2話 替え玉にならないか?
「よし、完璧だわ」
ステラナは興奮気味の顔で化粧筆を置いた。
「早速エリオ様を呼んでくるわね」
踊るように部屋を出て行ったステラナを見送り、ルミは鏡に一歩近づいた。
一体これはどういうことだろう?
鏡に映る自分が別人のようだ。廊下で見た、肖像画のお姫様にそっくりなのだ。
こういう似せるメイクが王宮では流行っているのだろうか?
今度は鏡が顔に付くくらい、グイッと近づいた。すごい。ステラナはメイクの達人だ。ルミの素朴な顔が、花開いたように華やかになった。髪だってこんなにフワフワでゴージャスに。
それにこのドレス。こんな豪華なドレスを着る機会なんて、一生来ないと思っていたから、着ることが出来て正直嬉しい。派手なドレスの中、比較的控えめの薄紫色を選んだ。意外と似合っているかも?
ルミが大きな鏡の前で、クルッと一回転した時、バン!と勢いよく扉が開き、 エリオが入ってきた。
「あっ……ノ、ノックしてください!」
一回転を見られたのでは。体がカッと熱くなった。
「ああ、すまない。早く見たくて」
「早く見たい?」
「ああ」
エリオはルミを中心にぐるりと円を描きながら、上から下へ舐めるように、その姿をまじまじと眺めた。
「っ……ちょっと……何ですか?」
見られ過ぎて、体の熱が引いていかない。
「どうです? エリオ様」
ステラナも遅れて入ってきた。
「ステラナの腕は相変わらず凄いな」
エリオは声量を上げ、興奮気味な様子で答えた。
「そうでしょう、そうでしょう」
ステラナは得意気に両手を腰に当てた。
「いやはや、これは素晴らしい」
「ありがとうござまいす! エリオ様の見立ても、素晴らしいものがありますよ?」
「そうだろう、そうだろう。髪の色、瞳の色、肌の色、背の高さ、スタイル、そして声。顔立ちは違えど、私の目に狂いはなかった!」
言いながら、エリオの頬が紅潮していく。
「あの、これは一体なんなのですか?」
ルミは堪え切れずに聞いてみた。
「ルミ、お願いだ!」
エリオは折り畳まれた紙のように深々と頭を下げた。
「ジュリエッタ王女の替え玉になってくれ!」
「か、替え玉?」
「そなたは今、ジュリエッタ王女そのものだ。他人であると気づく者など、我々以外ひとりもいないだろう」
「私に王女の代わりになれと?」
「ああ。 実は今、ジュリエッタ王女は不在なのだ。戻るまでの期間だけでいい。王女として生活してくれ、頼む」
「そんな……」
「サポートは我々が全力で行います! ルミ様、お願いします!」
ただの農民に、二人揃って頭まで下げるのだから、よっぽど困っているのかもしれない。
「一日三食、肉や魚、フルーツも。一級品の料理を持ってくる」
「三時にはデザートもお出ししますよ?」
「輸入品の、ふっかふかのベッドに寝てもらって構わない」
「専用の風呂やトイレもありますよ?」
なんて贅沢な暮らし。一生できない生活かもしれない。
「ヘアメイクも! ルミ様の気分に合わせて毎日変えましょう! メイクが崩れぬよう、一日中お供します!」
「王女のドレスが気に入らないなら、好みのドレスも用意しよう。ルミはどんなドレスが欲しい?」
ルミが浮かない顔をしているからか、二人のアピールはどんどんエスカレートしていく。
こんな高そうなドレスを用意? ふざけるな。贅沢な暮らしなんて、まっぴらごめんだ。
ルミは両手を強く握り締め、深々と頭を下げた。
「申し訳ありません、お断りいたします」
エリオとステラナは、何と言われたのか理解できないような、まさに呆然という顔をした。
「家に帰らせてください。あの、ジャガイモの代金だけはお支払い願いますか?」
「どう……してだ?」
エリオは呆然とした顔のまま、聞いてきた。
断られるなんて微塵も思っていなかったのだろう。なんて傲慢。なんでも金で解決できると思っている。
「どうして、ですか」
ルミはどう説明したら良いか悩んだ。転生者であると言えばわかってもらえるだろうか。
お読みいただき有難うございます。お話の舞台は北欧をイメージしています。
次回は前世のことなどが出てきます。
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