22話 キミを守る
エリオはウルフに、ジュリエッタ王女が三年前から何度も侍女を連れて旅行へ出かけるようになったこと、今どこにいるか、いつ帰って来るかはわからないことなどを伝えた。
「それで? なぜこのタイミングで縁談なんだ?」
「わかりません。陛下のご意向です」
「ジュリエッタを早く自国から追い出したいのかもな……」
ウルフは眉を下げて呟いた。
「ワガママ姫という異名を付け、ジュリエッタを嫌う連中も多い。陛下もそのひとりなんだろう」
涼しい顔でウルフは言ったが、ルミは切なくなった。もし本当に陛下がそう思っているのなら、なんて悲しいことだろう。実父からそう思われるなんて。
「俺がプロポーズしたことは陛下に報告したか?」
「ええ。しかし、何の返答も得られませんでした」
ウルフは納得しない様子でまた来ると言い、帰って行った。
ルミは部屋に入るとすぐ、ソファに腰掛けた。そしてモヤモヤした思いを吐き捨てるように、床を見つめて呟いた。
「もし、ウルフ様が誰かに替え玉のことを話したらどうなるの? 私は王女の名を語った不届き者ということになるの?」
ステラナはルミの隣に座り、肩を抱いた。
「大丈夫よ。ウルフ様は誰にも言わないと約束してくれたじゃない」
「ルミが気に病むことはない」
エリオはルミの前に跪き、励ますように言った。
「陛下がおっしゃっていただろう、すべての責任は私にあると」
「でも……」
ルミの顔が晴れないからか、エリオはルミの両手を優しく包んで握った。
「大丈夫だ。何かあったら私が必ずルミを助ける。絶対にルミを守ると誓う」
エリオは真っ直ぐこちらを見つめている。真剣な眼差し、告白のような台詞に、ルミは胸がいっぱいになった。次第に沸々と勇気が湧いてきた。
「ありがとう」
ルミは二人に笑顔を見せた。
いつまでも二人に甘えてばかりではいけない。私がもっと強くならなければ。
その夜、風呂上がりにステラナが髪を乾かしてあげると言ってくれた。ルミはドレッサーの前に座り、いつもありがとう、と鏡越しに言った。
ステラナはルミの髪をタオルで拭きながら、何か言いたそうにモジモジし始めた。
「あのね、私はルミを応援しているの」
「え? どうしたの急に」
「言おうか迷ってたんだけど……」
「何のこと?」
「あのね、エリオ様のことだけど」
拭いていたタオルで自分の顔を隠しつつ、ステラナは恥ずかしそうに言った。
「きっとルミのことが好きよ」
「えっ! どうして?」
ルミもつられて顔が赤くなってしまう。
「昼間、ウルフ様が聞いたでしょ? この女のことが好きなのかって」
「ええ」
「その時のエリオ様の顔、ルミにも見せたかったわ」
「……どんな顔だったの?」
「耳まで真っ赤にしてね、目もキョロキョロして。ものすごく動揺していたの。ルミのことが好きなんだってあの時初めて自覚したんじゃないかしら?」
ステラナはクネクネと左右に体を揺らしながら言った。お下げ髪も同じように揺れる。自分のことのように恥ずかしそうだ。
「いや、でも……違うと思う」
ルミは眉を下げた。
「絶対にルミを守るっていう台詞、聞いたでしょ? あれはもう絶対好きでしょ?」
ステラナは言い聞かせるように肩に手を置いた。
「あの言葉は確かに嬉しかったわ。でも、エリオは優しいから言ったのよ。それに……」
「それに?」
「身分があまりにも違いすぎるもの、期待したくないわ。でもありがとう」
ステラナの眉が下がったのが、鏡越しに見えた。
「これは誰にも言ってないことだけど……私、昔はねエリオ様のこといいなって思ってたのよ?」
「え?」
ステラナは再びルミの髪をタオルで拭きながら、懐かしむように話し始めた。
「4年前、私がメイドとして入ってすぐのことよ。私は12歳、エリオ様は16歳だったの。その時のエリオ様はスーツが初々しくて、とってもかっこよかったのよ」
16歳のエリオ……初々しいエリオなんて、ルミにはうまく想像できなかった。
「エリオ様は執事見習いで、私はメイド見習い。よく一緒に働いていたの。でも、人形なのかしら? って思うくらいほとんど表情が変わらない方だったから、徐々に気持ちが冷めてしまったの。でも」
ステラナはルミの肩にポンと手を乗せた。
「今のエリオ様はとても表情が豊かだわ。変わられたと思う。それはルミの力よ」
鏡越しに、ステラナの熱量が伝わってくる。
「私は身分の違いも乗り越えて、二人には幸せになってほしい。自信持って」
ルミは肩に乗るステラナの手に、手を重ねた。
「ありがとう」
応援してくれるステラナの気持ちが、とても嬉しい。
「あ! そうそう!」
重大なことを思い出したように、ステラナは目を見開いた。
「もうひとつ、言いたいことがあったわ」
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次回から急展開になる予定です。




