表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

シュルツウォンド編

エルフの村への道中、この幼いエルフの名前を聞いておいた。名前はエーフルと言うらしい、このエルフの村で『天童』と呼ばれているらしく見た目によらず恐ろしく強いんだと。そんな要素どこにあるんだか。私にはさっぱり検討がつかなかった。

「おい。見えてきたぞエルフの村。」

リューテは言葉を知り始めていて私の後に続いて復唱した。

「エルフの村!」

エルフの村は森に包まれ豊かな自然の中にありほんわかとして和やかとしていてなんの防御も無いような所だと想像していた。実際はエルフの村と言うよりエルフの街だった。門からチラリと見える石畳が文明を感じさせる。エルフの門の前にはエルフの男性が二人の人が居た。

私はそのエルフ二人組に話しかけた。

「あの…こんにちは。ここエルフの村…ですよね?」

すると二人のうち一人が答えた。

「ようこそ。如何にもここはエルフの村です。私達は門番兼案内人、今回案内をさせていただくユルドミールです。以後お見知り置きを」

「ユルドミール…ですね、よろしくお願いします」

「では早速案内を…クリワナ、門番を頼みます」

クリワナと呼ばれるエルフは気怠そうに『あいよー』とだけ返事をした。

「宿をお探しですか?それとも別の理由がお有りでこのエルフの村に?」

「あっ…えっと…このエルフの引き取りと観光程度に…」

「へぇ…では、そのエルフを引き取ったら私は門番に戻りますが、よろしいでしょうか?」

「はい…お願いします…」

ユルドミールは私が血で縛り血の目隠しをしていたエーフルを引き取ると直ぐ様に驚愕したような目で血の目隠しと血のロープをちぎり捨てた。すぐにエーフルを抱き寄せ、私達に殺意を向けた。

「…王女様になんてことを。その上平然とエルフの村に侵入を…いや、平然と侵入を許してしまったのは私の落ち度だな。今ここでその落ち度を払う」

ユルドミールはそう言うと弓を取り出し私達に矢を飛ばした。

「んなっ…おい!何故攻撃をする!」

「何故?貴方が王女様を誘拐した罪人な上このエルフの村にいるからでは?」

私はエーフユルドミールがゆっくりと説明をしている間にヴァンの目隠しと縛りを取る。

「王女様?エーフルを誘拐してないし連れてきただろうが!」

「……問答無用だ!」

こいつ意外と話ができねぇ!私は必死に矢を避け続ける。エルフの石造りの建物に矢が刺さった。私はヴァンを蹴り飛ばし起こすとヴァンは脇腹を抑えながら宙に浮いた。

「…そう言えばリューテは?」

私は不意に呟いてしまった。戦闘を忘れ周囲を見回すと高速で宙を駆け巡るリューテの姿があった。

「びゅーん!びゅーん!あははは!」

「リューテ!今は遊んでる場合じゃないよ!降りてきて!」

ヴァンの代わりに私がそう言うとリューテは素直に降りてきて頭を突き出した。

「…は?」

「あれ?ナデナデしてくれないの…?」

あんのヴァン親バカ!!もしかしていつも遊んでる終わりにリューテ撫でてるのか…?愛強すぎだろ!

「リューテ、今はそんな時じゃなくて─」

そう話しているとユルドミールは隙をつこうと矢を発射する。リューテを抱えながら避け、リューテを血に乗せ宙に飛ばした。私はヴァンに事の顛末を話し戦闘態勢を取るように言い放つ。

「了解!……でも私達が冤罪なのを示す為には戦っては行けないんじゃない?」

「…でも相手は話しが通じないし…」

「まぁ…しょうがないかぁ…正当防衛って事で!」

私はヴァンに向かって飛び、ヴァンの腕に乗る。ヴァンはユルドミールの方に向けて私を思いっきしそのヴァンパイアの怪力で飛ばした。その結果ユルドミールの頭と私の頭がごちんと鈍い音を上げてぶつかった。ゾンビの脆い体はすぐに千切れる。私の首が千切れて地に転がってしまった。首からは血を噴水のように激しく吐き出し続けている。

「痛っ…てぇぇぇ!!クソ…こんな事になるなんて…なにが『合体技』だクソ!」

「…言い出したのはゾーンだけどね」

私は頭を拾い上げ首に接着する。すぐに再び行動する。

「だが良いこともある。血が戦場に撒かれるからな」

私は血を一箇所に、ユルドミールの足元に集め螺旋状に血を巻き上げユルドミールを巻きこむ。

「掛かったな…捕縛してやる!」

しかし血液は動かなかった。螺旋状の血液はそのまま結晶として凝固し固まってしまった。私はなにがなんだか分からなくただ気付いたことがあった。私今貧血だ。

「うっ…うう…」

眼の前が眩み暗くなり私は地に伏した。

意識を失う寸前、私は見た。炎に守られたユルドミールを。

目覚めると私は冷たい石に暗い空間で寝っ転がっていた。身体中が痛い。丁寧に私の口には輸血パックの様な物が突っ込まれていた。

「ここは…?」

「ここはエルフの村の地下。牢獄だ」

「ゾーンごめん…私もやられちゃった」

「…仕方ないよ。まさかエルフがこれ程までに強いとは思わなかったもん」

「貴方達の処遇は女王様によって定められる…が、安心しろ。あの女王様だ。どうせ釈放だろう」

「良かったぁ…」

「いや良くねぇ。リューテは?」

「あっ…」


お日様きらきら!今日はいい日だな〜。

なんか、ゾーンとヴァンはどこかに行ったけど、あたし一人でも大丈夫です!

あたしはもう言葉を憶えたから!誰が来ても平気です!

そう言えば、あたしなんで人になったんだっけ?

う〜ん…まぁいいや!

お日様きらきら!可愛い〜。

ここたくさん美味しい匂いしてお腹空いた〜。

あそこにあるのは…お肉だ!

わ〜い!

「おじちゃん!お肉欲しいです!」

「あいよ。160Tね」

「160T…?Tってなぁに?」

「Tなんて常識だろう?一般的に世間で使われる通貨だよ。」

「嬢ちゃん、持ってないのかい?」

「うん!持ってない!」

「そいつぁ困ったね…まぁ客じゃないんだ。どっかへ行きな!」

「どっか?どっかって何処?」

「ここではない何処かに行きなって事だよ!立ち去るんだな。」

「は〜い。」

お日様綺麗!!!

暇だな〜ヴァン居ないかな?

ゾーンは怖い…

……暇〜!暇暇暇暇暇暇!!!

飽きた。町中探索。

なんか緑色の建物と美味しい匂いしか無い。

楽しそうなものが無い。う〜〜…なにかしたい…お腹いっぱいになるまで何かを食べたい…遊び過ぎて動けなくなるまで遊びたい…。

「はぁ…楽しいこと無いかな…」

「き、君。たたた、楽しいことがしたいのカナ?」

「うん!おじさん誰?」

「そんな事はどどどうでもいいでしょ?」

「ほら、おじさんにつつ、着いてきたらおおお菓子、お菓子上げるよ」

「本当!?やった!行く行く!」

「でゅふっどんなお菓子がいいかな」

おじさんはあたしの肩に手を回した。

「おい、おっさん。泳がしてみたらまんまとなぁ…話は署で聞くぜ」

「なっ…ぼぼぼ僕は何もやってない!」

「はい。性犯罪者確保っと…お嬢ちゃん何もされてない?」

「うん!お兄さんもこのおじさんの家行こ!お菓子貰えるんだよ!お菓子!」

「へぇ…お菓子ねぇ…」

「ひっひぃ…!」

「おら。さっさと署に行くぞ。」

「じゃあね!おじさん!お兄さん!」

「おぉ。またな〜」

…あ!

また暇になっちゃった!

お菓子!お菓子が!

貰えると思ったのに…

そろそろヴァンとゾーン捜さないと…

…お菓子…欲しかったな。

「ねえねえ。お兄さん。」

「あ?なんだい?」

「ゾーンって人と、ヴァンって人何処に居るか知らない?」

「あ〜?ユルドミールに連絡してみっか〜」

お兄さんは耳に手を当てて何か言い始めた。

「お〜お疲れ。早速本題なんだが、ゾーンとヴァンって奴知らん?」

「わかんない!」

「お前じゃねぇよ嬢ちゃん。」

お兄さんは笑いながらあたしの頭をくしゃくしゃ!

角に指が当たってて気持ち悪かった…

「え?マジ?知ってるの?」

「本当!?ゾーンとヴァン何処に居るかわかる!?」

「あ〜。成程ね。」

「ごめんな〜。嬢ちゃんも付いてきて貰うことになったわ」

「はい!そこは楽しい場所ですか?」

「あぁ。楽しいぜ?ものす〜〜ごく。」

「ほんと!?やった!!」

「お兄さん、名前は?」

「オレ?クリワナ」

「へー!そうなんだ!なんかおもしろいね!」

「おいおい…お兄さん傷ついちまうぜ?」

「あっ…ごめん!だからヴァンには言わないで…」

「なんだ?ヴァンが保護者なのか?」

「ほごしゃ?うん!多分そう!」

「へぇ…まぁ言わないでおいてやる。」

あたしとクリワナお兄さんはまぁまぁ歩いた。

多分おまんじゅうが…う〜〜ん…わかんないけどいっぱい歩いた!

「楽しい所ってここ!?」

「あ〜そうだぜ。きっと楽しい気分になれるはずだ」

「へ〜楽しみ!!」

あたしはお兄さんに指示されて建物の中に入ってった。すぐそこにあったのはなんか部屋?なんかの部屋があった。お兄さんは更にあたしを案内した!どんな楽しい所に繋がってるんだろ〜!ワクワクとドキドキが止まらないな!

連れて行かれた先は硬くて黒い棒がいっぱいあってそこにヴァンとゾーンが居た!

「あっ…リューテ!」

「ヴァン!ゾーン!今までどこ行ってたの?心配してたよ〜?」

「いやそれこっちのセリフ。見つかって一安心だ…」

「ほら、お前も中に入れ。」

「は〜い!」

「二人とも何してるの〜?」


あぁ…頭痛が痛い…。

『何をしているの』は、こっちの台詞だ。今まで何をしていたんだ…心配かけさせやがって…。

「取り敢えず怪我とかして無くて良かった…」

ヴァンは相変わらずの親バカっぷりを発揮している。

「クリワナお兄ちゃんとかお菓子をくれるおじちゃんにあったよ!」

「へぇ!そうなんだ!これからはお菓子くれるとか言っても知らないおじちゃんについて行っちゃ駄目だよ!」

「はーい!」

流石の教育。流石の従順。どちらもとても素直だな。

「へっ」

思わず鼻で笑う。

「…何よゾーン…」

「いや、平和だなって。状況は裁判に掛けられる一歩前で全く平穏じゃないけど」

そんな他愛もない会話をしているとユルドミールともう一人のクリワナと言う門番が来た。恐らく私たちを裁判所に連れて行くのだろう。私は鋭くユルドミールを睨みつける。

「貴方たちにはこれから裁判をしてもらいます。有罪を取るほうが難しいですが、無罪を狙ってみなさい。」

私たちに手錠を再びつけた。が、リューテだけはクリワナに優しく手を引っ張られていた。

暫く歩いた後に私たちは開けた場所に立たされて、見上げると大分高いところにエーフルが居た。

どうやら寝ているらしく、人は見ていない。良かった…。

だけど裁判官はエーフルの筈。だから必ずしも私たちやユルドミールを見るだろう。

どうしたものか…戦うのは嫌だ。血を沢山消費するのと痛いのと単純にめんどくさいからだ。人を見させることは避けたい、となると血を使った目隠しか?それはユルドミールに即座に破壊されるだろう。

…どうしよう…このままじゃ戦いをせざるを得ない。


「これより、王女誘拐事件の裁判を始めます」

ユルドミールはどんなに深く眠っている獣だろうと起きる程の声で言い切った。

「被告人はこの国に今まで行方不明だった王女を連れてきました。よってこれは誘拐事件として見ることができる確実な証拠になると思います!」

なるわけないだろ。何いってんだこいつ。

私たちの弁護士の様な存在のクリワナが口を開いた

「意義あり。証拠として不十分、不確か、証拠の要件に当てはまっていないと考えられます。よって罪には値しない。」

超面倒くさそうな声で彼は一応私たちの弁護をしてくれた。至極真っ当な事しか並べてないが、まぁ感謝はしておいた方がいいだろう。

「王女、判決を」

ユルドミールはエーフルにそう呼びかけたが、エーフルは首をカクンカクンさせたまま何も言おうとしない。最初のユルドミールの声量で起きないとは、どんだけ深い眠りについてるのか…もしくは耳が聞こえなくなったのか?ユルドミールの声量で鼓膜破れた?

「王女…王女!」

もはやユルドミールが席を立ってエーフルの肩を揺らしている。なんだこのカオスな裁判。無茶苦茶にも程がある。

「ん〜…なに…?ユルドミール…」

「裁判の最中です。判決を」

「ん〜…無罪?」

でしょうね。なんか、うん。でしょうね。

私たちは何を見せられているんだ…?

エーフルは目を擦って頑張って二度寝の魔力から引き剥がれようともがいている。起きないで欲しい。

「ふぁ〜…で…なんで裁判にっ゙」

エーフルが目を開けてユルドミールを見た瞬間、エーフルは言葉が濁り目の色を変えてユルドミールを見つめている。

「…王女様?どうかなされましたか?」

エーフルは座っていた席から立ち宙に浮きながら裁判所の中央に至ったかと思った次の瞬間、リューテは転けた。

リューテが元々居た場所に大きな切り傷がつけられており、リューテはあれをくらったらひとたまりもない無かっただろう。

リューテは転んだのではない。攻撃を察知して慌てて避けたのだ。あれは恐らく、確実にリューテを屠る一撃だ。すぐに戦闘モードに移行しやがった!

「あいつ…!」

ヴァンは3発放った血銃をエーフルに集中させて、自分は血銃に隠れて別方向からエーフルに突っ込んだ。

「おい!王女様を攻撃する行為は許さんぞ!」

「黙れ!異常事態だと見て分からんのか!お前もお嬢様を鎮める手助けをするんだよ!クリワナとか言う奴も手伝え!」

「おう!おいユル、頑固に否定せずあいつらの手助けするぞ」

「…私は王女様を攻撃する気にはならない。」

「そうかい…頑固なヤツ!」

「おい!旅人さんよ!オレも加勢するぜ!」

ありがとう、とヴァンはクリワナに言うと、エーフルに向かって急上昇した。

「これで鎮まって!」

ヴァンはエーフルに何かしらの技術を使ったように見えた。そこから甘ったるい匂いが垂れて鼻を突き刺す。脳が何かに侵食されそうで嫌な感覚だ。

「ヴァン…辞めてくれ…こっちまでくらくらする…」

「えっあー…まだまだ未熟だったかー…」

途端に甘い匂いが止み、頭の中に掛かった霧も晴れる。どうやらエーフルも少し動きを止めていたが、完全には動きを止めていなかったらしく、ヴァンを殴り吹き飛ばしていた。

「ヴァン!大丈夫か?」

指を噛み微小な血でヴァンが壁に叩きつけられる前にキャッチして引き寄せる。

何故かヴァンの体は切り傷だらけになり出血が酷い。エーフルは何も刃物を持っていない様に見える。

…どういうこった?これは…そう言えばユルドミールの奴も不思議な力で炎を纏っていた。

もしや、それと同じ力なのでは?

「おい!ユルドミール!お前、炎を操っていたな!なんという技術だ?私たちにもできるのか?」

「あっ…あぁ…それは“魔法”という技術だ…お前たちにも潜在能力がある…筈」

「そうか!ありがとう!」

魔法か…魔法…そんなファンタジーみたいな物があるのか…この世界には…。

じゃああの斬撃も魔法か?魔法…なんでもありだな…。

エーフルのあの魔法…触れた物を切り刻む魔法?多分そうだ…どうやって攻略しようか…。

「緑の!危ねえぞ!」

クリワナの言葉に気がついた。エーフルがすぐそこまでに突っ込んで来ていた。

「くっ…私の腕を掴むんじゃねぇ!」

エーフルが私の腕を掴む。速く振り払わないと切り刻まれるだろう。

「離せ!こいつッ!」

私はエーフルの脇腹に蹴りを決めるが、既に魔法を行使していたらしく右足が切断されてしまった。

「ぐっ…痛ってぇ…」

エーブルが足を切断する直前、エフェクトの様な物が見えた。緑色でギザギザとした鋭い刃。丸鋸刃だ。

体中から丸鋸刃の様な魔法を出す魔法。どうしたら倒せるんだ?物理攻撃は切断されて終わり、血も物理だから効かない。

終わりじゃないか…?。

「魔法だ!」

「は?」

私は足を拾いくっつけながらクリワナに聞き返す。

「魔法には魔法が有効だ!」

「いきなり使えと!?」

「俺は風属性に対して強くでれない!雷属性だからだ!今この状況を打破できるのはお前だけだ!」

ッ…危ない…。エーフルから攻撃を避けながら魔法の使い方を覚えろと…。なんて無茶をさせようとしてんだ…。

魔法…?魔法なんてどうやって使えば良いんだ…?。蛇口を捻り出すイメージ?それとも火を付けるみたいに体に秘められた何かを燃焼するのか…?

「わっかんねぇよ!使い方教えやがれ!」

「えっ…内なるエネルギーをバッ!ってする感じだ!バッ!って!」

「『バッ!』じゃわかんねぇよ!」

「……そうだ!放出する感じだ!内なるエネルギーを解放する感じ!」

内なるエネルギーを放出…こんな感じか?

「くらえ!」

私の掌から発射された火の玉は物凄く極小でお世辞にも凄いとは言えなかった。

「…いいね!火か!」

あの野郎おちょくってんのか?。

「そのまま王女様に飛ばし続けてくれ!どれだけ極小でも風に有利なんだよ火は!」

いくら有利だとしても、大きさが1.5倍くらい違うんだが?流石に無茶あるだろ。これでは勝てないだろうて。

「うっ…」

途端、エーフルがうめき声を上げた。

エフェクトでよく見えないが、私の魔法はエーフルの肌をじわじわと焼いているらしく、徐々にダメージを与えていた。

「効いてるのか…?こんなに小さいのに…」

火の玉は直径5cmもあるか怪しい程に小さかった。

私はくらぁっと意識を失いそうになる。なんだ…?血液は充分過ぎるほどに足りてるぞ…?。

「危ない!動くんだ!」

左腕を掴まれた。右腕に続いて左腕まで失ったら、やばい。

…中々切り刻まれない。エーフルの魔法に魔法で対抗してるからか?有利な魔法がこんなにも強いとは、思いもしなかった。

そんな事より…やばい…ふらふらする。今にも気を失を失いそうで、気を保つのもそろそろ限界が近い。感覚でわかる。

「うぅ…」

「こっからは任せろ…戦闘準備までに随分と時間がかかっちまったが…安心して眠ってくれ。」


「ん…ここは?」

私は、暗くて不安定で狭い道で目覚めた。見覚えがある光景…な気がする。だけど思い出すことはできない。

「なんだろう…ここ…なんだか…とても…」

とても…怖い。

本能が悲鳴を上げている。頭のてっぺんから足の爪先までが先を見つめることを否定し後ろに行こうともがいている。

だが、後ろを見たくもなんともならない。先も見たくない。私が今ずっと眺めてるのは、地面。

後ろをちらっと観てみたい。でも見てしまったら最後、元の私に戻れなくなってしまう気がする。

本能というか、頭の中にある小さな宇宙が、そう叫んでいる。

「おや…またここに来たの?私の可愛い可愛いマアス…」

「え…?」

こいつ…私の本名を喋りやがった…。

そもそもこいつ誰?。

私には、こんな奴に心当たりは無い。誰だ?。

「あなたは一体…なんなの?」

「そんな事知る必要はない…マアスにできる事はその道を一歩だけ歩むこと…」

「…嫌だ」

「…どうして?」

「…本能が否定してる…行きたくない。」

「ダーメ。行くしか無いんだよ。ここに来たって事は、そう言うこと」

「どういう事…?あなたはなんなの!?」

「あなたには理解することはできない…けど貴方の役に立ちたい…そんな所の人よ」

「…本当に進んでいいの…?」

「うん、進んで良いよ」

私は、勇気を心から全て掻き集めて振り絞り、一歩を踏み出す。

「それで良いんだよ。」



「う〜ん…」

気絶してた…?戦闘中に…?。

目をなんとか開けて辺りを確認する。

そこには戦っているクリワナの姿と、気絶しているゾーンの姿だった。

「クリワナさん!どんな状況?」

「起きたのか!お前も魔法使ってみてくれ!内なるエネルギーを解放する感覚だ!」

「え??あっ分かった!」

言われた通り内なるエネルギーを解放するイメージでやってみた。すると、指先からパリッと雷が出てきた。

「痛ッ!」

「なんだった?」

「雷だった!」

「ぐっ…雷かぁ…」

「雷なぁ…うん。雷は王女様に不利なんだよな…」

「そうなの!?まずいね…」

「おお!ユル!お前も戦闘に参加しろ!」

「……分かった。私も戦おう」

「助かる!」

「ちょっと待っててくれ…戦闘準備をしてくる」

「おう!」

この二人、本当に仲が良い。見ててほのぼのする。って、そんな場合じゃないんだった…。

今は戦いに集中しなければ、あの風の斬撃を喰らうと一発でドボンだろう。

「吸血鬼か?多分そうだろ?ユルが来るまで耐えるぞ!」

「分かった!」



「ぐぅゔゔ…ヴヴ!」

本能のままに唸り声を出しながら飛び掛かって来るエーフル、速度は先程より落ちているので疲弊してきている事が分かった。

「これでもくらって大人しくして!」

最近覚えた技術を使う。

腕の一部分だけコウモリ化させてそのまま殴る!

しかし、エーフルは後退し避け、再び私にまっすぐ突っ込んでくる。

私とクリワナの対角線上にエーフルは居る。クリワナは突っ込んでくるのを見越したのか、雷を纏った矢を飛ばした。

エーフルはその矢を軽々と回避した為、その矢は私に向かって進む。

クリワナの矢は勢いが途轍もなくそのままキャッチする事はできなさそう、そこで私は閃く。

「んぬぬぬぬ…ふん!」

矢が進む方向と同じ様に回転を利用して掴む(キャッチ)、そのまま離す(リリース)。矢は更に勢いが増し、エーフルに飛んでいく。

何故かは分からないが、エーフルは一度空中から降り地上に着地した合間に隙が生じ、矢はエーフルの矢右腕、それも関節に刺さった。

「ウギッ…ギャアアアアアアアア!!」

エーフルの痛々しい叫び声を聞くと少し申し訳なく思う。だが、やらないとやられるのだ。私だって死にたくない。だから殺るしかない。

「ごめん…ちょっと気絶してて」

私はエーフルに近づき、頭に触れ雷を発生させようとした直前だった。

私の心臓をバチッと針で刺された様な痛みに襲われる。

「ヴッぐ…く…」

声も出ない。体が動かない。苦しい、息ができていないのか?手の感触が、体を操れる様な感覚が無い。金縛りにあっているようだ。頭が真白になる。

駄目だ…もう…意識が…。


はっ!

また戦闘中に気絶してしまっていた。

足は…動く、手は…少し反応が遅れるな、どうしたものか…。って、そんな事考えてる場合じゃない!クリワナは?ユルはもう来たの?。

私は足を上げ、顔を上げた。そこにはエーフルと近距離戦を繰り広げるクリワナの姿があった。

「オオオオオオオオ!!」

殴りかかってはいるが、エーフルには掠りもせず劣勢だ。よく見るとエーフルの右腕に刺さっていた筈の矢が無かった。

エーフルが抜いたのか?エーフルの右腕はぷら〜んとなっていて、もう使い物にはならなさそうだった。

「クリワナ!私も加勢する!」

「おお、起きたか吸血鬼!速く来てくれ!」

私はクリワナの様にエーフルに殴りかかるが、いとも容易く避けられ、逆にあの刃で反撃を食らった。

「ぐっ…」

頬から垂れた血を舐める。クリワナはまさか反撃のこの斬撃も回避しながら攻撃しているのか?つくづくエルフと言う種族は強いな。

「吸血鬼!雷の手本を見せてやる!」

「え?」

唐突な言動にびっくりしつつ、しっかり聞こうと耳を立てる。

「雷ってのは、使うと痺れちまう、だがな!体内(ナカ)に貯めて一気に解き放てばどうなると思う?」

「えっ?…放電みたいな?」

「違う!」

「雷を貯めて放つ…正に、正真正銘!何であろうが雷に化ける!」

そう言い終わった後のクリワナは体からバチバチバチ!と雷が放出され眩い光が放たれた。そして瞬き一つの間に、クリワナはエーフルに一撃入れていた。

「んなっ…すっ…すごい!」

「だろ?お前もやってみろ!オレはもう魔力切れだ」

「溜めて…溜めて…放つ…」

バチバチと私の体から閃光が放たれたが、すぐにシュー…と煙があがって動けなくなった。

「…失敗した!」

「仕方ない、始めてだしな…暫く痺れるだろ?オレもまだ痺れは取れちゃ居ないが、ちょっとは動けるようになったぜ!」

「ごめん…足手まといだよね」

「謝るなよ。ありがとうって言ってくれた方が気分はいいぜ!」

「…そうだね、ありがとう」

目の前でクリワナとエーフルの戦闘が始まっている。二人は互角に見えるが、クリワナは確実にダメージを負っている。確実に切り傷が増えていっている。

エーフルの動きが速くなる。エーフルも遂に本気だ…!今ここでクリワナを倒すつもりだ。

突風が発生しクリワナが吹き飛ばされる。まずい、突風に乗ってエーフルが加速してクリワナに迫っている。もう駄目だ。見えない。クリワナが殺られる。それしか分からない。

クリワナに突っ込むその直前、赤い壁の様なものが貼られた。間違いない、あんな事ができる人物私以外で一人しか居ない。

「…私はどうして失神したんだ?当分魔法に挑戦するのはいいや」



どういう状況だ?これは。

余裕が無さそうだったから咄嗟に血を貼って守ったが。ヴァンはなんで寝ているんだ?

「まぁ…取り敢えずエーフルの目を塞げばこの騒ぎは解決する。」

血の目隠しだ。それしか解決は難しい。エーフルに勝てるとも限らない。

やはり…エーフルには誰も見させない。それが一番良いだろう。

「おい、エーフル。活発な肉ならこっちだ。腐ってるけどな。」

エーフルは唸り声を上げ本能のままに私に突っ込んでくる。単調な動きは予測しやすい。ありがたい。

「ガッ!?グゥルルルル…」

様子から見るに…『なっ!?なんだこれ…』的な所かな?まぁ、警戒されている事だけはわかる。

なんせ、エーフルが来る位置に合わせて血をたんまりと設置したからな。

エーフルは今血だらけだ。

終わりだ。私の血でコーティングされたエーフルの動きを制限する事なんて簡単だ。

ほぉら、今に見ていろ。すぐに…動きを…制限…できない。

駄目だ。エーフルの動きを制限しようとすると風の刃で硬化した血が斬られる。

…血に魔法を付与すれば行けるか?でも先程のように気絶するだろう。間違いなく。

「…今は何に苦戦していますか?」

いつの間にか私の横にユルドミールが居る。気が付かなかった。幾らなんでも速すぎる。

「…お前一人でエーフル倒せんじゃね?」

「……何に苦戦していますか?」

質問に答えるまで私と話す気は無いってか?

「エーフルの風魔法が血を斬って拘束できない。」

「…成る程。その様な場合は、こうすればよいのです。」

血に何か変な物が混ざりあっているのを感じる。なんだ?この粒の様な物質は。

「…と、この様に魔力を流せば汎ゆる物質を硬化させる事ができるのです。」

「例えば、魔力でコーティングしている様な感じです。」

「…待て、魔力ってなんだ?」

と、私は聞きながらもエーフルに血の目隠しを被せた。

「魔力とは、汎ゆる生物に存在する秘められたエネルギー…とでも言っておきましょう。」

「秘められたエネルギー…か」

「えぇ。もし自由に操れる様になったのなら…いえ、長々と立ち話するのもアレですね。どうですか?暫く私とクリワナから魔力、そして魔法について教わると言うのは。」

「…そうだな。そうさせてもらう。」

「ふむ…では、まずはお嬢様をどうするか考えますかね。」

「エーフルはお前らが目を離さなければ問題はない。目隠しも外させるな。」

「そうすればお嬢様は暴れないと?」

「あぁ。確約する」

「ふむ…お嬢様の鎮静、そして対策の考案…ご協力、感謝する。」

「ほら、立てクリワナ。肩貸してやるから」

「あ〜…痛たた…オメェ来んのが遅いんだよ…」

「しょうがないだろう。矢が中々片付かなかったんだ…」

と、仲よさげに肩を貸しながらエーフルの手を繋いで奥へと歩いている。エーフルは正気に戻っていた様だ。

「…なぁ、ヴァン、どうして寝ているんだ?」

「体が痺れて…動かない。」

「……そう」

私はヴァンの近くに座って休憩した。1分も経たないうちに静かに成ったのを感知したリューテが物陰から現れた。私たちを見るなり抱きついて来た為、相当怯えていたのが分かった。

ヴァンは痺れで指先しか動かせない体でリューテを撫でた。

それから2、3分したら、ヴァンの痺れは良くなったらしく、私の肩を借りて外に向かって歩き出す。

「スゥー…ハァー…」

私は深く深呼吸をした。

「シャバの空気は美味いなぁ!」

「やめて、ゾーン。まるで私たちが逮捕されたみたいじゃない。」

「さてと…まずは泊まる宿を探さないとな。」

「そうね。文字とか読めればいいけど…」

私やヴァンはまともな教育を受けておらず、リューテはそもそも村に監禁されていて、この中に文字の読み書きをすることができる人は居なかった。

「幸い言葉は伝わる。別の言語じゃなくて良かったな。」

「ほんとよ!別の言語だったら大変よ!」

「ねね、ゾーン、ヴァン、お金って、何?」

「お金?お金は物を買う時とかに通過として使われる価値のある…」

「……どうした?ヴァン、そんな欠陥に気づいたような顔は…」

「私たち、お金持ってきてなくない?」

「…あ」

私はこの旅で使う機会がほとんどないボロボロなリュックサックの中身を確かめる。

「ナイフ、糸、針、ドライフルーツ、水筒…」

金に成りそうな物はドライフルーツ程度だった。

「…一個どんくらいで売れるかな…金持ってくればよかったな…」

ドライフルーツが…17個。一個15Tとして…なんTだ?

宿屋は一部屋何Tだろうか?

「はは〜ん?さてはお金の事で立派に悩んでいるな?」

「だったらなんだよ」

「やっぱり。子供が立派にお金の事で悩むのはまだ速いんだよ。」

「子供じゃねぇ!もう10歳だ!」

「まだ10歳じゃない。お姉さんに任せな!」

16歳は大人じゃないだろ。

「少なくともゾーンよりかは大人だよ。」

「へ〜…じゃあどうやって金を稼ぐんだよ」

「そうね…ナイフ貸して?」

「え?あぁ…はい。…ナイフでどうやって稼ぐってんだ?」

「まぁ、暫く待っててよ。じゃあ、仕事探してくる。」

すぐ見つかるものなのか?

「…食べるか?リューテ」

ドライフルーツをリューテの口の前に持っていく。

「食べる!」

リューテにドライフルーツを渡す。リューテはその小さな手でドライフルーツを持ちもちょもちょと食べている。

「取り敢えず宿屋を探すか?」

「うん、そうしよ!」

私はリューテと手を繋ぎ、目的地である宿を探した。

人に話しかけるのが一番速く終わるのだろうが、面倒くさい。人に話しかけるのが恥ずかしいとか難しいとかではない。面倒くさいのだ。

「…ね、ゾーン。」

「何?」

「人に聞いたら、すぐ教えて貰えるよ?」

「…じゃあ、リューテが聞いたら?」

「わかった!」

リューテはそこで野菜や果実を売っているエルフに話を聞きに言った。

二人が暫く話していて、ペコリとリューテがお辞儀をして私のもとに帰って来る。

「あっち行って右行ったらあるって!」

「そうなのか…ありがとな。聞いてきてくれて」

私もう要らないんじゃないか?

私だけ何も仕事をしていない…私もう要らないんじゃないか?

「ここだよ!ゾーン!」

「おぉ、案内ありがとう。」

私はリューテの頭を撫でる。

「いらっしゃい。一部屋300Tだよ」

「300Tか…また後で来ると思う」

「は〜い。またね」

…仮に、仮にヴァンが仕事を見つけて今やってるとして。

いつまで待てば良いんだ…?

「…夕方か…?」

今は丁度昼間だろう。私の体内時計がそう言ってる。

あと何時間だ…?

多分3時間だ。

きっと、そうであってくれ。やることがない…辛い!

「ゾーン、何して遊ぶ?」

「え?遊びか…血でもせびりに…」

そう言えば、リューテが居るからアンデッドの食糧問題はもう解決しているのか?

「ゾーン…怖い」

「え?」

やばっ…顔に出ていたか?

「…何が怖いんだ?」

「心が叫んだから…怖い。」

心が叫んだ…?どういうことだ?心が絶叫した?そういう事か?

「…怖い想いをさせて、ごめん。許してくれるか?」

「…うん!ヴァンが言ってた!『ごめんなさいされたら素直に許してあげるんだよ』って!」

良い教育をしてるよ。本当に良い教育だ。

「ありがとう…。手、繋がない?」

「うん!繋ぐ!」

「それでさ、何して遊ぶの?」

「う〜ん…何して遊ぶか…」

「…森に入って木のみでも集める?」

「うん!集める!」

私たちは正門をから出て森に潜る。正門を出る前にユルドミールに近くにはなんの木のみがあるか聞いた。

どうやらこの近くには「フレベリア」と言う橙色で酸味が強くビタミン満点な植物があるらしい。私たちはそれを探しに、森へ潜った。

「わーいわーい!」

森に入るとすぐにリューテがはしゃぎだした。

確かに、ここら辺の森には余り見たことが無い生物がいる。なんでだ?

リューテが何処か行って遭難しないように、私はフレベリアを探しつつリューテを見守る。

橙色の木のみなんて自然では目立ちまくって。すぐ見つかるだろう。

橙色をしていることで毒があると表し種を繁殖させる生存戦略なのかもしれないが、偉大な人間様の前には無力だ。その自慢の毒も美味しく食べられてしまうのだからな。

「あ、ゾーン、あったよ!フレベリア!」

「おっ…どこ?」

私はリューテの指差した方向を見る。確かにそこには橙色の木のみがあった。

「木のみ…と言うより…」

果実に見える。まるでオレンジみたいだが…これ本当に木のみか?

「リューテ、一つだけ取ってくれない?」

「わかった!」

リューテは意気揚々と元気に飛び出し、橙色の木のみを一つもぎ取って私に渡した。

「ありがと。」

私は早速フレベリアを割ってみる。

「…マジで木のみなんだな」

フレベリアの中には楕円形で白くカチカチとした種…木のみが入っていた。

でもこれってやっぱり果実じゃね?

種もある。果肉もある。

やっぱりこれ果物だろ。

「食えんのか…?」

私は種を一つ口に運ぶ。

ガリっと噛んでみると、ジュワッとした油が飛び出してきた。私は慌てて種を吐き捨ててしまった。

「うわっ!何だこれ…」

もう一つ種を取り、今度は良く見てみる。よく見ると穴が空いており、そこから私が噛んだことで液が漏れ出た…ということらしい。

「なんじゃこりゃ…食えたもんじゃねぇぞ」

…さっきから小さな羨望の眼差しをすぐ近くから感じる。

「リューテも食ってみたいか?」

「うん!」

私はリューテに一つ種を渡した。

リューテはパクっと口に放り投げる。

「慌てて食うなよ。」

リューテも一口噛んだ時に出てくる油にびっくりしたようだが、すぐに笑顔に戻った。

「美味しいね!」

美味しいのか…

「そうか…私にはよく分からん。」

「美味しいのに…」

「味はどんな感じなんだ?」

そう言えばゾンビになってから血肉以外の味を知らない。さっき食べた木のみも食感しかわからなかった。

「えっとね、しょっぱい!」

しょっぱいんだ…

「…それ不味くないの?」

「美味しいよ!」

リューテって意外とゲテモノ好きなのかな…

「まぁ…良かったな。沢山回収してヴァンにも食わせてあげよう」

「うん!そうする!」

私は血を操り実をもぎ取り収穫する。一方、リューテは飛んで自由気ままに実を回収していた。

リュックサックの中にパンッパンに詰まったフレベリア。木のみの数は優に50は超えているだろう。

「さてと…戻るか?」

「うん!」

私はリューテに手を差し出し、リューテはそれを受け取ってくれた。

私たちが手を繋ぎながら歩いていると、何か金属の音が聞こえる。

私はリューテを引っ張り音の方に向かい、チラッと様子を伺う。

「やあぁあ!」

声の主は、聞き馴染みのある、私の相棒とも言える存在。

そう、ヴァンだった。

これがヴァンの言っていた仕事か…。魔物退治が見つけた仕事らしい。

その魔物は頭が鉄のヘルメットみたいで肌は石みたいに乾燥していた。

ヴァンの持っている一般的な鉄剣はその魔物の頭を貫いていた。

「ふぅ…これで最後ね。こんな硬そうな魔物が出てきた時は鉄剣では倒せないと思ったけど、案外柔らかくて助かったわ。」

「ヴァンだ!ヴァン!」

リューテはヴァンを見るやいなや、飛び出してヴァンの下に駆け出していった。

「おぉっと…リューテ?ゾーンはどうしたの?」

「そこにいるよ!」

リューテは私が隠れている草むらを指差した。私も隠れるのは辞めてヴァンの方へゆっくり駆け寄っていく。

「…まぁ、仕事は終わったんだな?お疲れ。」

「…いつものゾーンらしくない…可愛い所もあるじゃないの!」

ヴァンは私を抱き寄せる。

「辞めろ!気色悪い…」

「そんなに照れなくてもいいのよ〜?」

「はぁ!?照れてねぇし!」

「ゾーン照れた!照れた!」

「リューテまで…」

私は呆れで頭を抑え、ため息をつく。

「ヴァンは仕事終わったんだろ?金受け取りに行けよ」

「今行く所です〜。ついてこないの?二人とも。」

「私はついていく〜!」

「リューテが行くなら私も行こうかな。一人は嫌だし」

私たちは左からヴァン、間にリューテ、そして私で手を繋いで報酬を受け取りに向かった。

「ヴァン!美味しいのがあったから食べて食べて!」

「うん、わかった!後で食べて見るわね!」

暫く3人で道を歩き、依頼を受けた場所に戻った。

どうやらギルドと言うらしい。お母さんが言っていた「ゴロツキ」と言う部類だろうか?顔がいかつく体はごつい。

ヴァンは依頼された魔物を討伐した事を示す部位を受付に渡し、小袋に入った金を受け取った。

怯えた様子のリューテの手を強く引き、私たちはそそくさとギルドを去った。

「二人とも、お金の数を数えるのを手伝ってくれない?」

ヴァンは優しい微笑みを私たちに向けてそう尋ねる。

「…うん!数える!」

「…私も手伝うよ。」

私たち3人は地面に通貨を広げて数え始める。

「えと…いーち、にー!さーん…」

「そんなゆっくり数えてたら日が完全に落ちちゃうよ?」

「そっか!じゃあ、どうすればいいの?」

「う〜ん…こう、5つずつ数えるとか?」

「…わかんない!」

「そっか。」

私たちが数えていると、仕事を終えたクリワナ、そしてユルドミールが話しかけてきた。

「お前らお金稼ぎか?まぁ、旅にお金は必要だな」

「…何が言いたいんだよ」

はっきり言おう。私はこいつら、特にユルドミールが嫌いだ。

「そんな邪険にしなくても良いだろう。お前ら、宿には向かったか?」

…宿?

「…その反応は向かってないということだな?私たちに付いてきなさい。宿に案内する」

「お…おい…ちょっと待て!宿ってなんだ…?」

「…聞かせてなかったか?お前らが王女を救ったから王国がお前らの生活を最低限保証することになってるって」

「……まじかよ」

「…その籠に入ってるのは…ヤーノムか。食べるのか?毒性があって食べすぎると腹を壊す。気をつけろよ」

更に追い打ち。私たちのこの復讐の旅は一体どうなるのかと、一名を除いてそう思ったのであった。

宿に案内してもらった私たちは、借りた籠を返し、阿呆みたいに余ったヤーノムを数個リュックサックに入れ、残りは燃料として焼却炉に捨てた。

ヤーノムの種子はそれはもう脂ギッシュだった…そのおかげか、炎は煌々と咲き誇っていた。

部屋に入った私たちは早速ベッドでゴロゴロし始めた。

私とヴァンは疲れを少しでも癒すようにと、布団の中に入り、簡単な遊びを3人でしていた。

…そう言えば、ここの宿は水浴びができるのだろうか。

直近の水浴びは恐らく二、三週間は前だ。

私はベッドから立ち上がり、水浴びができる場所を探した。

電気をつける場所にはわざわざ部屋の名前が書かれており、その中には聞き馴染みのある言葉ばかりがあった。

「…風呂場?なんだこれ?」

その中に、一つだけ見覚えが無い言葉があった。

「どうしたの?ゾーン」

「あぁ…ヴァン、これ何かわかるか?」

「何って…風呂場じゃない。入ったら?」

「わかるのか!?」

「え…えぇ。どうしたの?ゾーン。」

「いや…私は意味がわからないから…どういう物だ?」

「体を綺麗にするところよ」

「……それはバスルームだろ?冗談は辞めてくれ。」

「冗談なんか言ってないわ。そこは体を綺麗にする所よ。」

私は本当にそうなっているのか電気をつけて確かめた。

…風呂場=バスルーム…なのか。

「…勉強になった」

「ね?言ったでしょ?」

「あぁ…言った通りだった。どうやって水貯めるんだ?」

「そこに石があるでしょ?それを…どうにかするんだってさ」

「どうにかするって…」

私は石を擦ってみる。

「…何も無いな。」

と思ったその数秒か先、石から水が溢れ出したのだ。

「おお…出てきた。凄いなこれ、擦ればいつでも水浴びができるのか。」

「とっても便利ね!私こういう道具好きよ!」

「…出てってくれ。今から私が使うから。」

「は〜い。」

ヴァンが出ていった後、私は一息ついた。

今日は、とっても、疲れた。

今までで一番。疲れた。

とっとと体を洗って、寝よう。

服を脱ぎ、水につけ、バスルームへ足を運ぶ。

石を擦り、頭から水を浴びる。

久しぶりにさっぱりして気分がいい。爽やかだ。

お風呂上がりにはキンキンに冷えたミルクを飲むと言うのも良いだろう。フフ。

何事もない。あくびが出る。こんなにも平和なのはいつぶりだろうか。

張られた水に体を漬け、ボーっとする。

…眠いな…最近まともに寝れてなかったからな…

寝るか…うん。寝よう…


「…きて」

「…起きて!」

「んあ…?なんだよ…熟睡できてたのに…」

「余りにも出てくるのが遅いから見に来たらお風呂場で寝てるし沈んでるし息してなかったし!」

「……そうなんだ」

「そうなんだ、じゃないよ!幾らアンデッド(ゾンビ)と言っても苦しいでしょ!心配したんだから…」

「へいへい…今何時?」

立ち上がりながらヴァンに聞いた。

「23時」

私が水浴びを始めたのが21時だから…え?

「2時間も入ってたのか!?」

「そうだよ!」

「…もっと速く起こしに来ても良かったのに」

「全く…このまま沈み続けてたらどうなっていたのか…」

私は体を拭き、頭が乾くまで備え付けの石を擦り、風を発生させて頭を乾かした。

「ふぅ…気持ちよかった」

服を着て、部屋に戻る。

…魔法か。

お母さんから聞かされてはいたけど、本当にあるとは思っていなかった。あるんだ、魔法。習うのが楽しみだな…。


私たちは今日から魔法についての授業を受けることになった…が、私は正直魔法なんてどうでもいい。血を操る技術だけ高めたい。

「魔力についてですが、詳しく知る為には魔力の歴史を知る事も重要です。なので魔力についてワクワクしていたらすみません。今回は歴史の授業です。」

「え〜!私魔法使いたい使いたい!」

「すぐに使えるようになりますから、安心ください、リューテさん」

「そうなの?じゃあ待つ!」


※次の台詞、読みたい人はお読みください。最低限は物語内で説明します

「いい子ですよ、リューテさん。では、まずは魔力の発生からです。2024年、世界各国で起きた「一斉動物進化」と言う事件が原因です。内容はその名の通り動物が一斉に進化し現在の魔物への変化しました。魔物は動物の時代よりも凶暴性が増していて、人間と魔物の戦争が何度も発生しました。2030年では銃と言う兵器がありましたが、魔物により生産工場を潰され供給が減り、今ではマイナーな武器程度にまで成り下がりました。その翌年、2031年では一定の人類も環境に適応する為に進化し魔力を得たり我々弓人エルフの始祖である「亜人」と言う種が現れ始めました。そして時は少し飛び、2041年には魔物が主に使っていた攻撃手段の魔法がリチックス・リードルと言う魔物学の学者により発見されました。2056年は魔法には火、雷、水、風、闇、光、無の7つの属性を人類は発見しました。更には2072年に魔力が粒なのを発見したダタトレ・ミーシャ。しかし、人類の進化にはめぼしいものがありましたが、環境は移り変わっていきます。2092年のロシアは平均気温-50℃と言う異常気象に襲われていました、これが現在のの極寒地帯です。2098年には魔力が偏西風にまで影響を与えアジアは雷鳴に包まれ常に雷が降り注いでしまう雷鳴地帯へと変化しました。2102年にはユーラシア大陸も雷鳴地帯化しています。2123年にはアフリカ大陸が砂漠化し平均気温は80℃を超えます、これが砂漠地帯です。そして2205年、ジャパンと言う国のホッカイドウが突然魔力に満ち自然が無くなり地震や闇属性と言う後々解説する属性により侵食され今や日本はバラバラになってしまっています、これが崩日島が出来上がった理由です。崩日島には酸素が無く冒険はできません。くれぐれも崩日島には近づかないように。さてと、魔法や魔力の歴史に戻ります。2253年、初めて人間で魔法を使った者が現れました。これにより魔法の技術は上がっていきます。次に2262年には魔物と人間の子、魔人が誕生しました。しかし、この魔人と言う種族は未だ人類として認められておらず、魔物として差別されています。それは我々亜人も差別対象なのです。2312年には魔力を更に粒にする技術の魔粉が伝えられ2362年には属性剣と属性鎧、二つの魔力技術が伝えられます。」

…何を言っているんだ、こいつは…。早口だし情報量が多すぎて何もわからん。

「はい!」

「なんでしょうか、ヴァンさん。」

「つまり…なんでしょうか?2024年に魔物が…であってます?」

「ええ、もう一回説明しましょうか?」

「遠慮します!」

ユルドミールの横に居たクリワナが口を開く。

「あ〜…つまりアレだろ。ユルの言ってることが早口で聞き取りづらい上に情報量が多いから理解に苦しむってとこだろ?」

「そう!分かってるじゃん!」

「そうですか?なら…一個一個丁寧に説明を…」

「ユル、お前説明向いてねぇよ。俺に任せろ」

まぁ、結局はクリワナも何を言っているのか全くわからなかった。駄目だこいつら。

「これはもう…魔法の歴史を教えるよりも技術などを直接教える方が向いているようですね」

「同感だ。じゃあ一応適正の検査するか」

「適正ってなんだよ。」

「適正ってのは個人が持つ魔法の適正…まぁ属性だな」

「へぇ…検査すんならさっさとしろ。」

「はいよ〜」

「…ゾーンはやはり火だな。」

「クリワナ、ヴァンは雷だ。」

「それじゃあ、最後はリューテだな…。」

「…はい、完了。ゾーンは火、ヴァンは雷、リューテは風属性だ。」

火…か。何ができるんだろうか。着火は勿論、指からビーム!なんてこともできそうだ。

わはは。想像が広がってこりゃ楽しいぞ!

「さてと…属性の検査が終わったなら次は…」

「ちょっと待って」

ヴァンが手を上げた。何か至らぬとこでもあったのだろうか?

「属性って何?」

二人は一コマ開けて同時に疑問をあらわにした。

「「え?」」

「いや、何も説明されてないしさも当然のように進むから…」

「…いや、説明したぞ?聞いてなかったのか?」

「…貴方たちの解説は酷いわ!何もかもが滅茶苦茶!簡単に言って!」

「そんなにかぁ?まぁいいや…まず──」

そして30分後、やはりクリワナの説明は長く分かりづらかったが、分かったことを纏めてみる。

属性はこの世に七つ存在し、その中で誰でも使えるのが三つあるということ。

魔法適性は火、水、雷、風の四種類存在すること。

火は風に強く、風は雷に強く、雷は水に強く、火は風に強い。言わばじゃんけんであること。

魔法適性は極めるほどボーナスが増加し値した基礎的身体能力の向上が見込められること。

その他の属性に闇、光、無が存在すること。

闇は堕落、光は浄化の力を持つ一方、無は何処にも属さない有利不利無い属性だということ。

「な…なるほどね…それで、今からなにするの?」

「そうですねぇ…何させますか?」

「そうだな…取り敢えず魔法を沢山使えるようになる練習とかだな」

「なるほど、それでは御三方、魔法を沢山撃ってください」

ほぼ言われたことそのまんま私たちに言っただけじゃねぇか。

とは言え、私も魔法を沢山使えるようにはなりたい。

だから、魔法を出そうとする。

ん〜…こんな感じかな。

私が内部のエネルギー的な物を指先から魔力を絞り出した。

しかし、何も起こらなかった。

「あれ、な…んで…」


目が覚めると、そこは宿屋のベッドの上だった。

「──あ、ゾーン起きた。どう?調子は」

ヴァンの声がする。横…いや、枕元から。

「…頭がびっくり仰天…」

「クラクラするってことね…」

「…寝てる人様の枕元に座るな…不愉快。」

「誰が運んで上げたと思ってるのよ?感謝しなさい」

まぁ、確かにそれはそう。助けてくれたのはこの口ぶりからしてヴァンなのだろう。

「…ごめんなさい、ありが──」

その時、戸が開いた。

クリワナと…ユルドミールだ。

「お、ゾーン起きたか、いやぁ心配したぜ?なんせ魔力切れで倒れてそのまま地面に強く頭打ったんだからな。頭は大丈夫か?」

「…それ、貶してないよな?大丈夫だが」

「私たちが運んであげたんだから、感謝の言葉の一つくらいくれてもいいんですよ?」

「…ヴァンが運んだんじゃ」

「いやいや俺らが運んだよ。ヴァンとリューテにはそのまま魔力増やす鍛錬させ続けてたし。」

…ヴァン?

私は圧をかける様にヴァンの方を見る。

…なんか「テヘペロ」みたいな顔してる。

「いや…なんで嘘ついたん?」

「だって!ゾーンに「ありがと」って言わせてみたかったんだもん!」

「それだけ?」

「だって普段言ってくれないじゃん」

…まぁな。

「世話になってないからな?そりゃ引き出せねぇよ」

「うえぇ…言ってみてよぉ…」

「ヤダ。」

「なんでぇ…?」

「嫌だから。」

「理由になってないよぉ…」

「あ〜、お見舞い用の果物、ここに置いとくぞ。」

そこには沢山のエネルギッシュでとっても美味しそうな果物の山。

「…これ、貰ってもいいのか?」

なんというか、涎が止まらない。

「勿論!無問題よ!」

「ありがとう!クリワナ。」

早速果物を頂くことにした。

なんか赤くて小さい果実を手に取り口に放り込む。

プチッと潰れて、甘い味が舌に広がる。

美味しい。

「…美味しい。」

「口に合ったんなら良かった。」

「それじゃ、明日もやるからな。ゾーンは気絶覚悟で来いよ。」

明日もやるのか…

まぁ、そりゃそうか…もう夜だしな。今日はもう練習は…

……やってみるか。

魔力を指先に集めて放出…コレで魔法が…。

やはり…出ない。

あ〜…もう意識保つの…無理。

「ちょ…ゾーン!?な…し…──」



「さて、本日は魔法についてもっと詳しくなりましょう。」

3時間に渡る長い説明。

要約すると、魔法を使う為には「脳内回路」で魔力の回路を作るか、魔法の仕組みそのものを理解しないといけないらしい。

「…先に言えよ!」

私は怒鳴った。そりゃあもう大声で。

「すみません。言い忘れてました。」

「言・い・わ・す・れ・て・たァ〜!?」

ヴァンは「まぁまぁ…」的な感じで私の服の袖を掴んでいたが、私の怒りは収まらない。

「テメェらいい加減にしろよ!説明下手だし、挙句の果てに説明し忘れてたとか!」

「それに関してはマジ申し訳ねぇわ。許してくれ。」

「…チッ」

私はドスンと椅子に足を組んで座った。

「……じゃあ、基本的な説明もしたし今日も魔法の練習を頑張れ!」

はい、今日も始まったよ憂鬱な時間。

「ゾーンは一気に放つんじゃなくて少しずつ放つ練習を覚えような!」

…一気に放った方が火力出るだろ。アホか?

「素直に少しずつ放つ練習をしろよ!」

…ここはクリワナに従ってやるか。

少しずつか…少しずつ…こう、魔力を何グループかの塊に分けて少しずつ…そんな芸当ができるのか?私に?

…やるしか無いよな。

…でも…魔力ってなんだ?んなもん感覚もないし…何もわからないんだが。

「感覚が分からなくて困っている、と言う顔をしていますね。ゾーン。」

…ユルドミール…なんで分かるんだよ、気持ち悪いな…。

「いいですか、ゾーンは今まで魔力をボールだと思っていたんです。今度は砂だと思ってください。」

「…はぁ…?」

何言ってんだこいつ。やっぱこいつ無駄に頭いいぶってて嫌いだわ。

今までがボールを投げる…って事か?それを砂を投げる…に変えろと。

「…こうでいいのか?」

なんとなく、なんとなくでやってみた。

「ええ。まだまだですが、まぁ昨日に比べたらマジですね。」

…蛇足。うっっっっっっっっざ!!

でも、確かに今日は気絶していない。…改善したのが尚更ウザさに拍車が掛かっている。

クソ…クソ!!!

「はぁ…」

それからは魔力を投げては休んで投げては休む。それの繰り返しだった。

練習だし、こんなもんだろ。

でも、もうちょっと面白くできなかったのか…?

六時間後、練習が終わった。

「おつかれ〜!今日は気絶しなかったじゃん!」

「まぁな…今日は特段に疲れた…速く寝よう」

「頑張ったいい子には私がよしよしのご褒美をあげる!」

「いいよ…要らない」

「えぇ〜!遠慮しないで!」

「要らないってば…ちょっ…ヴァン辞めろ!私の頭抑え付けるな!」

「素直に受け取りなさい!リューテからのご褒美!」

「だぁぁ!やめろ!」

「よしよ〜し。いい子いい子!」

はぁ…全くこいつらは…。

「ゾーン笑った!笑ったよ!」

「ええー珍しい!…あんたってポジティブな感情合ったんだ」

「ねぇゾーン!今日お風呂はいろーよ!一緒に!」

「嫌だ断る。」

「私もゾーンとお風呂入りたい!」

「お前まで乗ってくんな!」

私はその夜、一人でお風呂?と言う物に浸かっていた。

「お邪魔しまー…あれ、開けれないよ?ねぇヴァン、これどうなってるの?」

「え?…諦めるしかないかー…はぁ〜…」

「えー!私ゾーンとお風呂入りたかった!」

「仕方ないよ…気難しい子なの、あの子…」

…うるせぇ。お前らの距離感が近すぎんだよバーカ。

「はぁ…いい湯だ…」

「わぁ!床から棘生えてきたよ!チクチクしてる!」

「いたたたた!ちょっとゾーン!なんで私だけそのまま足裏刺してくるのよ!」

本当にいい湯だなぁ…。

温かい水に入れるなんて…こんなに心地の良いものなんだな…。

…外が煩くなければなぁ…。

「ぎゃああああ!更に深く刺さってきた!」

「大丈夫?ヴァン」

「ちょ!ゾーン!痛い痛い!辞めて!」

そろそろ上がるか…。

私は血でプライベートゾーンを隠す。

「…へぇ。私は裸なのにお前らはタオル着て入ろうとしたのか…」

「だって恥ずかしいじゃん!」

「極刑」

「へ?ちょ…痛い!辞め!止めて!ゾーン!」

さて…髪を乾かそう。やっぱ便利だな〜この擦ると風が出る石。どんな仕組みなんだろうか。

「旅に持って生きたいな…」

あ、そろそろ回収するか、血。

「はぁー…はぁー…痛かった…」

「大丈夫?ヴァン」

「ゾーン!覚えておきなさいよ!」

今日はもう疲れた…寝よう。

私はベッドに飛びかかりそのままうつ伏せでボフッと顔面から着地した。

安心できる居場所って良いな…。

落ち着く…。

私は静かに目を閉じて夢に落ちた。



ん…。

ここは何処だ?暗い…黒い…。

まだ夢の中なのか?…明晰夢ってやつなのか…?


その時、パッと一点にスポットライトが当たった。

スポットライトの先には男が立っていた。見たこともない男だ。


赤髪に羊のような巻き角、そして軍服を着ている。あれは…なんなんだ?


「Welcome to you…くらいは言ってくれてもいいんじゃないかな?」


…なんなんだこの夢は…。不気味だ。変だ…。

気持ち悪い…体験したこと無い…吐き気とかそう言うのは無いのに…。

心の奥底を逆撫でされている気分だ…。


「自己紹介をしよう。ボクは『七つの大罪』強欲の悪魔、クピドゥス・マモン。」


悪魔…?こいつ厨二病か?

悪魔って伝承上でしか出てこない存在だ…お母さんから聞いたことがある。

『悪魔の言う事は信じるな』と、聞いたことがある。


こいつがその悪魔なのか?大罪ってなんなんだ?強欲?

何もわからない。なんなんだこいつは。


「はっきり言おう。オレは君を眷属にしたい。」


…私を?


「そうだよ、君をだ」


こいつ…心の声が聞こえるのか…そりゃそうか夢に出て…これは夢なのか?


「君さぁ、大罪悪魔の眷属に向きすぎてるんだよ。」

「それでボクが一番初めに手に入れたいってワケ。」


…はぁ…?いきなり何を言い出すんだ…?お前は。


「まだ分からないんだ。君は傲慢に溢れていて怠惰に蝕まれていて色欲の事で頭が一杯。身近の誰かに嫉妬しある者に凄まじい憤怒を向け死ぬなら沢山の血に溺れて死にたいと思っている。それでいて愛、富、力…全てを手に入れようとしている。」

「正しく『ボク(強欲)』に相応しい」


「…それと同時に『ルシファー(傲慢)』にも相応しいし『サタン(憤怒)』にも相応しい…」

「良かったね。モテモテだよ」


話を聞いている限り良くは無さそうに聞こえる。


「俺は君が欲しい。君は強い眷属()になりそうだ。」


…いや、私はなる気無いんだけど。頭イカれてんじゃないの?


「君の願いを叶える代わりに…君の体、ボクにくれない?」


…はぁ?

急に何言い出すんだこいつ。


「契約だよ。」


いや、普通に嫌だが…。

…待てその願いってあれ(科学者)を倒すとかでもいいのか?


「あ、ごめんね〜それは無理」


…じゃあな。


「え〜しようよ契約」


メリットがない。


「そっかぁ…また会おうね。バイバイ」



「うっ…おぇっ…」

私は咄嗟に起き上がり口を塞いだ。

しかし、私の抵抗虚しくビチャビチャと吐瀉物がベッドや床に飛び散る。


「えっちょっ…ゾーン大丈夫?病気?」


「はぁ…はぁ…クソッ!!…なんなんだよ…」


「水!お水取ってくるね!」


「助かる…」


悪魔…悪魔の夢をみただけで吐くなんて…。

これが悪魔の力なのか?

クソ…史上最悪の目覚めだ。


「はい、お水。飲んで」


私はコップを手に取りゆっくりと飲んだ。

水ってこんな味だったんだな…。

酸っぱくて…少し甘い…。


ゲロと水が混ざって味が酷い…。

気持ちを切り替えるしかないのか…。


「もう大丈夫…ありがとう」


「うん…無理はしないでよ?」


「ゾンビだから。平気平気」


「それでもだよ?無理はしないでね」


朝は特に何も食べる事はなく、血も喉には入らなかった。

一気に飲もうとしても吐き出してしまう…。

体が常に震え監視されている様に感じる。いつでも何処からでも視線を感じる。

『もっと欲しがれ、もっとだ』と言う強欲な視線を感じ続けている。


授業中、ヴァンが私に話しかけてくれるという不真面目で似合わない事をしてくれた。

できるだけ心配は掛けたくない…。私はずっと黙っていた。

『強欲』から離れよう。そうすれば、悪魔(あいつ)だって諦めてくれるはず。


……『強欲』の名を冠する奴がそう簡単に諦めてくれるのか?

…なんで私がこんな目に合わなきゃいけないんだ。

私が強欲で何が悪いんだ…いや、都合が良いのか。

ムカつくムカつくムカつく…。なんなんだよ悪魔(あいつ)

私は自分の深い業の闇に沈んでいく。


「ゾーン、大丈夫?」

「さっきから顔が青いけど…」

「…お〜い?反応してよ〜」


「えっ!あっ…」

「……何?」


私はびっくりしてつい大声を出してしまった。

……これも全部あの悪魔のせいだ!私の喉に何も食べ物が入らないのも私が異常に苛つくのも!全部全部あの悪魔のせいだ!


「いや…大丈夫?」


「あ…うん。大丈夫だよ…」


「…口調、何かいつもと違うよ?やっぱり休んだ方がいいんじゃ…」


「大丈夫だよ…授業ち集中しなよ」


「ゾーン、苦しくなったりしたら言ってね。素直に頼りにして」


「あ…うん、わかった…」


…はぁ…。

授業には全く集中できないし…ユルドミールは何を言ってるのか良くわからない…あ、元々か…ハハ。

何分経ったんだろうか、座学は終わり外に出ている。

立ち眩みが酷く足つきがふらつく。


「ヴァ…私…も…休む」


「ユル!ゾーンが体調悪いって!」


「そうですか、ならば自室のベッドで休ませなさい。」


そこから記憶は途切れてしまった。



「やぁ!大分苦しんでるね!オレの眷属になってくれたら治して上げるよ」


…誰がなるものか!この症状はお前がやったんだろ!速く元の体に戻せ!


「あ〜もうそんなに怒らないでよ〜。それにそれはボクのせいではない。」

「君が悪いんだよ。原因は君にある」


…は?


「別にオレが君にどうこうした訳では無い。ボクは『見てる』だけ」

「君が勝手にプレッシャーを感じているだけだよ。」

「勝手にボクに非を押し付けるなんて…」

「き──本─に──だ─」


なんだ…?突然、あれから発せられる声が途切れ途切れに─


「な─だ、も─起き─ん─。ま─ね」



「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」


汗で気持ちが…悪くない。そう言えば死んでるんだった。

…随分と体が軽いな…まぁ、症状が治ったらならそれでいいか。


「まだ空は明るいか…このままサボるか」


ドアがコンコンコンと3回ノックされた後にガチャッとドアが開けられる。気配…そしていつも聞くこの足音…軽くゆっくりだ…ヴァンだな。間違いない。


「ねぇゾーン。もう昼休み休憩だよ?」


「もう気づいてるからね?今寝たフリしてるって。」


…バレてる。だけど関係ない、私は寝たフリを続ける。絶対に授業をサボるんだ!私はそもそも魔法なんて無くともそこそこ戦えるから要らない!


「ユルドミール!クリワナ!ゾーン起きたから運んで!」


「了解[です/だ!]」


「なんでオメェらも居んだよ!」


クソ!完全に見誤った!まさかこのエルフ二人も居るとは!だが抵抗しないわけではない。 

私はそんな思いで窓をぶち破る!だけど着地に失敗し両足が塀に激突し曲がってはいけない方向に曲がってしまう。


「ッッッッッ!!…クッソ痛ぇ!!」


しかし二人はすぐに追ってくる。速く両足を治して走らなければ私は捕まってしまう!授業受けたくない!


…無理やり動かすしか無いか。


私の足は180度曲がって戻らなかったが立つことはなんとかできた。

勢い良く駆け…ようとしたが頭から地面に突っ込む!私の顔の皮膚はズタズタになっているだろう。親子が見たら子だけではなく親も腰を抜かして子供を差し出すほどにグロテスクな顔になっているだろう。


痛みに顔を歪め涙でグシャグシャにしながらほふく前進で森の方へと向かう。そこで私は思い出した。


今朝、朝食をいつも食べないユルドミールが私を気遣って血をくれたんだった。

その血は今も懐にある。使うか!使うしか無いな!今!ここで!


私は袋を破り血を頭から浴びた。新鮮な血を浴び体調は見事回復!死の淵から生き返った私はそれはもうしっかりと地を踏みしめ森へと走る。


ユルドミールとかヴァンの追ってくる音は聞こえないが、私は無我夢中で森まで走り抜けた。


「はぁ…はぁ…来すぎたか…?まぁいいや。暫くここでゴロゴロしてよっと…」


鼻歌を歌い気分良く草むらに寝っ転がる。やることは無いがこれ程までに背徳感が無いことはない。


「あなた…誰?」


こんな森に人が居るのか。まぁ、狩りとかの人かな?挨拶くらいはしておくか。


「私はゾーン。まぁ、旅人ってやつやってる。お前の名前とかはなんだ?」


見上げるとそこには褐色肌でなにか不思議な服装の少女…?お姉さんが立っていた。


「あなた…我が主人が言ってた魔物…」


「は?お前何言って─」


…なんだ?お腹に…冷たい…冷たい…おぇ…気持ち悪…


「─ウヴェ…オッオヴェ…」


な…なんだ?血?私は今血を吐いたのか?


「ハァ…ハァ…オオ゙ェ…」


「さよなら、ゾンビ。可哀想な少女キャルロン」


こ…いつ…な…ん……で……


…ここは…見知らぬ天井だ!!

よく転生系のノベルとかであるやつだ!!

テンション上がるな〜!


そしてガチャンと何かを落とし割る音が聞こえる。


「お…おおおおお…起きたの?目覚めたの?ゾーン!」


「…ヴァン…?」


私の声が…しわしわ…?乾いている…なんだ?どういうことだ?何が起こったんだっけ…


「ゾーン!ゾーン!ゾーン!」


ヴァンが抱きついて何度も私の名を連呼する。泣き声がこの病室に響き渡り人を引き寄せる。


「な…なんだよ…」


「ゾーン…あなた…森で見つかった時お腹に大きな穴が空いてて…心臓と宝石みたいな何かが剥き出しになってて…300年も目覚めなかったんだよ…」


「は?300年?森で見つかった?宝石?何を…何を言ってるんだ?ヴァン。」


「…今の年代は…2500年だよな?」


「…今は2818年…2818年だよ…」


…は?



「──それでさ、技術も大分進化してさ」


「うん」


「魔力潰したり、魔力を遠くの物に付与するなんて技術も発展してるんだよ」


「うん」


「学も進化しててね」


「うん」


「魔物の体とか魔法を使うための本も大分浸透してるんだ」


「へぇ」


私は300年の歴史を今ヴァンによって叩き込み続けられている。

正直ワクワクする。でも長い、話が。


「そう言えば…クリワナとかユルドミールは?」


アイツらはエルフだ。長年生きる種族なら生きてるだろ。

惜しむべくはリューテだ。竜は平均して20年しか生きない。だから、老いでもう死んでいるだろう。


「あぁ、彼らなら狩りに行ってるわ」


「と言うか、リューテの事は聞かなくていいの?」


「あぁ…リューテはもう死んでるんだろう?」


「…よく知ってるね」


「300年も生きる魔物はそう居ないだろ。」


「あはは…」


「何故目を逸らす。」


コンコンコン。

ドアを3回。礼儀正しくノックする音がする。

…誰だ?私の知らない人なのか…?


「お邪魔します。ねぇヴァ…」


目と目が合う。


白髪主体でサイドに翡翠色。淡い髪の毛をしたロングヘアの18歳頃の女性だ。

白いワンピース?見たいなのを着ていて肩を出しているクセに袖がある。

胸デッッッッッ


「…初めまして、ゾーンです。顔色が悪いのは生まれ付きなので」


私は取り敢えず挨拶をする。ゾンビなのは明かしたらまずいだろう。まぁ、無理がありすぎると思うが取り敢えず誤魔化そう。


「…チッ」


え?なんで舌打ちされた?

怖いな…この子。


「…あの、名前は?」


ヤバイ。なんて言うか、不機嫌オーラがあの子から湧き出ている。


…ヴァンから耳打ちされる。


「…あの子、リューテだよ」


「え?」


アレが…リューテ?

あの幼女姿は…まぁ、300年も生きてたらこうなるか…なるか…?

…若すぎる!!


「なんッで一目で私って気づかないかなぁ…!!」


わぁ…。

とんでもない地雷系と言うか…苛立ちやすいですね?


ヴァンに囁いて聞く。

「…なんで苛立ってるの?」


ヴァンは囁き返す。

「親は子に似ると言いますか…忘れないようにリューテにゾーンの事を毎日話してたらこうなっちゃったっていうか…」


つまり…眼の前にいるのは限りなく性格が私に近いヤツなのか…。

私ってこんなに面倒くさいの?


「二人だけで話さないでよ!私を除け者にするつもりなの?!」


苛立ちやすいんじゃなくてとんでもないワガママ姫だった。


「ヴァン…教育下手クソだね」


「ちょっと!ヴァンを侮辱するのは許さないわよ!」


「あはは…今侮辱されてるのはリューテじゃないかな…」


うん。なれない。


このワガママ姫をリューテって信じたくない…。


…信じるしか無いかぁ。


「ねね、リューテ。リューテって子供居るの?」


「急に変な質問するな!居ないけど…」


ちょっとばかし頬を赤く染めてリューテはモジモジと答えている。

可愛い所あるじゃん。こんくらい普段の態度も可愛かったらなぁ…。


…このリューテと仲を深められるのかな…。


折角可愛いお顔が性格で台無しだ。

そりゃあ彼氏もできんわな。


なんか私の心も傷んで来たから悪口を言うのは辞めよう。ウン。


「さて、ゾーン。一週間後に勉強再開だね。学べる事ほど光栄な事はないんだよ?分かってる?」


「分からん分かりたくない」


「でもさ、魔法って色々あるんだよ!」


「へぇ…例えば?」


「ほら。氷」


「えっ速」


瞬き一つの間にヴァンは氷を掌の上に出していた。

本当に速すぎない?これが300年の成果なのか…


「でしょ?クリワナとかからも速いって言われるんだよね!」


嗚呼…記憶が鮮明に蘇って来る。

あの…えっと…あ…?


…思い出せない。

情景じゃない。声でもない。姿でも…えぁぁ…?


情景が…顔が紙が破れたみたいに。一部が破れている。

わからない。不快。怖い…。


…怖がっちゃ駄目だ!

あんな奴に私は…負けたんだよな…。


「ゾーン、何に恐怖してるの?」


「う…私を瀕死に追い込んだヤツ…でも顔も情景も思い出せない」

「破かれて黒く塗りつぶされてる…みたいな感じで…思い出そうとすると吐き気が…」


「そっか…それじゃあそいつ、私たちでぶっ飛ばそうか!」


「ちょっと待って!私やヴァンは大丈夫だけどこいつゾーンはどうすんのよ!こいつゾーンだけは300年の間寝てただけじゃない!」


「だから、一週間後からゾーンにも学習に加わって貰うのよ!」


「いや、私強いから勉強なんてしなくても…」


「それで手も足も出ずにやられたんでしょ?そんなんじゃ戦闘についていけないよ?」


「うっ…」


ヴァンの言葉はそのとおり。全て合っている。


多分ヴァンの言う通り。今の私だと手も足も出ない。負ける。確実に。


「…やりたくないけど…仕方ないか」


「やった!ゾーンも勉強してくれるんだね?」


「うん…」


「わぁ…わかりやすく声色が低くなった」


「だってやりたくないもん…」


「まぁ、気持ちは分かるよ。それじゃあ、一週間後から頑張ろうか!」


「はい…」


それで一旦、話は終わり、夕方になるまで私は暇だった。


「うわ…右肩にウジ湧いてる…通りで痛いし動かしづらいと思ったわけだ…」


私はウジを一匹ずつ手にとって潰す。潰す瞬間は気持ち良く最高のストレス解消に使える、そう思うほどだ。


…掌にはウジの体液や肉片が飛び散っている。ベトベトして気持ち悪い。

余計ストレスが溜まるからこのストレス解消法は推奨しない。


「最悪…」


喰われた肉はすぐにまた生えてくる。

…私ってこんな再生速かったっけ。

ていうか肉を生やせたっけ。


…常に血液貰ってるし、その恩恵もあるのかな?

いいね…常時血液飲んでる状態だとこうなるんだ…


いいね…


その時、扉がガラガラと開けられる。

ノックを1回もせずに開けてくる馬鹿…。

クリワナとユルドミールだ。


「よぉ!良かったな元気になって!」

「これ、お見舞いのフルーツです。」


「ありがとうとは言ってやる。うるさい帰れ」


「冷た〜。心配してお見舞い品まで持ってきたのにな〜!」

「な〜」


クリワナは持ってきた果物の中から一つ取り皮を向いて食べる。


「…帰れ!!」

「私のじゃないのかよ!」


「冗談じゃねぇか!冗談!」


「冗談が通じないと皆から避けられますよ?」


「やかましい!さっさと帰れ!」


「輸血とかしてあげたの俺らなのになぁ〜。」


「まぁ、ここは帰りましょうか。また明日出直しましょう。」


「そうするか!じゃあな!良い夢見ろよ!」


「二度と来るな!」


…はぁ。疲れた…

本ッッッ当に疲れた…


なんなんだろう。アイツラ。


「くぁぁ…」


なんか眠くなってきたな…寝るか…


ん…辺りが真暗だ……あっ。


「おいこら!出てこい!オラ!マモン!!」


居るはずだ。アイツが。


スポットライトが一点に当たる。


「レディース&ジェントルメーン!」


「レディしか居ねぇよ!お前、私がああなることも知っていたのか?」


「さぁね?」


「…さぁね…?」


「てかよォ…お前、私の体調崩したよなァ…」


「だから『見た』だけだよ?ボクはね?」


「私が『見られた』だけで体調崩すわけないだろ!どんな病弱だ…」


「いいや、君は崩したんだよ。『見られた』だけで」


駄目だこいつ。話が通じない。


もう対話は諦めよう。


場面は一点。白い天井が見える。


「ウッ…オェェェ…」


あいつ…またやりやがった…オ゙ェ…


もう二度と見たくない…気持ち悪いよぉ…


「ゥ゙ヴェッ…はぁ…はぁ…」


私は遠くを眺めようと窓の方に目をやった。空は青く明るい。


私は十二時間程寝ていたらしい。まだ体が慣れていないのだろう。起きることに。


…やることは無い…クリワナから貰った果物も食えないし…。


なんでアイツ果物持ってきたの?


…試しにやってみるか…魔力量増えるのにも繋がるらしいし。


目覚めてすぐ、ヴァンから聞いた話の中に「効率的な魔力放出法」と言う話があった。

それを今、やってみる。


掌ではなく、指先から出す…最低限、最低限の細さで。


「んっ…こんな感じなのか…?」


確かに辛さは無い。大分楽に魔力を放出できる。

これなら気絶もし無い…気絶はもう克服してんだっけ。まぁいいや。

多分役立つでしょ、何処かで。


にしても本当に細いな…糸くらいの細さしてるぞ、これ。


──私が目覚めてから一週間が経った。

今日から私も勉強に参加する。


「授業についてこれないかも知れないけど…頑張ろう!ゾーン!」


「授業…?そんなものもするのか…?私人の話聞いてると眠くなるんだけど…」


「ふん!そんなんだから弱いのよ!」


「うるせぇぞ!昔はあんな可愛かったのに…」


今は可愛げはもう見る影もない。ただのワガママ竜だ。


「二人とも!静かに!授業が始まるよ」


ヴァンが私たちを静かに一喝すると宙からユルドミールが降ってくる。どっから現れて来てんだこいつ。


「はい、注目。これから授業を始めます」


「はぁ〜ー…」


ダルっ。

座学…やっぱ付いて行けないよな。私200年も寝てたし。

それに授業も何度かサボってたし…


これで力を身に着けないと勝てないとは言え…ダルっ。


「──そして、2253年には…ゾーン、聞いていますか?」


「聞いてまーすので話しかけんな」


「……前回の復習を続けますね」


…なんか、思ったことがある。


…ユルドミール…説明上達してね?

まぁそうだろうなぁ…200年もヴァンとかリューテに授業してたんだろうからなぁ。


「──2385年、とある村が一夜にして壊滅した珍事件、なんと言いますか?」


「はい!」


「返事が素晴らしい。ヴァン!」


「夜村破滅事件です!」


「正解です!しっかりと復習ができていて素晴らしい!」


歴史なんて知ってもどうしようもないだけだろ。知って何の意味があるんだよいい加減にしろ。


「それでは、魔法の相性について確認しましょう」


「はい」


「はい、リューテ。どうぞ?」


「火は風に強い。風は雷に強い。雷は…えっと…」


「…リューテ、リューテ。」


「何!!?」


「雷は水に強くて、水は火に強いよ。」


「知ってるわよそんな事!雷は水に強くて水は火に強い!!」


「惜しかったですね。リューテ。ヴァンも本人は諦めてないんですから最後まで見て上げてください」


「は〜い。ごめんね、リューテ。」


「別にィ…」


…そうなんだ。今のは覚えておこう。

意外と有意義だな!座学!


──座学開始から3時間後。

遂に魔法の実習だ。


上手にできたらいいな…


またユルドミールの顔を見るのかと思ったら、どうやら魔法の実習はクリワナが担当らしい。


「はい、今日もよろしくな〜お前ら!」


「よろしくお願いします!」

「よろしく!!」

「よろしく…」


あ〜…上手くいく気がしないよぉ…だが、所詮は授業。そう、所詮は授業なのだ。


「それじゃあ、ヴァンは今日はこの脳内回路、リューテはこの脳内回路を作ってみてくれ!」


脳内回路…魔法を使うために必要な魔力の脳内回路だ。


「クリワナ…私のは?」


「ゾーンのはこれで!これで一回やってみてくれ!」


「…丸に四角を重ねただけ…誰でもできるくないか?これ。」

「ヴァンとかリューテみたいに複雑な回路にしてくれよ。」


「い〜や、案外むずいんだな、これが。」

「まぁやってみれば分かるさ。」


こんなん一瞬でやって証明してやる。こんくらい簡単なのは誰でもできるって。


え〜…回路を脳内に描いて…それ通りに魔力を循環させて……発動!


…ん?


もう一回…できるはずなんだ。


もう一回!…もう一回!…もう一回!


はぁ…はぁ…もう一回…


「な?難しいだろ?」


「難しくない!今にでもやって見せて──」


「泣いてるぞ?お前。」


「ッ泣いてなんか無い!泣いてねぇよ!」


「じゃあお前は目から汗でも出す体質なのか?」

「ゾーン…弱さを知れ。己と向き合え。じゃないとお前は成長できない。己からは逃げるな。」


言葉足らず…でもそれは私の成長に繋がる核心的な言葉だ。


「…私にはできない…ねぇ、クリワナ。私には魔法の才能が無いのかなぁ…」


「なんだなんだ?いつもよりも弱々しいなぁ。」

「…いいか、ゾーン。初めはリューテもヴァンもできなかった。」

「あいつらはこれを二週間でできるようになった。平均レベルだ。」


「平均って…何を基準に言ってんだよ…」


「行商人から買った本だ。高かったんだぜ?」


「そう…なんだ…」


「わかったか?初めからできるやつなんて居ないんだよ。ましてやそれが成長の過程に無いなら尚更だ。」


「お前も努力して魔法を使えるようになるしか無いんだ。」


「やるしか無いんだ…頑張る…頑張って一週間で魔法を使えるようになってやる!」


「ほ〜。それはいい心意義だな〜。期待してるぞ。」


それから、私は怠さを捨てた。

魔法を完全に使うことができるようになる為に怠さは必要ない。


勿論、最初の頃から完全に捨てられたわけではない。

練習をサボろうとする度にクリワナの言葉が脳内に響き続ける。


「もう私は惨めにはならない。」


そんな思い一心でひたむきに魔法、魔力と真摯に向き合った。

ちょうどあの日から3週間したある日の事。

私は平均以下でやはり魔法の才能は無いのか、と落ち込んでしまっていた。


「……雨か。」


「ちょっと。」


「あ…?どうしたの?リューテ」


「あんた、魔法を甘く見てるみたいだけど、あんたなんかが使えると思ってるの?」


「はぁ?悪態をつきに来ただけか?」


「…その態度やめて、不快、気持ち悪い。いつまで余裕の皮被ってるつもり?人を嘲笑って楽しいの?ねぇ、なんか言ったら?」


「……私が人を嘲笑っているように見えるのか?」


「そう見えるって言ってんのよ!いつまでダラけてるつもり?速く本気になってよ!」


「私はもう本気なんだよ!」


なんでリューテはこんなに、こんなに高圧的なんだ?私に対してだけ。…私だけなのか?

仮に、私だけじゃないとしよう。ヴァンに怒られないわけがない、それでリューテは凹んでもう二度とやらない。

うん、私だけだな。


「このっ…!」

リューテは階段に座っている私に向かって足を振り上げる。

「ドアホ!!」

そして勢い良く私の腹向けて蹴りが飛ぶ。


「うっ…ごぽ…」

吐血…古傷を穿たれた。あの女にやられた古傷を。


「てめっ…手ェ出しやがったな!」


だが動くことはできない。動くと内臓が零れ落ちてしまう。

だったらどうする?血を操ればいい。


大量の血はリューテの両腕に巻き付きねじ潰そうと圧力をかけ続ける。


「ふっ…あんたって思ったより大したことないんだ。」


リューテは魔法で血を切り刻み拘束から脱却。

逆に私の両腕を捩じ切ってしまった。


「痛っ…」くない…え?

あ…やばいな…殺される。

出血多量でちょっとやばい…意識が…。

あの影…髪色は…ヴァン、か…?

外出から帰ってきたヴァンだ…。


「リューテ?何をしているの?」


「こいつがい…………本……出さ……から」


あ〜…気が遠くなってきた…腰にある血液パックも両腕が無いから使えない…回復…できな──


──「ん…?」


知らない天井だ。あ、知ってるわ。


「頭…いった…」


両腕で頭を抑え込む。…両腕?

あ!両腕ある!腹も傷が埋まってる!

…私、もう死んだのか…?

いや、ゾンビの時点で死んでいるんだが…まじかぁ…。


「ごめん!ゾーン!」


「うぇ…?」


「私があの子の教育をちゃんとできなかったからこんな事に…」


「お、おう…」


良かった…ここ天国じゃない。私、死んでなかった。


「ほら!リューテも謝りなさい!」


「……ごめん。」


「は…はは、いいよいいよ。」

このクソガキが…どういう理由があって仲間を殺しに来るんだ…ぶん殴るぞこの野郎。


リューテはそれだけ言うとトボトボと自分のベッドに潜り込み寝た。意味わからんマジで。


「リューテがあんな行動したかの理由なんだけどさ、私が忘れないようにゾーンの話をしたって言ったじゃん?何度も話している内にとてつもなく強くて凄い人!ってイメージになっちゃって…理想と現実が違いすぎてイライラして理想のゾーンだけが欲しかったんだって」

「だからこれは私のせいでもある!本当にごめん!申し訳ない!」


「お、おう…なるほど…」

「私はそんな自分勝手な理由で殺されかけたのか…」


ついつい心の声が漏れてしまった。だが、そんな理由で死ぬのは嫌だ。絶対に嫌だ。


…夕食時も風呂上がりも、リューテの心境に変化は無いように見える。

だけど、なんだか…なんだかしょんぼりとしたような…?

そんな表情に見える。何を考えているんだ?ヴァンに怒られて悲しいのかな。

ふざけるな殺すぞ。まぁ殺されるが…


あれからは何も無かった。本ッ当に何もなかった。

それにしても、ベッドの中は落ち着くなぁ。温かい…


あ〜…もう少し考え事をしたいが…もう無理だな…寝るか。



「ハロー!キャルロンちゃん!」


……その名で呼ぶなよ強欲(マモン)。ちゃん付けも気色が悪い


「えーなんで?いい名前じゃないか。」


はぁ…なんで私の夢の中に出てきた?

お前が出ると必ずゲロ吐くから嫌なんだよ…


「あぁ、今日は君の人生(ものがたり)を面白く彩ろうと思ってね。」


…はぁ?

こいつ…何するつもりだ?


「簡単に言うと、君と親密な関係にありそうな子の運命…いや、未来かな?…を視てあげるよ。」


いい。悪魔の言う事なんて信じられるか。


「これは…あぁ、君が助けた子の未来だね。」

「肌が黒く染まっているね…どうやら、我が友(悪魔)に魂を売ったようだ」


私が助けた子…?

それってよぉ…


「ん〜?君の思っている通りかもしれないねぇ。」


なぁ!そいつの髪の色は?瞳の色は?体型は?


「……クッヒヒッ」


…あ!待て!おい!教えろ!



「ウッオヴェェ゙…」


くっそ…


「ふぁぁ…おはよ、ゾーン。朝ごはんもうできてるって…」


私の部屋の扉を開けたヴァンと目が合う。

シャコシャコと音を立てながら歯を磨いている。

こいつ…寝ぼけてんな…ゲロ吐いた事に気づいてない…。

朝弱いんだ…まぁ吸血鬼だしな。


下に降りると丁寧に血液でコーティングされたパン。食パンが二枚あった。

しかも焼かれている。トースターだ。


…食う前にゲロを片付けるとするか。

…血で手をコーティングしよう。直では触りたくない。


─ふぅ、綺麗になった。

布団は西日が当たる所に干しておこう。服は…布団の隣に干しとけ。


「…なんか果物が増えてる?」


「あぁ…これ…?なんか王女様が持ってきて置いてったよ?」


どっかの物語かよ…


「……まぁ、食えないから気持ちだけ貰っておくか。果物はご飯食べたら返しに行こう」

「じゃ、私もう食べるから。」


血液がコーティングされたトーストか…

思ったよりもサクサクしてて美味しいな。

うん。なんか懐かしい。


「…返しに行ってくる」


「もう食べたの!?行ってらっしゃ〜い。転ばないように気をつけてね〜」


さてと…エーフルは何処に居るんだ…?


あ、あそこのエルフに聞いてみよう。


「…ねぇ。」


「…」


反応しないな…


「…そこの花見つめてるお前だよ」


「あ、私?」


「そう。王女様知らない?」


「王女様?がどうかしたの?」


「あぁ…王女様から果物を貰ったんだが…私は食べることができなくてさ。返したくて今探してるんだ」


「…ごめんね、わからない…私じゃ力になれないや」


「そうかぁ…」


「あ、いた。ファリウスちゃーん!」


「あ!ユラムちゃん!」


なんだ…?もう一人エルフが…。


「えっと…ユラム…ちゃん?今王女様探してるんだけどさ、何か知らないかな?」


「う〜ん。分かんないなぁ…門番さんとかに聞いてみるのはどうかな?」


「あ、それだ。ありがとう。」


「どういたしましてー!」


私はユラムが言ってた通りに、クリワナとユルドミールの下へと向かった。


「おい!クリワナ、ユルドミール。」


「なんだ?今日は授業ねぇぞ?」


「偉い…自主練ですね?私が相手になりましょう」


「違う!王女様が何処か知らねぇか?」


「エーフル王女…ですか。」


「エーフル王女は今朝『修行を積んで戻ってきます』と書き置きを残して旅に出たな」


「そうなのか…王女様から貰ったこの果物、私じゃ食べることができなくてな…返したかったんだが…」


「じゃあ、私たちが大切に預かって置きますよ」


「そうしてくれ。」


修行か…真面目だな。エーフルも。


たった一つの果物を二人に手渡ししてから、ゆっくり歩き去り、足下の石を蹴り追った。


「私も強くなりてーなぁ…」


そんな独り言を浮かべて破裂させていた時、ガサガサガサと森からの物音を聞いた。

これは…なんだ?面白そうな予感がする!行こう!


後先なんか考えない。ただ好奇心に導かれる操り人形。


物音の先…そこに居たのは…


「白い…蛇…?だよな?」


いや、デカすぎだろ…

大蛇ってこんなにも大きくなる物なのか…?


「……」


「………」


私と蛇は睨み合いとなりピクリとも動こうとしない。


睨み合いは数秒に渡って続く。緊張がピリリと私の肌に突き刺さる。

…好奇心で行動しなけりゃよかった。


早速先程までの行いを後悔し覚悟を決める。


「先手必勝!」


血液を操り三本の矢のように整え操り始める。


「オラ!喰らえや蛇風情が!!」


三本の血は蛇の腹へと向かった。


殺った…これは確実に入る。避けることもできないだろう。最初の時点で反応できてなかったんだからな。


ガチン!


「…まじか。」


その腹は鋼のように硬化していて、いとも簡単に私の矢を弾き飛ばした。


「キシャー!!」


「ッ…くそ!」


攻撃が来る一瞬、怖くて目を瞑ってしまう。あの大蛇の大きさなら、私を丸呑みする事なんていとも簡単にできるだろう。


何やってんだ私は…避けないと!


精一杯震え続ける足を動かし身を捩る。

危機一髪だ。危機一髪で避けれた。


だが、その危機一髪がチャンスをくれた。


今度はぶち抜く…下からならどうだ!


三本の血を溶かし地面に染み込ませる。


「くらえ…!」


蛇の腹下から血で棘を生やす。超極細の棘だ。

極細だからこそ、殺傷能力は本物。刺さってしまえば一溜まりもない。


「クソが…」


これをも弾くか!だがまたチャンスだ!

蛇の体が空中に持ち上がった!追撃してやる!


しかし、私の思うつぼでは無かった。


「んなっ…そんなんもできるのか!!」


蛇から刃がニョニョニョっと出てきたのだ。しかも全身から。

その刃は撒き散らされ全方位に向かって弾き出される。


「何ィィィ!!!」


剣は片腕を掠め衣服を破る。


「くっ…切れ味も本物か…」


あ…やば…

「ッ!」


首元に!剣!

危ねえ…血で掴めて良かったぁ…


剣…か…

「幼い頃、憧れてたんだよなぁ…」


剣を右手に。構えを取る。


「たぁ!」


今丁度着地した蛇向けて剣を振るう。

ガキン!!


鉄がぶつかり弾き合う音。


こいつ…硬すぎだろ!


また、私を丸呑みにしようと口を大きく開けてくる。


これでも…「飲み込んでろ!」


私は咄嗟に剣を投げ入れる。

口内は傷ついたか確認する前に口は閉じられる。

剣と私を間違えた…?こいつ、見えないのか?


となると…


血を再利用して、更に血を足して。


私のウエストくらいの太さの血の棒を作り出して操る、私とは真反対の動きとなるように。

そしてできるだけこっちを前に出す。


蛇は見事翻弄され、血の方を飲み込んだ。


やっぱりな…こいつは空気の流れで物事を見ている。だとしたら後は楽勝…

あ?蛇の体内にあるはずの血が動かせな──


腹を直撃するテール。


ドカッと木に叩きつけられる。


「ぐっ…くそ…」


当たりどころが悪すぎる。

頭から血…あぁクソ…目眩が…


蛇が来てる…速く…体勢を立て直せ。

「うッ…」


木を押してなんとか迫りくる蛇を回避するが…

頭が痛いッ…


盲点だった…胃液で血液の操作権が溶けるなんて…


あぁ…また、視界がぐらついて…


「がはっ…」


剣…今噴射されるのか…腕が…右腕が…


血…操れ…足りない…


……即興でやってみるしか無い…


「ッ…!」


「ギィエエエエエエエ!!」


「はぁ…はぁ…」


出た!まぁまぁ大きな火球が!


あんな咄嗟で覚醒するなんて…

覚醒タイプの主人公なんてもう古いんだぞ!今の時代は「俺つええ〜」系じゃねぇのかよ…


私が主人公って思ってもいいのかな…いいよね。


…こんなこと考えるべきじゃなかったな…

血も少なく貧血状態。魔力もカツカツで枯渇中。


…やばっ…意識が…


「う〜〜ん…」


目覚めるとそこは。

見慣れた天井だった。


「やっ。お目覚めはいかがかな?ゾーン?」


「…おちょくってる?」


「いやいや〜そんなまさか。」

「私は本当に心配してるだけだよ。」

「そんな事よりさ、私以外にもゾーンの事心配してた人居るんだ。」


「あれだろ?いつもの男二人組だろ?」


「違うんだな〜それが。ほら、いつまで私の後ろに隠れてるの?出て来なよ」


言われるまで気づかなかった。確かにヴァンの後ろに誰か居る。

ゾンビである私は嗅覚がいい筈だ。その嗅覚を頼りにしたことは無いが。

そこはかとなく雰囲気くらいはわかる。


「……あの…調子はどうかな…って」


「リューテ!心配してくれたのか!?」


「あ〜…うん、まぁ…一応」


意外な来客だった。まさかあのリューテが心配してくれるなんて!

私を期待外れだと判断すると両腕千切って殺そうとしてきたぶっきらぼうなお嬢様が心配してくれるなんて!


「なんだよリューテ。お前可愛い所もあるじゃねぇか」


つい嬉しくて引き伸ばし声になってしまう。

リューテは申し訳なさそうにもじもじしてるが。

まぁ、まだ引きずってるんだろうな。殺そうとしたの。

実際私も引きずってたしな。


リューテの頭をポンっと叩く。


リューテは混濁した表情をしている。

例えるなら怒られると思っていたら褒められた子供だ。


「何怯えてんだよ。もう許したって言ったじゃん」


「でっ…でもさ、あんな事したのにそう安々と許して貰える訳が…」


「許すって言ってんの。ありがたく気持ち受け取れ」


「…そうね。ありがとう」


あら素直。

可愛い奴め。


「あ、二人とも聞いて。」

「今日蛇と戦ってる時でたの!」


「何が?」


「魔法さ!」


「出たの!?おめでとう!!あんな出ない出ない悩んでたのに…」


お前はおかんか?


「…おめでと」


「ありがとありがと。」


…これで。あいつを倒せるかも知れない。

顔だけが黒く塗り潰されて思い出せないあいつ…姿形さえ見れれば思い出せるはずだ。


「あ、そうそう。あとちょっとで夕食の時間だよ。今日はクリワナとユル来るんだって〜」


「…へぇ。」


「嬉しくないの?」


「当たり前じゃん。休日に先生に会いたいと思うやつ居ないだろ。」


「あはは…まぁまぁ。話してみたら?魔法が使えたって」

「実際、私も轟音に呼ばれて行ってみると焼け焦げた蛇と意識失ってるゾーン居たからね。」

「命大事に、だよ?分かってる?ゾーン。」


「お、おう」

こいつ…なんか母性強まってねぇか?いや、元々こんなもんだったな…


「じゃ、ゾーンはそのまま横になってて。まだまだ輸血するからね。」

「リューテは私と夕食の準備だよ。さ、行こう」


「…わかった。」

「ゾーン、お大事に…ね?」


「おう。夕食楽しみにしてるわ。クリワナとユルドミールには来るなって伝えといてくれ」


「歓迎しますってもう言っちゃった」


バタン。

ふぅ…やっと落ち着いた一人の時間だ。

そうは言っても、30分だけだけどもな。


「魔法…か…」


今でもできるかな?できるよね!やってみよ。

脳内回路に魔力を流して…

流して…



できない。

え〜、できないな…なんであの時できたんだ…まぐれか?まぐれなのか?


…今日はもういい。魔力もカツカツだし。

飯を待とう…


…暇だ。そりゃそうだ。

私は本が好きだ。幼い頃良くお母さんに読み聞かせして眠りに堕ちていた。

その影響もあってか、8歳とかになると母の仕事の手伝いをして…合間とかに本を読んだりして。

こうして思い返してみれば。結構恵まれてたんだな。

お父さんは私が物心つく頃には死去してしまったらしい。

その理由はお母さんは話してくれなかった。


当たり前だ。齢8そこらの人間が聞く話ではない。

私が16歳とかになってやっと教えてくれたりするのかな。


…なんで死んじゃったんだろうか…私のお父さん。

一度で良いから会ってみたいなぁ…


なんて、もう叶わない願いなんだけども。


「ゾーン!ご飯できたから来て!」


ヴァンの私を呼ぶ声が聞こえる。

返答はしない。飯ができたらしいから私は一階へ降りる。

しかし、食卓には何も無くヴァンは未だエプロンを着ている。


「あ、ゾーン。丁度良かった。ご飯作るの手伝ってくれない?」


「嫌だ」


「なんで?」


「私は料理下手なんだよ…」


母と二人暮らししていた頃だってそうだった。母が忙しい時は私が料理を作っていた。

だけどその料理は美味いわけではなく酷い味だった。


この旅の最中の料理だってヴァンに任せっきりで私は食料調達に力を入れていた。


「そうなんだ!だから今まで私に料理任せっぱなしだったんだね!それじゃあ、今日克服してみよっか?」


「え〜…いや〜…客人に来る日にそんな事しちゃっていいのか?」


「確かに、それもそうだね。」


ほっ…免れた。


一生料理なんてしたくないしな…

いや〜、今日あいつらが来ることになってて良かった〜。

今回だけは感謝してやるか。


コンコンコン。


礼儀良く家のドアが叩かれる。


「あ、来たみたいだね。ゾーン、出といて。」


「お〜わかった。」


ガチャッと。ドアノブを回して開ける。


「なっ…、」


目の前には大きな女。褐色肌で筋肉質、青髪のショートヘア。


…誰だ?


「……こんにちは。どうしましたか?誰かに用でも?」


何だコイツは。

こいつ…もしかして…


「あ〜、ユルドミールとかクリワナの知人ですか?」

「すみませんが、まだ来てないんですよ。」


「………」


何だコイツ…めっちゃ怖いヤツだな…

眼力強っ。


「何も覚えてない…?」


「…はぁ?」


「…そうか。なら…もういい。」


「はぁ…」


「帰る」


帰れ。


『何も覚えてない』だと…?


私が思い出せないのは…


「あいつだけだ…!」

「そうだ!あいつのせいで私は成長が遅れた…くそったれ!」


「殺されかけたし!」

「全く…何の因果なんだか…」


「お〜、ゾーンどうした?そんなに俺たちが来るのを心待ちにしてたか?」


「してない。帰ってくれても大丈夫だぞ」


「帰るわけ無いでしょう。折角来たんですから。話も聞かせてもらいますよ」


「お前も来てんのかよ。クリワナだけ入れ」


「おや、私は?」


「入るな帰れ」

「……と、言いたいところだが。上がれ」


後ろからやばい殺気が放たれてる…


「は〜い。いらっしゃい、二人とも。もう料理できてるよ」


「お〜、美味そうだなぁ。少し料理の腕も上がったか?ヴァン。」


「うん、そうみたい。」


「そうか。良かった。ヴァン、お前あと一週間でこのクリワナ師匠から卒業だ。」

「わかってる?」


「わかってるよ。師匠だなんてかっこつけちゃって」


「え〜師匠だろぉ?俺師匠じゃないのか〜?」


「いえ、師匠です。」


「あ、そうそう。ヴァンの卒業に伴ってリューテ、ゾーン。お前らも卒業だから」


「え〜てか私師匠居なくなかった?いつも王女様とお花眺めてたよ?」


「王女様と修業してたんじゃないんですか?」


「ん〜〜。遊んでたよ」


「……それであれですか。才能の塊ですね」


「でしょでしょ!?私凄いの!」


凄い…あんな思春期真っ只中だったリューテがこんなに柔らかくなってる…

めっちゃ懐柔されてる…


「さ、ご飯食べよう。皆食卓を囲んで!人数分席用意してるから座って座って!」


凄い。鍋だ。

豪華だ。


「さて…見せてもらいましょうかね?ゾーン」

「あなたが出せた火魔法を」


「あぁ…その事なんだが…」

「今はもう出せないんだ」


「…そうですか。土壇場の偶然でしたか。」

「人間は普段9割だけ出せてるらしいですよ。その時のあなたは100%を出せていた。」

「ゾーン、これは成長です。あなたはこれから90%を100%に上げなければならない」

「あなたはこれから何度も土壇場に経つでしょう」

「ですがその度に脳が100%を引き出し本来のあなたの力を引き出してくれます」


「…助言か?それ」


「そうです。なにか悪いことでも?」


「イキるな。」


「ハハハッこれは失礼。」


そんな感じで話を30分。料理を皆で食べていた。


「じゃあ、俺ら帰るわ。じゃあな、ヴァン」


「うん、バイバイ。二人とも」


「やっと帰ったか…あいつら」


「うん。もうお風呂入っちゃって」


「リューテは?」


「ん〜寝ちゃったみたい。遊んで沢山食べたら誰だって眠くなるよ」


「カギか?まぁいいや。じゃあ先陣切らせて貰うわ。」


「はーい」


風呂に入る前に、まずはシャワーだろう。


「…頭を洗う時って誰かに見られてる感じがして嫌なんだよな」


全身を洗えたら、バスタブにダイブする。

大きな水飛沫が跳ねて水が外に出た。


風呂に身を任せ、今日一日を振り返る。

「魔法…ねぇ」


まぁ、風呂でもやってみる。


「ん…[[rb:炎球 > レッドボール]]!」


しかし、何も起こらなかった。


「やっぱできないな…」


湯船から出て優しく体を拭き、服を着る。

髪を温風が出る石で乾かし、ヴァンに呼びかける


「ヴァン!上がったぞ!」


「はーい!」


髪を乾かし終わったら、自分のベッドに向かう。

自分の部屋の扉を開けて、ベッドに飛び込む。


今日はそのまま、ベッドに埋もれて眠りに落ちた。


その一週間後、特に何もない自堕落な日常を送り師匠(笑)から卒業する事になった。


「さ、お前らは今日を持って、俺たちから卒業だ!」


「わー…喜べばいいかな?」


「悲しんでくれ!」


「はーい」


「お前らはまた旅に出るのか?」


「うん。打倒科学者だよ」


「まぁ、頑張れよ…それで、俺たちも旅をすることになったんだ。」

「王女様を探す旅にな」


「旅仲間じゃん!」


「そうだ!だから一緒に街出ようぜ!その後はまぁ、別れてよ!」


「いいよ!」

「ゾーンもいいよね?」


「途中までならまぁいいよ」


「じゃあ、荷物ももう纏めてるし行こうか。」


そうして門を出て三十分くらい、獣道を歩いてると思う。

クリワナとヴァンは仲良さそうに話してたけど、ユルドミールとかリューテとかの間に会話は一切存在しなかった。


「──お、俺たちゃこっちだ。また何処かで会おうぜ!ヴァン!」


「うん!また──」


ヴァンの返事を遮るように、地響きが鳴る。

余り遠くでは無いように思う。

鈍くて音は低い…?


「まだお天道様は一緒に行動しろとの事らしいぜ?」


「あはは…誰か巻き込まれてたら大変だもんね。行こう」


険しい草を掻き分けて小走りで音に近づく。

見えてきた。音を出している正体が。


「あれは…」


土…?体が土の様な人形の生命体なのか…?

魔物か…?魔物で合ってるのか…?


「ゴォォォォォン!!」


低く鈍る咆哮。

たった一言の威圧感で潰されそうだ。


「…見たことねぇな。輸入された図鑑にも記載されていない魔物だと考えられる。」


「えぇ。なら一番は弱点探しです。クリワナ」


「おうよ!」


二人は息ピッタリに動き、動作をジャストミートさせている。

認めたくないけど認めざるを得ない。


美しい。


「私たちも動こうか。ゾーン、リューテ」


「あっ…はい」


「頑張っちゃうんだから!」


そう意気込むリューテに反して私はやる気ではない。

私もアレをしてみたい。

だから動作の分析をしていたい。自分なりの分析を。


「どうやらこいつは火や雷は効かないらしい。まぁ土だから相性が悪いんだろうな。」


「弱点もよく分かりません。打撃も余り効果はないですし。」

「風の斬撃で攻撃するのが一番有効打になりそうです。リューテ、私たちがサポートするので斬撃の魔法を撃ちまくってください!」


「分かったわ!」


「ゴォォォォォ!!」


土の塊は重そうな腕を振り上げ辺りを薙ぎ払う。


「くっ…なんて風だ…」


間髪入れずにもう一打来る──


「任せなさいって言ったよね?」


凄い!リューテは全く風に狼狽えて無い!

強風を切り裂くついでにもう一打を弾いてしまった!


さて、私も攻撃の準備はできた。

年頃の男女子ならこういうの憧れちゃうだろ。

勿論例に漏れず私もだ。


「危ねえぞ!お前ら伏せろ!」


狙うは…胴体ド真ん中!


「オラァッ!!」


血を使用した槍!それも超高密度だ!そっとじゃそっとじゃ折られはしない!




「ねぇ、ゾーン。これ逃げた方がいいよ」


震えた声でリューテが逃亡を要する。


「え?五人も居るし勝てるよ!」


「無理…無理だよ…あの化物…硬すぎるもん」

「私の魔力を最大限注ぎ込んだ魔法…弾かれちゃった」


土の塊に当たった血の槍は不様に四方八方に砕け散ってバラバラになってしまった。


「ゴォォォォォ!!!」



んな馬鹿な…


「硬すぎだろ!テメェ!」


血の槍がただ体にぶつかっただけで折れる程の強度なんてどうやってダメージを通したら良いんだよ。


「ゴォォォォォン!!」


土の塊が見せた新たな動き。


ヤバッ避け切れな──


土煙が舞い、意識が混沌と巡る。

私の投擲の後にあの土塊が見せた新たな動き。


その後に見せた激しい光の発生に応じて宙に生み出される結晶。


「うっ…」


ズキズキって頭が響く。

痛い…もう意識を持ち堪える事もできなさそうだ…

また…戦闘中に気を失ってしま………う…


「クリワナ!ゾーンがやられた!」


「マジか!まぁしょうがねぇな。」


この魔物…鼓動が激しくなっていて体をカッ開いて空気を循環させてる。

魔法陣が見えてたし、恐らく魔法を使って熱が体内に籠ったのかな…?

体から蒸気がモワモワ出てる。

なるほど…


「三人共!聞いて!」

「恐らく、この魔物には熱が効くと考えられる!その理由は魔法を使った後に蒸気を排出しているからよ!」

「だから、この魔物を熱せばオーバーヒートを起こして何れは勝てる様になる!」


「OK!ヴァン。任せろ!」

「ユル、前線を張ってあいつを温めてやれ。俺は後ろで電熱を貯めてる!」


「わかりました。ですが、この魔物は土です。余り良い導体では無いように見えますよ!」


「任せろ。策がある。」


「わかりました。」


そう言うと、ユルはおもむろに右手人差し指の指先に魔力を貯め始めた。


「ヴァン、これの原理は雷道と一緒です。」

「魔力を一点に集中させ一気に解き放つ。」

「これが、『炎熱光線』です。ゾーンに教えてやってください。」


「えぇ!分かった!」


ユルの炎熱光線はまばゆい赤光を発しながら魔物の導体に向かって持続的に放たれていた。

少しずつ、ほんの少しずつだが、魔物の土の体が削られていく。


「にしても、本当に硬いですね。」


「ゴォォン!!」


「あなたの動作は聞いているので」


ユルに迫りゆく大きな掌。

しかしユルはものともせず、その小柄な肉体で軽やかに飛び跳ねて掌を避け越えた!


「あの時の様な光を交えた一撃なら兎も角、見えているのなら避けることなんて造作もない。」


「クリワナ!今どの程度ですか!」


「お〜まだ半分にも満たねぇ」


「なんて呑気なヤツ…。ヴァン、あなた吸血鬼でしょう?」


「えぇ、それがどうかしたの?」


「なら、血を操ることはできますか?ゾーンの様に」


「…血?まぁ、できるよ?でもゾーン程上手くは──」


「なら、話は速いです。私がクリワナの貯めが十分になったら合図を出すのであいつにぶっかけてください。」


土を濡らして導体にする…って事ね!


「わかった!任せて!」


両手首周辺に、私の血を集結させる。


「リューテ!こっちにおいで」


ユルは人が変わったかの様に人使いが急激に荒くなっている。


「う…うん!」


「あなたは私以上の運動能力を誇ります。動体視力は流石に私の方が上ですがね。」

「敵の攻撃を避けて攻撃するヒットアンドアウェイの訓練をしましょう。」


「…今?」


「実戦が一番の成長時です。」


その時に、ユルの四方八方から荒々しく光る無数の魔法陣が展開される。


「あぁもう!やってやるわよ!」


リューテは勢い良く飛び出し自慢の翼で飛行する。


土煙で彼らの姿が見えなくなってしまう。

「ユル!リューテ!無事なの!?」


「えぇ!掠り傷一つ無いですよ!」


ユルは右腕でリューテの両腕にぶら下がっており、リューテは中々にキツそうだった。

まぁ、女の子だし筋力的な理由があるのだろう。


「良いですよリューテ。中々に安定している飛行です。」


「ちょっと…余り暴れないでよ!」


ユルは空いた燃え盛る両足で魔物に猛攻を仕掛けているのだ!


魔物はと言うとオーバーヒート真っ最中に火属性の乱打を喰らってとても辛そうであり、ようやく一割削れたかな〜って感じだ。


「まだか!クリワナ!」


「待たせたな…今は数字にして60%くらいだ!」


「まだそのくらいですか!ロマン砲なんだから外したら容赦しませんよ!」


「もうちっとだけ耐えててくれ!」






うー……ん……


頭が痛い…視界がグラついている。

私…は。

気絶…してたのか…


やばい二度寝しそう。

う…う……う…


首が…半分無い…くっつけなきゃ…

腕も…骨が剥き出しじゃないか…

寒い…

寒いよぉ…お母さん…


う…


意識がはっきりしてきた…


土の塊…結構追い詰めてるじゃん…あいつら

私だけ役立たずは、嫌だ…なぁ…





「リューテ、このまま行けますか?」


「無理!絶対無理だから!」


「わかりました。では降ろしてください。」


「はい…あ〜重かった…」


「グ…ギ…グォォォォンン!!」


オーバーヒートが終わったようね。

「皆!この魔物のオーバーヒート終わっちゃった!」


「どう立ち回りますか?ここから。」


私はジャンプし魔物の薙ぎ払いを避け血を一点に貯め続ける。


「翻弄する!回避にだけ集中して!」


「了解です。リューテ、動いてください。」


「うぅ…わかったわよ!やればいいんでしょ!やれば!!」


もうリューテはヤケクソだ。

だけどその動きは素早くて、ゴーレムの攻撃を良い感じに避けて翻弄することができている。


「ゴォォォォォォォォン!!」


重低音が響く。

血の塊を一点に集中させた物を複数宙に浮かせて魔物に射出する。

命中!でもやっぱりノーダメージ!

ユルの放った矢もあの魔物の硬い体に弾かれてダメージは無いみたい。


「ッふん!!」


緑色のエフェクトが回転する斬撃として飛んでいく。

この魔物には斬撃が有効だったみたい。

リューテの魔法は見事に右腕を切り落とした!


「ゴォォォォォォォォォォォン!!!」


「ナイスです!リューテ!このまま左腕も切り落としてください!」


「もう無理!魔力がほとんどカラッカラ!」


魔物の右腕から魔法陣が現れる。

眩い輝きを放ちながら右腕からクリスタルが生えてくる。


「殺傷能力が上がったって事ね…!」


攻撃は本格的になってくる。

複数の魔法陣が魔物の頭上に現れて結晶が覗いている。


「来た!皆、攻撃が!」


飛んでくる結晶をシンプルに走って回避する。

皆は大丈夫なの?と辺りを見回すとリューテはその羽でキチンと避けていたらしい。

…ユルはどこに行った?

キョロキョロと見回す。

……見つからない。まさか!

ギギギ…とクリワナの方に振り返る。


「ユル!!!!」

ユルは魔力を貯めていたクリワナを庇って身代わりとなっていた。

ユルドミールの右肩は鮮血を飛び散らせながら宙を舞っている。

私が身代わりになれば良かった!この体は最低限再生する。

ユルの右肩に生えていた腕はもう生えてこない!!


ユルは力尽きたようにクリワナとは逆方向に倒れる。


「クリワナ!ユルの状況は?!」


「わからねぇ!早く止血しないと失血死するかもしれねぇ!」


「あとどのくらい!」


「あと14%だ!」


「料金!」


あと14%…今までの調子だと30秒くらいだろう。


「ゴォォォォォォォォォォォ!!!」


魔物も何かを察知したのか、咆哮を上げる。

魔法陣があれの周りに複数展開され重複されている。

すぐに輝きを放って結晶が射出される。

無法すぎる…!この技!

私は倒れたユルとクリワナを庇い肉壁となる。

心臓部分だけは破壊されると不味いのでそこに魔力のガードを固める。


「ギャッぐぅ…ううぅぅ…!」


多大な土煙が舞う。

う…当たり前だけど痛い。

体中が穴だらけだ。もう動けない…

頭は運よく大丈夫だったけど…もう動けない…


「ご…めん…クリワナ…」


仆れてしまう。

意識が…もう……うぅ…このままじゃ…負ける…

死にたくない…死にたくないよ…

ここで死んだら…また生まれるのかな…


意識が暗転する。


「あれ…ここは…」


どこ…?ここ。一本道だ…恐い…うぅ…


『あら?貴女はだれ?』


私はビクッと体を震わせる。

なんで私以外の存在が居るの…?二重人格ってやつなの?


『帰りなさい。哀れな子。』


また意識が暗転する。

私は零れそうになった臓器やコアを流れ出た血で抑えながら立ち上がる。

リューテ…リューテは無事…なのか?

……良かった。リューテはゾーンに覆いかぶさってる…無傷だ…

強すぎるでしょ…流石だな…


「ヴァン…大丈夫なのか?」


「あ…ん…ふぅ…ふぅ…」


「無理すんな!あと5%だから!」


ゴーレムは魔法陣を私の頭上に展開する。


「ヴァン!危ねぇ!!」


パリン。


「え…?は?ヴァ…ヴァン、何をした?」

「なんだ…この震えは?…まさか、ヴァン?おい、落ち着け!」


「うぅ…!!ふぅぅー…!!」


魔物は恐れ慄いている。

ズン。ズン。気迫に満ち溢れているヴァンは台地に深く足跡を残している。


「グ…ゴ…オオオオオ!!」


魔物が両手でヴァンを攻撃する。

「跡形もなく潰れるぞ!ヴァン!!」


しかし、ヴァンはあの両手を穴だらけの両腕で抑えこみ軽く千切ってしまう。


「なっ…どんな腕力だ?」

「あっ…ヴァン!避難しろ!100%だ!」


「えっ?あっ?う…あ?」


私は急によろけて倒れる。

「くっ…行くぞ!」


「雷道!!」


バチバチッバチッと黄色いエフェクトを纏わせながらクリワナは一足踏み出す。

次の瞬間、ビュン!と魔物の懐へと飛び込んでいる。


「オラァ!くたばれ!」


ドカッ!と音はなったが、体の破片が飛び散る程度だ。


「くっ…痺れる…早く、次の一撃を…!」


「ゴォォォォォォォォォォォ!!!」


「クっ…リワナ…!上…上だ!」


パキパキパキ…と結晶がゆっくりと迫る。


「クッ……リワナ!!」


「!?。グッゴゴ…オオオオオ!!」


魔物の背後からパキパキと地に落ちていた血の槍が宙で合成され魔物のコアに深く突き刺さる。


ダン!ドン!ダン!

魔物の体はガラガラと崩れ落ち、コアは崩壊する。

その時、奥で倒れているゾーンの鋭い眼光を目にした。


全員、満身創痍だがなんとか勝つことができた。

安心すると、血が…

…寒い…気が…気を…失う…



「ぜぇ…はぁ…はぁ…勝った…」


掠れた意識の中で皆が戦闘不能になっていたのがわかった。トドメが間に合って本当に良かった…

首が上がらない…血が…血が足りない…?

血…誰か、血を…血を私に…


生暖かい…不味い。

「…誰」

「あたし、あたしよ、リューテ!」


「リューテ…ありがとう…」

「うん、それでさ、クリワナとあたし以外皆重症なの!回復したら手伝って!」


「…わかった」


リューテの手首から出ている血にしゃぶりつく。


「ちょっと、あまりしゃぶらないでよ!あたしがゾンビになったらどうすんの!」

「ぷはっ…あ〜…大分回復した」


「…あの重症をこのスピードで治すって…どんどん早くなってない?」

「そうか?私としてはなにもわからんな。」


そんな事より…重症と噂のユルドミールとヴァンの姿でも…

なっ…骨が見えてる…えっえっ?ヴァンはある程度再生するが…ユルドミール…?は?

嘘…だろ…神経が…なんか変な液が漏れてる。

ヴァンも…治るより先に失血死するだろ…これは…


「うっ…」

込み上げてきたものをぐっと抑えて戻す。

冷静になれ、私。

二人を治療しないと。

ヴァンの体をひっくり返し口を上向きにする。


「…ヴァン。ヴァンは…大丈夫なのですか?」

すくっと軽く立ち上がりざっざっと重い足をゆっくりと動かしユルドミールは近づいてくる。


「動くなよ!ユルドミール!お前が一番重症だ!」

「私の出血量は…そこまでです。ヴァンを優先します。」


この男…イかれてる。覚悟が決まりすぎてる。


「…まだ止血はしてません。このまま口にポタポタ落とします。」


ヴァンの口にユルドミールの右肩から零れ落ちてる血がヴァンに飲み込まれる。

徐々に血肉が再生されているが…本当に完全に治るのか?


「…もっと、血を…」

「もう辞めろユルドミール。死ぬぞ」


「その時は…私を意思を持ったゾンビに…してください。」

「ごめんだ!辞めろ!」


「…おいユルドミール、なぜ火を出す。お前…まさか…!辞めろ!!マジで辞めろ!死ぬぞ!!」


刀の形に形成された火がユルドミールの傷口を抉る。

流血が激しくなり、ユルドミールの血はどんどん口の中へ放り込まれていく。

確かにヴァンの体は再生していってる。あんなにボロボロで破れていた体がもう原型を保っている。

でも…

「うっ…ユル…もう止めろ…!!」

痺れが少しずつとれてきたクリワナが地面を這いながらユルドミールの足を掴む。


「…まだヴァンは完全に回復していない。私の命が教え子の命になるなら800歳の老人の命なんて安いものでしょう。」

「あとはオレがやる!…死ぬなよ。たった一人の親友なんだから」


「…そうですか。」


ユルドミールはヴァンから腕を逸らし天へと突き上げる。

これ以上の出血を無くすためだろう。

「おいユルドミール、布とか持ってるか?」

「持ってますよ。それが?」


「その腕を縛ってやる。寄越せ」

「…バッグの小さなポケットの中に入ってます。取り出してください」


「…これか」

少し手こずったが、十分な大きさの布を見つけた。白い布だ。

これで反対側の肩から右の肩に向けて覆って縛る。


「…傷口が締まるといいな」

「…ありがとうございます。助かりました」


じわじわと布は赤く染まっていく。

「おいクリワナ!ヴァンの体はどんな感じだ。」

「おう!良い感じに治ってきたぜ!」


私は一息ついた。

木にずり落ち座る。


「全く…予想外の来襲だったな…」

私は何もできなかった…まだまだ力を蓄える必要があるな。


「いや〜にしても今回は死を覚悟したぜ」

「雷道で倒しきれなかったんですか?」


「あぁ、ゾーンがトドメを刺してくれなかったら危なかったぜ」

「らしいですよ。良かったですねゾーン」


「…ふん」


…少しくらい自分に甘くしてもいいのかな。

そういやリューテは?さっきから全く見てないけど。


……なんだ?この背中に走るのは…悪寒か?


「リューテ!!リューテ!!」

「どうしましたか?ゾーン」


「…リューテが見当たらない。呼んでも出てこない…」

「……」


嫌な予感だけはいつも的中して欲しくない。

あの一瞬で誘拐された。

…誰の仕業だ?誰がリューテを誘拐した?

…私が考えられる人物はただ一人だ。


「…ぶち殺す。」


血管がビキビキ浮かび上がるのが自分でもよく分かる。

許さない。許さないぞ。そいつに手を出してみろ。

…殺す!


深呼吸をして感情を整える。


「お前ら、ヴァンが目覚めたら話がある」




「うっ…ちょっと…離して!!誰よあんた!!」

「……五月蝿い」


「なんなのよ!!なんであたしを拐うのよ!!」

「黙れ。殺すなとは言われてる、傷つけるなとは言われていない。」


「喧嘩上等よ!!」

緑のエフェクトが舞い散りあたしを抱えている褐色の腕を斬り飛ばそうとする。

風の魔法の発動には完全に成功した。失敗の二文字なんて無かった。

なんで!本気で、殺す気でやったのに…

なんでビクともしないのよ!

なんで浅い切り傷一つで済むのよ…!


…?

動きが止まった…?

っ魔法陣!?

あたしの顔の前に魔法陣がっ…

「結晶生成サモン・クリスタル。」

「ひっ…!」

魔法陣からあの見覚えのある結晶が…!結晶が!

あたしのおでこに刺さって血が…うう…


「わかった?次抵抗したら…右目は失うと考えておいてください」

「わかったっわかったからっもう抵抗しません!だからやめて…」


眼の前の褐色の女性はため息をつく。

「とんだ甘ちゃんだ。本当にあのゾンビやヴァンパイアに育てられたのか?」


こいつ…ゾーンとヴァンを知ってるの?

一体何者なの…?


「我が主はお前を交渉材料にすると言っている」

「我はお前が交渉材料になるのか不思議で不思議でたまらんぞ。」


「うっ…え?」


蛇に睨まれた蛙。

恐くて目を逸らす程度が関の山。


「大人しくしろよ。」


「…はい」




…太陽は丁度真上にある。

あんなに激しい戦闘を早朝に繰り広げていたのか…朝から疲れるわ。


「ゾーン、ヴァンが目覚めたぜ」

「じゃあ、3人ともこっちに来い」


「くぁぁ…おはよ…」

「死にかけた後のテンションじゃないな…まぁいいか」


「卒直に言うぞ。リューテが誘拐された。」

「だから私たちはリューテを探し追わなければならない。」


「どうやって?」

「…わからない。でも見捨てるわけにはいかない」


「あ〜、風の噂程度に聞いたことがあるから本気にはしないでほしいがよ、この世には『観察の都』なる物があるらしいんだ」

「近く…とは言っても10kmは離れてるらしい…シュルツウォンドから兎に角西に進むとあるらしいが…」

「オレはその噂が本当か信じられん。」


「なるほど…急ぎの用だ。シュルツウォンドに馬を出してもらう事はできるか?」

「あぁ。お願いしてみよう。オレの知り合いに馬車を扱えるやつが居たはずだ。そいつに頼んでみよう。」


「なるほど。ありがとう、クリワナ」


クリワナから聞いた『観察の都』か…一体どんな所なんだ?

ワクワクはしない。ドキドキしかない。


クリワナの頼みで馬車を出してもらっている。観察の都とやらには最低一時間半程度で着くらしい。

さて、こいつらともこの街ともお別れか。不吉な事は立て続けに起こったが…まぁ、悪くなかった。

「それではお元気で。また生きた姿で会いましょう。ヴァン、ゾーン。」

「…じゃあな。その腕の傷…早く閉じれば良いな」


「いや〜内容の濃い300年だったぜ?ヴァン。」

「うん!私も楽しかったよ!…リューテが居ないこの状況が惜しいね」


「本来なら私たちもついていくべきでしょう…でも残念ながら私たちにも任があります」

「だからここでお別れだ!じゃあな!二人とも!」


「ばいば〜い!」

ヴァンは明るく別れを告げている。手を大きく振っている。

「ほら、ゾーンも!」

「え〜私も?…ハァ〜〜…」

小さく手を振る。


二人はいつまでも手を振っていた。ヴァンもそれに振り返していた。

豆粒サイズになった二人はようやく手を振るのを辞めた。


「…なぁ、ヴァン」

「どうしたの?ゾーン」


「私って成長してるかな?」

「ゾーンは成長してるよ。頑張ってるじゃん!」


「……そうか」


馬車に揺さぶられ約6時間。

寝不足か貧血か、それとも戦闘の疲れからか。

心地良く揺れる馬車にうとうとしていた。

丁度いい頭を置く場所が隣に居る。

私はヴァンの肩に頭を乗せる。よくわからないけど、こうしていると落ち着く。




「お父さん!見ててね!」

「お?なんだなんだ?」


「じゃーん!お花だよ!凄いでしょ!」

「おっ!凄いなぁ!綺麗な赤のお花だなぁ」

「これね、お父さんへのプレゼントだよ!お母さんと一緒に折紙頑張ったの!」

「お、嬉しいなぁ。それじゃあ、これはお父さんが大事に持っておくね。」


私は不格好でくしゃくしゃ、良い所が見つからない折紙をお父さんに手渡す。

お父さんは嬉しそうだった。こんなにも不出来なのに。


「…そうか!そういう事か!今すぐ研究しなくては…ありがとうな!これ、大事にするよ!」

「うん!一生の宝物にしてね!」


場面が飛ぶ。


「お父さん、何してるの?なんでお花水に浮かべてるの?」

「お父さんな、お前の花のお陰で思いついたんだ!確実な方法が!」


また、場面が飛ぶ。

夕暮れだ。何処だここは…?


「お父さん?空にぷら〜んって、何をしてるの?」

返事はなかった

「お父さん?ねぇ、お父さん!お父さん!ねぇ!お父さん?」

「お父さん、私の事嫌いになったの?!お父さんなんて嫌い!」

「お母さ〜〜ん!!」




「ゾーン、起きて。ついたよ、ここが『観察の都』…らしいけど」

「ん〜…よく寝た…」

眼の前にあるのは氷の山…吹雪が走る氷山だった。


「…都なのか?これ」

「……中にあるのかな?」


私とヴァンは取り敢えず馬車から降りた。

「ありがとうございました!」

ヴァンがお礼を告げるとここまで運んでくれたエルフはUターンし自身の国へと戻っていった。

「……行くか、行くしか無いよな。ヴァン。」

「うん…そうだよね。行こうか…」

こんにちは!最後まで読んでいただけましたか?いとゆきです!

長々と続いたシュルツウォンド編が遂に終わりました!

本当に長すぎて前の更新からかなり経過してるでしょこれ。

このシリーズ今9万字あるんですけどこの編で5万字あります。

次の編は観察の都編!首を長くして待っててください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ