表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/50

16話 悲しいフォークダンス

 ウルフからのプロポーズに、ルミは呆然とした。


「ずっと前から、いつかジュエッタにこう言おうって思ってたんだ」


 どうしよう、 こんな大事なプロポーズを、替え玉である自分が聞いてしまうなんて。

 ルミは眉を下げ、ウルフから目を逸らした。すると、屋敷の中から、エリオとステラナがこちらを見ていることに気づいた。


「俺の気持ち、届いたか?」

 ウルフが頬を染めて聞いた。

「あの、私は……」

 ルミは俯いた。

「ジュリエッタ、返事はあとでいいよ」

 ウルフはニコッと笑った。

「今日はとにかく気持ちを伝えたかっただけだから」

「そう……分かった。考えておく」


 ルミはウルフの手を借り、ブランコから降りた。

 二人が北庭を出ようとすると、陽気な音楽が聞こえてきた。盛り上がる人々の声も聞こえてくる。フォークダンスが始まったようだ。

「踊りに行こう」

 ウルフがルミの腰に手を回し、庭へ急いだ。



 丸い庭に、内側に男性、外側に女性の二列の輪ができていく。楽師たちの陽気な音楽に合わせ、男女が手と手を取り合い、踊りはじめた。紳士も貴婦人も、弾けるような笑顔だ。ルミはウルフに手を引かれ、その輪に入った。


 さっきのプロポーズを本物のジュリエッタ殿下が聞いていたら、どんな反応を示したのだろう。

 ルミは踊りながら思った。

 頼まれたから、仕事だから、これまで替え玉をやっていたけど、替え玉は人を騙しているんだ。

 ウルフ様にも、殿下にも申し訳ない。どうしたらいいの……。


 ルミが一回転すると一小節が終わり、パートナーが変わった。次にルミの手を取ったのはエリオだった。


「そのジャケット、踊りにくくないか?」

 エリオが耳元で囁いた。ルミはジャケットのことをすっかり忘れていた。

「そうだわ、返さないと」

「私が返しておく」

 エリオはルミの肩からジャケットを取ると、自分の腕にかけた。

「人との距離には気をつけるように」

 エリオは厳しい声を残して、次のパートナーの手を取った。



 あの時、市場でエリオと出会っていなければ良かった。

 ルミは思わず涙が溢れそうになった。

 ルミが替え玉になることも、ウルフ様が間違えてプロポーズすることも、そしてルミがエリオへ、こんな分不相応な気持ちを持つこともなかった。

 農民として暮らしていたら、もっと平和で幸せだったに違いない。


 エリオの背中を見つめていたルミは、涙が零れ落ちないように、空を見上げた。




 パーティーを終え、自室に戻ったルミは、しばらく放心状態でソファに座っていた。


「どうしたの? 途中からずっと元気がないわ」

 ステラナの優しい声に、ルミはウルフからのプロポーズを話した。


「ルミに罪はないわ、大丈夫よ」

 ステラナはルミの背中をさすった。


「殿下がお戻りになられたら、不在の間にあった出来事を伝えればいいのよ。大丈夫」

「でも、それではウルフ様が可哀想だわ。一世一代のプロポーズをしたのに、その相手が偽物だったなんて」

「……そうね 」

 背中をさするステラナの手に、いつもの元気がない。

 ウルフ様が殿下のことを慕っていただなんて、ステラナも思っていなかっただろう。そういえば、ステラナはウルフ様を慕っていたんだわ。

 ルミは今更気づき、後悔した。今日だって、会えるのをとても楽しみに、衣装をあんなに真剣に選んでいたのに。言わなければ良かった。悲しいのは自分よりステラナの方だわ。


「ごめん、ステラナ。あなたはウルフ様が……」

「うんん、大丈夫。私の気持ちなんて、到底叶うはずのない、ただの憧れだから」

 ステラナはニコッと笑った。ステラナの気持ちが痛いほど伝わってくる。

「辛いのね、恋って」

「そうね」

 ステラナはルミの肩を抱き寄せた。



 二人がしばらく黙って座っていると、ドアをノックする音が聞こえた。


「殿下、エリオです。失礼します」

 ドアの向こうから声が聞こえ、エリオが部屋へ入ってきた。いつもの黒いスーツ姿。執事のエリオに戻っている。


「今日のパーティー、二人ともお疲れ様」

「……ええ」

「ありがとうございます」


「ルミ、北庭でウルフ様と何を話していた?」

「……」

「こんなことは言いたくないが、距離が近かったんじゃないか? あまり近づきすぎるのは良くない。ウルフ様はカンが鋭い方だと前にも言っただろう」

「……ええ」

「それで? 何を話をしていた?」

「……ごめんなさい。今、そのことについて話したくないの」

 今、エリオの顔を見たくない。


「すまない、ステラナ。少し席を外してくれないか?」


 エリオがステラナに声を掛けた。

 ステラナは心配そうに、ルミの手をキュッと握ると、部屋を後にした。


お読み頂きありがとうございます!

次回も、ぜひよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ