39話 愛する女性を助けるために
リックはそれから、これまでのことを全てエリオから聞いた。
リックは黙って静かに話を聞いていたが、次第に深い憤りを感じ、テーブルの下の拳をいつの間にかキツく握っていた。
「本当はウルフ・フェルセンという、王女の幼馴染もルミが替え玉だと知っているんです。彼にも協力してもらいたかったのですが、行方がわからなくなっていて……」
「そうですか……」
リックは額に手を当て、しばらく考えた。
「僕は……父や兄に相談してみます。聞き入れてもらえるかはわかりませんが……」
「おおっ、それは助かります! オルフェイム国王が味方に付いてくれるならとても心強い」
リックは手を差し出した。
「エリオさん、共に頑張りましょう。我々はきっとライバルだと思うので」
「ライバル?」
エリオは出そうとした手を止めて、キョトンとした。
「ルミさんを助けた後、僕は改めてルミさんにプロポーズします。僕は彼女の笑顔に元気をもらいました」
エリオはそういう事ならと、リックの手を取った。
「私も彼女と結婚したい。絶対にルミを助けましょう」
二人はお互いの手を痛くなるほど強く握りしめた。
リックはその後すぐに帰国した。そして、オルフェイム国王への面会を申し出た。
半日待って、ようやく会ってくれたオルフェイム国王は、リックの顔を見るなり怒りを顕にした。
「忘れなさい。今回のことは」
「ですが、陛下」
パシッ。オルフェイム国王は一枚の紙を机に叩きつけた。
「これはスレイダン国王からの手紙だ。『この度は我が娘がご迷惑をおかけしました。ご縁談はこちらから辞退致します。誠に申し訳ございません』と、書かれている」
「我が娘というのは、実は違うんです!」
「うるさい!」
オルフェイム国王は机を強く殴った。
「とんだ厄介事に巻き込まれた。これ以上この話はするな。縁談は白紙だ。お前は今すぐアティベッドへ帰りなさい」
「……」
相変わらずこちらの意見を全く聞き入れてくれない父だ。
ここでしつこく粘って意見を申し上げようとしても、領地を取り上げる、とまで言い出しかねない。
領地を取り上げて尚、僕の話を聞き入れてはくれないだろう。
わかっていたはずなのに……。
リックはその後、四人の兄の元を訪れた。次男、三男、四男。一番頼りにしていた長男も、今回ばかりはリックの話を聞いてくれることはなかった。
どうしたらいいんだ。どん詰まりだ……。優しい笑顔を向けてくれたルミさんは今も尚、牢獄の中で辛く寂しい思いをしているというのに……。
リックは道端に座り込み頭を抱えた。ふと、通り過ぎてゆく外国人の姿を見て、ひとつの案を思いついた。
ドルザズへ行ってみるか。ドルザズなら、真実がわかるかもしれない。
* * * * * *
ある朝、エリオは使用人から聞かされた事実に驚いた。
「え? 本当ですか? ステラナがメイドを辞めた?」
「ええ。とてもできる子だったから、痛手が大きいわ。メイクやヘアアレンジが上手だから、後輩のメイドたちにも人気があったのよ」
教えてくれた使用人は肩を落とし、残念そうに去って行った。
使用人を辞めてしまっては、王宮内に出入りすることもできなくなる。だからこのまま働き続けようと、約束したばかりだったのに。
まさか陛下に辞めさせられてしまったのだろうか?
ステラナは仕事の合間に、聖堂へ行って神に祈ったり、王女やウルフの行方を探したりしていた。
エリオは執事室の椅子に座り、天井を見上げた。
ステラナは辞めさせられても、国王は自分を辞めさせられないのだろう。国王は我が父を警戒している。父は不当な扱いを受けることを極端に嫌う。エリオが辞めさせられたとあっては、その理由を権力を行使して父は糾弾してくるだろう。国王はそう思っているはずだ。
「そうか。私もリック殿下のように、父に今回の件を頼ってみるか?」
エリオは立ち上がった。
「……いや、だめだな」
エリオは首を横に振り、また座った。
父ならきっとルミのことを見捨てるだろう。そして執事を辞めさせ、貴族との縁談を持ちかけてくるに違いない。
父に話すのはやめよう。だが、このままでは八方塞がりだ。今すぐルミを助けたいのに。
「あ……そうだ 」
エリオは立ち上がった。
「いっそ脱獄させてしまおうか?」
あの牢獄は土でできている。私が出口から少しずつ掘り進め、ルミにも少しずつ掘り進めてもらう。そうやって脱獄して二人で逃げて暮せばいい。
「よし! そうしよう!」
エリオは決意し、執事室を飛び出した。
脱獄を決意したエリオは、深夜、ルミがいる聖堂へやってきた。
スコップを背中に隠し入れている。差し入れのジャーキーもある。
神官が眠っているのを確認し、足音を立てないようにゆっくりと、階段を下りた。
エリオが地下へ辿り着くと、ルミは起きていた。
以前会った時より痩せてはいるが、顔付きが明るくなったように見える。
エリオに気づくと、パッと花が咲いたように笑顔になり、ルミは近くへやって来た。
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次回は話し合いの回になります。




