30話 ショッピング
商店街の人々は王女が買い物へやって来たことをとても喜んだ。王女も歓迎された事が嬉しいようで、顔を綻ばせ、手を振って街の人々に応えた。
ルミとエリオはその後を付いて歩いた。
「ルビーはないの? こういうルビーのネックレスも欲しいのよ」
まず王女は高級な宝石店へ入り、ジュエリーを探し始めた。
次々と、なんの躊躇いもなく購入を決めるので、ルミは次第に居た堪れない気持ちになってきた。
「殿下、これと似たネックレスはお持ちですよ?」
会計の際、ルミは王女に進言した。
「うるさいわね! あんたが使った物なんて使いたくないのよ‼︎」
王女は声を荒げた。店主は目を丸くした。エリオは急いで会計を済ませると、ルミに近づき小声で注意した。
「口を挟むな、ルミ。今日は殿下のご機嫌を取ることだけを考えろ」
ルミは眉を下げ、コクンと頷いた。
宝石店を出ると、少し休みましょう、とエリオが王女に声をかけた。
「オススメのシナモンロールのお店があるんです」
ステラナが見つけた店を、まるで自分が見つけたようにエリオは言った。
王女の前を歩くエリオの横へ行き、
「エリオが食べたいだけでしょう?」
とルミが小声で聞くと、さあ? とでも言うように、エリオは眉をクイッと上げた。
とても美味しいと勧めると、王女は訝しげに口に入れたが、一瞬で笑顔になり、ガブリと頬張った。
余程気に入ったのか、百個買うわと言うので、それはさすがに多すぎるとふたりで慌てて説得し、結局10個を箱に詰めてもらうことにした。
誰かへのお土産かと思われたが、これを一人で少しずつ食べるらしい。箱に詰められていくのを眺める王女のキラキラした表情は、普通の17歳の少女となんら変わりないようにルミには感じられた。
「この店は初めてですか?」
箱を受け取ったエリオは王女に聞いた。
「ええ」
王女は他の商品も品定めしながら答えた。
「シナモンロールも初めてですか?」
「いえ、一度だけ。ノアとリリーがね……」
そう言うと顔色を変え、王女は口を閉ざした。
「その二人がどうしたんですか?」
「いいえ、何でもないわ」
「今頃、あのふたりは何をしているのでしょうね?」
エリオは平静を装った様子で、王女への質問を続けた。
「あんなに仲が良かったのに、どうして辞めてさせたんですか?」
「だから、前にも言ったでしょ。口答えして腹が立ったのだと」
王女は険しい顔つきに変わった。
「ルミも結構口答えしてますよ?」
エリオはそう言って、ルミをチラリと見た。ルミはそんなエリオを睨んだ。
「従順だったノアとリリーが、私を盾にしようとしたの。だから腹が立ってクビにしたの。もう二人の話はしないで!」
王女は気分を害したようで、サッと商店街の奥へと駆けて行った。
「あ、殿下!」
見失ってしまったら大変だ。ルミが慌てて王女の後を追うと、人ゴミをかき分け、王女が血相を変えて戻ってきた。
「王宮へ帰るわ。急用を思い出したの」
その顔は恐怖に怯えているように見えた。
王宮へ戻ってきた王女は爪を噛みながら、何やらブツブツ呟いた。
ルミはこっそり王女に近づき、何と言っているのか聞いてみた。
「こういうことならリックの滞在中に、既成事実でも作っておけばよかったわ。ああ、どうしよう。お父様に言うしかないのかしら」
何を陛下に報告しようというのだろう。商店街で思い出した急用とは何だろう。ルミは考えてみたが、まったく分からなかった。
国王が辺境伯との会合を終え、王宮へ帰ってくると、王女は急いで会いに行った。そしてそのまま長い時間戻らなかった。
「このシナモンロール、私が食べても良いだろうか?」
王女の部屋を訪れたエリオは、ずっと置かれた箱を見る度にルミに聞いてきた。
翌朝、やっと戻ってきた王女は
「今日からまたしばらく替え玉してくれる? 私はお父様と出掛ける用事があるの」
と笑顔で言った。
「シナモンロールもあげる。エリオと二人で食べて? この部屋もまたルミが使って頂戴ね?」
やけに優しい口調なので、ルミは怖くなって首を左右に振った。だが、これは王令よ、と言われれば断ることができなかった。
王女が部屋から出て行った後、しばらくしてステラナがやってきた。王妃の侍女を一旦離れ、またルミの侍女になってくれとエリオに言われたらしい。
ステラナはまたルミの世話ができることを飛び跳ねて喜んだ。だが、ルミは嫌な予感が胸にこみ上げて堪らなかった。また王女は長い間戻らないのでは? 国王公認で出掛けていくなど、そんな事があって良いのだろうか。
お読み頂きありがとうございます!
次回から徐々に話の真相に迫りますので、読んで頂けると嬉しいです。




