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38話 リック王子の参戦

リック視点の話です。

 オルフェイムに帰ったリックは、いよいよやってくるジュリエッタを迎えるために、準備に大忙しだった。


 オルフェイム北端にある、アティベッド。そこはリックの領地で、その中央に彼の小さな屋敷があった。

 既に花が咲き誇っていた庭だが、さらに多くの植物を植えることにした。


 ジュリエッタが好きだと話したスノードロップも植えた。その横には自分が好きなスズランも植えてみた。


「ティーカップはもっと可愛らしい方が良いかもしれない」

「固くなったタオルは雑巾にして、新調しよう」

「ベッドももっと大きい方がいいかもしれない」


 屋敷内をひとり動き回り、あれが必要だろう、これは買い換えようなどと考え、ジュリエッタが来るのを今か今かと待ち侘びた。



 ジュリエッタが来るまであと一週間と迫った日。シーツを沢山干しているリックに、隣に住む農夫が声をかけた。


「リックさん、リックさん。聞きましたか?」

「え? 何を?」

「スレイダンのジュリエッタ王女、捕まってしまったそうですよ」

 リックは目を丸くした。


「ええ? 何言ってるんですか。冗談やめてくださいよ」

「いえ、本当です。なんでも旅行先で窃盗を働いたとかで……」

 農夫は残念そうに眉毛を下げた。


「窃盗を……?」

「ええ。リックさんがスレイダンへ行く前のことです。ほら、体調不良で延期になったじゃないですか?」

「ええ」

「あの時期に実は、旅行へ行ってたらしいんです。その旅行先で宝石を盗んだようで」

「いや、そんなことはあり得ない」


 リックは笑った。帰国した後も忘れることはなかった彼女の笑顔。

「彼女がそんなことをする人とは思えない」


「いや、でも。王都ではその噂で持ちきりですよ」

 リックは農夫の顔を見た。この人が嘘をつくとは思えない。リックは干したばかりのシーツを取り込んだ。

「僕は今からスレイダンへ行ってきます!」




 リックはまずオルフェイムの王都へ向かった。そして、馬車を借りたいと長兄に願った。

「彼女を助けられるのは僕しかいないんです!」

 リックの訴えに、長兄は反対したが、あまりに引かないので仕方なく承諾した。


「絶対にオルフェイムへ、彼女を連れて帰ってみせるから」

 リックは宣言し、スレイダンへ出発した。


 リックを乗せた馬車は山を越え、スレイダンの王宮に着いた。


「彼女が盗みを働くなんて何かの間違いです! 国王陛下にお会いさせてください。詳細が聞きたいのです」

 リックは門兵に訴えた。

 だが、スレイダン国王は面会を許可してくれなかった。



 リックはどうしても納得が行かず、門の前で許可が出るのを待ち続けた。

 夜、リックが地面に座り、ウトウトしていると、突然声がかかった。


「まさかここまでいらしてくださるとは……」

 リックが顔を上げると、そこにエリオが立っていた。滞在していた頃より、エリオは痩せてやつれた印象になっている。


「ジュリエッタ王女が捕まったと聞きまして」

 リックは立ち上がり、ここまで赴いた経緯を話した。


「実は……殿下がお会いしていたのは、二人のジュリエッタなんです」

 エリオは暗い顔をし、思い詰めたように言った。

「二人のジュリエッタ?」


「ええ。全てお話しします。こちらへ」

 リックはエリオの後を追った。



 エリオが案内したのは、賑やかな居酒屋だった。

 仕事終わりの男たちがあちこちで乾杯し、酒を片手に大声で騒いでいた。

「こんな所へ案内して申し訳ありません。ですが、ここなら人の目があるので安全なんです。その上、我々の話に耳を傾ける者もいないでしょう」


 エリオは申し訳なさそうに頭を下げた。

「安全……とは?」

「実は、このことをお話しするのは、少し危険なんです。私とメイドのステラナは王宮内で監視されているんです」


「誰に? どうしてですか?」

「国王の側近、ロドリゲスにです。我々だけが今捕まっているのは替え玉のジュリエッタだと知っているから」

「替え玉のジュリエッタ……」


「殿下は違いに気づかれませんでしたか? 王子の滞在中に、王女は二人になったのです」

「いえ? 気づいていません」

 リックは首を横に振った。

「本物は最後の二日間だけ、貴方にお会いしました。始めの五日間お会いしていたのが、替え玉です」


 リックは考えた。

「あ、そういえば……」

 最後のお見送りは露出度が高い派手なドレスだったので、まるで別人だと感じたのを思い出した。送る会の時も、そうだ。使用人に冷たい態度をとっていたから悲しかったっけ。


「言われてみれば、最後の二日間は人が変わったようでしたね。エリオさんもおっしゃっていましたよね? 気分が優れないようですね、女性には色々あるのでしょうとか、何とか……」


「ああ、あの時は申し訳ありません」

 エリオは眉を下げて、苦笑いした。

「あの頃の私は、バレないように必死でしたから」

 エリオはバツが悪そうに首を掻いた。


「殿下が始めの五日間お会いしていた女性はルミという名前です。ルミは農家の娘なんです」


「農家……」

 リックは思い出した。彼女が農業の話に積極的だったことを。

 また、ピンときていた。エリオはもしかしたら、ルミのことを慕っているのでは、と。

 でもリックが想い焦がれていたのはそちらの方の女性だ。

「ルミ……」

 リックは呟くと、息を深く吸い込んで目を閉じた。

お読みいただきありがとうございます!

次回もリック視点の話になります。

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