28話 王女からの暴力を受けて
リックの出発日。
ジュリエッタ王女は、今日も私が行くわと言って、随分なおめかしをしてリックの見送りに望んだ。
リックを甚く気に入ったようだ。
ああでもない、こうでもないと広げられたドレスやジュエリーをステラナと片付けながら、ルミは考えていた。
ステラナを王女から離なさなければならない、と。
ステラナの頬に傷があった理由、それは暴力だった。
王女は気に入らないことがあるとすぐ、ステラナに暴力を振るうのだ。マッサージの力が強いと言っては蹴り、スイーツが不味いと言っては殴る。
王女が指にはめた指輪やら、足首に下げたアンクレットやらが当たり、ステラナの傷は増えている。
大好きなステラナがそうしていじめられているのを、ルミは歯を食い縛って見ていることしか出来なかった。
今朝も髪に結ったリボンが解けたことを理由に、王女はステラナに殴りかかった。
「殿下、おやめください!」
ルミはとうとう我慢の限界が来て、王女の前に立ちはだかった。
「はぁ? 替え玉の癖に何様よっ!」
「殴るんですか? 私を殴ったら顔に傷がついて、替え玉になれませんが、よろしいですか?」
「ぐっ……」
振り上げた拳を下げ、王女はルミを突き飛ばして部屋を出て行った。
ルミは前世の両親を思い出していた。彼らもこんな感じだった。
床に倒れたルミに、ステラナが駆け寄ってきた。
「ありがとう、ルミ、ごめんね」
ステラナの瞳は涙でいっぱいだ。以前のような明るい笑顔を、もう数日見ていない。
「殿下から暴力を受けていることは誰かに話した?」
ステラナは首を左右に振る。
「前からこうだったの?」
ステラナは小さく頷いた。
「エリオに話してくるわ。ステラナが別の人に付けるよう、お願いする」
「ダメよ! それじゃあ、ルミが」
「私は大丈夫よ。替え玉なんだもの。怪我を負わせたりできないはずよ」
メイクルームの片付けが終わり、ルミはエリオを探しに廊下へ出た。執事室までもう少し、という所で前からウルフが歩いて来た。
何しに来たのだろうと思いつつ、ルミが頭を下げると、ウルフは軽く会釈をして通り過ぎた。かと思われたが、ガシッと腕を掴まれた。
「替え玉ルミちゃん、だよね?」
ウルフは顔を近づけ、ニヤリと笑う。この人の観察眼はどうなっているのだろう。今のルミはメイド姿だ。ステラナからやつれたメイクも施してもらっているのに。
「相変わらず鋭いですね」
ルミは取り繕う言葉が思いつかず、眉を下げた。
「本日はどうされたんですか? おみえになる予定は無かったと思いますが」
「第五王子の顔を見に来たんだ。思ったよりも可愛らしくて好青年だね」
ウルフは窓をチラリと見た。
「それより。あそこにいるのはやはりジュリエッタだったか。戻って来たんだね」
応接室まで案内して欲しいと言うので、ルミは仕方なくウルフを連れて行った。
早くエリオに、ステラナのことを話さなければ。
ルミが出て行こうとすると、ウルフがまたルミの腕を掴んで引き止めた。
「少し昔話をしてもいいか?」
「いいえ、用事があるんです」
「ある所に、貧しい夫婦がいました」
ウルフが話し始めたので、ルミは眉間にグッとシワを寄せた。
「貧しかった夫婦に、可愛らしい双子の女の子が生まれました」
「一体何の話をしているんですか? 手を放してください」
ルミは苛立ちながら腕を振った。
「こんな暮らしでは、双子を育てることなんて出来ません。泣く泣く夫は、姉を山へ捨てに行くことを決心しました。すると、子どもを授かりたいという祈りの旅へ出ていた、公爵家の夫婦に出会いました」
手を離す気は無いようだ。仕方なくルミは、話に耳を傾けることにした。
「こんな偶然はありません。その子を捨てるなら私達にください。そうして公爵家で育った姉セレンは、後に現国王となるクラウスと結婚しました」
「え?」
「一方、貧しい実家で育った妹セレニアは、ジャガイモ農家を引き継ぐバートと結婚しました。とさ」
ウルフは眉をピクリと上げ、ニヤリと笑った。
「今のは……?」
「事実だよ。調べたんだ。キミの母はセレニアという名前だろう?」
「え……ええ」
「どうしてキミがジュリエッタに似ているのか。これで分かったか? キミはジュリエッタの従姉妹らしい」
「作り話ですよね?」
「いいや。俺の情報網を舐めないでほしいな。ジュリエッタの母と、キミの母は双子だったんだ」
ルミは全く知らされていなかった話に、頭が真っ白になった。
お読み頂きありがとうございます。
次回はウルフとジュリエッタが再会します。




