40話 起死回生を狙って
「エリオ!」
「良かった、ルミ。前より元気そうだな」
「ええ。この間ね、ステラナが会いに来てくれたの」
「ステラナが?」
「ええ。クッキーを隠し持って。とても嬉しかったわ」
「そうか」
メイドをクビになる前に会いに来たのだろうか。
「エリオが私を勇気づけてくれたでしょう? あれからどうしても無実を晴らしたくて、色々考えたわ」
「ああ」
「それでね、ある作戦を思いついたの。この作戦がうまくいったら、私は王女ではなくルミだと証明できるわ」
ルミは目を輝かせた。
「どんな作戦なんだ?」
「替え玉には替え玉作戦よ」
「替え玉には替え玉作戦?」
「ええ。聞いてくれる?」
「いや、しかし……」
作戦の内容を聞いたエリオは頭を抱えた。上手くいったら良いが、その通り上手くいく保証はない。でも、ルミが勝利を勝ち取ろうと必死で考えたのだ。
エリオは隠し持っていたスコップは出さず、ジャーキーだけをルミに渡した。脱獄なんて考えは無しだ。一生逃げ続け、脅える生活を強いる所だった。
「わかった……その作戦で行こう。私もある人の話を聞くことが出来た。その助力とルミの作戦があれば、うまくいくかもしれない」
翌日、エリオはロドリゲスの監視の目から外れたのを見計らい、ユーリに乗ってルミの実家へと急いだ。
できれば今回の騒動はルミの両親に伝えたくなかった。何も知らせずに、元気なルミを帰らせようと思っていた。だがそうは言ってられない。
エリオがルミの実家へ着くと、畑で作業していたルミの父と母が、ユーリの足音で気づいたのか、駆け寄ってきた。
エリオが会釈すると、麦藁帽子を脱いでルミの父が一礼した。
「ちょうど我々もエリオさんにお話ししたいことがあったんです」
「よかったわ、来てくださって」
ルミの母は汗をタオルで拭きながら言った。
「ルミがお使いしている王女様が捕まったと聞きまして」
「私もそのことでお話があって参りました」
「家の中でお話ししましょう。どうぞ」
ルミの母はエリオを家の中へ招き入れた。
「王女様が捕まったのなら、ルミは今どなたにお使いしているのでしょうか?」
ルミの母は食卓にお茶を出しながら聞いた。
エリオは唇を噛み締めた。
「無理にとは言いませんが、ルミを帰してもらえませんか? 一日だけでも良いんです。順調に育っているあの畑をルミに見せたいんです」
ルミの父は希望に満ちた目で訴えた。母はウンウンと頷きながらその隣に座った。
「それが……ずっとお二人にこのことをお話しするのは躊躇っていたんです。相当なご心配をおかけすると思いまして」
「我々が心配を?」
「しかし……事態が事態なだけに、どうしてもお話ししなければならない」
エリオの様子に緊急事態だと察したのか、ルミの父と母は前のめりになった。
「覚悟して聞いてもらえますか?」
ルミの両親は時折唇を噛み締め、机の上の拳を握りしめながらエリオの話に聞き入った。
話し終えると、母はふうっと息を吐いた。
「分かりました。協力させてください」
* * * * *
王宮を辞めたステラナはドルザズへやって来ていた。だが、身動きが取れずに途方に暮れていた。
入国することは簡単にできたのだが、国境を越えた先の通りに、謎の集団があちこちで入国した人々を待ち構えているのだ。それぞれが獲物を狙うような目をして、通る人々に声をかけている。
女性がひとりで来るのは危険すぎたようだ。
ステラナは建物の陰に隠れ、そのまま動けなくなった。ここを出たら、危険な目に遭いそうで怖い。
そうして隠れている間に、日が暮れ始めた。ステラナは意を決してひとつ息を吐き、通りへ躍り出た。
その瞬間だった。
屈強な男たちが我先にとステラナを取り囲んだ。男たちはステラナの前に立ちはだかり、一斉に語りかけて来る。だが何を言っているのか、さっぱりわからない。
「ごめんなさい。行かせてください! そこを退いて!」
ステラナが今にも泣き出しそうな声で叫ぶと、背後から聞いたことがある透き通るような声がした。
「我々の宿に泊まらないか? と言ってますよ」
ステラナが振り返ると、そこにリックが立っていた。
「リック王子⁉︎」
ステラナは目を丸くした。名前を呼ばれたリックも目を丸くした。
「あれ? 僕を知ってるんですか?」
「スレイダンの王宮でお会いしました!」
「ああ! ジュリエッタ王女の侍女……ステラナさん、ですよね?」
「はい!」
名前を覚えてもらえてステラナは胸がいっぱいになった。
「この方々は、我々が経営している宿に来ませんか? とそれぞれがお誘いしています。ここは宿屋の競争が激しいようですね」
安心したステラナはその場にしゃがみ込んだ。
「そうだったんですね……」
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次回はステラナとリックの様子をあげます。




