17話 発熱
エリオはルミの前に跪くと、真剣な眼差しで見つめた。
「ルミ、言いたくないのなら無理にとは言わない。だがキミが辛そうなのは見ていられない」
「……」
「何があった? 私でよければ話してくれないか?」
厳しく追い詰められると思っていたのに、エリオの声はとても優しい。
「……ウルフ様から、プロポーズされたの。あのブランコは、二人の思い出の場所なんですって。とても素敵なプロポーズだった」
「プロポーズ……そんな、まさか……」
「私は替え玉なのに……ウルフ様に申し訳ない。私が聞いてはいけなかったわ」
ルミはとうとう涙を抑えきれなくなった。
「替え玉にならなければよかった」
ボロボロと涙が溢れてくる。エリオは慌てた様子でルミを抱き寄せた。
エリオのシャツの胸元が、ルミの涙で濡れていく。
「すまない。私がルミに頼んでしまったばかりに」
ルミは首を左右に振った。
「ルミには辛い思いばかりさせてしまって……申し訳ない」
ルミはまた首を左右に振った。
「ん?」
エリオはルミの首に手を当てた。
「熱いな? 熱があるようだ」
「え? ああ、そういえば……頭がボーッとするなとは思っていたけど」
エリオは右往左往し始めた。
「ステラナを呼びに行かないと。あ、その前に、ベッドに横になった方がいいな」
エリオはルミをお姫様抱っこしようとした。
「待って、このまま横になるわけにはいかないわ。ドレスを着替えないと」
「え? ああ、そうか。でも、それはステラナに手伝ってもらおう。ベッドで横になって待っててくれ」
エリオは今度こそ、ルミをお姫様抱っこした。
エリオの顔が近い。いつも冷静なエリオが、今は耳まで真っ赤にしている。なんだか可愛らしい。
「夢に見た時と同じだわ。前にもこうしてエリオに運んでもらったような気がする」
「ん? ああ、そんな事もあったな」
エリオはベッドまで歩いた。
「その時、髪にキスをされたような気がしたけど……」
「え? いや、私はそんなことはしていない」
エリオは優しくルミをベッドへ下ろした。
「そう、あれは夢だったのね……」
ルミは目を閉じ、「……残念」と呟いて眠った。
次にルミが目を覚ました時、 ステラナとエリオがまるで口論でもしているような声が聞こえてきた。
「高熱が出ているのに、どうしてお医者様を呼べないんですか?」
「陛下の許可が下りないんだ。医者に素顔を見せたら、別人であることが分かってしまうと」
「そんな! 口止めすればいいじゃないですか! ルミの命がどうなってもいいんですか?」
「私だって、そのことにはかなり憤りを感じているんだ。でも、王令を覆すわけにはいかないんだ」
ルミが首を上げると、二人とも頭を抱えていた。
「……私たちで看病するしかないんですね」
「ああ、付きっきりで看病しよう。少しでも容体が悪化すれば、私が医者を呼んでくる。その時はクビになっても構わない」
「ステラナ、水を頂戴」
ルミは体を起こした。二人は慌てて振り返った。
エリオをクビにする訳にはいかない。早く元気にならなければ。
その夜、ルミは熱にうなされて夢を見た。
真夏のような青空の下、実家の畑が、一面ジャガイモの花畑になっている。
深緑色の葉の上に、清楚な白い花が咲き、風に揺れている。その花畑に、女性がひとりやって来た。
「あら、ジャガイモってこんな花を咲かせるのね、知らなかったわ」
そう言って、花に顔を近づけ、香りを嗅ぐ、その女性は自分にそっくりだ。
ブチッ、と、花をちぎり、花弁を散らす女。
「地味な花。まるであの女そのものだわ」
女性は散った花を睨んでいる。
「こんな田舎で、質素に暮らす人たちに、生きる価値なんてあるのかしら?」
もしや、この女性はジュリエッタ王女?
女性はこちらを見ると、ニヤリと笑った。
「これからは、あなたが王女として生きなさい。ルミ・クラメールになるのは私よ」
夢から覚めると、またいつもの赤い天蓋があった。
傍らにはエリオが看病で疲れたのか、ベッドに突っ伏して眠っていた。
嫌な夢を見た。どうしてジュリエッタ王女が自分に? 王女の替え玉になっているのは自分なのに。
急に心細くなり、ルミはエリオの手を握ろうとした。が、手を引いてまた布団へ潜り込んだ。
早く家へ帰れますように。早く王女が戻ってきますように。ルミは心からお祈りをした。
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次回は解熱してます。




