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27話 リック王子を送る会

リック王子の視点です。


 リックは思い返していた。

 この一週間とても楽しかったことを。この王宮の使用人は良い方ばかりだったし、何よりジュリエッタ王女との散歩が楽しかった。

 帰国する僕のために、間もなく食事会が開かれる。王女はどんな姿で現れるだろう。


 コンコン。

「まもなく送る会が始まります。ダイニングルームへご案内致します」


 ドアの向こうから男性の声が聞こえ、リックは扉を開けた。そこには背の高い執事が立っていた。確か、エリオという名前の執事だ。顔が整っていてまるで彫刻のようだ。

 エリオの後に付いて歩きながら、この人は綺麗な歩き方だな、と思った。


 エリオがダイニングの扉を開け、リックは中へ入った。

 スレイダンの国王陛下、王妃陛下、王子殿下、そしてジュリエッタ殿下が既に席に着き、僕を迎えてくれた。


「本日は僕のために、このような会を開いて頂き、誠にありがとうございます」

 リックが一礼すると、国王はニッコリと笑った。


「硬い挨拶は()しましょう。どうぞお掛けになってください」


 国王に勧められ、リックは椅子に座った。向いに座っているのはジュリエッタ殿下だ。

 今日の王女も美しい。胸元の開いた紫色のドレスがよく似合っている。だが、なぜだろう。リック王子は違和感を感じた。放つオーラがいつもと違うような。気のせいだろうか、いや、しかし……。


 「失礼します」

 テーブルに料理が運ばれてきた。花束のようなカラフルで美しいサラダだ。僕には勿体無いくらいの素晴らしい一品だ。ここの厨房には、凄腕の料理人でもいるのだろうか。滞在中の食事にはとても楽しませてもらった。


 前菜やスープなども運ばれ、次はラム肉のステーキが出てきた。すると突然、


「何よこれ! 私の少ないじゃない! 何でこんな小さいの持ってくるのよ!」


 王女が金切り声をあげた。あまりの大声に、リックは持っていたナイフを落としそうになった。

 幼い王子や王妃までも、時が止まったように固まっている。


「いい加減にしてよ! 変えてちょうだい!」

 王女は背後に立っていたメイドをギロリと睨む。別の使用人が慌ててステーキを下げて行った。

 こんなに怖い顔をした彼女は初めてだ。今までは僕の話をニコニコと聞いてくれるおとなしい方だと思っていたが、違うのだろうか。

 僕の祖国であるオルフェイムのことも、事前に調べてくれていたようで、特産物のことなどを飽きるまで話すことができた。それなのに。



 手を動かさず固まっていたからか、エリオがサッと横へやってきて耳打ちした。

「今日は殿下の気分が優れないようですね。まあ、女性には色々あるんですよ」


 リックは小声でなるほどと言い、コクンと頷いた。


 女性は本当に色々なことがある。身なりを整えることも大変だろうし、日によって気分が変わるのも大変だろう。男性はもっと女性が楽しく日々を暮らせるようにサポートするべきだ、と父から教わってきた。僕もこれからはそうしなければ。そんな思いを強くした。


 終始ジュリエッタ王女は、使用人への威圧的な態度を見せた。その姿を見るのは、リックにとって心苦しかった。初日の歓迎会で食事した際は、そんな態度ではなかったのに。


 送る会が終わり、またエリオが部屋まで案内してくれると言ったが、リックは断った。



 女性の気分が優れないことは、相手にも周りにもご自身にも悪影響を与える。心穏やかに過ごす良い方法はないだろうか。国へ戻ったら早速調べてみよう。

 リックがそう思いながら廊下を歩いていると、シーツを抱えたメイドとぶつかってしまった。


「すみません!」

「こちらこそ、考え事をしていて」

 リックは咄嗟にメイドが落としたシーツを拾った。目が合ったメイドは驚いたように目を丸くしていた。

 頬が黒く、やつれたようなメイドだ。だが、何だか彼女には以前会ったことがあるような、妙な親近感を覚えた。彼女が慌ててシーツを奪い取ろうとするので、リックは立ち上がった。


「多くて大変でしょう。一緒に運びますよ。どこまで行きますか?」

 メイドは血相を変えて首を左右に振った。


「なりません! 大丈夫です。 ひとりで持てます!」

 メイドはリックからガバッとシーツを奪い、廊下を駆けて行った。聞き覚えのある声だ、前にもこうしてぶつかったことがあっただろうか、リックは考えたが、思い出せなかった。


お読みいただきありがとうございます!

次回は王女からの暴力の話です。

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