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37話 ルミの告白

「私はね、エリオ。信じてもらえないかもしれないけど、転生者なの」


 ルミは鉄格子の隙間から、エリオの目を見つめて言った。

「テンセイシャ?」

 エリオは首を傾げた。


「ええ。前世の記憶があるの。私は死ぬ間際に祈ったわ、お伽話のような世界でスローライフを送りたいと。それが叶ってこの世界に生まれたの」


「それがなぜ、牢にいて当然の理由になるんだ?」

 鉄格子を握るエリオの手にグッと力が入った。


「前世の私は貧しかった。食べ物はいつも家に無くて、いつもお腹が鳴ってて。ある時ね……」

 ルミは水溜りを見つめ、思い返しながら話した。


「家の近くに新しくパン屋が開店したの。大雨が降った翌日だった。その日、お店の前には机が準備されていて、大量のパンが売られるのを待っていた」


 エリオは頷きながら、ルミの話に耳を傾けた。

「私がお店の前を通る時、たまたま店員が店内に入ったの。朝早くて周りには誰も居なかった。私は……その横を通り過ぎる時、パンを服の中に隠した」

「!」


「家に帰って夢中で食べた。あっという間に無くなった。でも……食べきってすぐに、後悔が襲ってきた」

 ルミは嗚咽を漏らしながら話し続けた。

「私は最低な人間なの。その後、謝罪するなりお金を払うなりすればよかったのに、しなかった。その店の前を通らずにいつも逃げていたの」


 エリオは唇を噛み締めて(うつむ)いた。

「そうやって遠回りしていた日に私は死んだの。車に()かれて……」


 ルミは涙を腕で拭うと、エリオに向き直った。

「だからね、エリオ。私はここにいて当然なの。その時のバチが当たったのよ。エリオに助けてもらえるような人間じゃ無いの」


「違う!」

 エリオは叫んだ。


「罪の意識があるのと無いのとでは、天と地の差がある」

 エリオはルミの目を真っ直ぐに見つめた。

「ルミ、キミはたった一度の過ちを悔い、反省している。しかもそれは前世での出来事だろう? 生まれ変わってからはやっていないんだろう?」

 ルミはゆっくり頷いた。


「その時のルミの行動は確かに間違っていた。でも人間、誰でも過ちはある。自分の愚かさに気づいた時、正しいと思う道を選べばいい。でも王女は違う。何度も旅行へ行き、その度に宝石を盗んでいたそうだ。そして盗んだ宝石を金に変え、また旅行へ行った。そんな行動にまるで罪の意識などない」


「でも……」

「大丈夫だルミ。自信を持て。私はその話を聞いても失望したりしない。私が必ずルミを助ける。守ると誓っただろう? だから待っていてほしい。希望を捨てないでくれ」


 ルミは胸がいっぱいになった。拭っても拭っても涙が溢れてくる。

 エリオは階段をチラリと見た。上の階にいる神官の様子を伺っているのだろう。


「少し、私の話をしてもいいか?」

 エリオは真剣な眼差しで聞いてきた。コクンと頷き、ルミはエリオに一歩近づいた。


「私の父は……とても野心家なんだ。その……伯爵であることには満足せず、いつも上を目指していて……」

 エリオは言葉を選びながら話し始めた。


「暇さえあれば、自分より地位が上の人物の素行を調べていた。不貞だったり横領だったり。その人たちの秘密を見つけては、それを理由に脅し、自分を援助するように仕向ける人だった」

 エリオから初めて語られる家族の話に、ルミは聞き入った。


「そんな人に育てられた自分もまた、他人の粗探しばかりする性格になった。酒に溺れる人を見ては見下し、人の迷惑も考えずに騒ぐ奴等を睨みつけ、マナーがなっていない人を嘲笑(あざわら)った」


「フッ、マナーがなってない人って私のことかしら?」

 ルミが思い出して微笑むと、エリオも微笑んだ。

「そんなこともあったな。あの頃の私は、毎日ピリピリして余裕が無かったんだ。でも、ルミ。キミに教えてもらったんだ」

「え? 何を?」

「前に言っただろう? 『静かに慎ましく暮らすということの良さが、狭い世界の貴方にはきっと、一生、わからないのでしょうね?』と」


 ルミは思い出した。替え玉になるために王宮へ向かう馬車の中で、ルミがエリオに言った言葉だ。


「あの言葉の意味が、ルミの実家へ行ってようやく分かったよ」

「私の実家へ行って?」


「ああ。ルミやルミの両親は、健康であることに感謝し、食事に感謝し、天気に感謝し、幸せを数えて暮らしている。その暮らしがとても豊かだと気づいて、私の世界は変わったんだ」


 ルミは身体中に一気に血が通っていくような感覚がした。

「ルミ、ここを出たら結婚しよう。私はルミとキミの両親のようになりたい」


 ルミはまた泣いた。止めどなく涙が溢れて止まらない。


「執事を辞め、キミと結婚したいと話したら、私は家を勘当されてしまうだろう。父は私に、ジュリエッタ王女と結ばれることをしつこく望んでいたからな」


「そうだったの」

「すべてが終われば、私はライゼンの家を捨てる。それでも構わないか?」


 ルミはニッコリ笑った。

「もちろんよ」



 エリオが去って行った牢の中で、ルミは決心した。絶対に王女として捕まったままでいるものかと。


 国王が私を娘だと主張している。これを覆すのは容易ではない。

 その上、この世界にはDNA鑑定というものも存在しない。でも、何かあるはずだ。私がルミで、ジュリエッタではないことを証明できる何かが。

お読みいただきありがとうございます!

次回は、リック王子視点の話になります。

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