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無人村編

私達がしばらく歩いていると、そこには一つの小さな村があった。

村は廃れた様子で、蜘蛛の糸が所々無数に張られている。

ツタも伸び切っており、まさに廃村という感じだった。

「ゾーン…ここ…なんか…出てきそうじゃない?」

「幽霊とか?」

「うん…幽霊とか…」

ヴァンと私がそう話していると、後ろの茂みからガサガサと物音がした。

「誰!?」

ヴァンはそう言って振り返る。

私もヴァンに続いて振り返った。

私は堂々と、その茂みを覗き込んだ。

そこには何も居なかった。

「ヴァン…何も居ないぞ?」

私はヴァンにそう言うと、ヴァンは顔がみるみる内に青ざめる。

「とっ…という事は…やっぱりお化けが…」

私はそんなヴァンを鼻で笑う。

「ちょっとゾーン!なによ!」

「お化けなんて居るわけ無い。子供じゃないんだから…」

「十歳は十分子供じゃ…」

「…そっか」

しかし、お化けでは無いにしろ、一瞬で居なくなった超スピード相手に戦いたくはない。

敵ではない事を祈るしか無い。

今度は後ろから「ねぇ」と声を掛けられる。

「なんだよ?」

私はヴァンの方向を見る。

「え?何よ?」

ヴァンは困惑気味に私を見た。

「…居るのかも知れないな。お化け」

「え!?ちょっと怖いこと言わないでよ…」

超スピードで実現は可能なのだろう。

というか、この村はどんな場所だったのだろうか?

良く見たらこの村の中心に十字架の様な焼け焦げた木がある。

恐らく、人柱の習慣があったのだろう。

そりゃあお化けやら幽霊やら悪霊も湧く。

「ねぇ…緑のお姉ちゃん…」

私は再び声を聞いた。

今度はハッキリと声が聞こえた。

「誰!!」

ヴァンはギョッとしたような目で私を見る。

「ゾーン…急に叫ばないでよ…」

「幽霊だ!明らかに!超スピードとかそんなのじゃない!」

「えぇ!?幽霊!?」

私は幼い声が聞こえたこと、姿は見えない事を、ヴァンに話した。

「お姉ちゃん…私の姿は見えないの?」

今度は、近くから声がした。

私のズボンが引っ張られる。

私はすぐに引っ張られた所を見た。

その姿は、全身に黒いモヤが掛かっていた。

見えそうで見えない。

もどかしい姿に、私は吐き気を催した。

「うぷ…」

「ゾーン…なんで吐きそうになってんのさ…」

「幽霊の姿が…不気味すぎて…」

「私不気味なの…なら…この姿は?」

そう言うと少女は、可愛らしい女の子の姿になった。

長髪黒髪ストレート。サラサラで可愛らしい髪の毛だ。しかし、服がボロボロだ。

少女は3歳とか4歳くらいだろうか?

体格から私はそう推察する。

「…何歳で死んだの?名前は?」

「私…私は…なにも覚えてない…」

「でもね…1つ覚えてることがあるんだ!」

「私はね!好きな子に殺されたの!」

私はそれを黙って聞く。

「それでね!私が死んだ後、その子出てこなくなっちゃったんだ!」

「私もあの子と一緒の姿になれたのに…なんで?」

私は反射的に答えてしまった。

「いや…なんでって聞かれても…」

「ねぇ…なんで?なんでなんでなんでなんでなんで?」

少女の姿に再び黒いモヤが掛かる。

「…いいよ…君の思う存分…私が遊んで上げる」

私は戦闘隊形に入った。


「どこからでもおいで。受け止めてあげる…!」

私は自信ありげにそう言い放つ。

だって相手は幽霊だ。

しかも幼い4歳くらいの。

そんな相手に、私は負けるはずが無いのだ。

「キャハハハ!」と幽霊は笑い声を上げながら地面にとぷんと潜り込んだ。

幽霊が完全に潜り込むと、周りにあったクワやシャベルが私に向かって飛んできた。

「なんだ…!?超能力的なやつか?!」

私は戸惑いつつ、それを裁こうとする。

が、意外と思い攻撃に、私の硬化した血は吹き飛ばされてしまう。

「強っ…ちょっと…大分…やばい」

私はそう言いながら、置いてけぼりのヴァンを尻目に、全方向を警戒する態勢に変わる。

「お姉ちゃん。こっちだよ♪」

幽霊がそう言いながら地面の下から出て、私の足を掴み投げ飛ばした。

「ぐっ…」なんて速い一連の動作なんだ。

これが4歳くらいの女の子の力か…?

「ゾーン!何が起こってるの!?」

ヴァンはそう声を上げた。

だが、私は無視した。

状況説明ができるほどの隙すら無いのだ。

「お姉ちゃん。後ろだよ♪」

幽霊は、いつの間にか私の後ろに回っていた。

そして、そっと私の首に手を回した。

「えい♪」

幽霊はそう言うと、力を込めた。

「がっうっ…がァ…ゲホッゴホッ…」

ゴギ、バギと私の首の骨が痛々しく音を鳴らす。

私は死を覚悟し、涙を流した。

痛い、苦しい、痛い、痛い痛い痛い。

薄れいく意識の中、私は違和感に気づいた。

さっきよりも、力が出ていない。

だがらと言って、私は戦闘を続行できない。

少なくとも、首を治すまでは。

「ばいばい♪」

私はそのまま宙を舞い、そのまま激突した。

身体はぐちゃぐちゃになり、骨は全身折れたと思われる。

肝心の頭は、骨を折られたとき出血した血でなんとか防ぐことができた。

内臓も出ている。

心臓も飛び出して本当に首の皮一つ繋がったという感じだ。

ゾンビと言えども、流石に不味い気がする。

もしかしたら、この状態が続くのならあと数分で私は死ぬのかも知れない。

私は、辺りに血がないかを探す。

当然、血はない。

一巻の終わりだ。

私は、死にたくないという思い一心で無理やり身体を紡ぎ、動かす。

腕はあらぬ方向に曲がり、内臓は抑えていないと今にも流れ出そうだ。

私の視界が朦朧としていると、ヴァンは私に腕を噛ませた。

ヴァンの血の効力は意外にも素晴らしく、ドクドクと骨折やぐちゃぐちゃな身体を治す。

この身体はどういう原理で動いてるんだか…。

さぁ、ラウンド2だ。

しかし、このまま戦っても再び一方的に負けるだけだ。


せめて一つくらい謎が解けたら…

「ゾーン!相手が幽霊ならポルターガイストを使ってくるかもしれない!」

ポルターガイスト…そうか!。

あのクワもシャベルも首を折った力もポルターガイスト現象だったのか!

と、なると、私を投げ飛ばしたのもポルターガイストでいいだろう。

離れたら弱くなった力…ここの地に思い入れか何かあるのだろうか?

私は、幽霊を探ってみることにした。

「幽霊!あなた、この地になんの思い入れがあるの!?」

「…うるさい…うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!」

完全に狂ってしまっている。

もう話し合いは無理なのだろうか?

そう思った一瞬に、幽霊は再び消える。

「どこに…!」

キョロキョロと周囲を見回した。

だが、幽霊の姿は何処にもない。

次の時、上から衝撃を受けた。

重力の力も加わって、私の首から上は嫌な音を上げて、血しぶきを上げる。

「ゲホッ…オエ…ハァ…ハァ…」

私はあまりにも重い攻撃と出血量に目の前が暗くなり、血が混じった吐瀉物を吐いた。

速く起きなければ、次の攻撃が来る。

だが、ピタリと攻撃が止む。

なんだ?

ヴァンの指から滴る血を舐める。

症状が少しはマシになった。

私が辺りを見回す。

そこには丸くなって眠っている幽霊の姿があった。

「何もしていないと可愛いんだがな…」

少女は疲れたのか眠くなってしまったのだろう。

取り敢えず、私は命は失わずに戦闘を終えることができた。

だが、とても重症だろう。

血が足りない気がする。

幽霊に話を聞いてみることにした私達は、幽霊が起きるのをまった。


「痛い…痛い…うぅ…」

「ゾーン、本当に今更になって泣いてるの?」

「少しは心配してよ…本当に苦痛だったんだから…」

「ゾンビだから簡単には死なないでしょ?はい、血」

「それとこれとは違うくない…?」

私はそう言いつつ、ヴァンの指に滴る血にがっつく。

最初は不味いと思っていた血の味ですら、美味く感じた。

身体が治っていくのを感じる。

骨、肉、内臓。

パキパキと音を立てながら、私の身体は原型に治っていく。

心無しか、治癒能力が向上しているような気がした。

ゾンビの身体に慣れてきたのかな?

あの少女はもうすぐ起きるだかな?

このままずっと血を舐めていたい。

血を舐めると気分が向上してくる。

「はい。おしまい」

ヴァンはそう言うと指を引っ込めた。

「もっと…もっと…欲しい」

「そんなに今度は舐めたら今度は私が貧血になるよ」

「お願い…」

「そんな目で見つめてもダメなものはダメ」

私とヴァンがそんな会話をしていると、少女は目を覚ました。

「ん…あっ…ゾンビのお姉ちゃん…さっきは…その…ごめん」

「ちゃんと謝れて偉いぞ。少女。名前は?」

「私の…名前…名前は…忘れた」

「やっぱり思い出せないのか…種属とかは?」

「種属は…地縛霊(ファントム)

「ファントムか…じゃあ…『ファン』だな。ファン」

「相変わらずのネーミングセンス…」

「うるさいぞヴァン」

「ぷ…あはは!お姉ちゃん達面白い!」

「む…というか…君、なんであんなに力が強かったの?」

「え?それは…分からない」

「…そっか」

「地縛霊って事は…ここになにか思い出が?」

「うん…さっき言った子の事なんだけど…」

私はふと、少女に目をやる。

手が震えていた。

苦しくて悲しかったのだろう。

それでも彼女はその子に囚われ続けている。

あまりにも哀れだ。

助けたいという気持ちが掻き立てられる。

「良かったら…私とヴァンがその子探してあげようか?」

「いいの!?」

ファンは表情を変えて私達を見つめる。

「ゾーン!?私その子の見た目も声も聞こえないんだけど!?」

「大丈夫大丈夫。察してくれ」

「ゾーンが教えてくれるとかそう言うのがあるでしょ!」

「さて、ファン。その子の特徴はどんなの?」

「うんとね、黒い髪でね、髪が短くてね、白いボロボロなドレスを着てるの!」

「ザ・幽霊みたいな格好だね…」

「ヴァン、分かった?」

「分かるわけないでしょ!?」

「ヴァンはしょうがないな…」

私は、ファンが言ったことをそのまんま丸々伝えた。

「なるほど…でも私幽霊見えないから意味無くない?」

「………さて、早速探そうか」

「ゾーン?なんで無視したの?」

「何処に居るとか検討あるの?」

「えっとね。この村の何処かに居るとは思うの!」

「ゾーン…私もう捜査は手伝わなくていいよね…」

こうして、一人のゾンビと幽霊、そして落ち込んでいる吸血鬼の幽霊探しが始まった。


「よし、探すか。この村に居るんだよな?」

私は、ファンに問う。

「うん!居るよ、絶対に」

「そうか…なら、その絶対を信じよう」

「探そう!私は北の方角、ファンは南、ヴァンは東に行ってくれ」

すると、「分かった!」と元気な声と「了解…」という活気が無い声が同時に聞こえた。

村はあまりにも損壊して瓦礫だらけだ。斬り味が良さそうで手足なんてすぐにスパッと切れてしまいそうだ

私が一足踏み出しただけで、ガラガラという煩い音が響く。

「…ブーツじゃなかったら死んでるな…まぁ死なないだろうけど」

瓦礫が邪魔して崩壊した家の中を見れない。

どうしたものか…そう言えばさっき血を沢山出した。

ならば、この辺りにも血が染み渡って居るんじゃないか?

私は思い立ったら吉日と言わんばかりにすぐさま瓦礫を退かそうと、血で吹き飛ばそうとする。

私の予想は的中し、見事瓦礫は吹き飛ばされた。

だが、そこには何もなかった。

「はぁ…そう簡単には居ないか…」

まぁ、まだ1件目だしな。

私は続いて、その調子で、広大な地に渡る廃村の家を破壊し、その中を見まくった。

その数実に145件。

私はクタクタになり、地に膝を付けながらファンに問う。

「…本当にお前が探している人はここに居るんだろうな?」

私は、ファンに聞いた。

「うん…きっと…おそらく…」

「どんどん位が下がっていくな…」

ファンにそう言えば状況報告をしてもらっていなかった。

「ファン…そっちはどうだった…?」

「うん…まぁ。居なかったね」

「……本当にこの廃村に居るのか…?」

「……多分…恐らく…」

「不安要素だな…」

なんだ…?

目の前がくらっとして目が眩む。

驚異的な熱気が辺りに漂った。

汗がポタポタと私の身体から滴り落ちる。

汗が地面に溢れ落ちると、地面は汗によって湿る。

だが、地面は一瞬で乾いてしまった。

明らかに異常だ。

そう言えば、まだヴァンが状況を報告していない。

もしかしたら、ファンが言っている人を見つけたのかも知れない。

急いでヴァンの方向に向かおうとする。

だが、凄まじい熱気の前に、私の身体はふらつき、転んでしまう。

もしかしたら─

私は、一つの可能性が頭によぎる。

科学者(クズ)が来ているのかも知れない…」

身体を殺意と憎悪で奮い立たせ、足を一歩一歩確実に前に出す。

なんとしてでもあいつは殺す。

例え、死んだとしても。

例え、周りの人間が巻き込まれても。

絶対に許しは与えない。

私が速度を上げた所で、次は冷気の波が押し寄せてきた。

そして、瞬時に私の足は凍らされてしまった。

「なんだと…コレじゃ動けないじゃないか…!」

私が無理やり足を千切って抜け出そうとしている時、何かが打ち上がった様に上空へと上昇した。

そこにあった姿は、衣服がボロボロになり、必死で何かを防御したヴァンの姿だった。

「ヴァン!何が起こっている!」

私はそう声を張り上げた。

ヴァンは一瞬。ほんの一瞬だけこちらに視線を送った後、またすぐに視線を戻してしまった。

既に何かとヴァンの戦闘が始まっていた。


時は、数分前に遡る

「お〜い…どこ〜?…どこに居るの〜?……」

私は、ゾーンが名付けたファン?って子の為に、人を探していた。

黒髪で白い服を着た少女を探している。

「……私、幽霊見えないんだから探す意味は無い気がするんだけど…」

廃村となった村の家は、余りにも見づらく、探すのにも普通なら一苦労だ。

だが、私は吸血鬼(ヴァンパイア)

家の瓦礫の隙間なんて、コウモリになって駆け抜ければ良いのだ。

私は早速コウモリになって家の中に入ろうとする。

だが、スパッと何かが切れた感触がした。

「痛っ…」

私のコウモリの一部が切れてしまったのだ。

そのコウモリを囲うように他の私のコウモリが集まって、私は人型に戻ってしまった。

「痛た…切れたのは─」

私は、自分の身体を隅々まで触って確かめた。

「肩…か…」

「このコウモリになるやつ、迂闊に使っちゃダメね。ちょっとでも傷ついたら元に戻っちゃう」

私は考える。

どうやってこの瓦礫を退かすか。

どうやってこの瓦礫を抜けるか。

私は考えた…

そうだ!

吸血鬼は怪力の筈だ。ならば余裕で退かせるはずだ。

「ふぬぬ…はぁ…はぁ…」

びくともすんともしない。

吸血鬼は怪力じゃないのか…?

「あでっ!」

私は大胆に転んでしまった。

瓦礫が刺さって額から血が流れている。

「いてて…ひぇ」

私は、もしかしたらの事を、考えた。

もし、今後ろから押されたら。

もし、この瓦礫がもっと鋭かったら。

もし、転ぶ勢いが激しかったら。

私はすぐさま勢い良く、立ち上がった。

顔が真っ青に震え上がり、その場から動けなくなった。

途端、私の後ろからガラガラと人が歩く音がした。

「だ…誰!?」

私は必死になって後ろを振り向いた。

そこには、黒髪、白いワンピースの少女が居た。

十歳くらいだ。

ファンと言う子が言っていた特徴が全て当てはまった。

「見える!私にも!幽霊が!」

少女は、ゆっくりと口を開いた。

「うるさい…」

「あっ…ごめんね。私ヴァン、君は?」

「……分からない」

「そっかぁ…」

私は、言葉に詰まった。

話しづらい。

なんだか、不穏な雰囲気(オーラ)?みたいなのが辺りに漂っている。

なんか、シリアスな空気が周りに漂っている。

「あのさ─」

私が口を開いた、が、遮られてしまった。

「あなたも…私からなにか奪うの?あなたも私で誰かを殺すの?あなたも私になにかするの?あなたも私を苦しめるの?あなたもあなたもあなたもあなたもあなたもあなたもあなたもあなたもあなたもあなたも─」

少女は狂ったように同じ様なフェーズの言葉を繰り返す。

「あなたも私から大切な物を奪わさせるの?」

少女がそう言い終わると、辺りに凄まじい熱気が放たれた。

「う…なんだ…これ…」

私は、立つのも困難になった。

ばたっと倒れるように前に倒れた。

なんとか、手をついて致命傷は避けることができた。

しかし、手からは血が流れた。

そうして、私と少女の戦いが始まった。


眩みで、私は動けないで居た。

「う…速くこの眩みが悪化する前に……逃げるか…倒さなきゃ…」

白いワンピースの少女は私に近付きながら口を開く。

「記憶を無くしたと言った。アレは嘘。本当は生前の記憶だけが無い。私は“スイレ”とでも呼んで」

少女はスイレと名乗った。

スイレは、ジリジリとゆっくり私に近づいてくる。

「私をあのに幽霊()合わせるな。今すぐここから去れ。」

「なんで…どうして…?」

「“なんで?どうして?”そんなの…そんなの…そんなのそんなのそんなのそんなのそんなのそんなのそんなのそんなのそんなのそんなのそんなのそんなのそんなの─」

スイレは再び同じ言葉を繰り返している。

誰もが狂気を感じるだろう。

感じさぜるを得ないのだ。

何故ならば、スイレの表情、声色、態度。

全てにおいて、憎悪や怒りなどの感情は感じられないのだ。

スイレとファンは間違いなく、いい友人だったのだろう。

それが、何故こうなってしまったのか?

スイレとファンの間には、何があったのだろうか?

「─そんなの…現実を直視したくないからに決まってるじゃん」

「私はあの幽霊()を殺した。しょうがない理由だった。嫌われて当然だ」

吸血鬼(ヴァンパイア)。今すぐここから去れ。」

スイレは、私の目前。すぐそこに居る。

地に膝を付けて、私はスイレを見上げた。

その拳には、炎が燃え上がっている。

「…去らないなら…?」

私は、覚悟を決めた。

この化物(ユウレイ)と戦う覚悟を、死ぬ覚悟を決めて、疑問を問いかけた。

「殺す」

燃え上がったその拳は、私に向かって振り下ろされた。

危機一髪。私はコウモリに化けて、回避することに成功する。

「そう簡単に死ぬほど…弱っちくは無い」

元の肉体に戻りながら、そう言い放つ。

だが、幽霊の動きは予想を遥かに上回る動きで私を追撃した。

私の肉体は炎に侵された。

「あっ…ぐぅう…」

私のうめき声だけが、静寂なこの空間に流れ、途切れた。

「う…うん?」

私の肉体は、なんとも無い。何も無かったと言わんばかりのその肉体は、傷なんて一つも無かった。

「どういう…事?」

私は、ゾーン同様血肉で肉体を再生させれる。

だが、何も飲んでないし食べてない。

「…傷ついてない…壊れない…簡単には…壊れない…壊れない壊れない壊れない壊れない壊れない壊れない壊れない壊れない壊れない壊れない壊れない壊れない壊れない壊れない壊れない!!」

もう、クセになってるのだろうか。

この不気味な口調は。

吸血鬼(ヴァンパイア)!遊ぼ!先に壊れた方が負け!」

「は…はぁ!?」

唐突に、私と幽霊の遊びが始まった。

それは、圧倒的に幽霊有利の物だった。

「…いいよ!それじゃあ負けた方は勝った方の命令はなんでも聞く!この条件付きでね!」

私と、幽霊の戦闘は、今。始まった。

しかし、弱点を見つけない限り、幽霊には勝てない。

まずは、探りを入れるしか無い。

私はそう考えていた。

そして、違和感に気づいた。

足が動かせない。

足の感覚がない。

何かおかしい。

私は、足に視線を送る。

すると、カチコチに足は凍りついてしまっていた。

「あっ」

私は不意に、声を漏らす。

この勝負、負ける訳には行かない。

私は、足を千切ってでも無理やり足を抜こうとする。

「終わりだね。吸血鬼(ヴァンパイア)

幽霊の拳が、私の腹に直撃した。

通過せずに、しっかりと重い一撃を叩き込まれた。

「うっ…ぐあっ…」と声を漏らしながら、宙に吹き飛んだ。

幽霊は、すぐに追撃をしてきた。

私は必死の覚悟で、その一撃を防いだ。

そして突然に後ろから私を呼び、状況説明を求める声が聞こえた。

だが、そんな事をしている暇はない。

私はゾーンに視線をやった後、すぐに幽霊に視線を戻した。

だが、その一瞬のゾーンと異常(イレギュラー)言うが、命取りだった。

私は、頭を幽霊に叩きつけられ、頭から地面に落下した。

なんとか形を保った私の身体は、既に生物としての活動限界を迎えていた。


何も見えない。真暗な空間にただ一人、動けずに立ち尽くしている気分だ。

何も聞こえない。ただ、一つだけ。何かが聞こえた。

痛い。胸が苦しい。まるで、心臓を直に握られているように。

寒い。真暗な空の下に呆然と立ち尽くしたあの夜の様に。

悪寒がする。命の線にハサミやナイフを突き立てられる。そう表現するのが正しいだろうか。

怖い。覚悟しても、死ぬのは怖い。私は死ぬ覚悟を決めた筈だ。でも、死ぬのは怖い。こんな所で、死にたくはない。

聞こえた。私の声が。

生きたいとか、死にたくないとか、そんな生に執着する声が。

そうだ。

こんな序盤中の序盤で死にたくはない。

新しい生命としての物語はまだ始まったばかりだ。

これから何十年何百年と生きるであろう命だ。

死にたくない。

だが、勝負は歴然としている。

あの子の勝ち。私の負け。

もう、方法はない。

生から離れる道しか見えない。

見えてしまった。死への道が。

私は生きたいと言っている。だが、続いている道が死への道しか存在しない。

それ以外の道は全て糸がハサミで切られた様にプツンと途切れている。

苦しい。悔しい。涙が止まらない。認めたくない。私はまだ負けていない。私はまだ死んでいない。

そんな醜い声が私の心に響いた。

『そうだ。あなたはまだ負けていない。ほら、身体を動かせ。死にたくないなら、身体を壊せ。自ら進んで、自ら望んで、死への道に進め。』

私の心に誰かの声が響いた。

聞いたこともない、だけどどこか懐かしい声。

従いたくなる。その通りに動きたくなる。

私は、死への道に足を踏み入れた。

『そうだ。それでいい。』

一歩踏み入れた。そこで、私の目に光が一直線に入り込んだ。

そこには、瓦礫が沢山あり次々と流れていく風景が広がっていた。

感覚が少しずつゆっくりと戻ってきた。

私は恐らくゾーンに抱えられている。

そしてゾーンは私を抱えて走っている。

身体に血がこべりついている。

恐らくあの幽霊…スイレから逃げているのだろう。

「ゾーン…おろして。私まだ負けてない。」

「いいや、ヴァン、あなたは負けた。これ以上動いたら命に関わる。」

「私はまだ負けてない。生きている。だから…負けてない。」

「だから…命に関わると─」

私はコウモリ化して、ゾーンの腕をすり抜けた。

「あっヴァン!私は貴方を心配して─」

「心配なんて要らない!…私が勝つ…」

「ハァ…もう勝手にしろ…ん?」

ガラガラと音を立てながら私はスイレに近づいた。

スイレはファンに詰められて気まずそうにしていたが、私を見るなりファンを吹き飛ばした。

「起き上がれたんだ?吸血鬼(ヴァンパイア)…」

「その呼び名辞めて。私にはヴァンって言う名前があるの。スイレ、私はまだ負けていない。」

「ヴァンね…そんな傷だらけ、血だらけの身体で戦えるの?」

「負けてない…私はまだ…負けてないなら…勝てる…」

「…屁理屈だね。」

スイレの周りに炎の玉が複数できあがった。

その炎球は凄まじい熱気を放ちながら私に近づいてきた。

「…上級魔法の一種。『炎爆(ファイアプロージョン)』…弱っちいお前は…ヴァンはこれくらいでダウン…いや、消し飛ぶ。」

アレを食らったらひとたまりもない無いだろう。

一か八か、アレを消させるしか無い。

「格闘でもそっちのが有利のクセに…遠距離に逃げるんだ…スイレは臆病だね」

「ハァ?」

意外と子供っぽい所もあった。

こんな軽い煽りにも乗っかってくれた。

スイレは炎爆と呼んでいた魔法をしまった。

「言ってくれるじゃん。いいよ。お前を格闘戦で完膚なきまでにぶちのめす。」

煽りが意外と効いたのか、一般的な口調になってきた。

だけど、誰でも分かるぐらいに殺気がやばい。

一体、“臆病”という言葉にどれほどの恨みや憎悪を抱いているのだろうか?

そろそろ思考をする暇は無くなる。

スイレはジリジリと確実に歩いて私にその握りしめた拳を振るうだろう。

だが、この一瞬。それがとても重要だ。

私の勝ちか、スイレの勝ちか。この一瞬がそれを決める。

昔、お母さんから聞いた事がある。

『弱点の無い生物は居るの?』と

お母さんからの返答はこうだ。

『どうしたの?唐突に…そうね…生物には何かしら弱点がある。じゃないと食物連鎖ができないからね』

だとしたら、スイレにも弱点がある筈。

だけど、私の視点では全く分からない。

「ヴァン!宝石の様な…変な物があなたに近づいてる!気をつけて!」

宝石の様な物?

そんな物、私の視点には無い。

つまり、それがスイレの弱点だ!

「ゾーン!それはどこにある?」

「え?ヴァンから見てまっすぐ、10m程先、ヴァンのへそ辺りに浮いてる!」

私のへそ辺り…つまりは、スイレが心臓がある筈の箇所だ。

「ありがとう!」

私はゾーンに感謝を述べた後に、すぐにスイレを煽った。

「さて、これでスイレの弱点も知られちゃったよ。どうする?降参する?」

「弱点を知られたからなんだ…私はお前に負ける未来は想像できない…」

私とスイレの距離が5m程に縮まった。

勝負はここ、今、この瞬間に決まるだろう。

私はスイレの心臓目掛けて手を伸ばした。

だが、その手は払い除けられて、スイレの腕が私の胸、心臓目掛けて飛んでくる。

スイレの腕は私の胸を貫いた。

「……終わりだな…ヴァン…」

「えぇ…終わり。残念でした。」

スイレは何を言っているのか分からないという表情を浮かべた。

第三者から見ても、私の負けは決定的だった様に見えただろう。

「まだ気づかないんだ?」

「何を言って…確かに貫いた感触はあった…」

「えぇ…確かに、あなたは貫いたわ」

「なら私の勝ちだな…ヴァン。」

「いいや。私の勝ち。」

「現実逃避もそこまでにしろ…ヴァン」

「話の続きよ…あなたが貫いたのは…これ。」

私はそう言うと、辺りの瓦礫を指差す

「瓦礫…?瓦礫がなんで私が貫いた物になる?」

「私は目覚めたらゾーンの血で硬くコーティングされて、これ以上酷い状態にならないようになっていた。そして私は奇策を思いついた。だから、心臓部分をゾーンに任せた。」

「コウモリ化させてね。」

私はコウモリ化を一気に進めて、スイレの後ろから現れて、スイレの心臓部分を掴んだ。

うす長くて、硬い感触があった。

「…私の勝ち。スイレ、負けを認めて。じゃないとコレを砕く。」

「……私の負けだ…ソレを砕かれたら困る…」

「じゃあ、約束。勝った者の─」

「─私の言う事を聞いてね。」

「…分かった。私の負けだ…離してくれ…」

私は素直にスイレの心臓部分にある何かを離した。

「…命令は?なに?」

「スイレと…そこに居るはずの幽霊の関係の話を聞かせて欲しい」


あれは私が生きて居る頃だった。

もう顔も名前も思い出せないものの、私には私を幸せへと導いてくれる両親が居た。

両親が歩くと選んだ道はいつも正しくて、暖かくて、そして何より、幸せの光に包まれて輝いて見えていた。

貧乏で蔑まされては居たものの、少なくとも、辛くは無かった。

50年前に建てられたボロボロな学校に行っては休み時間だけではなく授業中にすら蔑まされ、言葉の暴力だけではなく殴られ蹴られ。

校庭に出ると石を投げつけられたり足を引っ掛けられたりしていた。

私が今歩いているのは暗闇に包まれた荒野にある茨の道。

この暗い茨の道も両親が入れば明るくて美しい薔薇の道になった。

私達は幸せだったのだ。

なんにも無いし、村の人々からは蔑まされた毎日。

それでも、そんな困難に包まれた暗い道でも私達家族なら真先に突き進んで、幸せへとたどり着く。

私はそう信じていた。

信じて信じて。

心がボロボロになっても。身体が傷だらけ、泥だらけになっても。

私は両親の前では自然と笑顔になることができた。

両親もきっとそうなのだろう。

そうだったのだろう。

あの日までは。

私は突然人柱に指名された。

今まで散々無意味に忌み嫌われ、蔑まされ、傷つけられた村の人々。それを操っていた村の長に。

私は当時、無知で幼稚で追求なんてしない何に対しても無頓着な子供だった。

当然、人柱の意味なんて知らなかった。

いつまでも優しかった私の父は、村の長の胸ぐらを掴んで嘆き怒声を上げていた。

母も同様に、村の長に拳を振り上げていた。

「虫が良すぎる!」「私達の生きがいを…宝を奪うな!」「今すぐ俺達の目の前から失せろ!」「死ね!死んじまえ!」

私の両親の暴言、護ろうとする力強くも弱い声は村の長の“黙れ”という声により鎮圧されてしまった

「ママ、パパ、泣いてるの?大丈夫だよ。クリスがパパとママを護るから。大丈夫だよ」

まだ幼くて、己が死ぬことも知らない私は、両親を慰めた。

両親は私を抱いて、力いっぱい抱いて、一日中抱きしめて私の胸で泣いた。

その喚き声は村中に響いた。

そして、その日から全てが変わった。

村の人々の態度、そして同級生からの態度。

罵声を浴びせるどころか、私が学級に入った時、胴上げの様な事をされた。

「ありがとう!」「お前は英雄だ!僕達の英雄!」「英雄!英雄!」

と称賛の嵐がクラス内に、学校中に響いて山の向こうまで届きそうな嵐が起こった。

私はその日から学校でも笑えるようになった。

女子から嫌味陰口を叩かれることもなく。男子からも殴打足蹴されることも無くなった。

なんなら私は男子からサッカーに誘われる様になった。

女子からは珍しいマニキュアと言うものを爪に塗られたりした。

青いマニキュアはとても綺羅びやかで色鮮やかで輝いて見えた。

そして、村の長から伝えられた人柱の日。

それは徐々に近づいて行き、遂には私の死へのカウントダウンが始まった。

人柱は12月31日の夜12時に起こる祭りだ。年の締めとして。年の始まりとして神様に宜しくを伝える為に何かを捧げる物らしい。

そんな祭りに参加できるなんて、私はなんと光栄だろう。

しかも私はその祭りの主役らしい。

祭りを楽しみに胸を踊らせながら私は家のドアをガラガラと横にスライドさせて開けた。

「ただいま〜パパ?ママ?仕事で居ないのかな?」

リビングへと私は足を運び、ドアをガラガラと開けた。

そこには、宙にぶら下がった両親の姿があった。

「なんだ!パパとママ居るじゃん!ただいま〜!」

私はその宙に吊られた両親にただいまの挨拶をした。

しかし、返答は無かった。

何度言っても、返答は無かった。

「なんで無視するのさ…もういいよ!」

そう言って私は他の部屋に行くふりをして、両親の様子を観察した。

娘に嫌われたと焦って顔が真青になってるだろうなぁ〜と。

私は思い浮かべ、早速角からひょこっと顔を出して。両親の姿を覗いた。

全く表情も動きも変わらない両親。

いくら待っても動きがなかった。

無我夢中に両親の姿を見つめていた私は、もういいやと思った時には、辺りは暗闇に満ちていた。

「ママ!ご飯!」

しかし、反応は無かった。

「パパ!今日お祭りあるんだって!一緒に行こ!」

しかし、反応は無かった。

「どうして無視するの…?どうして…なんで…?」

それが私の、産まれてから初めて、本心を聞きたいと、知りたいと心から思った事だった。

両親と居たら、それはもう幸福だ。

嬉しくて、楽しくて、心地が良くて。

なんだか自分に自信を持てた。

だが、今は気味が悪い。

その姿を認めたくない。

両親が今何をしているかなんて知りたくない。

ただ、なんで無視するのか、そしてその理由を教えてくれないのか。

それが喉の奥に支えて、出てこない。

気持ち悪い。吐き気がする。

両親にではなく、今のこの変な気持ちが胸の何処かに突き刺さって私の胸を締め上げるように、気分を悪くする。

私は両親の様子がおかしい、助けてくれと伝える為に、村人達に助けを求めて裸足のまま地面を蹴り、駆けた。

しかし、誰も救ってはくれなかった。

面倒くさがって、不気味だから、関わりたくない。

そんな言葉の数々を浴びせられた。

久しぶりに聞いたそんな言葉に、誰も助けてくれない事実に、私は涙を流した。

泣いて、泣いて。涙が枯れ果てるほど、声が掠れるほど泣いた。

しかし、誰も私に手を差し伸べてはくれなかった。

“大丈夫?”といつも優しく声をかけてくれた両親は、もう私の事なんて眼中に無くなってしまった。

時刻は11時三十分。私はロープで縛り付けられた。

十字架になっている木に体を固定された。

私は抵抗なんてしなかった。

両親が私の事を嫌っている世界なんて、そんなもの、私が自分から動く理由がない。

そろそろ12時だろうか?

縛り付けた荒縄が私の肉に食い込む。

もう、四肢の感触がない。

痛覚すらも、麻痺してしまって痛くない。

だけど、寂しい。

寂しくて寂しくて、どうにかなってしまいそうだ。

村の長が松明を持って近づいてきた。

そうして、私の足元に火を着火した。

その炎はすぐに荒縄を伝って私の全身を焼き尽くす。

煙は私の顔を覆い隠し、呼吸をするのも困難になった。

熱い、苦しい、痛い。

様々な苦痛が私を襲い、虐げた。

あぁ…毎年のお祭りってこんなに苦しかったんだな…

それを私は羨ましがってたんだな…

こんな人生に満足いかない死に方をして行ったんだな…

私は人生を思い返してみた。

そこにあったのは、全て両親との思い出。

ただ、それだけだった。

ただ、もう両親と私の絆は無いに等しいのだろう。

だって、私は無視されて、晩御飯も用意されなかった。

確実に、何かが原因で両親に嫌わてしまったのだから。

あれから、何時間立ってしまったんだろうか。

火が消えて、私の皮膚は、肉は焼け焦げ、血すらも蒸発し無くなってしまっていた。

自分でも分かった。私はもう、死ぬ。

こんなズタボロな身体で、生きれるはずがない。

腕の所々が焼き切れ、骨が露出している。

なんなら、目玉の感覚もおかしい。

左右で、景色の距離が違う。

神経は切れていないのだろう。

ただ、目玉が飛び出している。

“この子には可哀想な事をした。生かしてやろう”

村の長の声が聞こえた。

私をこんな目にあわせた元凶。

私を焼いて、こんな姿にしたクズ。

村の長は私に何かを注入した。

その液体が私の体内に流れて行くと、心臓がドクンドクンと速く脈打っていく。

私の身体の中で何かが起こっている。

完全に症状が収まった頃には、私の身体は綺麗さっぱり治っていた。

そして、苦痛からも解放された。

身体が軽い。

私は、ふと、後ろを向いた。

そこには、私の先程まで生きていたと考えられる焼死体があった。

下半身は殆ど焼きただれて、骨が露出し、腕は所々焼け落ちて、こちらも骨が露出していた。

更に酷かったのは、顔だった。

肌なんて殆ど焼き切れて、片目が飛び出しており、髪も燃え尽きていた。

私はそのグロテスクな姿の自分から、逃げた。

それが無くなるまで、隠れ続けた。

それがあるうちは、何故か睨まれているような気がしてならない。

私は、孤独な120年を過ごしていた。

あの子が現れるまでは。


初めは気持ちいいと、身軽だと感じていた霊体と言うやつも、段々と息苦しくなっていた。

重い身体を動かすのも疲れて、飽きて。

そのうち動こうという気すら無くなった。

動いた時には、首に縄を掛けようとしてそして高台から飛び降りていた。

しかし身体は霊体。当然の如く縄は私をすり抜けた。

昔私を苦しめた荒縄に私は縋って、何度も、何度も、首に荒縄を掛けて高台から飛び降りる。

自殺を無限に繰り返していた。

時には川の流れに流され、時には農具で自分を貫こうとして。

しかし、どれも失敗に終わった。

ずっとつまらなかった。

やることがない。話す相手も居ない。

苦痛だった。孤独の檻に閉じ込められたようだった。

私はどうしてこんなに苦しめられなければならないのか。

なにもしてない。殺人なんてもってのほか。

それなのに。どうして神様は私にこんな罰を与えたのだろうか。

もう限界だったんだ。

ニンゲン共は私に触ることはできない。

でも私はニンゲン共に触ることができる。

一つ、私は暇つぶしを思いついた。

私をこんな目にあわせたニンゲンへの復讐。虐殺だった。

ニンゲンは愚かで醜い。環境が変化する事を恐れ、風習に従い私を炙り殺した。

そして、可哀想と憐れんだ者によって私は永遠の苦しみを味わうことになった。

ずっと、私の腹の底で渦巻いていた感情。

それは日に日に増幅して行った。増幅してはち切れんばかりに膨張した感情は、なんの因果関係もない。当時の事を知らずにまだ風習を続けている凡愚共に向けられた。頭では分かっている。

あの人達は関係ない。

ただ、毎年。毎年。風習で焼かれている罪のない少年少女が焼死体になるまでの全てを見届けた私の心はもうどす黒い憎悪の霧で覆われて、中にも侵入してきて。私の心は煙に侵された。

いつまでも続く人身供犠に怒りを抱き、その怒りに見せかけた憎しみはまた罪のない凡愚共に向けられた。

その日、私は初めて他者の命を奪った。

最初はやってはいけない。禁止事項と思って自分を静止し感情を鎮静し続けていた。

だけども、初めてを犯した後は吹っ切れた。初めての殺人は村の長の子孫の青年にぶつけた。青年の首に手を伸ばし力を込めた時。青年の身体がパァンと鯨の様に爆散した。辺りには真赤で美しい雨が降り注がれた。

私は、青が好きだった。

不気味で自然界では生きては行けないだろう色。青は毒とかを表すとも聞いたことがある。

ただ、この瞬間からは違った。

真紅に染まった雨は私を貫通した。だけど、血の温もりを感じた気がする。久しぶりに感じた温もりを私は親身になって、頬を真紅に染めていた。

だけど、人を殺したと言う取り返しのつかない実感に私は頬を染めながらも、小刻みに震えて地面に尻もちをついてしまった。

決意して殺したはずなのに、私はその罪に、浮足たった心に、嫌味を感じてしまった。

自分の英断に私は動揺し、臆病にも自分に震えて居た。

人を簡単に殺したクセに。自分で殺したクセに。身の毛もよだつ体験をしたような被害者面をして涙をボロボロと零す私。

なんて最低で臆病で気味が悪いんだろう。

自分でも分かっているのに。その手は震えるのを辞めない。

涙の末には、嘔吐すらした。

これ以上にない苦痛だった。

冷たくて悲痛な苦痛。

もう二度と味わいたくはない。

私は心に誓った。もう人は殺さないと。

そして、そこには異変に気づいて様子を見に来た女性がやってきた。確か、この男の婚約者だった筈だ。

手が震える。

先程の未知の感情。幽霊になってから久しぶりに感情を思い出したあの感動。もう一度味わいたくなってしまった。

人間は一度やらかしてしまっては更生するのは難しい生物だ。

私はあの感情を、快楽を求め、再び人を殺した。

今度は弾け飛ぶように死んだのではなく、首と胴が別れて死別した。

また、血が触れたような瞬間。頬を染めた。

生暖かく、人の温もりを感じる。

その瞬間だけは、私に感情という光が差し込めて見えた。

その後の有り様と言ったらもう酷かった。いや、第三者から見ると酷かったのだろう。私から見たそこの光景は、真赤に染められて輝いて見えた。美しいとすら思った。

「おねえちゃん。あのね、ミーネね、ぱぱとままとはぐれちゃったの。いっしょにさがして!」

私を正気に、現実に戻してくれたのはそんな幼い一言だった。

このミーネという少女に私は正気に戻された。

この少女、なんと私に話しかけてきたのだ。この120年間。人と関わる事すら許されなかったこの私に。

正気を戻してくれた彼女に出会った事はまさしく運命の出会いだった。

彼女の母親と父親だが、私が殺したのだろう。なんならこの村の人は大人から殺していった。恐らく、彼女がこの村の住人の最後の一人だ。

私とミーネが手を繋ぎ、これからミーネの両親を探すという所だった。

ぐぅ〜…と彼女のお腹がなった。

「えへへ。おなかへっちゃったおねえちゃんおなまえは?」

「…私の名前…」

もう、使わなくなった名前。そんなもの既に、両親の思い出と共に捨て置いてってしまった。

「スイレ…スイレだ。」

「すいれ?そっか!よろしくね!すいれ!」

彼女は無邪気に私の名を呼び続けた。辞めてくれ。

そんな純粋な瞳で私を見つめないでくれ。

私は君の両親を殺したんだ。

辞めてくれ。私を見ないでくれ。

君が私を目に入れたら。君の美しい瞳が汚れて霞んで穢れてしまう。

「……飯…だったな。ちょっと待っててくれ」

「うん!よういしてくれるの?ありがとう!」

「あぁ…用意する」

私は彼女の容姿と酷似した男女の死骸の元に向かった。その二つの死体はまだちょっと息があり、お互いを抱き寄せて涙を流していた。私はそれに近づき、男の方の頭を踏みつけた。

頭は勢い良く“ゴギッバギッボキッ”と音を立てて潰れた。

女の方は叫びたかったけど恐怖から声が出なかったのだろう。私は足で女の頭蓋骨を貫いた。

そして、焼けるものをできるだけ集めてその男女の肉を焼いた。

初めてにしては、上出来だろう。人肉の香ばしい匂いが辺りに広がった。

私はその焼いた肉を串に刺してミーネに渡した。

ミーネは目を輝かせて人肉に齧り付いた。

「おいしいよ!おねえちゃん!」

「それはよかった…」

私とミーネはそこから、一緒に生活をするようになった。

まずは村の汚れた血を私が一人で清掃した。あの子は何もしていないのに、私の罪を一緒に片付けるのはとても不憫だ。

そして、私はミーネに人肉を食べさせ続けた。ミーネはその事を知らなかった。美味しい美味しいと食べるものだから、ついついあげたくなってしまう。

しかし、食料にも終りが来る。腐敗、更にはぺろりと食べ尽くしてしまうかも知れない。

そうしている内に、私は狩りの手法を覚えた。

音もなく殺る。私の場合それは用意な事だった。

私とミーネはいつも笑顔を浮かべていた。

ミーネと私が出会って一ヶ月頃だろうか?その時に事件は発生した。

夜中の深夜に物音がした。

ザッザッと歩く音。堂々と音を鳴らしていた。

まるで、私を挑発しているかのように。

私がミーネを守る為、起き上がると、そこには─

─私を炙り殺し、挙句の果てにはこの霊体の姿にした村の長の姿があった。

「どうして…生きて…」

怖かった。今すぐにでも逃げ出したかった。足がすくんでガタガタと震えて居た。

“相変わらず臆病”と言う言葉に、私はなにも言い返せなかった。

私は臆病だ。

いざという時にはなんにもできない臆病者で小心者だ。

私は目の前の事実、そしてトラウマの相手を前に涙を流した。

いつの間にか吐瀉物も込み上げられて、私は地面に吐き捨てていた。

村の長は私の何かを掴み、命令した。“目の前に居る少女。お前が殺せ”

それだけは嫌だった。ミーネを殺すのだけは、それだけは嫌だった。

私はこうしていたらずっと殺せないと思って居た。しかし、村の長は何故か私に触ることができた。

そうしてミーネの方へと私を誘導した。

嫌だ、嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!

殺したくない殺したくない殺したくない!

「お願いです…辞めてください…」

私のか細い声が辺りに広がった。そうして空間は無慈悲な静寂を迎えた。重く苦しい威圧感が私に纏わりついて離れない。

しかし、村の長の力は老人とは思えない程強く、私の抵抗は儚く散り、ミーネの首を掴んでしまった。

グググと力を込める村の長は、人間の力とは思えない程だった。

そして、ミーネの首と胴は泣き別れになってしまった。

「あ…あぁ…」

私は言葉を漏らし泣き崩れ、地に膝をついた。

“次はお前だ”と言うと、村の長の腕は私の身体をすり抜けて私の中にある何かを掴み、握りつぶした。

私の身体はぐでんと地面に倒れ伏し、意識が朦朧としていた。

私の内から溢れる熱い物が、再び砕かれた何かを作り出した。

溢れたエネルギーと呼べるであろう物は留まることを知らない。

貪欲なエネルギーはミーネにも手を出し、何かを作り上げた。

それはまるで六角形の宝石のようだった。

20cmくらいで灰色で、薄っぺらい宝石のようだった。

気づけば村の長は跡形もなく消え去っていた。

あれは私の臆病さから来る幻だったのだろうか?

もしそうだったのならば─

─私は大事な人を殺してしまった。

挙句の果てには、私と同じ苦しみを味わうかも知れない。

私は彼女を殺してしまった。

だから、もう二度と、彼女に合わせる顔なんて無い。

好きだった彼女にもう会うことはできない。

私は再び孤独と言う霧に包まれた。

自暴自棄になり、家という家を片っ端から破壊し尽くした。

悲しみに暮れ、私は気づいたら白骨化した両親の元に戻っていた。

しかし、両親は私のせいでぐちゃぐちゃになって潰れてしまっていた。

私はこれ以降。120年の間、再び孤独の苦痛を味わった。

しかし、それは孤独に自らなっただけで、挽回の余地はあった筈だ。

私はそれさえも破り捨てて、大切な人を120年という長い月日を偽善に満ち溢れた孤独で彼女を包みこんだ。


「これが私の知り得る限りの嘘偽りもない真実。」

なるほど。これがスイレの過去。そしてファン─いや、ミーネの過去か。

私はミーネの顔をチラッと視野に入れた。ミーネの顔色は特になんともなかった。そして、どういう事か分かって居ないようだった。

「ミーネ。スイレを許せるね?」

「うん!私スイレお姉ちゃん大好きだよ!」

子供って純粋でなによりちょろい。なんならミーネの言っていることは余り噛み合って無いようにも感じ取れる。

その言葉を聞いたスイレは俯いて、涙を堪らえようとするも、ボロボロと次々に涙が溢れ出て居た。

「私は…私は…ミーネに嫌われてると思ってて…それでこの120年間…ミーネを孤独に犯して…ちっぽけな私情で120年間ずっと…それなのに…なのに…私を…」

スイレは震えて泣き声にかき消されそうな弱々しい声で弱々しい言葉を吐いた。

「うん!許すよ!」

「私、生前のスイレお姉ちゃんと居た時が一番楽しかった!毎日美味しいご飯食べれたし!」

スイレは思わずミーネを抱きしめ、泣きじゃくっている。私はなんとも思わなかったが、ヴァンは感受性が高いのか、貰い泣きしている。

「和解したようで良かった良かった。」

「えぇ…そうね」

ヴァンは震え声で涙混じりにそう喋った。

スイレの涙も枯れ果てて、声も枯れた頃。やっとスイレは泣き止んだ。余程嬉しかったのだろうか。スイレはミーネにべったりだ。これでは、どちらかと言うとミーネの方が大人に見える。その事をスイレに伝えると、スイレは無表情になり、スッと立ち上がった。

「ゾーン。ヴァン。ありがとう。私達を再び繋げてくれて。すぐには旅立ってしまうのだろう?いつでも私を、ミーネを頼ってくれ。すぐに駆けつけよう」

「あぁ…ところで、私なんでスイレの事見えるようになってるの?」

「見るのを許可しただけ。確実に一人ずつ闇討ちしようとしてたからね。今はもうそんな事どうでもいいけどね。」

なるほど。お化けを見るには本人からの許可が必要らしい。

「へぇ〜なるほど。スイレ、村の長の名前って…」

「…覚えてない。」

「だよね…それじゃ、私達はもう旅立つとする。じゃあな」

「ばいばーい!」

私とヴァンがそう言うと、ミーネが元気よく“またねー!”と返答した。もしかしたら、またあの二人に会えるかも知れない。私はそういう考えを脳の隅に留めておいて、目的地なんて無い旅が再び始まった。

こんにちは!最後まで読んでいただきましたか?まだまだ能無しですが一生懸命頑張ってるので是非最後まで見てってください!

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