33話 自警団から逃げろ
前半、ステラナの視点です。
「ルミ、今すぐ君の実家へ帰ろう」
エリオはルミの手を取った。
「あ、でもこの格好じゃ……」
ルミは目線を下げ、着ていたドレスを見下ろした。
「ああ、そうか。そのままじゃ王女に間違われても文句は言えないな。ルミの両親もビックリするだろう」
エリオの言葉を聞き、ステラナは駆け出した。
「私が休憩室からメイド服を借りて来ます!」
「わかった。頼んだ」
メイクルームを出て行ったステラナは、またすぐ戻ってきた。
「メイクも落とした方がいいわ。これと、これを使ってください」
オイルの入った瓶を二つ、戸惑うエリオに手渡すと、ステラナはまた駆け出した。
ステラナは廊下を走った。すると廊下の窓から、褐色の肌をした10人ほどの屈強な男たちが、ズラリと王宮の門を通り、庭へ歩いてくるのが見えた。
「もしかして……あれがドルザズの自警団? どうして門兵は止めなかったの?」
ステラナは休憩室と庭、どちらへ行こうか迷った。が、結局庭へと走った。
「す、すいません! お待ちください!」
ステラナは震える両手を広げ、彼らの前に立ちはだかった。
ステラナが顎を上げて見上げるほど、背の高い男たちだ。みな褐色の肌に坊主姿。黒い民族衣装のような服を着ている。服の隙間から見えるのは、隆々とした見事な筋肉だ。
彼らはスレイダンの言葉がわからないのか、ただただステラナを威圧的に見下ろした。
「どきなさい、ステラナ」
ふと、聞き慣れた声がした。男たちは振り返ると二手に分かれ、道を作った。そこへ現れたのは国王だ。
「陛下……?」
ステラナは自分でも驚くほど間抜けな声を出した。
「彼らはドルザズという国の自警団だ。お通ししなさい」
そう言う国王の顔は、不気味な程にこやかだ。
「彼らをジュリエッタの部屋へ案内させたいんだ。ジュリエッタは部屋にいるかね?」
笑顔を崩さない国王にステラナは身を縮めた。
「陛下……何をおっしゃっているんですか? どうしてこの方々を王宮へ招き入れたのですか?」
国王は背後に立つ、従者二人に顎で合図した。合図とともに、ステラナは従者二人に羽交い締めにされた。
「やめて!」
その間に国王と側近、そして自警団は王宮内へ入って行った。
ステラナは従者によって、まるで犯人のように地面に取り押さえられながら、大声を上げた。
「ルミー! ルミー! 逃げてー!」
* * * * *
メイクを落とし終えた後、ルミは何かを感じて椅子から立ち上がった。
「エリオ、今私を呼んだ?」
「いや? 呼んでないが?」
エリオは不安げに首を左右に振った。そうすると廊下の方から、ドスドスという大勢の足音が響いてきた。
ルミはエリオに身を寄せた。
「誰だ? なんなんだ、この足音は」
「こちらに近づいてない?」
するとバンッ! と勢いよく部屋の扉が開けられた音が聞こえてきた。
「こっちへ!」
エリオは咄嗟にルミの手を引き、クローゼットの中へ入った。
クローゼットの奥へ行き、ドレスとドレスの間に入って、エリオとルミは身を寄せ合い、声を殺した。
まるで子どもの頃にやった、かくれんぼのようだとルミは思った。あんなに可愛らしいものではないけれど。
男たちの声が聞こえてきた。 ただ何を言っているのかはわからない。
「外国の言葉か?」
エリオは囁いた。ルミは恐怖で自分の体がブルブルと震えそうになるのを必死に堪えた。
「こちらへ来ませんように……」
ルミが小声で祈るように呟くと、エリオはルミの手を取り指を絡ませた。
「絶対にこの手を離さない。大丈夫だ」
男たちの話し声と足音が大きくなり、メイクルームへやってきたことがわかった。
「先ほどまでここにいたみたいだな」
か細く聞き取れたその声は国王の声のように聞こえる。
「陛下も一緒にいるのか?」
エリオは眉間に深いシワを作った。
「お願い、来ないで。違う部屋へ行って」
ルミは目をつぶり、エリオの手を強く握りしめた。
シン。先ほどまで響いていた音が消え、急にあたりが静まり返った。しばらくエリオとルミは様子を伺っていたが、物音が一切聞こえてこない。
「出て行ったのかしら?」
ルミが肩の力を抜き、握っていた手を解いた。
その瞬間、バン! とクローゼットの扉が開けられた音がして、その直後にドレスを掻き分けた男の顔が目の前に現れた。
「キャアアア‼︎」
ルミは叫んだ。ルミの手首は男に掴まれ、ちぎれそうな程の強い力で引っ張り出された。
「待て! ル……」
エリオは手を伸ばして叫んだが、別の男に口を塞がれ、その後の声は聞こえなくなった。
メイクルームにはやはり、国王が立っていた。
ルミの手首を掴んだ男は国王に向かって何やら質問するような手つきをした。
陛下は首を縦に振った。と、同時にルミは別の男たちに両手をロープで縛り付けられた。
国王は白髪混じりの眉を下げ、悲しそうな顔を作った。
「この度は我が娘、ジュリエッタが申し訳ない」
そう言うと、床に置いてあった革靴を男に手渡した。
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