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7話 替え玉の計画

「ウルフ様、とってもかっこよかったですね!」


 部屋へ戻ってから、ステラナは何度も何度もウルフを褒めた。

「わたくしのコーヒーを褒めてくださいましたし 、にっこり微笑んでくださいました。ああ、素敵だったなー」

 ハートの瞳で、夢見るように言う。


「そうね、ウルフ様、とても元気な方だったわね」

 ルミは力なく笑った。

「でも、最後に何を言いかけたんだろう?」

 ずっと考えていた思いが、つい言葉になった。ルミはウルフの人柄よりも、そのことが気になって仕方がなかったのだ。


「私もそれが気になっているんだ」

 エリオが壁に寄りかかって呟いた。

「別人だと気づかれたかしら?」

「無くはないと思う。ウルフ様はカンが鋭いところがあるから」

「というと?」

 エリオは天井を見上げ、腕を組んで遠い目をした。


「昨年の秋のことだ。パーティで踊っていた王妃様に、ウルフ様が声をかけたんだ。休まれた方が良いですよ、と。それで医者を呼んだ所、発熱されていた。その時は王妃様も自分では熱があると気づいていなかったらしい」

「ええ! そんな変化にも気づく方なのですね!」

 ステラナは目をキラキラと輝かせた。

「喜ぶところじゃないぞ、ステラナ」

 エリオはグッと眉間にシワを寄せた。

「はーい」

 ステラナはバツが悪そうに苦笑いした。


「ねえ、思ったんだけど?」

 ルミは思いついた事があって、エリオと目を合わせた。

「なんだ?」

「こんな危ない橋を渡るくらいなら、最初から殿下はご病気だと言えば良いのに。替え玉なんて言い出したのは誰? エリオ?」

「いや、私じゃない」

 エリオは首を左右に振った。


「殿下の体調不良は昨年までの決まり文句だった。年が明けて、替え玉でも立てようかと言い出したのは、陛下だ」

「え? 国王陛下?」

「ああ。ジュリエッタ王女もそれは良いアイデアだと喜んで、今年は建国祭(けんこくさい)も替え玉にやってもらえばいいと言って、旅行へ行ってしまわれたんだ」

 エリオは呆れたような声を出した。


「殿下は毎年、建国祭までは行かずに我慢してくれるんですけどねー」

 ステラナも口を尖らせた。


「けんこくさい?」

 ルミは聞き慣れない言葉に首を傾げた。

「知らないのか?」

 エリオは目を丸くした。

「ええ。聞いたことがあるような……無いような……」

 気まずくて声が小さくなった。これまでルミは国の行事というものに、まったく興味が無かった。


「呆れたな。建国祭は、一年に一回、国民が王宮内に入って、王家に謁見(えっけん)できる唯一の機会なんだぞ」

「陛下から国民へ、直々の挨拶があるんですよ」


「へぇ、そうなの。今年の建国祭はいつ?」

「二週間後だ」

「え? 二週間後? もし王女がそれまでに戻られなかったら……」

「ああ、ルミが出なくてはならない。王女としてな」

 ルミはそれを聞いて一気にズシンと気が重くなった。


「そんな……、私はそこで何をしたらいいの?」

「何もしなくていい。ただ王宮のベランダからニコニコと手を振っていればいい」

 エリオはまるで自分が王女になったように、優雅に手を振ってみせた。

「それだけ?」

「ああ、それだけだ」



 それから二週間。王女には来客もなく、特に変わったことは起きなかった。万が一王女が戻ってくることをルミは願ったが、そんな気配は微塵もなかった。


 この二週間、ルミは勉強に明け暮れる日々を送った。

 王女の好き嫌いや親しい人物名のテストをし、建国祭での手の振り方や笑顔の作り方の試験などをやった。

 日を増すごとにエリオの家庭教師っぷりはどんどん板についてきて、たまにメガネをかける姿はまさに絵に描いたような教師像だった。ルミは思わず、「先生!」と、何度も呼んでしまいそうになった。


 三度の食事はテーブルマナーの練習を兼ねていて、見張りとしてエリオは常に背後に立っていた。

 毎回食べきれないくらいの豪華な食事が出されるが、ルミはいつだって緊張して摂ることになり、食べた気がしなかった。

 ただ唯一、マッシュポテトを食べた日は、家で採れたジャガイモだとすぐに気が付き、家に帰りたい衝動に駆られた。



 建国祭を明日に控えたある朝、ルミはステラナにある提案をしてみた。


「ねえ、ステラナ」

「何ですか? ルミ様」

 ステラナは慣れた手つきで髪を結っていく。


「様、つけなくていいわ、私、農民だし。呼び捨てにしてくれない? タメ口で話そう?」

 ステラナは目を丸くして鏡越しにルミを見た。

「本当?」

「うん。ずっと言おうと思ってて」

「やった!」

 ステラナはルミを背中からギュッと抱きしめた。するとそこでバンッ!と勢いよくエリオが入ってきた。


「ちょっと、エリオ様 ! 支度中ですよ?」

 ステラナはルミから離れ、エリオに詰め寄った。

「またノックしないで入りましたね?」


「ああ、すまない。でも緊急に伝えたいことがあったんだ」

 エリオは珍しく、ソワソワして落ち着かない様子だ。

「緊急?」

「ああ、それが……今年の建国祭での挨拶はルミ、キミがやることになった」


「え?」

「挨拶を? 私が?」

お読みいただきありがとうございます!


次回は建国祭での挨拶を考える回になります。

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