44話 決着の時
自警団とエリオやリックが慌てて国王を止めに入った。
その場にいた人々にとって国王の行動はどう見ても悪あがきにしか見えなかっただろう。
四人の男たちに取り押さえられ、地面に伏されても尚暴れる国王を、ルミは息を切らしながらただ見つめた。
「何をやってるんだ、ロドリゲス。早くウルフから、ジュリエッタを逃がしなさい!」
指示されたロドリゲスは狼狽えるものの、ウルフの元へ行こうとはしない。
そんな中、人垣を掻き分けてゆっくりと国王の元へ歩く男性がいた。
「お父さん?」
ルミは我が目を疑った。国王に向かっているのは父なのだ。父は暴れる国王の前にしゃがむと力強く国王の頬を殴った。
バチン! 音が響き、その場は時が止まったように静かになった。音に合わせて雪が止んだ。
「私も父親だから娘を庇いたい気持ちは分かります。ですが、そうやって認めないことは果たして愛だろうか?」
父の低い声や体の震えから激しい怒りが地鳴りとなってルミまで伝わってくるようだ。
「子どもの間違いを認めて謝罪させることが親としての責任、そして愛情なのではありませんか?」
国王は泣き崩れた。立派な大人が声を上げ、まるで子どものように泣き喚く。哀れとしか言いようのない姿だ。
溜め息をついた神官が国王の前へ行き、問いかけた。
「あなたの娘はどちらですか?」
国王は震える指を構えると、ジュリエッタを指さした。ジュリエッタはその場に膝から崩れ落ちた。
自警団はジュリエッタの両手首をロープで縛り、反対にルミのロープをナイフで切った。
ロープを解かれたルミはエリオやリック、母と父に駆け寄られ、ジャケットを前から後ろからと掛けられた。その温かさにルミは涙が止まらなかった。
薄暗かった空は雲の切れ間から陽射しが入って明るくなった。ルミはその光に照らされた。
遂にやった。私がルミだと証明できた。みんなの助けがあってやっと掴んだ無実だ。
ロープに繋がれたジュリエッタはそのまま自警団の男によって絞首台へと連れて行かれた。国王はそれを見て慌てて立ち上がり、神官に縋りついた。
「死刑だけは! どうか勘弁してくれ! 王位を剥奪されてもいい。私が死刑になっても良い。でもお願いだ! ジュリエッタを殺さないでくれ!」
国王の訴えを気に留めず、自警団は絞首台にジュリエッタをセットした。ジュリエッタはわんわん泣き出した。ウルフはギュッと目を瞑り、ジュリエッタから顔を背けた。慌ててリックとロドリゲスが自警団に駆け寄って、国王の訴えを伝えた。
ルミはエリオの手を取った。
「前に話してくれたでしょう? あの証人の方をこの場に呼べないかしら?」
エリオは頷いて立ち上がり、右手を高々と挙げた。
「皆様! この場で話したいことがあります! いいでしょうか?」
ここで何の話しがあるのだろう。野次馬はざわついた。
「ヘルゲさん、こちらへ」
エリオに名前を呼ばれ、人垣の中から小太りのヘルゲが神妙な面持ちで現れた。
「この方は行商人のヘルゲさんです。私に以前話してくれたことを、今この場で話してくれませんか?」
ヘルゲは「分かりました」と言い、すうっと息を吸い込んでから話し始めた。
「私はこれまで姫様から盗品をすべて買い取ってきました。ですが、私が買い取った盗品はすべて販売元にお返ししています」
ヘルゲの証言に野次馬がざわついた。
「私も商売人です。商品が盗まれることの悔しさは充分わかっているつもりです。姫様が盗んだものは、今となってはドルザスの指輪、ただそれだけとなりました。ですが、それも今は持ち主にお返しできています。そうですよね?」
ヘルゲの言葉をリックが通訳すると、自警団はコクンと頷いた。
「どうか私からも姫様の死刑は免除願いたい。皆様どうでしょうか?」
「ここで免除したら再犯するのでは?」
「盗品を元に戻したからといって罪が消えた訳でなはいだろう」
野次馬はそれぞれに、ああだこうだと話し合った。
ロドリゲスとリックを交え、神官と自警団は議論を始めた。自警団はしばらく悩んだ後、何かを決めたようだった。
リックが声を上げた。
「ジュリエッタ・ランベールの処罰が新しく決まりました!」
リックの声に、広場はまたシンと静まり返った。
「ジュリエッタ・ランベール及びその父親クラウス・ランベールは……晒し刑に処する」
その声を聞いた国王はまた、おいおいと泣き出した。絞首台から外されたジュリエッタは、国王の元へ走っていき、四つん這いで泣く国王に覆いかぶさった。
その日の夜。王都の居酒屋にルミはいた。エリオ、ステラナ、リックとウルフ、そしてルミの父と母も同席した。エリオの「カンパイ」の掛け声で7つのグラスがぶつかり合った。
「ルミ、おめでとう! おかえり!」
お読みいただきありがとうございます。
次回からは解決後の後日談です。




