20話 リック王子
「初めまして、リック王子。お気になさらず。わざわざこちらへ出向いていただき、ありがとうございます」
国王はリックの前に進み、にこやかに握手を求めた。
「しばらくお世話になります!」
リックは地面に頭がつきそうなくらいの、深い礼をした。
王妃陛下の挨拶が終わると、ルミは一歩前へ出た。
「お会いできて嬉しく思います。此度はわたくしの体調不良により、殿下に赴いて頂くこととなり、申し訳ありません」
ルミは深く頭を下げた。
「いえ! 僕なんかに謝らないでください!」
リックは激しく首やら手やらを振った。
「女性が出向くにはご準備など大変でしょう。それに引き換え僕の荷物はこの通り、これっぽっちですから」
リックは古びた革の鞄をひとつ掲げた。
大国の王子にしては、あまりに謙遜しすぎではないか。
きっとこの場にいる誰もがそう感じただろう。この方はどんな風に育ったのだろうか。
その後、ダイニングでの会食が行われ、午後からはリックとルミが、二人で庭を散歩することとなった。
王子に気に入られつつ、縁談がすぐにはまとまらないように対応しろ、と陛下は言っていた。
そんなの、一体どうしたらいいの……。ルミの頭の中は真っ白だ。
「ス、スレイダンの王宮は、庭のお花が、とても綺麗ですね 」
リックは周りを見渡し、何とか話題を作ろうと必死な様子をみせた。悪い方では無さそうだと、ルミは思った。とにかく仲良くなれるように話してみよう。
「ありがとうございます。庭師が喜びます」
ルミは笑顔を作った。
「私はこの、スノードロップがお気に入りです。殿下はどんなお花がお好きですか?」
「え? あー、僕は……スズランが好きですね」
リックは顔を歪め、絞り出すように応えた。
「スズランですか。とっても可愛らしいですよね」
「ええ。でも、スズランには毒があるんです。だから、オルフェイムの王宮には咲いていません。だから、こうして見かけると、とても嬉しくなります」
リックは伏し目がちに答えた。緊張しているのか、まだ一度もリックと目が合っていない。
「毒があるなんて知りませんでした。花に詳しいんですね?」
「え、ええ。僕は植物が好きで。自分の領地では、たくさんの植物を植えています。僕は畑仕事も好きなので、時々手伝ったりもしています」
「王子が畑仕事を?」
ルミは目を丸くした。
「ええ。僕は第五王子なので。特に期待もされてないですし、いてもいなくてもいいような存在ですから」
リックは自嘲気味に笑った。
「ただ、小さいですが、領地を与えてもらったことが嬉しくて。その土地をもっと豊かにしていきたいと思っています。それが僕の目標なんです」
初めてリックと目が合った。グリーンの瞳はキラキラとして、とても美しかった。
「素敵な目標ですね」
ルミは心からにっこり笑った。
* * * * * *
ルミとリックが歩いているのを、エリオは執事室の窓から眺めていた。
どうして陛下はこんなにも急に縁談を進めようとしているのだろう。ジュリエッタ王女が不在の今、そんなに急ぐことはない気がする。
しかも、あんなにおどおどした第五王子。オルフェイム王国との友好を図るには、あまりにも心許ない存在だ。
最近の陛下の動きには不可解な点が多すぎる。何か隠し事でもしているのだろうか。
エリオは部屋を出ようとしたが、もう一度ルミとリックをチラリと見た。
二人は微笑ましく見つめ合っているようだ。
なんだかとてもイライラする。何を話しているのだろうか?
気に入られないように、もっと無愛想に対応すれば良いものを。あんなに笑顔を見せる必要などない。
「今度ルミに言い聞かせなくては」
エリオは呟き、執事室を離れた。
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次回はウルフのプロポーズ、返事回です。




