26話 王女と替え玉の初対面
翌朝、コンコンとルミの部屋をノックする音が聞こえた。
扉を開けると、エリオがトレーを持って現れた。
「使用人の食事だが」
パンとサラダが乗った、今までとは比べ物にならないほど質素な朝食である。
小さな机でそれらを食べていると、食べ終わったら殿下に面会をしよう、とエリオが言った。
「殿下がルミに会いたいとおっしゃっている」
「わかったわ」
朝食を終えたルミは、殿下の部屋に向かった。
ノックをして扉を開ける。中の光景を見て、ルミは目を丸くした。
ジュリエッタ王女は大きく口を開け、ステラナにフルーツを口に入れさせているのだ。
ピンク色のネグリジェ姿。ソファに体を預け、だらしなく座り込んだ王女は、一口大に切られたフルーツをモグモグして飲み込むと、また口を大きく開け、ステラナに入れさせている。
「背格好は私と同じかもしれないけど、似ても似つかなくない?」
入るなり、王女はルミを見上げて不満そうに言った。
「初めまして。ルミ・クラメールと申します」
ルミは深くお辞儀をした。
「ステラナ、早くこの子を私にして頂戴」
「かしこまりました」
ステラナは皿を片付け、いそいそとメイクルームへルミを連れて行った。
「おはよう、ステラナ」
ルミが小声で挨拶すると、ステラナは小さく会釈した。
「頬の傷、どうしたの?」
ステラナは聞くなとでも言うように、首を小さく振った。
「エリオ、それ持ってきて」
王女の言葉に、エリオが重そうな一人掛けのソファをドレッサーの前に運ぶ。そこにドカッと腰掛けたジュリエッタ王女は、ステラナがルミにメイクしていく様子を睨むようにして見ていた。
その訝しげな顔が、終わるにつれ徐々に明るくなっていく。
王女は立ち上がり、ツカツカとルミの前へやって来た。
「へえ、すごいじゃない」
息がかかるくらいの至近距離で、ジロジロと見られる。ルミも同じようにジュリエッタ王女を見つめ返してみた。いつもステラナがペンで描いている通り、口の左下にホクロがあった。
「お次はドレスを」
ステラナが言うと王女はサッと手を上げ、それを遮った。そして、私に選ばせてと言い、クローゼットへ向かった。
「ここにあるドレス、あなたも袖を通したのよね?」
「はい」
「ふーん」
王女は頬を膨らませた。
「私物は全て使っても良いと、殿下がおっしゃっていたので」
エリオが背後からフォローを入れた。
「まあ、言ったけど。でもやっぱり気分がいいものではないわ」
眉間にシワを寄せ、王女はドレスを一着一着、確認し始めた。
「これは装飾が重たいから嫌いなの。はい」
黄緑色のドレスを取り、王女はルミに押し付けた。
「ああ、これも。着心地が気持ち悪いのよね」
水色のドレスも押し付けられる。
「これも。デザインが嫌い」
そう言って、薄紫色のドレスも渡された。
「この三着を着回してちょうだい。あなたにあげるわ」
王女はクローゼットを出て行った。
「今日、何かあっても貴方が対応してね。私はもうしばらく寝るわ。あ、そうだ。ステラナ。足をマッサージしてくれる?」
王女は後ろ姿のまま、ステラナを手招きした。
「ごめんね、ルミ。ドレスひとりで着られる?」
ステラナは小さく言って、王女を追いかけた。
三着のドレスを持ったルミはその場に立ち尽くした。想像以上に王女はワガママなようだ。
仕方がない。ひとりで着られるようなドレスはあるだろうかと見比べていると、エリオと目が合った。
「着るの手伝おうか?」
ニヤリと笑うエリオ。ルミは思わず、結構よ! と睨んだ。
翌日、ルミがメイクルームを訪れると、王女はステラナにメイクされていた。
「貴方は出なくて良いわ。今日は私が行く」
出なくても良いというのは、送る会のことだろう。
本日の正午、ダイニングルームで行われるリックを送る食事会だ。
「昨日、貴方たちが散歩している姿を窓から見ていたの。リックが太ったブ男だったら嫌だったけど、まあそれなりなんじゃないかしら」
鏡に向かってキメ顔を作りながら、ジュリエッタ王女は言った。
「肌は白くてキレイだし、ブロンドの髪はサラサラだし。彼、エリオと同い年なのよね? まあ それくらいなら許せるわ。10歳以上年上だって言われたら嫌だけど」
人を見た目や年齢で判断するような物言いに、ルミは憂鬱な気分になった。
「あ、そうそう。貴方、私の侍女になって?」
鏡越しに、ルミはジュリエッタ王女と目が合った。
「ステラナひとりじゃ足りないわ。彼女ヘアメイク以外じゃ無能すぎるもの」
無能という言葉にカチンときたが、ルミは首を縦に振った。昨日は半日ずっと狭い部屋でじっとして過ごしていた。自分にはそれが性に合わないと思ったからだ。
お読み頂きありがとうございます!
次回はリック王子を送る会の様子です。




