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23話 殿下の帰国

「私、リック王子のこと、かっこいいなって思ってるの!」

 ステラナは頬をピンクに染めた。

「ええ?」


「あのブロンドの髪、サラサラでとっても素敵でしょう? 使用人の私たちにもね、しっかりお礼を言ってくれるし、お手伝いしますよって言ってくれるの」

「へぇ、そうなの」

「誠実で素敵な方よね。使用人はみんな気に入ってるわ」


 ニコニコと話すステラナだが、ルミには気になることがあった。

「でも、ウルフ様はもういいの?」

「え? うん、もういいわ。だって、殿下を慕ってるんだもの。私ね、好きな人がコロコロと変わるのよ。一度に三人ぐらいは良いなって思ってる殿方がいるくらい」

 茶目っ気たっぷりにステラナはウインクした。


「一度に三人?」

 ルミは目を丸くした。

「ルミは? 今までに好きな人はどれくらいいたの?」


「え……」

 ルミはしばらく考えてみた。

「エリオが初めてよ」

 そう言って、ルミは自分の顔が熱くなるのが分かった。前世でも今世でも、今まで好きな人は一人もいなかった。そう考えると、嬉しくなってきた。

 たとえエリオと結ばれなかったとしても。芽生えたこの恋心を大切にしよう、ルミは胸に手を当てた。




 *  *  *  *  *  * 




 それはあまりにも突然の出来事だった。


 エリオは、リックが魚料理が好物であると聞き、食材の買い付けから戻ってきた。すると、王宮の門の前で門兵が、一人の男性を引き止めているのだ。どうしたのだろう、エリオは駆け寄った。



「どうした?」

「この方が中に入ろうとするんです」


 上等な茶色のスーツを身に(まと)った、小さな男性だ。帽子を目深に被り、もう初夏だというのにマフラーを口元まで覆っていて、顔がよく見えない。


「すみません 、許可がないと入れないのですが、 どういうご要件でしょうか?」


 エリオが聞くと、男性は帽子を脱いだ。

 帽子から、ブラウンの髪がサラリと腰まで現れた。エリオは息を飲んだ。マフラーを取ったその男性が、まさにジュリエッタ王女だったからだ。


「久しぶりね、エリオ」

 門兵は慌てて膝をついて、引き止めたことを謝罪した。


「変装はバッチリだったってことね」

 王女は不敵に笑った。


 エリオは慌てて王女に、また帽子を被るように指示し、南庭の端から隠れるように王宮内へ連れて行った。

 東庭では王女に扮したルミとリックが、散歩しているのだ。



 応接室へ通された王女は、不服そうに唇を尖らせた。

「何でこの部屋なの?」

「同行していた侍女はどうしたんですか?」


「私が質問してるでしょ? なんでこの部屋なの?」

 この棘が刺さるような物言い、まさにジュリエッタ王女だ、エリオは思った。


「殿下の部屋は今は替え玉であるルミが使っています。彼女に説明してから出て行ってもらわないと」

「風の噂で聞いたわ。建国祭での挨拶が素晴らしかったと。私がそれを聞いてどう思ったと思う? はあ?って思ったわよ」

 王女はエリオを睨んだ。


「建国祭での挨拶なんて、私は一度もやったことがないのに。なんで替え玉にさせるの? お父様の考えがわからないわ?」

 王女はソファにドカッと腰を下ろした。

「それは私も思いましたが……」

 エリオは冷や汗をハンカチで拭った。


「どんな替え玉が見つかったのか、見てみたいのだけど?」

「見た目は殿下に瓜二つです。それに、今はオルフェイ厶王国の王子と、東庭を散歩しておられます」


「オルフェイ厶王国の王子? 何それ」

「国王陛下が、縁談を進めていらっしゃるんです。今ここを出れば、ルミやリック王子と鉢合わせるかもしれません」

「ふーん、縁談ねぇ……」

 不在の間に縁談を進めたと知ったら、絶対不機嫌になると思っていたが、不思議と王女は異論を唱えなかった。


「あと二日後にリック王子は自国へ帰られます。もし、殿下を……ルミをお気に召されたら、今度は殿下がオルフェイムへ滞在することとなるでしょう」

「そう、なるほどね」


 王女は腕を組み、何やら考え込み始めた。

「そうなったら、ルミは替え玉の役目を終える話になっています」


「え?」

 王女は驚いて顔を上げた。

「そうなの? 嫁ぐまで王宮にいてくれるんじゃないの?」


「え?」

「便利じゃない。その間の公務は全部彼女に任せたら良いのでしょう? 辞めさせないで欲しいわ」

 ジュリエッタは髪をいじりながら、涼しい顔で言った。

「いや、しかし……」


 ルミの家の事情を、殿下に話すべきだろうか。エリオは躊躇(ためら)った。ルミを早く家に帰してやりたい気持ちと、王女の命令ならルミはまだ王宮に残ってくれるかもしれないという希望が、エリオの胸の中に同時に湧いた。


「どんな人とでもいいから、早く結婚して国外へ行きたいわ」

 王女はポツリと呟いた。


 なぜ変装を? 急に戻られたのはなぜ? いつも大量のお土産を荷車に乗せて帰ってくるのに、今回はひとつもないのはなぜ?

 聞きたいことが山程あったが、疲れたから寝かせろと言われ、エリオは王女を客室へ通した。



 起きるまでにはルミに本物が戻ったことを伝えなくては。エリオはこれからどんなことをやるべきか、考えを巡らせた。

 しかし、いくら考えても胸に溢れてくる不安が拭えなかった。


お読みいただき、誠にありがとうございます!

次回はリック王子とルミの話、などです。

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