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25話 ステラナとの別れ

 リックとの散歩を終え、ルミは王宮内へ戻った。途中でリックと別れ、長い廊下を歩いていると、部屋の前でステラナが落ち着かない様子で行ったり来たりしていた。


「ステラナ?」

 ルミが声をかけると、ステラナはビクッと肩を跳ね上がらせた。とても怯えた表情だ。

「どうしたの? ステラナ、どうして部屋に入らないの?」


 ルミが声をかけると、ステラナは恐る恐る口を開いた。

「殿下……」

「何? その呼び方」

 ルミは驚きながらも笑った。

「……ルミ?」

 蚊の鳴くような小さな声だ。

「うん、どうしたの?」


「わあ~! ルミだ! 良かったー! ルミで」

 ステラナはルミに抱きついた。


「どういう意味?」

「あのね。これからルミはもう、この部屋を使ったらダメなの。新しい部屋へ案内するわね」

 悲痛な面持ちで早口で喋ると、ステラナはルミの手を引いて歩き出した。しばらく行くと前を歩くステラナから、すすり泣くような声が聞こえてきた。


「どうしたの? 何があったの?」

 エプロンで涙を拭きつつ、ステラナは振り返った。

「殿下が戻られたの。今は客室で眠っていらっしゃるそうよ」


「本当⁉」

 あまりの驚きに、声が大きくなった。


「でもね、先輩二人が一緒にいらっしゃらないの。だから、私はこれから殿下に付かなければいけないの。もうルミのお世話ができないのよ」


 ステラナは泣き顔のまま、扉を開けた。その部屋は今まで使っていた王女の部屋とはまるで違っていた。ビジネスホテルのような、狭い寝室だ。格段に扱いが悪くなったことがルミには分かった。でも今まで自分の部屋というものを、前世でも今世でも持っていなかったルミにとっては、それでも素晴らしい部屋だった。


「これから私はここで過ごせばいいの?」

「うん」

「リック殿下が王宮を去るまで、ここで過ごせばいいのよね?」


 ステラナはコクンと頷いた。

「詳しいことは エリオ様がまたお話しに来るわ。今は陛下に報告しているところよ」


 ドアノブに手をかけたステラナは、そのまま固まった。

「ああ、行きたくない。でも仕方がない」


 ステラナは振り返ってルミを抱きしめた。

「今まで本当にありがとう。これからもルミのことを世話したかったし、色々なお話がしたかった」

 心の抵抗がルミにも伝わってくる。

「さようなら、じゃあね」

 今生の別れのように、ステラナは涙声で言い残し、部屋を去って行った。

 


 あんなに嫌がるなんて。ステラナをなんとか救う方法はないだろうか。ルミはしばらく考えたが、いいアイディアが思いつかなかった。お腹が空いたが、この部屋を出るわけにもいかないだろうと思い、部屋の中を物色してみた。

 小さなクローゼットに王宮へやってきた際のワンピース、パジャマと下着が置いてあり、その脇にはシナモンクッキーが置いてあった。


「ステラナが置いたのかしら」


 小さな机でそれを食べながら天井を見上げた。自分の背の高さよりも高い位置に小さな窓がある。ここからは外の景色さえ見えない。


「エリオへの気持ちを大切にしようと思った矢先、こうなるとはね」

 ルミは呟いた。

「後二日でここを去るのか」


 専属農家として、今後はエリオに会えるだろうか。年に数回のそれをこれからは楽しみに生きていくしかないのだろうか。

 暫くベッドに腰掛けていたら、コンコンとノックする音が聞こえた。



「エリオだ。話がある」

 ドアを開けると、エリオが顔を出した。慌てた様子で、額や首に薄っすら汗が(にじ)んでいる。


「入っても良いか?」

「え? ……ええ」


 エリオを部屋へ招き入れると、ステラナの言葉が頭に思い浮かんだ。

『きっとエリオ様はルミのことが好きよ』

 ジュリエッタ王女が戻ってきた緊急事態だというのに、ルミは狭い部屋にエリオとふたりっきりでいることが、落ち着かなくなった。


「ステラナから聞いたか?」

「え? ええ。殿下のことなら」

「こんな狭い部屋に追い込んでしまって申し訳ない」

「うんん、とても素敵な部屋よ。それに後二日のことだもの」


「そのことなんだが……」

 エリオはベッドへ腰かけ、ネクタイを緩めた。

「もう少し延ばせないか?」


「え?」

「先ほどユーリに乗って、ルミの実家へ行ってきたんだ」

「私の実家へ?」

「ああ。畑は順調だったよ。ご両親も、あれから体調を崩していないらしい」

「そう、それは良かった」

 汗をかいているのはそのためか。確認のために往復してくれたなんて。ルミは申し訳なく思った。


「でも、延ばすのは何のため?」

「殿下が公務を代わってほしいとおっしゃっている……陛下もそうしてほしいそうだ」

「そう……」


 僅かに期待していた発言とは違った。会えなくなるのが寂しい、そう思っているのはやはり自分だけなのだろう。でも、またしばらくエリオと毎日顔を合わせることができる。そう思うと顔が(ゆる)んでしまいそうだ。


「それじゃあ、もうしばらく。よろしくね」

 ルミはニッコリ笑った。

25話、読んで頂きありがとうございます!

次回はルミ、ジュリエッタとの面会です。

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