始まりの日
年は2500年辺りのいつか、世界は魔物に襲われ、人間と魔物の戦争へと発展していた。
私が住んでいた、小さく、名も持たぬ村までに戦争のことは伝わっていた。
まともに物を食べる事もできず、腹を空かす毎日だった。
「お母さん、お腹空いた」私がそう口を開くと、いつも母が必ず優しく言葉を返してくれた。
「あともうちょっと待つだけで、美味しい美味しいご飯が食べられるからね!」
私はその言葉を信じて、今日も木の実を母と食べる。
「いただきます」母がそう言うとわたしもそれに続いて「いただきます」と言い放った。
私は突然、疑問に思う。『なんで食べる前にいただきますって言うんだろう』と。
私は一言一句間違えず、母に尋ねると、「いただきますっていうのは、『命をくれてありがとう』って事!だから、木の実に感謝して、命をいただこうか!」
まだ幼かった私には理解が及ばなかったが、直感で分かった気がした。
そんな貧しい毎日だった。いや、村の中だったら裕福な方だった。それほどまでに貧しかった。
今日も今日とて、お母さんと木の実を取りに行っていた。マトリージュっていう甘みがギュウギュウに詰まった果物。この時期は果汁も詰まっており、栄養満点な戦闘食にも採用される、万能な木の実だ。
お母さんと道中に帰っていると、草むらから物音がした…気がしたお母さんはそれに気づかず、私の手を引いて言えへと帰った。
思えば、その時、お母さんに言っていれば村の人達全員救えたのかも知れない。
幼い私は、思いもしなかった。いや、今でも想像をしても現実に起こるとは思わないだろう。
一夜にして村が何者かによって壊滅するなんて。
その日、私は森の奥深くまで行ったせいか、猛烈な眠気に襲われた。
深く、とても深く、周りの声なんて聞こえないほど深い、眠りについた。
うるさい…うるさい…私はそう思いながら不機嫌そうに目を擦り、開けた。
私は、目が覚めるとお母さんの温かい腕の中に居た。
「おかあさん…どうしたの?」私が目を擦りながらそうお母さんに聞くとお母さんは何も喋らずにただ走っていた。
いつも優しく返答してくれたお母さんが、血眼になって必死になにかから逃げていた。
私はお母さんの後ろを見ると、そこには緑色の肌をした何かと、それに襲われる人々が居た。
村は血に覆われ、強烈な臭いが漂っている。
私はその臭いに吐き気と拒絶感を覚える。とても良いものでは無かった。村中はまさに地獄絵図と化して、私達もその化物から逃げているさなかということに私はようやく気づいた。
その時、お母さんの足が化物に引っ張られ、バランスを崩して転んでしまった。
「お母さん…!」私がそう声を出すとお母さんは化物に襲われ、背中を何度も切り裂かれ、ほじくられながらも弱々しく言った。
「キャルロン…あんただけでも…生き残って…幸せになるんだよ…!」
私は絶句し、しばらく思考も止まった。それほどまでに、ショックで直視したく無い事だったから
認めたくなかった。大事な人を失うのが怖かった。
私の目を覚ましたのは紛れもない母だった。
最後の力を振り絞り、「速く…逃げて!」お母さんに叱られたような気がした。
お母さんに叱られたのは、生まれて初めてだった。
私は何処に逃げれば良いのかも分からず、数分は化物と鬼ごっこをしていた
急遽思いついた、防空壕に逃げよう。
まずは化物を撒く必要があった。私と化物の差は縮まりも離れたりもせず、一定だった
段々と化物の足は溶け落ちて、私との差が開いた。
その間に、防空壕に逃げ込む事ができた。
暗くて、寒い、防空壕の中。非常食もあるが、マトリージュのドライフルーツだった。
マトリージュはドライフルーツにすると栄養が95%カットされる為、本当に気持ちの支えなだけだった。
私がそうこうして、30分その防空壕の中で過ごしていると外からガタガタと防空壕の扉に衝撃が入る。
私はもうダメだと思い、涙を目にためる。
しかし、開けたのは白衣を着た男だった。
私は安心し、安堵をした。その男は口を開いた。
「大丈夫かい?もう安心さ」
私は安心して強張っていた涙が流れた。
助かったんだ。
お母さんは死んでしまったけど、私はお母さんのお陰で助かった。
「生きててくれて…ありがとう」
ああ。なんて慈悲深い人なんだろう。
私はそう思った。余りにも慈悲深いその心は、仏かのように思えた。
「…実験の糧になってくれて…ありがとう」
男がそう口を開いた。
そう聞いて間もない時、私は突然後ろから現れた化物に噛まれてしまった。
「実験さ。致死量を超えるゾンビウイルスに侵されたら、どうなるかの実験。普通は致死量になんて到達しないけどね…私が改造したゾンビさ…。さぁ存分に死に給え」
私はとてつもない痛みと果てしないムズムズとした感覚に襲われる。
身体中が痒みと痛みに襲われ、地獄のような感覚に、私は声も出なかった。
噛まれた所から出血もしている。とにかく痛い、呼吸も乱れ、私は段々と意識を失っていった。
朦朧とする意識の中、はっきりとあの男の声を聞き分ける。
「ふむ…ただ死んでしまうだけか。つまらない…無意味な実験だった。だが…失敗は成功の糧となる…この経験は次の実験に活かそう…」
私は完全に意識が失った中、一つの感情をもぎ取り、しっかりと握りしめた。
怒り、悲しみ、そんな物ではない。
抱いた感情は殺意だった。当然だ。最愛の家族を殺され、住むところも破壊され、仲間も殺された。
ただただこの男が憎い。
だが、私は確かにこの男の言う通り、もうじき死ぬ。自分だからこそ、確実に分かる。
なにも一矢報えずに、この男に復讐できずに、ただただ、負け犬のように。
抵抗手段ももたないシマウマが、ライオンに一方的に殺された。自然界では普通の事だ。
だがここは自然界ではない。理不尽に、興味心だけで、人が殺された。
これは許されざる事ではない。知識の無い初心者の裁判官でも分かる簡単な問題だ。
私は、眠りに落ちた。
目が覚めた。清々しいほど青い満点の空が目の前に広がっていた。
雨が降ったようで、虹が空に掛かっている。
「…私…死んだんじゃ…?」
辺りは相変わらず死臭と腐敗臭が広がっており、息すらしたくなかった。
私が起き上がると、身体の節々に違和感を感じる。
関節が動かしにくく、力も入りにくい。
立ち上がると、足がふらつき、すぐ転けてしまった。
再び立ち上がろうとすると、水面に私の顔が映る。
緑色の肌、赤い瞳、そして血まみれ。
あの化物共に酷似している。生き延びれたと言えど、こんな姿になってまで生きたくはないという気持ちと、あの男に復讐できるという気持ちが混ざりに混ざって複雑な気持ちへと変化した。
殺意と困惑が混ざった怒りという、なんとも言えない複雑な気持ちに。
そしてこの想いは一生癒える事は無い。
私の想いは、奴を殺すまで不滅だ
ゾンビという化物になってしまった私。以降、私は本名を捨てて「ゾーン」と名乗った。
白衣の男は「科学者」と呼ぶことにした。
シンプル・イズ・ベスト。呼びやすい方が通じるかもしれない。
私は科学者を探す為に、まず何をするかを考えた。
仲間を増やす?科学者の情報を入手する?
まずは、科学者の情報を入手することに専念しようと考えた。
私は、ブルーアベリナ王国という、現在最も高い技術を有している王国に向かうことに決めた。
まずは、旅の準備から始めよう。
バッグ片手に、ナイフ、糸、針、とまぁ役に立ちそうな物を片っ端から詰めた。
バッグがパンパンになると、私は、ブルーアベリナ王国へと歩き出す。
こっからは、随分と遠いが、いつかは辿り着く筈だ。
私の村は森に囲まれた山奥にあった為、森の中へと入っていく。
私が樹海を歩いていると、ガサゴソと、草むらから何かが音を立てた。
恐らくこの辺りで蔓延っている盗賊かゾンビだろう。
私は、戦闘態勢に入る。
この身体での戦い方は、直感で分かった。
出てきたのは、白髪の女性。私と同い年くらいの女の子だった。
私は、出てきたのに反射的に攻撃を仕掛けた。
地面に血を染み込ませ、血の剣山で、彼女を攻撃した。
彼女は、華麗に、剣山の上に立つ。
こいつは只者ではない。私はそう感じた。
一応私の剣山は時速17kmは出ている筈だ。
それを軽々と避ける反射神経と運動能力。
私は、未だに怒りに駆られ、そんな事を考える訳もなく、次の攻撃を繰り出す。
「え?ちょ…落ち着いて!」と彼女は口を開くが、私には届かなかった。
血の剣山が通じぬなら、血の弾だ。私は単純な弾幕を展開し、一斉に彼女に飛ばす。
彼女の身体は、何百ものコウモリに変わって、消え去った。
私は、正気に戻り、悪い事をしたな、と考えていると、誰かが私の右腕に一撃を喰らわせた。
辺りにはわたしの血と腕が転がり落ちる。
私は、咄嗟に腕を拾いながら体勢を整えようとした。
彼女はそんな事を許すこともなく、私に一撃を与えようとした。
今度は顔に拳が来た。
流石に死んだな、と私も彼女も心の中で確信しただろう。
彼女の攻撃が私の顔に届く。
顔は吹っ飛び、地面に転がり落ちた。
しかし、私は未だ生きている。
その生命力こそが、脆く弱いゾンビの生存戦略。強みなのだ。
私は、腕をくっつけると、頭を両腕で拾い上げる。
彼女は再び攻撃にくるが、私が許さない。
地面に飛び散った血を利用して、彼女を拘束した。コウモリになれないよう、身体の隅々まで。
「急に攻撃したのは悪かったよ…で…お前はあの白衣の男の仲間か?」
私がそう彼女に首と頭をくっつけながら問い詰める。
彼女は驚いたように口を開く。
「貴方も被害に遭った…被害者!?」
私達は、同志のくせに、互いの食い違いで戦闘をしていたらしい。
彼女の話を聞く所、つい先日、一人の少女が謎の死を遂げた事が判明したらしい。
その夜、科学者が現れ、お母さんに「逃げて」ど助言されたらしいが、すでに詰んでいて、ヴァンパイアに噛まれた。
そして、ヴァンパイアになったらしい。
彼女が科学者の仲間に成らなかったのは、どうやらその強靭な精神のお陰らしい。
母を殺した者を殺す為、殺さないと死ねないと。
彼女にとって、意識が無くなるのは死ぬのと同義らしい。
そして彼女は、「マアス」と名乗った。
私は、本名のまま名乗らせるのは迂闊なので、彼女を名付けた。
「ヴァン」。やはりシンプル・イズ・ベストなのだ。
センスが無いと思う方もいるかも知れないが、センスがある。と一人でも思ってくれた方がいいのだ。
ヴァンは、自分にできる事と、私のできる事を開拓しよう。
まず、ヴァンにできる事だ眷属を作る事、血を吸って回復すること、血を巧みに発射できる、コウモリ化、更に翼を生やして飛んだりと、色々とできて万能だった。
そして、私にできる事を予測してくれた。
眷属化、血を巧みに操れる事、血を吸うことで素早く再生、血を吸わなくとも腕をくっつける再生能力、ヴァンとは違い、戦闘に特化した化物なのか?ゾンビって。
私はそう思い、再びあの惨事を思い出す。
思い出しただけでも、凄まじい怒りに駆られる。
血液がことことと沸騰するかのように、熱く燃え上がる。
私は、ブルーアベリナ王国へと向かっている事と、そこが一番科学者が居る可能性を話すと、彼女も行くと宣言し、私の旅仲間になった。
恐らく長い間お互いに助け合い、協力し合うだろう。
ヴァンパイアという心強い種と強力関係を結べた事に、私は安心感を覚えた。
和解した。私とヴァン。
能力も開拓した、仲も深められたであろう。
次第に日も暮れた。
そして、疲れ果てて私たちは地面に伏せた。
…お腹が減った。
ゾンビとヴァンパイアの主食は人間の血肉だろう。
ゾンビは空腹で死ぬことはないだろう。しかし、ヴァンパイアは?
死ぬと思う。いち早く人間を探したほうが良い。
飢えた私たちの嗅覚はすぐに人間を発見した。
人間は寝そべっていて、潜伏しているようだった。
私は既に動けなくなったヴァンをおぶって、人間の方向に歩き出す。
ヴァンの身体は私よりも二回りほど大きく、歩きづらいながらも、ヴァンを運ぶ。
それは、迷彩服を着た軍人の様な人だった。
その人は私達を見ると青い顔を晒す。
私が、人間の言葉を口にすると、その人は不思議に私たちを見つめてくる。
私は空腹で、人間の血が必要と伝えると、勿論逃げ出した。その為、血を使って捕縛した。
ヴァンの伸びた爪を使って、人間をひっかく。血がチョロチョロと溢れ出すので、私は取り敢えず、その少しずつ湧き出る血をヴァンの口に押し付ける。
ゴキュゴキュと言った爽快な音は鳴らないが、確実に血を飲んではいる。
次に私もいただくことにした。出血は止まってしまった為、ナイフで腕を傷つけて、チョロチョロと出てくる血を舐め取る。
なれない味だ。不味い。
そして、血の縄を解いて人間が逃げていくのを確認した後、私たちもこの場を後にした。




