18話 旅行
五日後、ルミの熱が下がった。
エリオやステラナは、首や額をペタペタと触り、熱がないことを確認すると、安堵しつつ喜んだ。
「良かったわ! 一時はどうなることかと思った」
ステラナはルミに抱きついた。
「二人のおかげよ。ありがとう」
ルミはステラナの背中をポンポンと優しく叩いた。
「お腹が空いたでしょ。柔らかい食べ物でも持ってくるわね」
ステラナは意気揚々と部屋から出て行った。
部屋には、ルミとエリオのふたりきりになった。
「本当に良かった。元気になって」
エリオは優しく微笑み、ベッド脇の椅子に腰かけた。
「……ねえ、エリオ。ジュリエッタ王女の行方はどう? 何か情報はつかめた?」
「いや、それがさっぱりだ。殿下が南へ向かったことまでは分かったんだが」
「そう」
「なんせ偽物が今ここにいるからな」
エリオはお手上げとでも言うように、両手の平を上へ向けて笑った。
「殿下のことを聞き回っても、王宮にいるじゃないですか、と返されてしまう」
「確かにそうね」
ルミも笑った。
「殿下は侍女を二人連れて旅行しているんだ」
「え? ひとり旅ではないの?」
「ああ。貴族の若い娘たちが、仲良く三人で買い物でもしているのだと、気にかける人もいないんだろう。王女だとは、周りからは見えないのかもしれない」
エリオの眉が下がった。
「ねえ、殿下がこのまま一生戻ってこない、ってことはないわよね?」
「ない、と言いたいが、100%ないとも言い切れない」
「そんな……」
ルミは頭を抱えた。
「ねえ、エリオ。旅行ってそんなにいいものなの?」
「というと?」
「私は一度も行ったことがないから、分からないの」
「んー、私もそんなに行ったことはないが……」
エリオは顎を触って足を組んだ。
「休日に、ユーリに乗って遠くまで出かけたことはある。その時はやはり楽しかったな」
「どんなところが楽しいの?」
「んー、そうだな……その土地、その土地で売っているものが違うところかな。食べ物や服飾品、生活用品とか。そういう違いを楽しむっていうのはあると思う」
「違いを楽しむ……」
「ああ。あとは日常生活から離れられるっていうのは大きい。旅先では仕事のことが忘れられるからな。こういう土地での暮らしもあるんだと思うことで、救われるような部分がある」
「そう……ジュリエッタ王女も、この毎日から抜け出したいという気持ちがあるのかしらね」
「ルミは? 今どう思ってる? この毎日から抜け出したいか?」
エリオが心配そうに聞いてきた。
「そうね……元々は何不自由ない暮らしで、食べたいものを食べて、ふかふかのベッドで寝て、何の苦労もなく生きている人たちだと思っていたけど……」
「けど?」
「人に会う時も気を使わなければいけないし、自分の行動が国のイメージに直結するっていうことの重大さは感じている。とても窮屈よ」
「そうか、ルミもかなり王女らしくなってきたな」
エリオは笑った。
「誰のせいでこうなったと思ってるの? 王女らしくなんて、なりたくなかったのに」
ルミは口を尖らせた。エリオはその顔を見て笑った。
エリオの笑う顔を見て、ルミは胸が苦しくなった。
「旅行へ行きたくなる気持ちがわかって来た気がするわ」
ルミは力なく笑った。
「元気になったら二人で行こうか? またユーリに乗って」
エリオはイキイキした様子で聞いてきた。
エリオがこう言うのは、自分のことを何とも思っていない証拠だ。エリオは優しいから、気を使って言ってくれているだけ。これ以上仲良くなってはいけない。もっとエリオと距離を取らなければ。
「……うんん。遠慮しておく」
ルミは俯いて言ったので、エリオがどんな顔をしてこの返事を聞いたのか、見ることはできなかった。
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次回はステラナの過去などが出てきます。




