34話 陥れられた替え玉
男は国王から革靴を受け取った。そして一方を横にいた男に渡して、ルミの目の前で調べ始めた。振ったり、匂いを嗅いだりしている。ひとりが靴底を剥がし、裏返して揺らした。
するとその中から、コロンと何かが落ちて来た。とても小さいものだった。
自警団の男たちは一斉にオオーッと雄叫びをあげた。まさにこれだ、とでも言いたそうにそれを掲げて飛び跳ね、喜び合っている。
ルミが目を凝らしてよく見ると、それはオレンジ色の宝石が乗った指輪だった。
「ああ、参ったな。ジュリエッタよ。もう言い逃れは出来まい」
国王は額に手を当て、残念そうに肩を落とした。
「二度と万引きなどするんじゃないぞ」
「私ではありません!」
ルミは国王を睨みつけて叫んだ。
「 陛下、私は王女ではありません! ジュリエッタ王女はどこですか?」
国王は踵を返し、部屋を出ようと歩き出した。
「陛下! 国民を身代わりにする気ですか?」
ルミの精一杯の訴えも虚しく、扉は閉められた。しゃがみ込んだルミを男たちは無理やり立たせ、連行しようとした。その時、別の男たちに捕らえられたエリオがクローゼットからやってきた。連行されるルミを見て、エリオは叫んだ。
「ルミ! 彼女はルミだ。ルミ・クラメールだ!」
勢いよく身体を振り、男たちの腕を振りほどく。
「ジュリエッタ王女じゃない!」
ルミの元へ駆け、ロープを外そうと必死になった。
「エリオ……」
ルミの瞳は涙でいっぱいになった。エリオは男たちに殴られ、倒され、床に押さえつけられた。
「エリオ!」
ルミは男たちの手によって、そのまま牢獄へと連れて行かれた。
* * * * *
国王がそのことに気づいたのは、行商人ヘルゲからの進言だった。
一年前、建国祭で羽織るマントを新調しようと、国王はヘルゲを呼んだ。
衣装部屋であれが良いか、これが良いかと選んでいると、急にヘルゲが近くへ寄ってきた。
「国王様、お話があります。人払いを」
ヘルゲが命を狙うとは考えにくい。国王は従者を下がらせ、側近のロドリゲスだけを部屋に残した。
ヘルゲはとても言いにくそうに、目をパチパチさせながらゆっくり口を開いた。
「いつもドレスやらジュエリーやら、多く買ってくださる姫様ですが……」
「何かと思えばジュリエッタの話か?」
「ええ。それが……去年の秋頃のことです。姫様が初めて買い取りはできるのかと聞いてきたのです」
「買い取り……?」
「私ができますよとお答えすると、姫様は引き出しの奥から小さな袋を出してきました。そこに入ってたのは、小さなイヤリングでした」
ヘルゲは当時のジュリエッタを再現するように、袋からイヤリングを出す仕草をした。
「査定してみると、とても高価なものでした。いつも買ってくださるお礼も兼ねて、私は高額でそれを買い取らせてもらいました」
「それが、どうしたというのだ?」
「それが……あまり見かけない細工が施されていたので、販売先を調べてみたんです。そしたら、最近盗難に遭っていた品だったことが分かりました」
「何⁉︎」
「姫様が盗みをするわけがないと、私は調べるのをやめました。たまたま同じ品を買ったのだと」
ヘルゲは国王の目を見て、またすぐ逸らした。
「ですが先日、また姫様から買い取りを依頼されたんです。次はネックレスと指輪でした。今度もまた、どちらも盗品であることが分かりました」
「……このことは誰かに話したのか?」
「いえ誰にも。国王様が初めてです」
「では、誰にも話すな。秘密にしてくれ。その代わり、ヘルゲが売る品を倍以上の値段で買おう」
国王はその夜、ジュリエッタを玉座へ呼び寄せ、追求した。
「たまたまだったのよ、お父様! 私は悪くないの!」
ジュリエッタは国王の膝に縋りつき、訴えるように言った。
「旅行先の宝石店でね、リリーやノアと、あれも可愛い、これも綺麗よと色々試着していたの」
ジュリエッタは指で輪を作り、耳タブを摘んだ。
「そしたら、指輪の方も気になって。付けていた事を忘れて。指輪だけを買って店を出てしまったの」
国王は白髪交じりの眉を八の字に下げた。
「宿に戻ってから気づいたわ。イヤリングは買ってないって。ノアとリリーに言ったら、髪で隠れてて気づかなかったって」
ジュリエッタは立ち上がって叫んだ。
「私は悪くないでしよう? 気づかないの店の人が悪いでしょう?」
「いいや。店に戻って謝罪するべきだ。ジュリエッタ。忘れていたお前が悪い」
ジュリエッタは顔を歪め、唇を噛み締めた。
「それに、どうしてヘルゲに売ったんだ?」
ジュリエッタはまた国王の膝に縋りついた。
「だって気持ち悪いでしょう? 見る度に、嫌な気持ちになるもの。お金に変わったらそんな気持ちはまったく無くなったわ」
ジュリエッタは恍惚とした表情だ。
「いっそ、私は自分でお金を稼いだのだと気分が良いくらいよ」
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次回は国王とルミの心情をあげます。




