15話 パーティーで宣言
ルミはウルフに、手のひらサイズの小さな箱を手渡した。
「何だろうな、開けてもいいか?」
ウルフはそわそわした様子で、箱を見つめた。
「うん、どうぞ」
ルミが手で促すと、ウルフはすぐに包みを開き、箱を開けた。
「おっ! 懐中時計か!」
ウルフは丁寧に時計を取り出し、じっと眺めた。
「カッコイイな。赤い懐中時計は初めて見たよ」
「ウルフは赤が似合うと思って」
「ああ、俺は赤が好きだ。とても嬉しいよ」
ウルフはルミを引き寄せ、ハグをした。背後でステラナがピクッと動いた気配がした。
「これは、これは、ジュリエッタ殿下。ご無沙汰しております」
白髪交じりの紳士が現れた。色気と渋さを兼ね備えた、素敵な男性だ。
「フェルセン公爵様です」
ステラナが耳元で囁いた。
「初……」
めまして、と言ってしまいそうになったルミは思わず口を噤んだ。
「……めてお会いしてからもう何年経つかしら。フェルセン公爵様」
意味のわからない発言をし、フェルセン公爵とハグをすると、じゃあ俺は、と言ってウルフは知人の元へ向かった。
フェルセン公爵は建国祭での挨拶を、しきりに褒めてくださった。その間 、一度エリオと目が合ったが、何も見なかったように、エリオは会場の奥へ消えた。
フェルセン公爵との挨拶を終えると、ウルフが学友を五人、引き連れてやってきた。
「何だ、今日のジュリエッタは大人しいな?」
「いつもの毒舌はどうした?」
髪を逆立てた男性二人が、ルミをからかった。
「私がいつ毒舌を言ったのかしら?」
ルミがとぼけて見せると、五人が一斉にアハハと笑った。ルミは王女の人柄が、少しずつ掴めてきた気がした。
その後も知らない思い出話に、適当に相槌をうっていたところ、
「殿下、休憩を取りましょう」
と、ステラナが声をかけてくれた。ルミは心の中で、ステラナグッジョブと叫んだ。
ルミはステラナと屋敷のロビーへ入った。
テーブルに置いてあった温かい紅茶を取ると、ルミは奥のソファに腰掛けた。
「ありがとう、ステラナ。助かったわ」
「疲れたでしょう? 大丈夫?」
「大丈夫よ、休憩できて良かった」
「寒くない?」
「話してるうちに、気が動転してしまって、汗をかくぐらいよ。いまは暑いわ」
「それならよかった」
二人がしばらく話していると、ウルフがやってきた。
「ここにいたのか、ジュリエッタ」
「ええ」
「おいで。見せたいものがあるんだ」
ウルフは渋々立ち上がったルミの腰に手を回し、屋敷の奥へと案内した。
ステラナも来ようとしたが、ウルフが振り返るとその場に留まった。目配せでもしたのだろう。
「見せたいものって何?」
二人は屋敷を抜け、北庭へ出た。誰もいない、湿った薄暗い庭だ。
「あれだよ」
ウルフが手で示した先に、背の高い木に作られたブランコがあった。
「昔よくあれで遊んだだろう? 懐かしくないか?」
ウルフはブランコの前まで歩き、振り向いた。
「え、え。とても懐かしいわね。座ってみようかしら?」
ルミはブランコに腰かけた。
足を使ってゆらゆらとブランコを揺らす。壊れそうで少し怖いが、案外楽しい。
ウルフは揺れるルミを見て、微笑んだ。
そして、縄を持つルミの手に手を合わせ、腰を落としてルミの前にしゃがんだ。
「なぁ、ジュリエッタ。気になってたんだが……」
ウルフは重々しい顔つきになった。ルミはギクリとした 。やはり別人だと気づいているのでは……。
「最近やけに大人しくないか? ここ二、三年は来客を断ってるようだし、何かあったのか?」
ルミを見るウルフの眼差しが優しい。なんと言えばいいだろう、ルミは肩をさすった。
「寒いか?」
ウルフがジャケットを脱ぎ、肩に乗せてくれた。ズシリと重いが、とても温かい。
「俺にコレをプレゼントしてくれただろう?」
ウルフはベストのポケットから、赤い懐中時計を出した。
「ええ」
「時計をプレゼントする意味、知ってるか?」
「え? いいえ。知らないわ」
「あなたとの時間をもっと共有したい。そういう意味があるんだ」
ウルフは寂しそうに笑った。
「俺は嬉しかったよ」
「あ、でも……私とあなたはもう充分時間を共有してるんじゃない?」
ルミは必死に笑顔を作った。
「その、前々から言いたかったことなんだが……」
ウルフは下を向いて、なにやら考え込んだ。凛々しい太い眉毛が、上へ下へと生き物のように動く。
「この家は……暗くて怖いって、昔からよく言ってたけどさ……その……この家では、暮らしたくないのかもしれないけどさ……その……」
ルミは、もごもごと話すウルフが、何を言おうとしているのかわからず、聞き耳を立てた。
ウルフは決心したように顔を上げ、ルミの目を真っ直ぐ見つめた。
「ジュリエッタ、俺と結婚してくれ!」
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次回はフォークダンスの話になります。




