行けなくて、宮迫晴子と一緒に帰れなかった。

歯医者から帰って、家で母親から聞かされた。


「晴子ちゃん、通り魔に刺されちゃったって!!」


俺は病院に走った。息を切らして、鞄も華井翔太とお揃いで買ったマフラーも何処かに落として無様に走った。病院に着くと、宮迫晴子の家族がいた。…嗚咽が聞こえてきた。すぐ隣で医者が「力及ばず、申し訳ございませんでした。」と頭を下げている。…やめろ。何故頭を下げている。心臓の音が鼓膜を叩く。気づけば、視界が真っ白になっていた。

…犯人は監視カメラや人の目を上手く避けたようで今でも捕まっていない。


美衣子の遺書には数行の空白の後、まだ続きがあった。


『私は彼女を殺した犯人を知ってしまった。今はどうにか逃げてるけど、もうすぐ殺されると思う。だから、死ぬ前に一仕事すると決めた。『緑高校恋愛相談窓口』これは皆のメアドを知るために始めた。もちろん、噂好きの彼女の元恋人も興味を持ってくれるかな、ていう思惑もあった。皆、彼女のことタブーのように扱って話そうとしない。たまには彼女を偲んで昔話でもしたかった。結局、全然調べないから下駄箱に貼ってやった。彼のメアドは知ることはできなかったけどね。12月6日の16時半、犯人が彼の恋人を刺した日時に『緑高校恋愛相談窓口』で知った皆のメアドに私のカメラに偶然映っていた証拠と一緒に犯人を晒す。素晴らしい計画でしょ?メディアは喜々として報道するだろうね。

P.S.これを見ているのがもし正也くんだったら、すぐ永男のところに行ってほしい。』


12月6日、今日だ。今は16時28分だ。俺はメアドを送っていない。華井翔太のところに行かなくては。でも、死を目前にした美衣子が今すぐ永男に会えと言っている。俺はとにかく走った。自分では決められない。先に会った方にしようと決めた。


「神谷正也!そこか!探してた!」


中庭から華井翔太の声が聞こえてきた。中庭の時計を見るともう16時半を過ぎていた。


「今そっちに行く!」


俺は普段出さない声量で返事をした。早く犯人を知らなくては。

階段を降りようとする直前、鈴木永男が目の前に現れ、スマホを差し出してきた。俺は反射的に受け取る。それは美衣子のメールだった。


『これは4年前この町で起こった通り魔殺人事件の犯人が映った映像。』


その下にMP4ファイルがあった。タップして開くと、かなり荒く見にくいが、緑色のマフラーをした学ランの男が女子学生に手を振って駆け寄り、そのままナイフを刺して去る動画だった。女子学生、宮迫晴子が花が萎れるように倒れていく。


「ッ緑のマフラー!!!!」


思わずスマホを握る手に力が入り、階段を駆け下りようとした。


「まて!落ち着け。もう警察には通報してある!」


鈴木永男が俺を止めた。


「頼まれてんだ。美衣子に。メール来るまで内容は知らなかったけど、華井翔太からお前を引き離せって。」


「駄目だ!あいつは警察が来る前に俺が殺す!!!」


「だから、止めるんだ!!!」


押し合いをしていても間に合わないので、廊下の窓から飛び降りた。鈴木永男は俺が押すのを急に止めたのでそのまま転んだ。幸い、2階だったので足が響くように痛いくらいで済んだ。華井翔太の方を見ると既に警察に捕まっていた。


「神谷正也!!どう?!今の気持ち!!!」


今まで見てきた温厚で素直な華井翔太とは似ても似つかなかった。本当に彼なのか、実は誰かが彼になりすましているのではないか。今眼の前の惨状は夢で、現実ではないのだろう、なんて考えた。それでも足はちゃんと痛いし、華井翔太の声はうるさいほど聞こえてくる。


「殺す!!!!!!!」


走ってきた警官が俺のことを抑える。君、落ち着け!と言う声が聞こえてくる。


「離せっ!!!」


警官の腕から抜け出そうとするが、訓練している相手に勝てるわけもなく、蜘蛛の巣に引っかかった昆虫のように無様に藻掻く。


「お前が僕をないがしろするのが悪い!!!!!あの女しか見てなかった!!!!僕の方がずーっと一緒にいたのにね!!!!!」


華井翔太はその後すぐに警官に口を抑えられた。その日はもうぐちゃぐちゃでそれ以降の記憶はない。


ー 


あれから数年が経った。

華井翔太は学校の宿題のために自分の名前の由来を聞いたとき、それまで薄々感じていた違和感の正体、母親が華井翔に夢中で自分のことを全く見ていないということに気づいてしまったらしい。父親も自分の目が少し華井翔と似ていて、同じ大学出身だから結婚したことに気づいてしまい、彼が小6の頃に出ていったらしい。

そして、耐えきれなくなった彼は母親を殺し、その直後、宮迫晴子を殺した。元々母親は引きこもりがちで、また引きこもっているのか、と噂するばかりで亡くなったことに気づいた人間は一人もいなかった。

後に見つかった華井翔太の日記には『母さんは僕を見ていなかったけど、それと同じように母さんを見ている人もいなかったんだ。誰かが母さんを見てくれていたら、僕も母さんに見てもらえていたかな。』と書かれている。

こうして、華井翔太の人格は2つになりどちらも俺に依存した。佐藤美衣子の策略通り、メディアは喜々としてこの事件を報道した。俺にも取材が来たが、全て断った。取材陣が屯して近所迷惑になるので県外に引っ越し、今は大学にも行かずただのフリーターをしている。

ふと、スマホを見た。メッセージが来ている。


『今度飯奢るぜ。ここ俺の新しいバイト先。大…』


鈴木永男からだ。初めはいつか必要になると思って関わっただけだった。授業で話す機会があったり、たまたま目が合ったら仲良く話す程度だった。卒業したら話すことなんてないと思ってた。それなのに、あの事件から彼は俺を気遣ってたまに連絡をくれたり、食事に誘ってくれる。

俺はあの日、宮迫晴子と佐藤美衣子の死、そして華井翔太の罪を背負って行くことに決めた。もう誰とも関わらないつもりでいた。それでも、鈴木永男は俺の心の檻を無理やりこじ開けて入ってきた。俺が無様に泣きながら心の内を明かしたときは翌朝まで一緒にいてくれた。正直、ずっとそばにいて友情を紡いできたと思っていた華井翔太のもう一つの姿にずっと気付けずにいた俺はそれでも加藤永男と関わりたいと素直に思えなかったが、俺の唯一の心の支柱ではあった。

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