32話 国外からの自警団
「妙な噂というのは、そのドルザズの自警団が今この国にやって来ている、ということなんだ」
ウルフはルミの目を見つめ、低く小さな声でゆっくりと話した。
「自警団が? なぜ?」
ルミは眉間にシワを作って聞いた。
「何でもお尋ね者がいるらしい」
ルミとステラナ、エリオは顔を見合わせた。
「お尋ね者……」
「それってまさか……」
「ジュリエッタのことではないか、と聞いている」
ウルフは残念そうに太い眉を八の字にした。
「ど、どうして殿下が?」
ステラナは目を丸くした。
「今、ドルザズでは窃盗団のボスを捕まえろと大騒ぎしているらしい」
「窃盗団のボス?」
「ねえ、エリオ。王女が旅行へ行ってたのって……」
「南の方だ」
「ま、まさか殿下が旅行先で窃盗をしていたとでも?」
「その容疑がかけられているらしい。父が知り合いから聞いた話だ。単なるデマかもしれない。ただ……」
「ただ?」
「相手は国の王女を疑っているんだ。間違えでもしたら国際問題になりかねない。相当な根拠があってこの国へやって来ていることは間違いない」
ウルフの言葉に、三人は息を呑んだ。
「窃盗団……。まさか、ノアとリリーもその一員?」
エリオは自分の顎を触った。
「ホント、サイテーだわ……。前々からムカつく人たちだと思っていたけど、まさか窃盗をやっていただなんて!」
ステラナは拳を握りしめ、地団駄を踏んだ。
「待って! ステラナ。まだそうだと決まったわけじゃないわ」
ルミはステラナの手を掴み、首を左右に振った。
「そうだ、ステラナ。私は殿下を信じたい」
エリオも立ち上がり、ステラナを見つめて言った。
「まあ、小国の自警団がやってきたぐらいじゃ、国王陛下は聞く耳を持たないだろうがな」
ウルフは前傾姿勢をやめ、ソファに身体を預けた。
「でも、聞く耳を持たずに追い返すと、逆に怪しまれるんじゃないかしら?」
ルミは床を見つめて言った。
「もしかして私は罪を着せるための替え玉……?」
「うそ! ダメよ! そんなこと!」
ステラナはルミの手を、強く握り返した。
「冗談よ、ステラナ。大丈夫。絶対にそんな事にならないわ」
ルミはステラナを安心させようと必死に笑顔を作った。
「すまない、ルミ。私のせいだ」
エリオは頭を抱えて唸った。
「陛下が替え玉を用意しろとおっしゃった時に、もっとその真意を探っていれば……」
ルミがうずくまるエリオの背中に手を置こうとすると、エリオは何か思いついたように応接室を飛び出して行った。
王女の部屋に戻ったルミとステラナは、王女が旅行先で何をしていたのか、その痕跡を探る事にした。
「殿下が旅行先から、持ち帰った物って……」
「お土産はゼロだったわね。でも」
そう言ってルミはクローゼットへ向かった。そこからステラナと一緒に茶色のスーツ、帽子、マフラー、革靴を取り出した。
「これで全部ね」
「これは絶対に変装だわ。変装する理由は何? やはり殿下が窃盗団のボスなんだわ」
ステラナは床に並べられた衣装を見下ろし、軽蔑するように言った。
「とりあえず調べましょう」
ルミは先ずスーツを調べてみた。ひっくり返してみると、内側に小さなタグがあり、そこにはリンネと書かれていた。
「この生地、リンネだわ」
ルミが呟くとステラナが近づき、タグを覗き込んだ。
「リンネ?」
「ええ。リンネはフリックスという植物からできているの。フリックスはドルザズで収穫される植物よ。前に本で読んだことがあるわ」
ルミが言うと、ステラナは眉間にシワを寄せた。
「殿下はやはりドルザズに行った可能性が高いのね」
「ええ、もっと早くこのスーツを調べていたら良かった」
ルミは頭を抱えた。すると、バタンと扉が開き、エリオが入って来た。
「ルミ、今すぐキミの実家へ帰ろう」
エリオの青ざめた顔を見て、ルミとステラナは身を寄せ合った。
「どうして?」
「今、個室へ行ってきたんだ。殿下が戻られてから、ルミが使っていたあの狭い客室だ」
「あそこへ行ったからって、どうして私が実家へ帰ることになるの?」
「そこにあった、ルミのワンピースが無くなっている」
「ええ?」
「王宮内のどこにも見当たらないんだ」
「どうして私のワンピースが? まさか殿下が?」
ルミは不意に、熱を出した時に見た夢を思い出した。
『これからは、あなたが王女として生きなさい。ルミ・クラメールになるのは私よ』
白い花が咲くジャガイモ畑で、王女らしき女性がそう言っていた。今はちょうど我が家の畑に、ジャガイモが白い花を咲かせている頃だろう。
「殿下は私と入れ替わろうとしている?」
お読みいただきありがとうございます!
次回はルミがピンチになります。




