21話 ウルフの真意
「だから、王子に笑いかける必要はないと私は言ったんだ」
「でも、陛下から気に入ってもらうように言われているのよ?」
「しかし、実際にご成婚されるのは殿下だ。縁談の話は引き延ばしてくれと言われているだろう?」
「リック殿下はとても誠実な方なのよ。話が弾むくらい良いじゃない」
朝食後、部屋へ入るなりエリオとルミは口論になった。リックに笑いかけることが、それほど悪いこととは思えない。
ルミが口を尖らせていると、バタンと扉が開き、ステラナが入ってきた。
「聞いて! 明日ウルフ様が王宮へお見えになるそうよ!」
「え? ウルフ様が?」
「まさかプロポーズの返事を聞きに来るんじゃないだろうな……」
エリオの呟きに、ルミは青ざめた。
「今、王宮にはリック殿下が滞在してるのに……」
「ウルフ様には悪いが、プロポーズは断るしかないだろう。縁談の話が出ていると言えば良い」
エリオは冷たく言い放った。
「でも、ジュリエッタ王女の真意はわからないわよ?」
ルミはエリオに向き直った。
「幼馴染の二人が両想いなら、断ることで二人の仲を引き裂くことにならないかしら」
「でも、それじゃあ、どうするの?」
ステラナも困惑した様子で、ルミとエリオの顔を交互に見た。
そうやって決着はつかないまま、翌日ウルフが王宮へやって来た。
ウルフが通されたという応接室に、ルミはエリオとステラナの二人を連れて向かった。
応接室の扉を開けると、まず天井から吊り下げられた華やかなシャンデリアが目に入った。奥には使われていない暖炉もある。この部屋の調度品は過剰な程に装飾が激しく、スレイダンがいかに裕福であるかを主張していた。
中央には丸くて大きなテーブルとソファがあり、そのソファにウルフはゆったりと腰を下ろし、ルミが入るなり立ち上がり、やあ、と手をあげた。
ルミが挨拶を終え、ソファに腰掛けるのを見届けると、ウルフは切り出した。
「早速だが、プロポーズの返事を聞かせてくれないか?」
「あの……それがね……」
ルミは言いにくそうに、前日から考えていたセリフを話しはじめた。
「今、オルフェイム王国のリック殿下が王宮に滞在しているの。それで……もし気に入られたら、私はオルフェイムに嫁ぐことになるの」
「オルフェイムに嫁ぐのは、一体誰なんだ?」
「えっ? 私よ」
「私というのは? 誰のことだ?」
「え……何を言っているの?」
「キミが嫁ぐのか? ジュリエッタが嫁ぐのか?」
ルミは息を呑んだ。背後で、エリオとステラナがピクッと動いた気配がした。
「キミはジュリエッタじゃない。別人だろう?」
ウルフは不適に笑った。
「騙せているとでも思っていたか? 俺は最初に会った時から気づいていたさ。さすがに俺のパーティーには本物が現れると思ったんだがな」
ルミは頭の中が真っ白になった。
「だから、キミをプロポーズの練習台にさせてもらった」
練習台……? ルミの肩の力が一気に抜けた。
「そう……だったの……」
「ああ、騙されたから騙し返してやったんだ」
ウルフは不満そうにソファに体を預けた。
「そう、プロポーズは練習……」
安堵とバレてしまったことの反省と、様々な感情が一気に押し寄せてきた。
「それなら良かった……」
ルミは顔を手で覆った。
「少しいいですか、ウルフ様」
エリオの低く冷たい声が背後から聞こえた。何を言おうとしているのだろう、ルミはエリオを振り返った。
「ルミは大切なプロポーズを替え玉である自分に言わせてしまったと、心を痛めていたんです」
エリオの硬く握られた拳から、静かな怒気を感じる。
「ふーん、本当はルミという名前なのか」
ウルフはからかうように笑った。
「彼女は陛下に命令されてやっているだけです。彼女がどれだけ悩んだと思ってるんですか? 泣いて替え玉にならなければ良かったと後悔していたんですよ?」
「自分たちがやっていることの重大さを、やっと自覚できたんだな」
「気づいていたなら、すぐにそうおっしゃればよかったのに!」
「ちょっと、ちょっと。エリオ様! 相手は公爵家の方ですよ?」
声を荒げるエリオをステラナがなだめた。
「やけに入れ込んでいるな? この女のことが好きなのか?」
ウルフはエリオを嘲笑うように聞いた。ルミの胸はビクンと波打った。耳を塞ぎたい気持ちだったが、しばらくルミはドレスを握って返答を待った。が、エリオは何も言わなかった。
「ふん、まあ、そんなことはどうでも良い。第五王子との縁談なんて、俺が潰してやるさ」
ウルフはネクタイをキュッと締めた。
「本物のジュリエッタは今どこだ?」
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次回はステラナとの恋バナ回です。




