天空地編
さて、何処に行けば良いのだろうか。私達はしっかりと森を迷いながら不用心に突き進んでいた。
旅の疲れを癒やして倒れた丸太に座っている時ヴァンがコウモリ化して空から何か無いか見てくると言い、空に飛び立っていった。私は疲れを癒やすように座り込んでいた。すると、ドシーンと大きな物音がした。
私は慌てて立ち上がると、ヴァンも空から戻って人間の形に戻った。すると、ヴァンは何が起こったかをちゃんと視認していたらしく、私に状況を伝えた。
どうやら、天空竜の♂♀夫婦の内の♂が突如飛行中に落下し、森に激突して不時着したとのこと。私は別によくある事故みたいな物だろうとヴァンを諭した。しかし、ヴァンはそんなニュース人生で一度も聞いたこと無いらしく、落ち着いた状態では無かった。
「ワイバーンってそんなに飛行安定してるのかよ?」
「えぇ…いつか新聞で見た記憶だと…時速200km以上出して尚且つ72時間以上飛べたような…」
なるほど。でも普通にあり得ることでは無いか?私がそう思い、そのままヴァンへと問うと、ヴァンはこう返した。
「確かに、文字列だけ見るとね…でもワイバーンは飛行方法がちょっと特殊なの」
「特殊?」
「まず、背中にある大きな翼で飛ぶわ。これで最大24時間飛べる。そして残りの48時間は魔法で飛ぶの」
「魔法?そんな物存在するのか?」
「わかんない…存在するのなら、使ってみたいわね!」
「普通は魔力切れになる前に着地する筈…なのに不時着って事は…予測できなかった事態があったんじゃないかしら?」
「なるほど…それで、行くのか?その何か合った場所に」
「行ってもいいけど…随分と遠いよ?それにメリットがある訳じゃないし…」
「まぁな…でも、ここは好奇心でも信じてみないか?」
「………ゾーンの好奇心は物事を悪い方向に動かす。」
「はぁ!?失礼じゃないか!?」
「事実だもの。まぁでも、そこまで行きたいなら行きましょ。」
「……まぁ、ヴァンの言っていることも一利あるしな。ここは行かなくても良いか。」
「あっ行かないんだ…まぁ、いい選択かもね。」
「あぁ。それで、何か見つけたんだよな?」
「まぁ、他に見つけた物だと少し発展してる“東衆村”を見つけたわ。そこに行く?」
「それ私達怖がられない?殺られない?大丈夫?」
「大丈夫でしょ。私達強いもん」
そうして、私とヴァンの足は東衆村と言う所に足を進めていた。
「東衆村に向かう」
そう宣言してからすでに一ヶ月が経っていた。
私達は、食料をどうにかできないか画策していると、獣の血でも代用できないかとヴァンが閃いた。
私達は早速狩りをして、それで獣の血を飲んだ。人間の血よりも不味く、喉にへばりつく味だった。
それに、人間のより食事をしているという感覚がない。あんまりエネルギーが溜まっていないのだ。
やはり、食事は人間の血が最適。そう思いながら、私は獣の血を啜った。
ヴァンはどう思っているのかは知らないが、嫌そうな顔をして血を啜って居た。
そんな生活を続け、私達はついに東衆村の狼煙が見えた。私達は力を振り絞ってそこへと駆け出した。村の全貌が見えようとする頃、私達は見た。上半身が人間。下半身が「鷹猫」の様な魔物が村の畑や家の屋根を吹き飛ばしていた。しかし、人間には被害が何も無かった。意図して被害を他の場所に逸らして居たように見えた。
私はそのグリフォンを止めるべく、指先から血を放った。その血は見事、彼女の腹を貫いた。その後私が血の操縦権を再び握り、彼女を拘束した。
「大丈夫ですか!」とヴァンが村人達に声を掛けた。すると村人達は私達を英雄と称えた。胴上げをした。しかし、私達アンデッドと言う種族は日光が当たり前のように苦手だ。お天道様に照らされた私達は肌が焼けるように痛くなった。というより焼けた。
その焼けた肌に村人達はビビって離れて行く。私達はダンと地面に叩きつけられ、弱々しくゆっくりと日陰に這い寄り、暗闇の中に隠れた。割と瀕死の私達は為す術無く村人達に地下室で拘束された。そこには、白髪の髪に一部青竹色をした、黄色い龍の角を持つ少女。白い布切れ1枚着ていると言って良いのか際どい格好の見る限り9歳くらいの少女が居た。
私とヴァンは驚愕した。お互いに顔を見合わせて、これからどんな動物実験に近しい事をされるのだろう。と思ったら冷や汗が止まらなかった。私達は再び顔を見合わせて、コクリと頷くと、血を乱射した。
乱射された血は勢い良く部屋中を跳ね回り、あっという間に村人達を拘束した。そして、そこで私達は初めてその少女に声を掛けた。
「ねぇ、君。何ヶ月ここに居たの?何された?」
しかし、その麗しい少女は口をパクパクさせただけで、言語や声は一切出てこなかった。しかし、ヴァンは聞こえたのか少し悲しげな表情で「そう…」と呟いた。
「ヴァン?何か分かったのか?」
「この子、喋ることができないらしい」
ヴァンは確実に成長している。それに比べて私は…
私がそう落胆をしていると、ヴァンはしっかりと私をフォローしてくれた。
「ゾーンもちゃんと成長してるよ。それに、久しぶりに子供らしいところ見せたじゃん」
私よりも6歳年上だからって急に…急に年上ぶってムカつく。私はその天狗の鼻を折るようにヴァンの弱い所をくすぐる。
「ひゃあ!?ゾーン!?急に何!?」
「ムカついた。大人の威厳なんて捨てろ。」
「あふふ…元々そんな物持ったつもりは無いよ…」
私達のそんな哀れかつ滑稽な姿をみて、目の前の少女はくすくすと笑いを上げた。この子を安心させられただけで私達のじゃれ合いは意味がある。私はヴァンをくすぐる手を止めて、少女を拘束する縄を取り除こうと動かした。
すると、村人達の声が聞こえた。憤怒の様な感情に包まれた醜い罪の声。何故だかわからないが、私は村人達の声をそう認識してしまった。仲間が拘束されて敵と認識したのだろうか?私は落ち着かせようと、話による和解ではなく制圧を選択した。
わざと不格好な斬撃による一撃をくらい、血を大量に出して一気に村人達を拘束することに成功した。しかし、私は何も考えていなかった。出血多量による貧血で眼の前が真っ暗になり、私はバタンと倒れた。
そうして気がつくと、ベッドの上で村人の血を飲まされていた。傷も大分回復している。ゆっくりと上半身を起き上がらせて、ヴァンに質問を投げかけた。
「ヴァン…私が気絶してからどんだけ経った…?」
「あなた本当に生きてるの…?ゾンビと言えど痛みとか…無いの?」
「え…?痛みはあんまないけど…それで、気絶してから何時間経った?」
「十分も経ってないわ…」
「は…?」
あれだけの傷を十分要らずに癒やした私の回復力のせいなのかは知らないが、ヴァンは先程の少女を膝に乗せて私をまるで四神獣の一体でも見たかのような目で見つめてくる。私は謎に気まずい空気を変えるべく、あの後どうなったかを聞いた。
私が気絶した後、村人達は私の血によって拘束され動けなくなって居たようだ。私が撃ち抜いたあの魔物がどうなったかを聞くと、私が回復するまで外で待つようヴァンが命令したらしい。何故従順に命令を聞き入れているのかは不明だが、今のところ特に異常性は無いとのこと。
私はベッドから飛び降り、その魔物に事情があるのか、とか何故いきなり村を襲ったのか、とか聞こうと裸足のまま外に飛び出た。その魔物は地面に座り込んで寝てしまっていた。下手に刺激を与えると再び暴走する可能性がある為、私はその魔物がどのような武器装備なのかを確かめようとした。
まず、上半身からだ。茶色できらびやかに太陽光を反射する髪、褐色の肌。そして、長く手入れされていないような茶色の翼。胸を覆う古くくたびれ色褪せた布は、獣臭い匂いを発していた。替えが無い上に本人の了承を貰っていないので一旦そのまま置いとくことにした。
次に下半身だ。やはり、ライオンのようなその下半身は、翼も含めてグリフォンの特徴だと言えるだろう。私はこの子がグリフォンだと確信した。
私は彼女との対談を求めて、起きるのを待つ事にした。村人達が私やヴァンに襲いかかってこない所を見て、なんとか和解に成功したと解釈し、起きたら教えて。と伝え私は再び家の中に入っていった。
家の中ではヴァンが膝にちょこんと乗せた少女に対して何があったか聞き出そうとしたが、言葉が通じないらしく苦戦していた。そうして私はある提案をヴァンに持ちかけた。
「その子、喋れないみたいだし言語とか教えて育てない?」
「は?何言って─」
「喋れないなら教えればいい。」
「自分が無責任な事言ってるの分かってる!?そもそも喋れないのも病気のせいかも知れないんだよ!?」
「確かに無責任かも知れない。だが、ここの住民にイジメ倒されるよりかはマシだ!」
私は言葉を荒げた。東衆村の住民は微塵も信用できない。窮地を助けたというのに。アンデッドと分かるなり攻撃をした。しかし、私に血を提供し回復させたのは事実だ。確証は無いのだが、ヴァンパイアの血では流石に再生速度は遅くなるだろう。十分以内ではできない。一ヶ月で再生速度がそこまで速くなるのもおかしい話だ。
私が張り上げた声にビビり、白髪の少女はヴァンの後ろに隠れた。もうすっかりヴァンに懐いた様子で、頼りにしているようだ。ひょこっと顔を出して私を畏怖する表情で顔色を伺った。
「はぁ…分かったよ。もうこの子も懐いちゃってるしね。」
ヴァンは緑髪の少女を撫でながら返事をした。白髪の少女は気持ちよさそうな表情を浮かべながらヴァンの服をしっかりと掴んでいた。私が一歩を踏み出すとビクッと反応し完全にヴァンの後ろに隠れてしまった。
私にはすっかり警戒しているようだ。私もこの子助けたのになぁ…
そうやって勝手に傷ついていると、村人達からグリフォンの子が目覚めたと報告があった。私とヴァンとヴァンにくっついていく形で緑髪の少女も外に駆り出された。グリフォンの子は地面にあぐらをかきながら頭をポリポリ掻いて居た。
「いきなり直球だが、どうしてこの村を襲ったんだ?」
私がグリフォンの子に向かって口を開き、敵意がわからないように聞いた。
「本当に直球だ。久しぶりに懐かしい気がしたんだ。どうしてかは知らないが、俵をその辺に捨てて飛び出そうとしてしまってね。村の人達に怒られたのが何故か頭に来て…ごめんなさい。」
「悪意は無いのか?」
私はあまり強い口調にならないよう、語彙をちょっと和らげて聞いてみた。
「うん…悪意とか敵意はありません…」
しっかりと反省をしているようだ。だが、発作的なようなものらしく抑える事はできないらしい。私達の旅はいつでも食糧難なのに二人も一気に加わったら流石に参ってしまう。そこで、私達は戦力と夜間の警備を条件に村人達から家を用意してもらった。夜間の警備は滞在している間だけなので、お互いwin-winの取り引きだろう。
村人達も“これで夜間も安心できる!”とのような事を言っていた。ヴァンがその事について聞いた。どうやら、最近ここらに狼の群れが居るらしく、近くの村もそれにやられて半壊滅状態らしい。
もしかしたら、私達は相手にするのはマズイ連中を相手することになってしまったのかも知れない。私は内心焦りながらもポーカーフェイスを保とうとした結果、冷や汗だけがダラダラと垂れてしまった。ヴァンは余裕そうに涼しい顔で話を進めていた。
私達が村の人の話を聞いていると、女性の叫び声が聞こえてきた。私達もそこに向かって駆け抜ける。そこには、ボロボロで厚着。白髪の女性が倒れていた。傷だらけでなにより特筆すべきは、髪を突き抜けた長い犬のような耳と尻尾である。
その二つの特徴は今さっき聞いた狼の情報に似ていた。それに臆せずヴァンはその狼の子を担ぎ村の私が先程まで寝ていたベッドに運んだ。私はそんなヴァンの後ろ姿を見ていると、グリフォンの子が話しかけてきた。
「あの人意外と根性あるんだ。ゾンビ、君は行かないのかい?」
「ゾンビじゃなくてゾーン!」
そして、私は大事な事を思い出した。
「あなた、名前は?」
「やっと聞いたか…私はリーフォンだ。リーフォン。遠い昔飼い主様から貰った名前だ。」
「へぇ…飼い主ってのは?」
「それは…忘れた。もう歳なんだ。記憶くらい幾らでも忘れるさ。」
「へぇ…え?20歳そこらじゃないのか?」
「私は240歳は越えてるよ。そろそろ寿命だろうし。」
「えぇ…?見えねぇ…」
「そういう物だろ。魔物って」
「まぁ。そうかもしれない…。そうか?」
「そうだろ。知らないのか?魔物の死亡の原因は魔力が抑えられなくなって自らコアを割ることなんだぞ?」
「そう…なんだ。じゃあ私にも寿命があるってこと?ゾンビなのに?」
「別に適度に魔力発散できるなら死な無いんじゃないか?魔力の増幅度合いとコアの劣化について行けるかが問題だけども」
リーフォンの言っていることは余り頭には入らなかった。ちんぷんかんぷんだ。しかし、ゾンビには寿命があることが分かった。『コア』とはなんだろう?
私はその事に疑問を持ちながら、一旦話を終えてリーフォンと共にヴァンとぴったりくっついていった白髪の少女の元に向かった。
私とリーフォンがあの狼の少女が運ばれた家に向かうと、ヴァンが徹底的に治療して、白髪の少女はヴァンの向かい側に座ってそれを村人達が囲んで見ていた。私とリーフォンは村人達の間をするすると通り抜けヴァンに声を書けた。
「ねぇ、ヴァン。どう?その子の調子は」
「あっ。ゾーン。ぼちぼちじゃない?効いてるかも分からないし…」
「そうか…医療技術あったんだね。ヴァン」
私はヴァンを褒めた。褒めたのだが、ヴァンには煽りと受け取られたのか華麗にスルーされた。
そして、リーフォンが唐突に声を荒げた。
「この子!私が噂で聞いた子の特徴と同じだ!」
私は動揺しつつも、冷静に質問を投げかけた。
「噂って?」
「狼の群れが来る所にはこの子が先に偵察しに来るんだって。狼のリーダー的存在なんだよ!」
「なっ…そんな凶暴な奴なのか!?」
私とリーフォンの大きな声の会話を聞いた村人達もざわつき、ヴァンがその場を静かにしようと一喝した。
「その噂が確かでも!この子は今動けないくらい弱ってる。だからまずは様子見にしない?」
一瞬シーンと静まり返るが、一人の男性の批判をスイッチとして次々に村人達がヴァンに批判を飛ばした。
「ふざけるな!それで我々が死んだらどうするんだ!」「どうやって管理をするつもりだ!」「我々の命をなんだと思ってる!」
村人達の批判は収まらず、優しく命の価値を理解しているヴァンは狼の少女か村人達の命かを天秤に掛けることになった。ヴァンは結局選ぶことができず、涙を目にためてしまう。私はヴァンに『時にはどちらかを捨てることも大切』と伝えると、ヴァンは涙を拭い、狼の少女の手当てを再び始めた。
その行動に更に批判が飛ぶが、村長、「ウィフル・マーシャルフリルク」が一喝。村人達を黙らせた。そして、ウィフルさんがゆっくりと口を開く。
「我々とヴァンさんは協力関係にある。どちらもその関係を壊したくない筈だ。無駄な言動は控えよ。」
威圧感のあるその言葉は村人達を完全に黙らせた。その後は沈黙が続き、特に何も無くヴァンが治療を終了させた。そうして、私はヴァンに話しかけようとしたのだが、話題を忘れてしまった。取り敢えず労いの言葉を掛けた。
「お疲れ、ヴァン。」
「ありがとう…疲れた。今日はもう…寝たい」
私はヴァンの服の裾をちょんと掴んでいる白髪の少女を見て話題を思い出した。この白髪の少女に名前をつけることだ。
「ヴァン、この子に名前付けよう。」
「え…?あぁ…分かった」
「……この子前々思ってたけどどこかワイバーンに似てるんだ。髪とか。角なんてまんまそう」
「ワイバーンが人になるわけないだろ。まぁでも似てるのなら…『リューテ』とかどう?」
「どうやって付けたの…?」
「ワイバーンって漢字で天空龍って書くでしょ?そこから」
「そうなの?よく日本語なんて知ってたね…」
「お父さんが日本人の家系で…まぁ、リューテでいいかな?」
「私は問題ない。案なんて思い浮かばないし」
「じゃあ決定ね。今日からこの子はリューテ!」
肝心のリューテはポカーンとしており、何が起こったか分かっていない。何故ならば言葉が通じないのだから。そこで私はジェスチャーという方法を思いついた。自分を指差して、『ゾーン』と喋り、ヴァンを指さして『ヴァン』と喋った。
リューテは相変わらず目を丸めて居た。
「……まぁいいや。徐々に学んでいこうか。さてと…こっちも重用だよね。リーフォン。あの子が狼のリーダーっていう噂、聞かせてくれない?」
「ん?いいよ」
「最近ここいらの村で話題になってんだ。この村には情報が届かなかったらしいが。重点的に山奥の村から潰されているからかな?あの銀髪の狼の耳を生やした少女は毎回ボロボロでやってきてその晩、狼の群れがその少女の元に集まり村人達を食い殺しているって事件だ。だから狼を導く役としてその少女がリーダー的存在なのでは?と囁かれているんだ。」
「なるほど…思ったより確実に来るんだな」
「じゃあ今晩にでも狼の群れ来るんじゃ…ゾーン。徹夜を覚悟するよ…」
「あぁ…そうだな。リーフォンも倒すの手伝ってくれないか?」
「いいよ〜」
「そんな軽々と…??」
「私飛べるし。死にはしない」
「まぁいいや…協力ありがとう。それで、あの狼の少女リーダー説。あれが本当ならもうあの子は取っ払ったほうがいい。どうする?」
「罠として活用するのはどうかしら?リーダーが襲われていたらまず先にそっちを助けない?」
「なるほど…それにしよう。」
「じゃあ、ヴァンはリューテに言葉教えるなり寝るなりしていてくれ。こんな真っ昼間から寝れるとは思わないけど」
「ゾーンはどこに行くの?」
「血を求めて…」
「あぁ…了解」
「はぁ…誰も彼も血はくれないなぁ…」
私は血を求めて色んな人の所を回っていた。ゾンビに血を提供したらゾンビになるとでも思っているのか。それとも血がなくなるまで取られると思ってるのかは知らないが、私に与えられた血は何も無かった。村長の所にも行ったのだが、村長も恵んではくれなかった。
まぁ。見返りも無いのだから仕方は無いのかも知れない。私がそう一人でぼやいていると私の肩をトントンと叩く者が居た。リーフォンだ。
「ん?どうしたんだ?リーフォン。」
「血の収集はどんな感じかなって」
「…全く集まんない」
「そっか。お疲れ。先に言っとくけど私は恵まないからね」
「お前もか…先手打ちやがって。」
私は苦笑いをしながらちょっときつめの言葉でリーフォンにそう捨て台詞を吐き捨てた。そこら辺に血落ちてたら良いのに。血の成る木でもあればいいのに。そう思いながら小石を蹴った。
結局収穫は無く、私はヴァンの居る家へと戻った。扉を開けてリビングに向かうとヴァンはリューテに一所懸命に言葉を教えていた。田舎訛りが強い英語をリューテに教えていた。リューテもヴァンの言葉を繰り返し発音して頑張って覚えようとしていた。
「あれ?寝たんじゃなかったの?ヴァン。」
「あの後起きちゃってさ。リューテに言葉教えてたんだ」
「へ〜。頑張って。」
私は適当に地べたに座り、今夜来襲するであろう狼の群れについて考えた。リーフォンによると狼の種類は人狼、ライカンスロープとも言うらしい人間並みの知能がある狼らしい。聴力、嗅覚もえげつなく更に見た事も真似できるとか。それが大群で来るのだから厄介な相手に成りそうだ。見た目は白銀の体毛に2m程の大きさ、それに尻尾と耳なのだとか。
リューテは私とヴァン、リーフォンが狼と戦っている間はこの家に居てもらおう。元々の住民も居るし少なからずは安全だろう。
まだ空が黄昏に染まり残照に照らされるのには時間がある。私も仮眠を取り休憩をする事にした。空が不安で暗くなる前に起こしてくれとヴァンに伝えてから私はその辺に寝っ転がり、目を閉じる。
私は疲れて居たのか、睡魔に襲われるのが速くすぐに夢の中へと入っていった。そこに広がる一面は闇。その中に一つ白光りした道が見えた。私は不信感を覚えその道に足を踏み入れる事は無かった。そして私はその道の先に一つの人影がある事に気がつく。白髪、そして女性。それしか分からなかった。そして一歩一歩確実にこの白い道を歩み締めて私から遠ざかっていった。
私はただ。それを見ていた。歩く事も喋る事も無かった。
数秒後、私の足元が抜け、落下する感覚に襲われた。次の瞬間、私は青空の下に居た。やけに身体が軽く感じた。周りを見回すとそこには偉大な死体の山があった。何故偉大に感じたかは分からなかったが、その死体の山はどれも一つ一つが偉大な物の気がした。
私は後ろを振り返るのを辞めると、シーンが変わっていた。
私の家が放火される夢。その炎はこうこうと燃えていて勢いは留まる所を知らなかった。
瞬時にシーンが切り替わった為、それぐらいしか分からなかった。次の私の目に写った映像はリーフォンが私の彼氏と浮気する映像だった。
勿論、私に彼氏なんて居るわけがない。それもまたすぐに映像が切り替わった。
知らない白髪の子。その子に感動して泣く夢だった。
次に写ったのは数々の星が消えて無くなっていく光景。とても汚いとは言えず、綺麗だった。私はそれを暫く眺めて居た。
そしてシーンは一転。私の腹部はヴァンにハサミで刺されていた。痛みが物凄く、私は叫び声を上げた。しかし何度も刺されることはなくグリグリと腹に刺さったハサミを回し肉を抉っていた。痛くて痛くて涙が零れ落ちた。
私は飛び起きた。窓から見える空はすっかり青空ではなく綺麗な橙色に染まっていた。ヴァンと目覚めの挨拶を交わした後ヴァンは私にどんな夢を見たのかを聞いた。
しかし、私は夢の内容を殆ど覚えていない。別に必然のことだろう。ただ、痛かった。痛みだけは覚えている。それに涙を私は零していたようだ。現実でも連動して泣いてしまっていた。
私は涙を拭き取りワーウルフの群れに備えてビシッと気を引き締めた。
「日没だ。そろそろワーウルフが来るはずだ。ヴァン。リーフォン。」
「分かってるよ。あのリーダーの元に来るんでしょ?」
「そうそう。私達はそれを狩るだけ。楽なお仕事よ」
二人は私の呼びかけに自信たっぷりな返答をした。胸を撫で下ろし深呼吸。口角を上げ腕を組み堂々と仁王立ちをした。
空は黒く染まり、一つの月光が私達を照らした。その時、森奥から狼の遠吠えが聞こえ、私は再び気を引き締めた。ヴァンも同様だろう。自分から守ると言ったのだから。ヴァンはそういう奴だ。それに引き換えリーフォンは能天気に欠伸をしている。すると、リーフォンが何かを感じた。
「ゾーン、ヴァン。狼の足跡。かなり多いよ」
かなりと言っても、精々数十匹程度だろう。私はそう思っていた。そう思っていた私は愚か者だった。
白銀の毛色が見えた頃には、私は開いた口が塞がらなかった。私とゾーンの視界に入るのは何百もの狼。一つの生物かのように蠢きながらこっちに近づいていた。
「あ…あの量を捌くのか…?あんなの無理だろ…」
私はそう妥当とも言えるであろう事を呟き、絶望に包まれた。怖気づき手足が震えてまともに行動もできない。ヴァンも絶望に包まれただろう。
しかし意外にもヴァンは希望を捨てては居なかった。
「弱音を吐いてちゃいつまでもそれで終わり。私は捌き切る。」
ヴァンも震えているくせに、拳を握りしめて胸の前に置いた。なんとも言えない気まずそうな顔でヴァンは更に続けて言葉を並べた。
「私だって怖い。でも約束は必ず果たさなくては。私の騎士道って奴に反する。」
「ほらほら。勇気づけるのも大事だけど前向いて〜。来てるよ。ワーウルフ」
私は脱力していた拳をぎゅうっと握りしめた。自然と震えも収まった。
先頭に立つリーダーっぽいワーウルフが道を防いだ私達に噛みついて来た。ヴァンは華麗に回避していたが、私はわざと喰らわれた。それと同時に。ワーウルフに血を注いだ。
注いだ血はワーウルフの中で暴れ、ワーウルフの胃を突き破りワーウルフの身体中を目茶苦茶にした。
リーダー格らしいワーウルフは一先ずは倒せた。慕われていた個体を倒したことで私にワーウルフが集まり一斉に噛みつこうとした。それをヴァンとリーフォンが防いだ。
噛まれた腕を更に傷つけて、血液を大量に放出させた。リーダー格のワーウルフの周りに血を垂らし私は一噛み。
ワーウルフをゾンビ化させた。
今すぐ目覚めるとは限らないが、少しでも駒を増やしたい。それに、私も少しは回復ができた。血が垂れ流れていた傷口が塞がるぐらいには。
そして私はある事を思いついた。即興だがもしかしたら一気に優先になるかも知れない。そう思いリーダー格のワーウルフ周りの血を掻き集め形成。短刀。ダガーのかたちに整形した。
そのダガーでワーウルフに傷をつけた。この血のダガー。そんなに斬れ味はよくはなかった。ただ、傷をつけられればそれで充分だ。
後に効果は出るだろう。しかしこの数。流石に捌き切ることは出来なかった。次々と来るワーウルフに私は左腕を持っていかれた。
「くっ…うっぐぅ…」
痛覚が鈍っているとは言え、時間が経つに連れ痛みはだんだん増幅されていく、速く腕を取り返さなければ。苦痛なんぞ味わいたくない。
私はそんな気持ちから血のダガーを逆手持ちし私の左腕を持っていったワーウルフの脳天目指してダガーを振りかざした。
しかし、吹っ飛んで来た何かが私に激突し、私はそれと共に地面に転がり落ちた。それと、最悪な事にダガーを手放してしまった。
「痛た…何が飛んできたんだ…?」
砂埃が舞いすぎてシルエットぐらいしか見えなかったが。充分だった。
飛んできたのはヴァンだった。私は体勢を立て直すべく辺りを見回した。すると何十匹ものワーウルフがこっちに近づいてきている。
「ヴァン!体勢を立て直そう。すぐ奴らが来るぞ!」
しかし時既に遅し。唾液にまみれた牙でヴァンの顔に一匹のワーウルフはかぶりつこうとしていた。しかしヴァンはコウモリ化してなんとか回避することが出来たようだ。
ヴァンは回避することができたが、私はゾンビだ。首元をがぶりと行かれてしまった。狼が右へ左へと首を回し首元を噛みちぎった。
痛くて痛くて叫び声も上げたが悲痛な声は血に書き換えられた。私の喉からまだこんなにあったのかと言わんばかりに血が出てくる。なんとか回復しなくては。
そう考えた私はその血で喉を噛みちぎったワーウルフを血で貫いた。狼は吹っ飛び地面に転がりのたうち回る。私はその狼から喉元の肉、皮を取り返しちぎれた所に押さえながら狼の血を啜った。
狼はみるみるミイラになっていく。私の喉は見事に接着し、なんなら血の量も回復できた。
私は立ち上がると、あの左腕を持っていったワーウルフを仕留めにかかった。ゾンビ化させたワーウルフも目覚めたようで、命令を出してそのワーウルフを追い詰めた。他のワーウルフも周りには居たが、リーフォンとゾンビ化したワーウルフが抑えていてくれた。
私は私は左腕を取り返すと切断目に左腕を押し付け、ワーウルフの血を吸った。
すっかり骨だけになったワーウルフは。利用価値も無かった。
そして続々とダガーで傷を付けたワーウルフ達がゾンビウィルスを取り込んでゾンビ化していった。そのワーウルフも手駒に加わり、形勢はどんどん優勢になっていった。
ワーウルフの数も120体程減ってきた。だが、まだまだ居る。後ざっとみただけで600は居た。
留まることの知らないワーウルフの大勢に。私達は押し込まれてしまった。急激にこっち側に来る勢いが強まった。どういうことだろう?
ワーウルフ達の向かう先には狼の少女が居た。ワーウルフ達を導いた時点であの少女の役割は終わっているはずだ。救出するにも邪魔者を倒してからでも遅くはない。
ならなぜ、一斉にあの少女の元へと向かうのだろう?
ワーウルフ達はあの少女の下に集まった。木に貼り付けにされている少女の下に集まった。
私達はワーウルフがあの少女を助けようとするのを阻止しようとした。だが、ワーウルフ達の様子がおかしい。
まるで、少女を殺す勢いだ。助け出そうにも。あんなに強く足を噛むだろうか?あれは私の左腕を千切った時と同じ。いや、それ以上の力だと思われる。
あの子はリーダーではないのか…?リーフォンが囁いたのが説だとしても、あんなに間違いは無い様に激しく主張していた。だが、目の前のワーウルフ共の目は獲物…と言うより、それ以上に殺意を向けられるもっと別の物を狙う目だった。
あの狼の少女はワーウルフの仲間ではない──
──だとしたら、リーフォンの流していた情報は─
「動くなよ。ゾーン、ヴァン。動いたらこの子がお陀仏だよ?」
宙に浮くリーフォンに抱えられているのは、家に籠もって安全な筈のリューテだった。最悪な事になってしまった。リーフォンは最初から味方じゃなかった。過信しすぎていた。
リーフォンは最初から裏切るつもりだった。
「なっ……どういう事!リーフォン!!」
「どういう事も何も。見ての通りさ。ある男と私は契約のような物を交わしていてね。条件は私の失われた記憶を全て取り戻す事と引き換えに。あんた達を殺す事」
そう言うリーフォンの姿は隙がない様に見えた。いつでもリューテを殺せるような姿勢だ。私はその隙の無い姿勢に一歩後退りした。するとリーフォンは目を見開いて反応した。
「おっとぉ…私言ったよね?動くなって。」
そう言うリーフォンの指先から緑色の何かが集約され一つになりリューテの喉元を掠った。
「本当に一歩も動いちゃだめなんだよ?今回は初回ボーナス的な?でも。次は本当に殺るよ」
「リーフォン…貴様…!!」
「あ〜ほらほら。余所見してると喰われちゃうよ?」
確かにワーウルフがヴァンの腕に噛みつこうとしていた。しかし腕だけがコウモリになりヴァンはコウモリに噛まれることは無かった。しかし動きを見せた為リーフォンは指先に何かを集約させた。
しかし集約させるまでは隙があった。その隙をヴァンは透かさずついて攻撃を逸らす事に成功した。ヴァンはリーフォンに接近することに成功し、リーフォンの片腕を抑えた。
「ゾーン!撃て!!」
私はヴァンの言葉でハッとしすぐさま人差し指をリーフォンに向けた。しかし、リューテを身代わりにされてしまい撃つことができなかった。
ヴァンはそれに気がついたのか、リーフォンの腕を離し、がっちりリューテをホールドしている腕に電撃を放った。本当に極小の電撃だった。
私はヴァンが電気を放てることに驚きつつ血を使ってリーフォンの腕に抵抗しリューテを解放しようとした。しかし、力不足ではあった。その分はヴァンが補ってくれた。
ヴァンは電撃を放った後自分も痺れたらしいがどうやら存外痺れた時間が短くすぐに動けるようになったのだとか。ヴァンがコウモリ化を使用し、リューテを助け出した。
だが、それを逃そうとしないのがリーフォンだった。集約された何かはヴァンのコウモリを捉えた。一体のコウモリを貫通したそれは私の髪を擦った。ずっと私は疑問に思っていた。どんな力を持っていて私達に隠しているのだろう。と。
村を襲っていた時とは違う部類の風だった。例えるならあっちは生物グリフォン本来の力でこっちは超常現象的な物だ。
コウモリの一部を貫かれたヴァンはリューテを運んでいる最中にコウモリ化が切れて地面にダイブしてしまった。泥まみれの顔を拭ったヴァンは何処が貫かれていたかというと、右手だった。手の甲がポッカリと空いてしまっていた。
「ぐぅ…うぅ…」
「ゾーン!!」
「仲間を気にかけてて良いのかな?」
激昂したリーフォンが風を集約させながら私を睨んだ。まずい。風が飛んでくる。リューテには当たらないものの致命傷は避けられなさそうだ。そんな余り意味もない分析をしている内に、私は風に貫かれた。胴を。
内臓がグチャッと潰れた嫌な音がして、口からは血。地面も赤く染まった。
「うぐあァァァァァ!!痛い!!痛い!!痛い痛い!!」
どうしてかは知らないが寝て起きたら明らかに痛覚が戻っている。あの時は身体が疲れていたのだろうか?良質な睡眠を取って、披露なんてぶっ飛んで真っ当に痛みを感じる身体になったのだろうか?
そんなどうでも無い事を考えている暇があれば身体を治せ。血を啜れ。私はワーウルフを呼びその血を吸ってみた。今も吐血が続いており上手くは吸えなかったが涙で溢れた顔をワーウルフのモフモフな体毛に押し付けることでなんとか血を吸うことに成功していた。
私の潰れていた内臓はちょっとだけ回復した。貫かれた肉も、皮膚も。リューテを庇いながらワーウルフ共とリーフォンに立ち向かう。これじゃあ骨どころか首も折れてしまう。肉を切らせて骨を断つではなく骨を切らせて肉を断つになってしまう。
助っ人なんてそんな都合よくは来ない。強いて言うなら村長率いる村人たちだろうが、出てこないだろう。後見込みがあるのは。狼の少女くらいだ。
もう。その一か八かの賭けに掛けるしか無かった。
「ヴァン!少しの間耐えててくれ!」
「何か策を思いついたの!?わかった!」
私はワーウルフを操ってあの少女に群がるワーウルフを全て退かし、あの少女の足元へと駆けていった。彼女の縄を解き抱き寄せると、起きるように鼻を摘んだ。
狼の少女は意識を取り戻した。そこで私はある提案をした。
「お願い!話を聞かずに張り付けにしたのは謝る!それに安全を約束する!だから力を貸して!」
「は??何が…?え?どういう状況…?」
「よし!ついてきて!一緒に戦って!」
「なっ!?…嫌…嫌だ…」
目の前の少女は足をすくませて怯えてしまった。ワーウルフと何か合ったことには違いないのだろう。それを解決させる事はできないだろうか。しかし問題が分からない。直接聞くのが一番楽でわかりやすいだろう。
「ワーウルフと何かあったんだろう?この戦闘が終わったら私がその問題を解決してあげるから。今は協力してくれないか?」
「…分かった。また皆と暮らしたいし…」
「よし。交渉成立!じゃあヴァンが耐えてくれてるから!速く行こう!」
「えっ…どこに行けば…?」
「ついてきて!」
「うん…」
私はヴァンの元に駆けつけた。勿論狼の少女と共に。あんなに居たワーウルフは私のゾンビワーウルフ総出で抑えてくれている。
私はそれに目を取られているとハッとヴァンを助けることを思い出しヴァンに視線をやった。ヴァンは既にボロボロで右腕なんからダランと力無く折れていてこの戦いではもう使う事ができなくなっていた。ヴァンの目からは涙が微かに溢れており今にも涙腺が崩壊しそうだった。
私達が駆けつけた事に気づき私達に目を取られたヴァンはリーフォンに一瞬の隙をつかれて右膝を撃ち抜かれてしまった。撃ち抜かれた右膝はポッカリと穴が空いてありヴァンは痛そうに涙を流しながら地面に真正面から倒れそのまま気を失ったようだ。
私は血を指先に貯め始めると狼の少女は分身をし3対1の状況を作り出した。狼の少女が踏み込んだ地盤は割れており二名の狼は一気にリーフォンに接近していた。
リーフォンはそれに対応し片方を足蹴にし吹き飛ばし、片方を風魔法で貫いた。幸いにも貫かれた方は分身であり分身は心臓をピンポイントで貫かれ徐々に目から光を失い墜落。分身は霞のように消え去り狼の少女の元に戻っていた!
「狼!大丈夫か!」
「狼じゃない!私はカンライと言う名がある!」
カンライは再び分身。今度は飛び上がらずに地表からリーフォンに近づいた。リーフォンは空中からカンライを風魔法で狙撃しカンライの左手の甲を貫いた。しかし貫いては無くただ逸れていた。ただしカンライの左手の小指は宙に飛んでしまっていた。
「カンライ!」
私は血を貯めながらもカンライに心配の声を荒げた。するとカンライは何も言わず歯を噛み締めて飛び上がりリーフォンに向かって拳を叩き込もうとした。リーフォンは焦った表情をして宙で一回転した。
「まだだ…まだ…足りない…」
私は血を最大限まで貯めようとしていた。その為にもカンライにはあと5分程耐えていただきたい。しかしそう言う訳にも行かないらしい。カンライは既に息を荒げていた。あの分身は体力を大分消費するのだろう。
カンライの分身は飛び上がりリーフォンに蹴りをかます。リーフォンは吹き飛ばされ木に当たってズルリと落ちる。 らあ一瞬だけ気を失っていたらしいが、すぐに目を覚まし再び空中を舞う。
リーフォンはそろそろやばいのかと思ったのか、へっと言う笑顔の後に全身に緑色のエフェクトを纏った。二人のカンライのそんな事も知らずにリーフォンに追撃を入れようと走って近づいていく。
しかし、リーフォンから発せられる風によりカンライは歩みを止めてしまった。リーフォンは二本の人差し指をカンライへと向け『バーン』と言うと緑色のエフェクトを纏った見えない空気が二人のカンライの腹部を突き破りリーフォンの元に戻っていった。
分身のカンライはまだ霞のようになって消えるから良いものの、本物の方は腹部を貫かれたことにより吐血、そして膝を着き冷や汗ダラダラで立ち上がろうとした。
カンライは立ち上がった。だけどもそれは余り良いと言える行動ではなかった。カンライの吐血量は増えつつ減少もしていた。そんなカンライにリーフォンは容赦なく風を飛ばした。
カンライはもう動ける気力は無かった。飛ばされた風はカンライの右胸を削り取った。貫かれた右胸からは肺と心臓。その他臓器等が丸見えになっていた。カンライは仁王立ちを保てる訳もなく、そのまま地面に倒れ伏してしまった。
あの傷でまた目覚める事は無いだろう。それこそゾンビやヴァンパイアみたいなアンデッドではない限り。
リーフォンはくるりと私の方を向き歩を進めた。余裕のあるその歩き方は完全に私を舐めていた。私は血を貯めながらも攻めの姿勢を取った。リーフォンに蹴りを入れようとすると纏っていた緑色のオーラから刃が生み出され私の片脚を削ぎ落とした。
「我々の東衆村をワーウルフの脅威から救っていただきなんと言えばよいか。なにかお礼をさせてください。」
ウィフル村長はそう言い放ちながら深々と私達に礼をしていた。ヴァンは相変わらずのお人好しで「そんなに私達を崇めないでください。お礼も結構です」と言っていたが、私は流石に間に入り、ウィフル村長に礼を要求した。
「お礼してくれるならさ、私達をエルフの村まで運んでいってくれない?馬車とかで」
「それだけでいいのですか?それならばお安い御用です。」
ウィフル村長はそう言いながら早速今日エルフの村に運ぶ資材を少しばかり退かして丁度私達3人分くらいのスペースを開けた。そしてみるみる内に階段が掛けられ、私達に登るように誘導した。
ヴァンは少し遠慮気味だったので、リューテの手を引いて、私が最初に乗ると、リューテはその隣に座り、ヴァンも控え気味に階段を登り、リューテの隣に座った。
「では、ゾーン様、ヴァン様、リューテ様。ご達者で。」
「あぁ。ウィフル村長もご達者でな」
「こんなご老木に気遣いなさらず。」
「…ご老木?」
「えぇ。他の者には話してはおりませんが、私は木の魔物でございましてね。まぁ、そんな事はお気になさらず。」
「あ…あぁ。わかった」
「ゾーン様、ヴァン様、リューテ様。暫くでエルフの村、【シュルツウォンド】に出発をします。」
「わかった。長生きしろよ!ウィフル村長!」
「肝に銘じておきます。」
こうして私達は東衆村を旅立ち、シュルツウォンドへと向かった。シュルツウォンドはどうやら弓人エルフと言う魔物の村で、中々に大きい規模らしい。食糧にも困っては居ないらしくて、過ごすには最高の村だ。
エルフは地球が魔力に侵食されたはじめの頃からいた種族らしく、500歳を超えている者も居るとか居ないとか。
馬車に揺らされながらヴァンは相変わらずリューテに熱心に言語を教えていた。私は夜の疲れを癒やすべくうたた寝していた。すると、血なまぐさい匂いが私の鼻を突き起こした。目を覚ました私は馬車の進んでいる道を見ると、そこには耳が長く、金髪の幼い姿があった。このままでは馬車に轢かれてしまう。私は馬を指揮している者に止まるよう言ったが、急には止まれないらしく、その少女にそのまま突っ込んでしまった。
しかし少女はその華奢な身体からは信じられない程の怪力を発揮し、馬を手刀が貫き馬車を崩壊させた。その白い服は血で赤く染まっており、異臭が漂っていた。
「おい!このガキ!どういうつもりだ!これでは輸送品が台無しではないか!」
馬車の指揮者はそうエルフと呼べる少女に強く言い捨てるも、そのエルフは聞く耳を持たなかった。それどころか、目に光がなく、まるで意識が無いようだった。ショックで気絶してしまったのだろうか?私はそう考えたが、次の瞬間違うことが分かった。
エルフは馬車の指揮者の腹を貫き、そのままグリグリと腹部を抉り抜いた。馬車の指揮者は血で汚れ、そのまま地面に横たわった。
「そこのエルフ!本当にどういうつもりなの?!」
しかしエルフは顔色を変えもせず指一つも動かさずにヴァンの腹部を貫こうとした。しかし、ヴァンはコウモリ化を使用し、避けた。私達とともに日陰へと入ると、エルフの様子が変わった。
「あれっ!?ここはどこ…?うぅ…頭が痛い…」
「……どういう事?」
私達が彼女の眼前から去ると、彼女は白々しく演技を始めた。ヴァンは堂々と出て、再び彼女の眼前に現れた。すると、エルフの顔がかくんと俯き、再度ヴァンを右拳で貫こうとした。しかし、コウモリ化で再度避け、再び日陰へと入った。
すると、やはりエルフの態度は変化し、ビクッと震えたかと思うと目に光が戻り口に手を当てて周りを見回す幼稚で優しそうな姿があった。
「えっ!?何この赤いの!」
自分であの男性を殺したくせにエルフは白々しくあたかも何が起こっていたか分かっていない様子で自分の手のひらについていた赤に驚いていた。
「…私文句言ってくる!」
「あっちょっと…ヴァン!?」
ヴァンは草むらをズカズカと突き進みあのエルフに文句を言いにいってしまった。
「ちょっと!そこのエルフ!自分から殺しといて後悔とかじゃなく最初に出たのが驚きってどういう事!?」
「え?誰?私が人を殺…」
エルフはヴァンが目に入った途端、目の色を変え、ヴァンに急接近し急所を狙った。しかしヴァンもそれは予測していたらしく、きちんと避けてカウンターで一撃入れようとしていたが、それを私が止めた。
喧嘩両成敗ってやつだ。私はヴァンとエルフどっちも縛り血の目隠しをした。するとエルフの様子はさっきのように幼稚になり、元気な声色に戻った。
私はヴァンをリューテに抱えさせて次のエルフの村へと歩いて向かった。勿論あのエルフも連れて、だ。もしかしたら関係者や家族が居て身柄を引き取ってくれるかも知れない。
まぁ別に居なかったら居なかったでその村においていけば良い。私はそんな思考でエルフの村へと歩を進めた。
こんにちは!最後まで読んでいただけましたか?いとゆきです!
天空地編では様々な事が起きましたね。リーフォンの裏切り、ゾーンの夢の数々…。
楽しんでいただけたら最愛です!




