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9話 替え玉のスピーチ

「本日はお集まりいただき、有難うございます。こうして皆様にご挨拶できることを、とても嬉しく思います」

 

 ルミは習ったようにゆっくりと丁寧に原稿を話し始めた。


「この国は、1年の半分が雪に覆われています。行動が制限され、辛抱強く耐えなければならない日も多くあると思います。しかし、豊かな森、澄んだ水、夜空の美しさ。良い所も数多くあります。そうしたあるものに目を向け、感謝しながら生活することを、私は皆様から学びました。皆様の知恵や工夫、努力があり、こうしてこの国が発展し、今豊かに暮らせることを、心より感謝申し上げます。

 この国には豊かな自然を活かした、工芸品や布製品が数多くあります。そういった素晴らしいものに皆様が余裕を持って目を向けられるよう、私はこれから尽くしていきます。皆様もこの国での毎日を楽しんでください。

 最後に、どうかお身体だけは大切にしてください。本日は有難うございました」



 歓声が上がった。

 何とかこの場を切り抜けられたようだ。

 手を固く握っていたためか、指の先がビリビリと電気が走ったように痛い。


 ルミが振り返ると、陛下や王妃様、幼い王子殿下は皆笑顔だった。

 良かった。ルミは安堵の笑みを浮かべた。


 ルミがベランダから室内へ戻ると、ステラナが潤んだ瞳で迎えてくれた。

「とっても立派でしたよ、殿下!」

「本当? ありがとう」

「声の張り、堂々とした姿が素敵でした」

 自室へ戻るため、二人で廊下を歩きながら、ステラナは仕切りに褒めてくれた。

「感動致しました。カッコ良かったわ、本当に」


 二人きりになるにつれ、次第に敬語がなくなっていく。それがルミには可笑(おか)しかった。

「ルミのこと、誇りに思うわ」

「ステラナが協力してくれたおかげよ」

 ルミはステラナをギュッと抱きしめた。



 部屋の前では、エリオが待っていた。

「ルミ、とても良かったよ。よくやった」

 にこやかな笑顔で握手を求める。初めて見る優しい眼差しだ。

「ありがとう、二人が協力してくれて、本当に助かったわ」


 ルミは部屋へ入った。

「ステラナもここまでの協力、本当にありがとう」

 エリオはステラナにも労いの言葉をかけた。こんなにずっと笑顔のエリオは初めてだ。


「そうそう、たまたま見つけたんだが、ルミの両親が来ていたぞ」

「え! 本当?」

 ルミは思わずエリオに駆け寄った。

「使用人のいるところばかりを見ていたから、ルミを探していたんじゃないかな」

「私を見に来てたの……」

「まさか、今まさにスピーチをしているのが自分の娘だとは思わなかっただろうな」


 そうか、来てたんだ。ここまで歩いて来れるくらい、今お父さんもお母さんも元気なんだ。

 ルミはそこで一気に気が抜け、その場にしゃがみ込んだ。



 その日のディナーはエリオの計らいで、早々に切り上げさせてもらった。

 朝からずっと。いや、王宮に来てからずっと張り詰めていた糸が、もうプツンと切れる寸前だっだのだ。



 ソファで今にも眠そうにしていると、ハーブティーを用意していたステラナが、近くへ寄ってきた。

「髪がまだ濡れてるわよ、ルミ。乾かしましょう」

 髪をタオルで拭かれているだけなのに、こんなにも気持ちがいい。

「ありがとう、ステラナ」

 ルミは心の底からの礼を言った。

「身の回りのことや今日のことも、本当にいつもありがとう」

「いいえ」

 ステラナの声がいつもより柔らかい。

「私はルミを尊敬しているわ。突然王女になれって言われたのに、それを懸命にこなして努力して。私は少しでもルミの力になりたいの。これからも何かあったら私を頼ってね?」


 なんていい子なんだろう。ステラナがいなかったら替え玉をここで降りていたような気がする。


 次第にルミは頭がボーっとしてきた。昨晩眠れなかったのと、スピーチを無事終えたことへの安堵が一気に押し寄せてきたようだ。

「ルミ、頭上げて? もう少しで乾くから、もう少し耐えて?」

「うん」

 そう返事した後すぐ、ルミは目を閉じた。



 夢の中で、ルミはお姫様抱っこされていた。


 ふわふわとした雲に漂うような夢心地。お姫様抱っこをしたエリオが、髪に唇で優しく触れ、キスをする。その感触だけは、なんだかとてもリアルだった。

お読みいただきありがとうございます!

次回からルミとエリオの距離が近づきます。

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