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35話 国王として父として

 どこで何を間違えたのだろう。

 何の罪もない替え玉のルミが、たった今ドルザズの自警団に捕らえられ、連行されてしまった。


 発覚後も、旅行へ行きたがったジュリエッタを止めることができず、替え玉を作ることで隠蔽(いんぺい)しようとしたのが、良くなかったのだろうか。

 もっと早くに縁談をまとめて、安全な国外へ嫁がせてやれば良かった。


 建国祭でスピーチをさせれば、万が一犯行を見られたとしてもジュリエッタのアリバイが作れると思ったのに。

 ドルザズの自警団がノアとリリーを捕まえ、ボスはジュリエッタだと自供してしまった今、ジュリエッタを守る術はこれしか見つからない。


 ……愛するジュリエッタを牢獄に入れるなど考えられん。


 逃がす馬車の中でジュリエッタは言った。盗品は革靴の中に隠してあると。本当にそれは出てきてしまった。


 これから瞬く間に広まるだろう。スレイダンの王女は窃盗犯だと。それはこの国にとってかなりの痛手だ。

 だがやむを得ん。逃したジュリエッタが自由に暮らせたらそれで良い。



「彼女のことだが……」


 廊下の端からエリオが倒されるのを見ていた国王は、側近のロドリゲスに声をかけた。

「ドルザズに連れて行かれることの無いようにしろ。スレイダンはドルザズと犯人引き渡し条約を結んでいないからな」

「承知しました」


「だが……このまま彼女を処罰しないのでは、ドルザズの自警団は納得しないだろう。何かしらの処罰を与えないことには彼らは帰国してくれまい」

「ええ、そう思います」


 国王は目を閉じて溜息をついた。

「どういう処罰なら納得してくれるだろうか……」





     *       *       *       *       *





 ルミが連れて行かれた牢獄は、スレイダン王宮より北にある、古い聖堂の地下にあった。


 この牢獄を使うのは久しぶりだ、王族から犯罪者が出るとは思わなかったと、年寄りの神官はブツブツ言いながら牢まで案内した。


 (かび)(さび)が入り混じったような、薄暗くてヒヤリと冷たい牢獄だ。土を掘り固めただけの牢獄には、所々水溜りができ、雫が落ちる音があちこちから聞こえてくる。

 神官が錆びた鉄格子を開けると、ギイーッという音が鳴った。


 ルミは自警団の男たちに背中を押され、牢の中へ入った。両手はロープで縛り付けられたままだ。

 神官は鍵をニ重にかけると、自警団の男たちと共に去って行った。


 ルミは辺りを見回した。牢の中はわらの上に敷布が置いてあるだけの寝床と、木の板で蓋がしてあるだけの穴があった。あれはきっとトイレなのだろう。目にしみるような悪臭がする。

 ルミは寝床へ移動する気力も無く、そのまま地面に横たわった。


 ジュリエッタ王女と商店街へ行った時、王女は急用を思い出したから帰ると突然言いだした。あの時、王女はあの自警団を見かけたのだろう。だから咄嗟に逃げたのだ。


 リックの元へ早く嫁ぎたいと焦っていたのも、大国であるオルフェイムは入国審査が厳しいので、ドルザズの自警団は入れないと考えてのことだろう。

 今考えればわかる。でも今更気づいたところで、もうどうしようもない。


「私はこれからどうなるのだろう……」

 ルミは目を閉じて呟いた。


 足音が聞こえてきたのでルミが目を開けると、神官が鉄格子の前に立っていた。


「これに着替えなさい」

 そう言うと白い囚人服を牢に投げ入れ、神官は帰った。



 この不自由な手でどうやって着替えろと言うのだろう。

 身体を起こしたルミは水溜りに映る自分と目が合った。すると、前世での出来事がフラッシュバックした。

 覚えている。死ぬ数日前、こうやって自分は水溜りに映る自分と目が合った。


 ルミは一気に血の気が引いた。

 すっぴんにドレスというアンバランスな姿。似合っていない。恥ずかしい。


「こんな自分がエリオのそばにいたいだなんて……有り得ない。だから、バチが当たったんだ」


 王女役を演じて舞い上がっていたんだろう。伯爵家のエリオは到底手の届かない人なのに。分布相応な願いだった。そもそも自分はそんな人間では無い。この牢獄がお似合いだ。


 自分も、窃盗を犯したことのある、最低な人間なのだから。


お読みいただきありがとうございます!

次回はエリオ視点の話です。

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