出会いの朝
第1話
朝の光はまだやわらかく、村の畦道を金色に染めていた。
彼女は小さな籠を抱え、足元に落ちる朝露を避けながら、静かに歩いていた。
草の匂いと冷たい風が頬を撫で、まだ目覚めきらない自然の息吹を感じている。
遠くからは、訓練基地の喧騒が薄く聞こえていた。
銃声や命令の声、兵士たちの足音が混ざり合い、戦争の影が静かにこの村にも忍び寄っている。
それでも彼女は、今日もいつも通りの朝を過ごそうとしていた。
けれど、その日常は一瞬で変わる。
畦道の曲がり角——ふと視線を上げたその先に、ひとりの青年が腰を下ろしていた。
土手に身を預け、目を閉じたまま、風の音だけを聴いている。
頬に触れる冷たい空気さえ、どこか懐かしむように受け入れていた。
彼女の足が、ふいに止まる。
青年もまた、気配に気づいたように、ゆっくりと目を開けた。
そのまなざしが、まっすぐに彼女の心を射抜く。
一瞬、時間が凪いだ。
「す、すまない……」
声は震え、どこか遠慮がちだった。
けれどその響きは、柔らかく、胸に染みた。
「い、いいえ……わたしも驚いたので…」
そう言いながら、彼女の頬がほんのりと染まってゆく。
まるで初夏の花が、そっと開くように。
ふたりの目が重なったとき、
そこには言葉を超えた静かなやりとりがあった。
過ぎゆく風。遠くの銃声。
そのすべての音が遠のき、ふたりだけの朝が、そっと始まっていた。
まだ名前も知らない。
けれどその瞳の奥に、どこか懐かしい何かを見つけてしまった。
まるでずっと、出逢うのを待っていたかのように——。