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42話 証明の時

 スレイダンの第一王女が死刑となったことは、国内外に知れ渡った。


「窃盗の罪で死刑になったらしい」

「なんてこった。窃盗を働いた国が悪かったんだろうな」

 前代未聞の事態に、世界中の人々が噂をした。



 緑の葉が黄色や赤色に染まる頃、その日はやってきた。


「今から、スレイダン王国第一王女、ジュリエッタ・ランベールの処刑を執り行う」


 雪が降り始めた。


 こんな寒い日にもかかわらず、広場には大勢の野次馬が詰めかけている。

 その中央に建つ絞首台を、ルミはギロリと(にら)んだ。


 なぜこんなことになったのだろう。でも、まだ大丈夫。まだ死なない。

 死んでたまるか。



 ルミは野次馬の注目を浴びながら、白い囚人服を着てロープで両手を縛られ、自警団の男たちに広場へと連れ出された。

 石畳の地面を裸足でヒタヒタと歩く。雪が溶けて染み込んだ石畳は痛いほど冷たい。絞首台まで歩くと、ルミの足の感覚はもう何も感じないほどになっていた。


 人垣の手前を、ドルザズの自警団、スレイダン国王とその側近、執事や使用人たちがズラリと並んで取り囲んでいる。

 国王はたったひとり椅子に座り、厳しい顔でルミを見据えている。エリオはルミと目を合わせると、瞬きを一つしてから人垣に紛れて見えなくなった。



「ジュリエッタ様はあんなお顔だったか?」

 国王の後ろにいた野次馬が声を出した。

「我々は素顔を見たことがないだろう? メイクを落としたらあんな顔なんじゃないか?」

 横にいた男が言い返した。


 神官はやってきたルミを絞首台へ縛り付けるよう、自警団に目配せで合図した。

 ルミは冷たい空気を思いっきり吸い込むと、寒さで凍ってしまいそうな体に力を込め、大声をあげた。


「最後にどうしても言いたいことがあります!」

 騒然としていた広場はシーンと静かになった。


「私はジュリエッタ・ランベールではありません! そのことを、今から証明させてください!」


 神官は怪訝な顔をしてルミを見下ろした。この寒い中、面倒をかけるなという顔をしている。


「証明するだと?」

 国王が立ち上がった。

「ジュリエッタよ。悪あがきは良くない。雪も降ってきたところだ」


 野次馬はザワザワと騒がしくなった。

「娘に掛ける言葉とは思えないな……」

「国王様はあんなに冷たいお方だったか?」


 国王は咳払いをひとつしてまた椅子に座った。

 自警団のひとり、防寒服を着込んで帽子を被った男が前に出てきた。そして神官に何かを訴え始めた。


 神官は帽子男を制止して手を上げた。

「どなたか、通訳をお願いできませんか?」

 ロドリゲスが国王をチラリと見てから前へ進み出た。

「私が通訳致しましょう」


「待ってください!」

 透き通るような声が響き渡った。

「僕もドルザズの言葉がわかります!」

  人垣を掻き分け、前へ出て来たのはリックだ。リックの顔を見たルミは、その懐かしさに胸がいっぱいになった。


 リックは悲痛な面持ちでルミと目を合わせた。寒さのせいかリックの真っ白な肌は、頬と目の周りが真っ赤になっている。リックは何かを言いたそうに口を動かしたが、ギュッと目を瞑ってから前を見据えた。


「お二人もいれば充分でしょう。それでは、最後に言いたいこととは何だ? 言ってみよ」

 神官はルミに問いかけた。


「ジュリエッタ王女には口の左下にホクロがあるんです! でも見てください 、私にはありません!」


 野次馬はざわついた。何と言ったのか良く聞こえなかった、教えてくれと言う声があちこちから聞こえてくる。


 リックとロドリゲスは帽子男に通訳した。男はルミに近づき、まじまじと口元を眺めた。そして白いため息をルミにかけると何かを呟いた。


 ロドリゲスが口を開いた。

「彼はこう言っています。確かにホクロは無いが、それが何だ。切除すればわからなくなる。ホクロなど、どうとでも言えると」

 リックは眉を下げて頷いた。彼がそう答えたのは間違いないのだろう。


「他にもあります!」

 ルミは叫んだ。


 野次馬のひとりが、往生際の悪いやつだと呆れたように言った。


「犯人が履いて逃げたという革靴です。それを持ってきてください! 私にはあの革靴が入りません!」

 ルミは力強く言い放った。


 リックとロドリゲスは同時に帽子男に通訳をした。男は気だるそうに他の団員に革靴を持って来させた。そして、ルミの目の前に茶色い革靴を置いた。


 野次馬が固唾をのんで見守っているのがわかる。ルミは恐る恐る革靴に右足を伸ばした。


 ルミよりもジュリエッタは手足が小さい。だから履けない王女の靴がこれまでたくさんあったのだ。だから、この革靴もきっと入らないはずだ。


 ……はずだったのだが。

 ルミの足はその革靴にすっぽりと入ってしまった。

 痩せたからだろうか? それとも合わない大きい靴をジュリエッタが履いて逃げたのだろうか?

 ルミが唇を噛み締めていると、クスッ、クスッ。人垣の右側から女性の笑い声が聞こえた。


「他に言い残すことは無いか?」

 神官が呆れた顔で念を押した。


「……ありません」


 ルミが言った、その時だった。


「ああ、神様!」

 女性の絶叫が広場にこだました。

「代わりに私が死にます! だからどうか、私の娘を助けて!」

お読みいただきありがとうございます。

次回、ルミが挽回していきます。読んでもらえたら嬉しいです。

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